27 / 81
27怪しい気配
しおりを挟むルイは怒るでもなく、悲しむでもない変な気持ちを抱えながら数日間を過ごしていた。レオポルドのご乱心でかき乱された関係。双方とも会うことを避けるように、夫婦は廊下ですれ違うことも無くなっていた。
顔を見る気にはなれない。できれば気持ちを整理したい。ルイは自分の心を巡っていき、とても浅はかな言葉が浮かんでくる。どうして自分の心が揺らされているのかをくわしく分解できずに、困り果てる。
(私が王子のことを過剰に持ち上げていたのか?)
素晴らしい王子だといまだにそう信じている。たくさんの苦労で自らを磨き上げたレオポルドは、まさしく身も心も成長した。とルイは勝手に解釈している。
湖での一連のあれは、王子の愛情表現だったのだろうか。子どもの時と変わらない態度で、年上をからかっていたのか。あのような甘い言葉も、女性に仕掛けていそうな行為も冗談と捉えるべきなのだろうか。
ただ一方で「とんでもない愛情の示し方ですね」という侍女の言葉が頭をよぎる。
事件から、ルイは一つのある疑いを持っていた。もしかしてレオポルドは自分のことが好きなのではないだろうか。友愛やましてや親子愛でもない、恋愛の対象者として。
「なにを……考えているんだ私は…………」
寝室で眠ろうとしていたのに、自分の想像したことで吐きそうになった。自己嫌悪してしまいそうだ。健康で未来ある青年をこのように汚してはならない。彼はこれから完璧に近づいていくのだから。それを見届ける年長者が不純でいてどうするのか。
あぁ、叶うならばレオポルドだけは立派に望みを追いかけてほしい。やるせない苦しみばかりの世の中で、彼だけはどうか輝いていてほしい。ルイはぎゅっと目をつぶった。
「あの子の声が聞きたい」
寝返りを打ちながら、そう呟いた。6年前の少年。かつてのレオポルドの無邪気な声が聞きたくなる。どこかに消えてしまったあの子の残像を浮かべ、戻りたいと思ってもそれは無理な悩みであった。
ルイが王族の成人儀礼を知ったのは、最近になってからのことだ。王宮で働く従者とのやり取りで挙がった話題から、知る契機となった。
「もうすぐレオポルド殿下も成人ですねぇ」
ほのぼのとした会話から始まる。それが二転三転して、シオン王家の性教育にまで話が迷い込んでしまった。
「どうやらマルクス王子は乳母と……、ロイド王子は好き合った相手と済ませたそうですよ」
「済ませたって……なにを?」
「ルイ様。閨での学びにおいて事を済ませるといえば一つしかありませんよ」
従者が続ける言葉に、ルイは唖然とした。こちらの国では性行為までして、若い王子に床での知識と経験を積ませるという。成人儀礼は今や形式だけのものとなったが、昔は親族や貴族に見守られながら務めを果たしていたらしい。周りに視線を感じながら行為に及ぶなんて、ルイには公開処刑のように思えてならなかった。
「かつては次代が立派に育ったことを直に知らせる目的があったのだそうです」
「ま、周りに見られながら……それは難儀だね」
「最近では従者が付くだけらしいので、その心配は不要かと存じます」
朝から下世話な受け答えがされる。どうでもいいと耳を塞ぎたくなるが、どんな本にも図鑑にも載っていない、現在進行形の生の情報だ。それが又聞きだとしても貴重であることには間違いない。
「心配……?どういうこと?」
「ルイ様がレオポルド殿下の閨教育を担当するのですよね?その時に心配することはないということを」
「い、いやいやいや」
首を振って全力で否定した。そんなことがあっていいわけがない。王子の性教育に関与するなんて、一度も聞いたことが無いし、ありえない。彼がどれだけ女性慣れしているかは不明だが、適当な異性とこなすのが無難だろう。
「男同士だし、レオポルド様はきっと別の人を選んでいると思うよ」
「でもつい最近、殿下はルイ様をと相手候補に指名したそうでございますよ」
王妃付きの従者がそんな衝撃的なことを口にした。何も把握していないルイは、背筋にひやっと冷たいものを感じた。そのことが正しければ、自分は王子の相手として駆り出されるではないか。
357
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結】おじさんはΩである
藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ
門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。
何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。
今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。
治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
わからないから、教えて ―恋知らずの天才魔術師は秀才教師に執着中
月灯
BL
【本編完結済・番外編更新中】魔術学院の真面目な新米教師・アーサーには秘密がある。かつての同級生、いまは天才魔術師として名を馳せるジルベルトに抱かれていることだ。
……なぜジルベルトは僕なんかを相手に?
疑問は募るが、ジルベルトに想いを寄せるアーサーは、いまの関係を失いたくないあまり踏み込めずにいた。
しかしこの頃、ジルベルトの様子がどうもおかしいようで……。
気持ちに無自覚な執着攻め×真面目片想い受け
イラストはキューさん(@kyu_manase3)に描いていただきました!
【完結】執着系幼馴染みが、大好きな彼を手に入れるために叶えたい6つの願い事。
髙槻 壬黎
BL
ヤンデレ執着攻め×鈍感強気受け
ユハン・イーグラントには、幼い頃から共に過ごしてきた幼馴染みがいる。それは、天使のような美貌を持つミカイル・アイフォスターという男。
彼は公爵家の嫡男として、いつも穏やかな微笑みを浮かべ、凛とした立ち振舞いをしているが、ユハンの前では違う。というのも、ミカイルは実のところ我が儘で、傲慢な一面を併せ持ち、さらには時々様子がおかしくなって頬を赤らめたり、ユハンの行動を制限してこようとするときがあるのだ。
けれども、ユハンにとってミカイルは大切な友達。
だから彼のことを憎らしく思うときがあっても、なんだかんだこれまで許してきた。
だというのに、どうやらミカイルの気持ちはユハンとは違うようで‥‥‥‥?
そんな中、偶然出会った第二王子や、学園の生徒達を巻き込んで、ミカイルの想いは暴走していく────
※旧題「執着系幼馴染みの、絶対に叶えたい6つの願い事。」
【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます
天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。
広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。
「は?」
「嫁に行って来い」
そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。
現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる!
……って、言ったら大袈裟かな?
※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる