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26誰のものか
しおりを挟む「ルイの声を聞けるのは俺一人がいい」
完璧超人のはずのレオポルドから、予想だにしなかった言葉が告げられる。顔が隠されていて見えない。ルイは王子がどんな顔をしているのか見たくて、後ろに一歩下がろうとする。
「ひっ」
「離れるな」
ルイは驚いた。肩を掴まれて悲鳴のような声が出た自分にもそうだし、明るい声色でとんでもないことを暴露する王子に対してもそうだ。この状況、わけがわからないと混乱が極まっていく。
「どうしたんですか?レオポルド様……ちょっとおかしいです」
「おかしいって、なんだよ。俺のどこを見てそう思ったんだ」
王子が冷静で、理知的で、自分のことよりも周りを気遣う人柄であることは、手紙の印象でわかっている。そして数月の王宮での暮らしぶりからもそう判断していた。
(私は幻覚を見ているのか?それともただの王子の冗談?)
相手はあからさまに手の自由を塞いできて、強気にルイに詰め寄る。
「あ、あの……近いですから」
「いつもこれぐらい近かっただろ」
「いえ。もっと、遠くに……」
「俺はずっと変わらないからな。お前に振り向いてもらうためなら、何だってするんだぞ?」
肩に置かれてあった手腕が、腰に回されていく。レオポルドが意識して、触れる部位を変えていることルイも察しがつく。柔らかい手つきで服の外面をなぞるように、王子の手が動く。
まだ力強くないからといって見過ごせばそのまま抱き込まれてしまう。ルイは身を翻して、レオポルドの胸元から離れようと試みた。だが相手は引き下がろうとすればするほど、肌を押しつけるように執着してくる。
「俺もあと1年で成人するんだ。お前と同じ大人になるぞ」
「は……えっと。大人?」
男らしさが匂い立つように、レオポルドから発せられる。そのことは成長ぶりを感じさせ、彼がもはや子どもでないことを表していた。ルイの全身が戦慄し、彼に近づくべきでないことを訴えかけてくる。レオポルドの逞しい肉体、若き血潮がにわかに強調される。
「そろそろ俺のものになってくれ。ルイ」
頭を打った時みたいに、耳鳴りがする。手と足の感覚、五感までもがはっきりとしない。全ての意識がレオポルドという男のもとに注がれていく。ルイの世界が根底から変わろうとしていた。
言うまでもなく、ルイの許容できる範疇を完全に超えていた。レオポルドだからといって多少容認しているところがある。だがこのまま彼に身を委ねていたらどうなるか。
(無理……これは無理だ……)
おでこに当てられるレオポルドの吐息。ゆるゆると腕が閉じられていく。顔や手に、王子の圧倒的な力強さを感じたところで、ルイはついに我慢の限界を迎えた。
「やめて!!レオポルド様っ」
渾身の力を振り絞って、王子を突き放した。まとわりつく王子の腕も振りほどいて、懐中から必死に逃れていく。
荷物を素早くしまって、王宮に足を向けた。従者の集まりが近くを通ったために、そちらを求め、湖畔から急いで離れていった。
どうかしてる。あの子はどうにかなってしまったんだ。ルイは普段の印象と違うレオポルドに取り乱して、息が切れる。衝撃に脆すぎる自分の心が恨めしい。
一度だけ後ろで立ち尽くすレオポルドを見た。虚ろな表情で、悲壮感が彼のなかを支配しているようだった。そんな彼に掛けてやれる言葉はない。ルイはルイで、自分がどのように複雑な心境を受けとめたらよいのかわからなかった。
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