67 / 81
67王妃との戦い①
しおりを挟む
長男を超える。自分たちの婚約を認めてもらうために。決闘によって、自分たちの力を見せつけてやろう。そんな目先の狙いが、現実味を帯びながら貴族諸侯にまで伝播されていく。
ルイとレオポルドの望みが果たされるまで、あとわずか。
たくさんの葛藤と、あふれる想いに押しつぶされそうになる。だけど、それがルイの日常を捻じ曲げる理由にはならなかった。
決まった務めと、レオポルドの応援に力をいれることのみ。懸命に生活を乗り越えていくだけで、時間はいくらあっても足りないのだから。
「ルイ様、はやく湖に行きましょう」
子どもたちに手を引かれながら、先へ先へと歩いていく。王宮の対立構図なんてわかりもしない、幼稚な令息令嬢には敵わない。大きな顔して廊下を行くことが、どれだけ勇気のいることかも知らないだろう。
「あまり走らないで、転んじゃうからね?」
「うん。じゃあゆっくり行きましょう」
「ルイ様、今日の授業もわたくし、すごくワクワクしているの!!こうしちゃいられないわ」
止められない好奇心。無邪気に大きな声を出すのは、いかがなものか。ルイは内心では周りに平謝りする気持ちだった。それを眺めて目くじらを立てる者も中にはあったが、それらをいちいち相手にしていると日が暮れてしまう。
人を集めて、自分の心の拠り所を求めてきた。その役目も薄れつつある。野外授業が今後、これから王宮に何をもたらしていくだろうと考える。ここにいる子どもの中から、文化人や高級官僚なんかが輩出されていく未来はあるだろうか。もしかしたら国の英雄になり得る存在も紛れているのかもしれない。
「そうだね」
いろいろな人材と出会えることはもちろん、彼ら彼女らの才能を引き上げることができるだろう。他の誰でもない、ルイがその先頭に立って指導している。なんと、素晴らしい役割を与えられているではないか。
ルイは、子どもの顔を一通り見渡してから、改めて身の上に感謝していた。
満開の晴れだった。明るい雰囲気のもとで、今日の授業は終始進んでいった。
文の読み書きを教える回であったが、本やら手紙やらを飽きるほど経験していいる子どもたちにとって、それは簡単だったかもしれない。
ルイの出番は少なめで、授業の残りは、従者や侍女との練習で事足りるようだった。役割を終えた彼は、高みの見物、とまではいかないが余裕をもって遠目から見ていられた。
「ねぇ……お忙しい?」
湖の情景を打ち破ってくる人影。それの正体が誰であるかなんて、頭を働かせずともわかる。ルイは抜けていた表情を、ぎゅっと引き締めなければいけなかった。
「お久しぶりです。殿下」
「ルイさんも元気そうね」
王妃の登場に、あからさまに動揺しながら、ルイはいつもの挨拶を述べていった。
「殿下じゃなくて、ミランダでいいのに」
くすくすと笑う王妃の顔は、邪気のかけらも無さそうな印象を受ける。日差しにあたってますます健やかな女性の姿が引き立っていた。
「決闘ですってね」
「……」
「長男の方が騒いでいました。また、すごいことを考えるのね」
喉の引っ掛かりをこれでもかと感じながら、ルイは女性の言葉を受けた。
「私が考えたわけではありませんよ」
「そうなの?てっきりレオポルドに入れ知恵したのは、あなたかと思っていましたが」
「そんなまさか」
ありのままに伝えたが、王妃は疑いの目を引っ込めようとしなかった。「ふうん」と口をすぼめて、なおも笑みを固く貼り続けている。
「私はいつも彼に引っ張られてばかりですから」
「あぁ、うん。たしかに」
眠たそうにまぶたを擦る王妃は、それが癖になっているのかもしれない。彼女の顔つきからは、ひたすら無の感情に染まっている。深い心情まで探ることは、いかなる時もできなかった。
「その割には、ルイさんも目を輝かしているんじゃない?」
「私が……ですか」
「この状況、ワクワクしているんでしょう?」
相手の目論みを知るよりも先に、こちらの本性が見透かされてしまう。ルイは女性のゆったりした調子に合わせることができず、言い返す機会を逃した。
ルイとレオポルドの望みが果たされるまで、あとわずか。
たくさんの葛藤と、あふれる想いに押しつぶされそうになる。だけど、それがルイの日常を捻じ曲げる理由にはならなかった。
決まった務めと、レオポルドの応援に力をいれることのみ。懸命に生活を乗り越えていくだけで、時間はいくらあっても足りないのだから。
「ルイ様、はやく湖に行きましょう」
子どもたちに手を引かれながら、先へ先へと歩いていく。王宮の対立構図なんてわかりもしない、幼稚な令息令嬢には敵わない。大きな顔して廊下を行くことが、どれだけ勇気のいることかも知らないだろう。
「あまり走らないで、転んじゃうからね?」
「うん。じゃあゆっくり行きましょう」
「ルイ様、今日の授業もわたくし、すごくワクワクしているの!!こうしちゃいられないわ」
止められない好奇心。無邪気に大きな声を出すのは、いかがなものか。ルイは内心では周りに平謝りする気持ちだった。それを眺めて目くじらを立てる者も中にはあったが、それらをいちいち相手にしていると日が暮れてしまう。
人を集めて、自分の心の拠り所を求めてきた。その役目も薄れつつある。野外授業が今後、これから王宮に何をもたらしていくだろうと考える。ここにいる子どもの中から、文化人や高級官僚なんかが輩出されていく未来はあるだろうか。もしかしたら国の英雄になり得る存在も紛れているのかもしれない。
「そうだね」
いろいろな人材と出会えることはもちろん、彼ら彼女らの才能を引き上げることができるだろう。他の誰でもない、ルイがその先頭に立って指導している。なんと、素晴らしい役割を与えられているではないか。
ルイは、子どもの顔を一通り見渡してから、改めて身の上に感謝していた。
満開の晴れだった。明るい雰囲気のもとで、今日の授業は終始進んでいった。
文の読み書きを教える回であったが、本やら手紙やらを飽きるほど経験していいる子どもたちにとって、それは簡単だったかもしれない。
ルイの出番は少なめで、授業の残りは、従者や侍女との練習で事足りるようだった。役割を終えた彼は、高みの見物、とまではいかないが余裕をもって遠目から見ていられた。
「ねぇ……お忙しい?」
湖の情景を打ち破ってくる人影。それの正体が誰であるかなんて、頭を働かせずともわかる。ルイは抜けていた表情を、ぎゅっと引き締めなければいけなかった。
「お久しぶりです。殿下」
「ルイさんも元気そうね」
王妃の登場に、あからさまに動揺しながら、ルイはいつもの挨拶を述べていった。
「殿下じゃなくて、ミランダでいいのに」
くすくすと笑う王妃の顔は、邪気のかけらも無さそうな印象を受ける。日差しにあたってますます健やかな女性の姿が引き立っていた。
「決闘ですってね」
「……」
「長男の方が騒いでいました。また、すごいことを考えるのね」
喉の引っ掛かりをこれでもかと感じながら、ルイは女性の言葉を受けた。
「私が考えたわけではありませんよ」
「そうなの?てっきりレオポルドに入れ知恵したのは、あなたかと思っていましたが」
「そんなまさか」
ありのままに伝えたが、王妃は疑いの目を引っ込めようとしなかった。「ふうん」と口をすぼめて、なおも笑みを固く貼り続けている。
「私はいつも彼に引っ張られてばかりですから」
「あぁ、うん。たしかに」
眠たそうにまぶたを擦る王妃は、それが癖になっているのかもしれない。彼女の顔つきからは、ひたすら無の感情に染まっている。深い心情まで探ることは、いかなる時もできなかった。
「その割には、ルイさんも目を輝かしているんじゃない?」
「私が……ですか」
「この状況、ワクワクしているんでしょう?」
相手の目論みを知るよりも先に、こちらの本性が見透かされてしまう。ルイは女性のゆったりした調子に合わせることができず、言い返す機会を逃した。
48
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
【完結】おじさんはΩである
藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ
門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。
何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。
今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。
治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる