ルイとレオ~幼い夫が最強になるまでの歳月~

芽吹鹿

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44若さゆえ➀

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 祭典の前半部は、良くも悪くも面白みがなかった。それに比べて後半では、かなり交流の時間が詰まっている。
 若者向けの晩さん会、夜の踊りの余興へと続いていく。格式ばったものは何もない。単なる親族や仲間の集い、男女の出会いの場になることをルイは既に把握していた。

「レオポルド様、会場に戻らなくては。演目が過ぎていってしまいますよ」

「どうでもいい。あんなお遊戯会、行かなくて結構だ」

「ご友人たちを置いていってしまうのですか?」

「挨拶は適当に済ませてある。さっきまで十分に語ることもできた」

 衣装の重みなど大したことはなさそうに、王子は踏み出す足を止めなかった。ルイは足がつりそうになるのを必死に我慢していた。

「レオポルド様を祝福するために、あんなに多くの方々が来場してくださったのですよ」

「ほとんどの人間が初対面だ。関心を持たれても、こちらは返せるものがない」

「ですが」

「俺は、俺はお前が一番近くにいて祝ってほしかったんだ!!」

 廊下にわたる灯火が、ゆらゆらと揺れ動く。
 ルイが天井の方を見上げると、王子の髪が稲穂のようになびいて見えた。ひどく落ち込んだ表情の奥では、赤い瞳が輝いている。

 なんて綺麗なんだろうと、ルイは悠長なことを感じ取っていた。王子の瞳の潤みからは、多くの感情が発せられていることだろう。考えるだけでも胸がきつく締め付けられる。

「ごめんなさい……レオポルド様。先ほどはお傍にいられなくて、私がもっと、配慮できていたら」

「他人行儀なの……いいから。今は二人きりだから、このままで」

 「そう、そうだ」とレオポルドはひとり言を重ねて、他人を寄せつけなかった。後ろから従者が点のように見えてくる。追いつくにはまだまだ時が必要そうだった。

「どうすればレオポルド様の気持ちが和らぎますか?」

「和らぐもなにも、俺は落ち着いているさ。ルイといられているんだから」

「私を引っぱり出して、会場から無断で抜けてきているのに。落ち着いているものですか」

「……」

「お願いです。会場に戻って、ご立派になった姿を皆に見せてあげてください」

 自分の身を投げ打ってまで、彼に人生を捧げてきた。きっとルイだけじゃない。従者の何人もが、そのように身を粉にして働いているに違いない。名も顔も知らない貴族たちだってそうだ。
 彼らのためにも、成人を迎えたことを誇れる場に立ち続けていてほしい。ルイはそれだけが望みだった。

「私からレオポルド様に向けての祝福なんて、後からでも、いくらだって言えます。でも、あの場に来ている人たちとはこれが最後の関わり合いになるかもしれないのですよ」

「ルイ……」

「いつどんなことが起こってもおかしくない。明日には急に別れが訪れるかもしれない。だからこうして祝いの席が用意されているのです、かけがえのない出会いを大事にするために」

 後悔してほしくない。ましてや退場なんて言語道断だ。
 ルイは頭のなかで、故郷の人々を思い浮かべていた。彼らとの別れ際、今思えば、自分はあまりにも言葉が足りていなかった。父や母に。世話人や仲の良い下人。もう会えないかもしれない。
 ララや他の侍女と同じように、自分を支えてくれた人々に感謝する気持ちが足りていなかったのだ。自分を戒めるように、辛くとも言葉を送り続ける。

「もっと御自身の身の振り方を、よく考えてみてください。大人ならそれらしく振る舞うものです」

 王子を突き放している自覚が、ルイにはある。我ながら説教くさい、らしくないことを言っている。でもそれでいい。彼が自分に執着しすぎるあまり、大切な時間を過ごせないことの方がよっぽど深刻なのだから。

「ルイ、俺は」

「子どものように泣きべそかくのなら、あなたは王子の品格にふさわしくありません」

 レオポルドの腕のなかで、ルイは身をよじって抜け出した。半ば抱擁されていたせいもあって、被り物や布地がよれてしまっている。ルイは地面を踏みしめながら、目の前の相手の手をぐっと掴み、思いきり引っ張り返した。
 「戻りますよ。レオポルド様」という力いっぱいの声に、若者はすげなさそうに従うのだった。
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