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27怪しい気配
しおりを挟むルイは怒るでもなく、悲しむでもない変な気持ちを抱えながら数日間を過ごしていた。レオポルドのご乱心でかき乱された関係。双方とも会うことを避けるように、夫婦は廊下ですれ違うことも無くなっていた。
顔を見る気にはなれない。できれば気持ちを整理したい。ルイは自分の心を巡っていき、とても浅はかな言葉が浮かんでくる。どうして自分の心が揺らされているのかをくわしく分解できずに、困り果てる。
(私が王子のことを過剰に持ち上げていたのか?)
素晴らしい王子だといまだにそう信じている。たくさんの苦労で自らを磨き上げたレオポルドは、まさしく身も心も成長した。とルイは勝手に解釈している。
湖での一連のあれは、王子の愛情表現だったのだろうか。子どもの時と変わらない態度で、年上をからかっていたのか。あのような甘い言葉も、女性に仕掛けていそうな行為も冗談と捉えるべきなのだろうか。
ただ一方で「とんでもない愛情の示し方ですね」という侍女の言葉が頭をよぎる。
事件から、ルイは一つのある疑いを持っていた。もしかしてレオポルドは自分のことが好きなのではないだろうか。友愛やましてや親子愛でもない、恋愛の対象者として。
「なにを……考えているんだ私は…………」
寝室で眠ろうとしていたのに、自分の想像したことで吐きそうになった。自己嫌悪してしまいそうだ。健康で未来ある青年をこのように汚してはならない。彼はこれから完璧に近づいていくのだから。それを見届ける年長者が不純でいてどうするのか。
あぁ、叶うならばレオポルドだけは立派に望みを追いかけてほしい。やるせない苦しみばかりの世の中で、彼だけはどうか輝いていてほしい。ルイはぎゅっと目をつぶった。
「あの子の声が聞きたい」
寝返りを打ちながら、そう呟いた。6年前の少年。かつてのレオポルドの無邪気な声が聞きたくなる。どこかに消えてしまったあの子の残像を浮かべ、戻りたいと思ってもそれは無理な悩みであった。
ルイが王族の成人儀礼を知ったのは、最近になってからのことだ。王宮で働く従者とのやり取りで挙がった話題から、知る契機となった。
「もうすぐレオポルド殿下も成人ですねぇ」
ほのぼのとした会話から始まる。それが二転三転して、シオン王家の性教育にまで話が迷い込んでしまった。
「どうやらマルクス王子は乳母と……、ロイド王子は好き合った相手と済ませたそうですよ」
「済ませたって……なにを?」
「ルイ様。閨での学びにおいて事を済ませるといえば一つしかありませんよ」
従者が続ける言葉に、ルイは唖然とした。こちらの国では性行為までして、若い王子に床での知識と経験を積ませるという。成人儀礼は今や形式だけのものとなったが、昔は親族や貴族に見守られながら務めを果たしていたらしい。周りに視線を感じながら行為に及ぶなんて、ルイには公開処刑のように思えてならなかった。
「かつては次代が立派に育ったことを直に知らせる目的があったのだそうです」
「ま、周りに見られながら……それは難儀だね」
「最近では従者が付くだけらしいので、その心配は不要かと存じます」
朝から下世話な受け答えがされる。どうでもいいと耳を塞ぎたくなるが、どんな本にも図鑑にも載っていない、現在進行形の生の情報だ。それが又聞きだとしても貴重であることには間違いない。
「心配……?どういうこと?」
「ルイ様がレオポルド殿下の閨教育を担当するのですよね?その時に心配することはないということを」
「い、いやいやいや」
首を振って全力で否定した。そんなことがあっていいわけがない。王子の性教育に関与するなんて、一度も聞いたことが無いし、ありえない。彼がどれだけ女性慣れしているかは不明だが、適当な異性とこなすのが無難だろう。
「男同士だし、レオポルド様はきっと別の人を選んでいると思うよ」
「でもつい最近、殿下はルイ様をと相手候補に指名したそうでございますよ」
王妃付きの従者がそんな衝撃的なことを口にした。何も把握していないルイは、背筋にひやっと冷たいものを感じた。そのことが正しければ、自分は王子の相手として駆り出されるではないか。
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