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68王妃との戦い②
しおりを挟む「ルイさんと私は、かなり同類だと思っていたからちょっと残念よ」
「同類……」
「無感情で、何者にもなびくことはない。ひたすら暇な時間を愛でるだけ、身内とも関わりを避けたがる人間性。だってそうじゃない。いつまでも無害に生きることができたのなら、それで十分だと思わない?」
「私は……あの」
8年前、故郷にいる時は誰かと連れ添うなんて考えていなかった。人を知ることを避けながら生きてきた。誰かを信じて、親しみを覚えることを放棄していた。
「私もルイさんと同じ。国を離れてシオンに来たから、同情する気持ちはあったのよ。こんな退屈な世界であなたが生きていたら、私と同じになると思ったもの。仲間ができるのは良いことでしょう」
「あまり似ているとは思えませんが、通じるところはあるのかも……しれません」
「うん。当初はあなたの縁談なんてすぐ破り捨てるつもりだったけど、それもあの時、婚礼の時にやめたのよ。レオポルドが頑張って私とマルクスのことを説得していたわ。小さい体でたいそうなことよね。まぁそんなことしても関係がないのだけど」
饒舌に語る王妃は、いつものだらしない態度とは真逆だった。清々しいほどに言葉を並べて、まるで隠し事など無いと言わんかのようである。
「私はどうして見逃されているのか。いつまでここに居られるのか、っていう顔をしているわね?」
「はい……。すべては殿下たちの容赦に過ぎなかったのかと、気まぐれに助けられていただけなのかと思わずにはいられないのです」
「それはある。うん。きっとマルクスは意固地な子だから。男とか女とかで許せないこともあるのでしょう、同性婚がどうとかで」
「ミランダ殿下は違うのですか?」
「ええ」と事も無さそうに返事がされた。彼女の後ろには、いつものお付きが誰もいないことに気づかされる。これも普段の関わり方とは違うので、ルイは注意すらしていなかった。
遠くに見える子どもたちの姿。侍女たちの笑顔が美しく映える。湖の向こうに浮かぶ絵のような風景は、あまりにも鮮やかで宝物みたいに光って見えた。王妃の前でなかったら、ずっと眺めていたいほどだ。
「ねぇ、どうしてそんなに頑張っているの?あなたがレオポルドを支え続ける理由って、いったい何なの?」
「え……えっと」
「婚約してから、あなたの中で何が芽生えたの?恋?愛?立場か、それとも権威?何?」
難しい質問をされて、ルイは声を失ってしまう。のべつ幕なしの内容は、ぽつぽつと頭の中に溜まっていく。そんなもの。考えても、言葉にしたことがない。いつもレオポルドといるのだから、理由なんて気にしたことがない。ましてやこの場で答えを出すことなんて、とうてい不可能に感じる。
「気になるわ。ルイさんの力の源が」
かつて、自分のことをもっと深く知りたいと言ってくれた人がいた。その人はレオポルドという。今の女性みたいに強いる物言いではなくて、およそ6年間は、手紙の上でその気持ちをぶつけてくれていた。それも純粋に、彼なりの気遣いが感じられるような丁寧さに包まれていた。
「私は」
この素晴らしい日が、彼と出会った時の思い出と重なり合っていく。どこにも居ないはずなのに、またひょっこり姿を現す気がした。いや、謹慎中のレオポルドが隠れているはずがない。でも不思議とどこかで見ているかもと思った。
「私にはレオ様が必要なんです」
「れお……あぁ」
「彼の生きる道に、私はできるだけお供したい。彼の夢が私には輝いて見えたんです」
「すごくおめでたい理由ね」
「そうかもしれません。でも実際にそうなんです、私は彼が必要ですし、私は彼に必要とされたい」
するすると臆面もなく言える。そうか、これが言いたかったんだとルイは自分の言に納得した。難しくも何ともない。だって、彼が居なければ自分の人生には、たった一つだって色どりがなかったのだから。
レオポルドも、ひたむきに愛情を表現してくれる。私たちは依存し合い、求め合っている。お似合い夫婦だといわれても自分はもう否定できない。むしろ誇らしく思うべきことなのだろう。
「これ以上のことは望めません」
王妃は首を横に縦にひねりながら相槌を打っていた。口だけを見れば笑っているようだったが、目つきは悲哀のこもったそれである。
「いいわね。そういう生き方もあったのね」
「殿下は……違ったのですか」
「私なんて、もう。王宮じゃ居場所がありませんよ。昔なんてもっともっとひどい。子どもにそんな姿を見せるのも恥ずかしいったらありません」
今でこそ三人の王子の母、いうなれば国母のような地位にいる彼女である。そんな彼女にも辛酸をなめるような過去があった。それも子どもたちを寄せ付けない理由づけになっていたとは。ルイは真実を知ってなお、複雑な胸中はまとめられないでいる。
身内にも本当の姿をさらけ出せていない王妃を、すごくもったいないとルイは感じていた。王妃の等身大の気持ちが、王子たちにも伝われば家族みんなが浮かばれるだろうに。
「王妃といえど、私も血の通った人間です。もし夫が無能だったら、それを支えたいと思うものです。でも私にはその技量がありませんでした」
「国王陛下を、支える」
「うふふ。あまり詮索はしないでほしいわ。これはあなたたちとは関係のないつまらない話なのだから」
ふと息を吐いた王妃は、音もたてずに湖畔沿いを歩きだした。その様子を見守っていたように、お付きの女性たちがわらわらと群がってくる。
「ルイさん。レオポルドと私が話し合えるように時間を作ってくれないかしら。少しで構わないから」
「いいですが、なんのために」
「昔のことを謝りたいから、お願いね。それと決闘についてですけど、王宮側はあなたたちの決闘の意向を受け入れます」
ルイはそれを聞いて、大きく目を見開いた。相手の微笑みが、純粋な気持ちで迎えられた。それほど澄んだ表情をしていたのだろう。
「あなたたちの語る夢が、どれほど尊いものか。私に見せてちょうだい。あなたたちの苦節の道が、本当に意味あるものだったのかどうか」
「マルクスも、あなたたちの挑戦状をきっと受け入れるわ」と後から王妃はつぶやいた。
追従する女性たちが、ぱちぱちと目を瞬いている。それもそのはず。王妃の感情的な声音を聞くことも、ほとんど無かったのだから。その動揺を制する間もなく、彼らは歩いていくしかない。
王妃は訳もなさそうに、子どもたちの方角に進んでいた。椅子の並んだそちらには、ルイとその関係者ぐらいしか立ち入ることはない。シオン王家ではレオポルドが出入りすることが何度かあるだけである。
「『至上最強の人こそがシオンを導く者なり、剣のもとではただ一つの覚悟をもって勝ち誇るべし』だったかしら」
「殿下」
「不思議ね、私も久しぶりにワクワクしているわ。こんなに決闘大会が待ち遠しいなんてね」
決闘大会のとある言上を告げて、彼女は去っていった。穏やかさの中に熱く高ぶる彼女の声をも感じ取った。最適な生き方を求めている、自分らしく生きる道を模索している。王妃が、ルイの婚礼を破断にしなかった理由もそこにあるのだろうか。
闘うんだ。レオポルドと共に、マルクス王子と。勝ち取るんだ二人で。自分たちの生き方を主張するために。
時が止まったように、また静かに風が通り過ぎていった。かすかに匂いたつ草木をかぎ分けて、ルイは熱を冷まそうと心を癒していた。
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