ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

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20君の顔

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 扉が開いた瞬間に、レオポルドは恥も知らずに駆けていた。卓上にのっていた紙が風圧を受け、折り目に沿ってぺこりとする。
 ありし日の記憶がよみがえってくる。かつて思い描いた光景、レオポルドが最も敬愛する人がそこにいた。

「ルイ!!」

 ずっと会いたかった彼が自室に舞い戻ってくる。レオポルドは喜びを隠すことはしなかった。隠したところで彼によって暴かれるだけで、感情の高ぶりを抑えられるわけもない。

「レオポルド様?」

「ただいま。待たせてしまったな」

 再会したらなんて声を掛けようかと悩んでいた。どのような言葉だって伝える用意はあったが、思案すればするほど迷いが生じる。
 そして、いざしゃべろうとすると意識が吹き飛びそうになった。

 ルイは成長した自分を見て、どう感じてくれているだろうか。
 レオポルドの最大の興味はそこにあった。「立派」とか「大きい」とか、ありきたりな言葉でいいから。ルイに送ってもらえるならどんな感想でも構わなかった。

 レオポルドの浮かれ具合に反して、目下の相手はぴたりと動きを止めていた。扉の前に立ち尽くして、しばらく顔を伏せている。たまらず王子の方が近づいてその顔を覗き込んだ。俯いてしまった彼の表情が見たかったのだ。


 儚く、さながら白銀の雪の結晶のように。ルイは目元に手をあてて、いっぱいの涙を溜めこんでいた。

(あぁ。その顔は初めて見る)

 レオポルドは心が燃えて、身体が震えた。

「気が……、お早いんですね」

「え?」

「お菓子を、食べに部屋に、、来てくれたんですよね?」

 ささやくようにか細い涙声。どくどくと鼓動が鳴って、ルイの声が脳にまで響きわたる。
 瞳の奥まで濡らして再会を喜んでくれている。どこにいても求めていた相手がそこにいるだけで十分嬉しいのに。形容しがたい幸せがレオポルドのなかにこみ上がってくる。

「おかえりなさい。レオポルド様」

 すすり泣く声といっしょにお辞儀する。ルイは膝が崩れるほど姿勢を屈めていた。

「大きく、なられましたね」

「あぁ……」

 涙を拭いながらルイが言う。願わくば「レオ」と言ってほしいなんて、レオポルドはこの時は言えなかった。

「あんなに小さかったのに……」

 かつては彼の表情を見るために空を見上げた。差のあった身長は、今度は逆に相手がレオポルドを見上げている。
 ルイの存在はいつだって大きかった。だが改めて見直して、かつての面影よりも小さな体格をしていると、レオポルドは再認識させられることになる。もちろん王子自身が大きく育ちすぎたこともあるだろうが。

「もうお前に心配されることもないさ」

「頼もしく、なられたのですね」

「そうさ。後ろをついて歩くだけの子どもじゃないからな」

 小さな顔と華奢な身体には、無二の魅惑があった。雪に染められたような、ダイヤモンドの髪が肩にまで下りようかという長さだ。ぱっちりとした藍色の瞳はこぼれ落ちそうで、儚さが際立つ。白い肌が瞳を余計にかきたてるから、ルイを見ていると幻想的な気分に囚われていくのだった。
 まるで氷雪に咲いた一輪の花弁のようだとレオポルドは思った。

「ルイはその、髪を伸ばしているんだな」

「王妃様から言われてしまって。そんな綺麗な髪を切るのはもったいないと」

「母上がか」

 彼女の入れ知恵なのかとレオポルドは警戒した。だが彼女の言葉には王子も同調したい思いだった。見違えたルイの姿を見るのは新鮮なカンジがして、より魅力を引き立てている。

「仲良くやれているのか?」

「どうでしょうか……あまり関わりがないので。この髪だって実を言えば、切ってしまいたい気持ちもあるのです」

 王宮内でルイと交流している人は多い。彼が関わりを持たない人のほうがわずかであろう。従者はほとんどがルイの顔見知りで、衛兵のなかには彼の信奉者が数多くいると聞く。加えて、貴族の子どもたちからも支持を集めている。

「やっぱり似合っていませんよね」

「いや。むしろ似合い過ぎているぐらいだよ。本当に綺麗だ」

 思ったことをつい投げかけると、ルイはたじろいだ。

 悠然としていたあの頃のルイ、それよりも今の艶やかさを兼ね備えた彼の方がはるかに良い。この6年で極上の甘露を身にたくわえてきたかのようだ。若いレオポルドにはルイの変わり様がひどく輝いて見えた。
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