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66陰謀と仲間
しおりを挟むマルクス王子が、なにやら不穏な動きを企んでいるらしいことは、ルイ側も認知していた。議会や執行部の扉越しで、あるいは派閥内の交流において。密かに書類のやり取りがされているらしいこと。書類を配りまくり、貴族たちに何かを吹聴しているらしいこと。
王宮でも怪しい挙動が取り上げられていて、大半の役人はこれを見て見ぬふりしていた。
「ルイ様、これを」
「ありがとう」
ルイはこの流れを掴むために、侍女のララにあらかじめ調査してもらっていた。対応が後手に回らないように、情報は欠かさずに得ておきたかったのである。
多くの場合、宮中の噂や派閥ごとの動きには嘘偽りがつきものである。噂が尾ひれをつけて、馬鹿馬鹿しく誇張されることもしばしばだ。だからこそ、侍女には身辺から丸ごと調べ尽くしてもらった。
「この書面に、署名を求めていたそうでございます」
「第三王子の婚約の取りさげについて……ね」
真っ白な紙の上面を埋め尽くす、見るに堪えない文字の羅列。憎たらしいそれをなぞる。レオポルドと自分の名前が、許可もなしに挙げられている。
自分の立場が脅かされる以上に、レオポルドとの関係を壊そうとする動きに怒りがわいてくる。
「貴族たちにはどれだけ行き届いていた?」
「もうほとんど……、話では辺境伯にまで紙を送っているとか」
「徹底しているね」
弟の婚約の是非について、長男はいつもどおり。まずは地盤を固め、貴族に同意を得ようという魂胆だろう。婚約を根っこから覆すこともできたろうに、かなり慎重なことだ。数日間の空白期間も、この活動を隠れて推し進めていたに違いない。
「王太子は味方作りに躍起になっています」
「そう見えた?」
ララはこくんと頷いた。まぁこれは確かに、噂にあったとおりだとルイは納得した。どうにも長男は、求心力を集めるために頑張っていると、ずっと話題になっていた。
「どちらにせよ、私たちがすることは何も変わらない。いつも通りだ」
「決闘まで動かず……でございますか?」
「そう」
ルイは別に、何の処分も問われていない。生活は変わらないのだと侍女たちには言い聞かせてはいるが、どうにも皆わかってくれない。
レオポルドが拘禁された今となって、次は自分たちの番だと怖気づいてばかりだ。宮中からいつでも脱出できるよう、荷物をまとめる者まで現れた。そういう気が早いのは、無駄な努力だと諭しても聞いてくれないから、もう好きにさせている。
「マルクス殿下は決闘まで待ってくれますか」
「そこはレオ様に任せてあるよ。もしそれが叶わないようだったら、私たちは覚悟を決めないとね」
「エスペランサに……逃げ帰る」
「だと良いね。あとはどこかの貴族家にご厄介になるのも悪くないかな」
宮を追い出されても、国境を閉ざされようとも、財産を没収されても、最低でも生きていけるよう策は講じてある。
もちろんレオポルドと共に。ルイはどんなに恥を晒しても、この一点だけは曲げるつもりはなかった。あくまでも、どんなに苦境が訪れようとも彼といられるような道筋を組み立てていた。
「あ、そうだもう一つ。ルイ様に知らせておきたいことがありまして」
先ほど手渡された紙とは異なる、薄めに染色された紙束が差し出される。メモ帳の端切れみたいな破れ目を気にしながら、走り書きを見つめた。
「これは?」
名前、貴族家の通称がずらっと記されていた。ルイが深く親しんでいる相手で満たされているばかりか、湖でよく顔を合わせる人たちの名まで並んでいる。
「こちらは、そもそも紙を受け取らなかった人の一覧になります」
「私たちの婚約を認めてくださっている人たち……ってことで良いのかな」
「はい。ルイ様とレオポルド殿下の、頼もしいお味方です」
ララが声の調子を上げて、ここぞとばかりに気合をいれていく。彼女は誇らしそうに、いくらか頬を緩ませて主を見やっていた。
ルイは心を激しく鼓動させながら、じっくりと名前を頭の中で読み上げていった。およそ7年にわたって、自分の生活に携わってくれた関係者たち。皆が、自分たちのことをひっそりと支持してくれている、それを想うだけでどれだけ力がみなぎることか。
「はじめは、私の自己満足だったのになぁ」
「え?」
「みんな……たくさん話したけど…………、こんなに情に厚い人たちだとは思わなかったよ」
ぺらぺらと何枚も紙をめくり、令息令嬢の顔を浮かべた後、その後ろで見守る親の姿まで呼び起こされる。文字が泳ぎ、こちらに語りかけてくるかのようだった。誰も彼もが、「がんばれ」と口にしているところまで妄想できてしまう。そんなおめでたい頭をした自分に、ルイは変な笑いを漏らしていた。
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