ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

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43つらぬき

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「どこに隠れているかと思えば」

 背後から迫って来る巨大な影に、ルイはまったく気づくことができなかった。ずしんと重たい声が後ろからして、存在感は言うまでもない。素晴らしい体格に黒いスーツをまとった、今日の主役が目と鼻の先まで近づいてくる。

「ごきげんよう……、レオポルド様」

 前方には同世代の王子が2人、背後では、至近距離でレオポルドが立っている。振り向けば、吐息が感じられるほどに夫婦の距離は狭かった。
 年相応の笑顔を振りまきながら、レオポルドは素直に応じてくる。柔らかい香の匂い、大人らしい服の着こなしが新鮮に感じられる。

「相変わらず綺麗だ。ルイ」

「ありがとうございます。レオポルド様も上品な立ち姿で、王宮は誇らしいと思いますよ」
 
「もっと、こっちに来てくれ」

 ふだんよりもおおざっぱに惚気をこぼしてくる。自然のように出される言葉に、ルイは苦笑いした。

 ルイの肩にはがっしりと手が置かれる。腰をやさしく引き寄せて、レオポルドはルイの髪に頬ずりした。「くっつきすぎです」と妻側は注意してもよかったが、せっかくの催事の盛り上がりを崩すのも忍びない。だから、この場で大きな抵抗を見せることはしない。かといって抵抗できるかといえば、重たい衣装のせいで腕を振ることさえままならない。

「好きだ、ルイ」

 酔っているのか。あるいは悪ふざけか、友人に煽られたのか。大人のレオポルドが耳打ちしてくる好意の言葉が、背中をぞわぞわさせる。ルイは、直近の夢のなかで出てきた言葉と重なり、身がすくんだ。

「う……やめて」

「やめない。俺を意識してくれるようになるまで、ぜったいに」

 こっそりと悪戯しているつもりだろうが、他の王子たちも見ている。王子の従兄だって、遠縁の親族だってレオポルドの晴れ姿を見に来ている。夫婦で戯れている姿なんてあまり見せたくない。ルイは固く防衛線を張りながら、レオポルドの視線とは逆を向いていた。

「積極的だな。レオポルド」

「マルクス兄上、俺は夫として務めを果たしているまでです。申し訳ありませんが、お話はまた今度で」

「細君の方はそうとう嫌がっているようだが?」

 ふわりと手が繋がれたことで、ルイは小さく声を漏らした。

「気の迷いのせいでしょう。ルイと俺は一心同体ですから」

 血迷ったのか、レオポルドは妻の手を引っ張って、そのまま場外まで歩みを進めていく。「失礼します」と一言。他の若者を置き去りにして、ルイとレオポルドは場から退いた。

 異国の衣装を着た美人が、当世一の色男に手を引かれていく。周りからは謎の歓声と、拍手が起こる始末である。マルクス王子が小馬鹿にしたそうな顔で見送っていた。ルイが王宮の会場で目にしたものは、それが最後であった。

「ちょ……ちょっとレオポルド様!!」

「どうした?」

「この勢いでどこまで行くのですか。もう、そろそろ私を自由にしてください」

「まだ……いやだ」

 この場の状況も、兄王子の視線も、ルイの羞恥心も考慮には入れていない。おそらく誰の指摘も受けないつもりであろうレオポルド。ルイは彼の形のよい顎先を下から見つめ、事の成りゆきに任せることしかできなかった。

「恥ずかしい。本当に……堪忍してください」

 廊下を通り過ぎるたびに、何人もの従者たちが横切っていく。そのたびに視線が痛い。ルイはまるで、子どもか姫君かのように自分の身を支えるレオポルドに、止まるよう懇願した。

「だめだ」

「どうして、なにか私が失言を犯しましたか?レオポルド様に不都合なことを言ったつもりもないですよ」

 抗議の言葉は意味をなさない。筋骨隆々とした胸元を、手で押し返すのも馬鹿らしくなる。

「俺の近くにいてくれなかったからだ」

「へ?」

「俺のもとにすぐ来てくれなかった。今日ぐらい、俺のことを真っ先に祝ってくれてもいいじゃないか」

 ルイは頭をぽかんとさせたまま、停止した。夢からまだ覚めていないのかと一瞬考えたほどだ。

「ルイは、もっと……、喜んでくれると思った」

 祭典を抜け出し、王族を無視して、参加者さえも知らぬ存ぜぬを貫く。今日のレオポルドは、まるで大きな子どもだった。ルイは彼の言動からあり得ない可能性をも内心では考えてしまっていた。

(やきもちを妬いているのか?レオポルド様が?)

 彼のもとに行く前に、兄王子たちと話したのがまずかったらしい。レオポルドはそれを見て、ルイが無関心でいると変に捉えてしまったのだろう。王子はいささか冷静さを欠いていた。自分のことを最優先に思いやってくれるはずの存在が、今日はまったく姿を消していたのだから。
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