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69ルイ対レオポルド①
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ルイが鉄鎧を着けるのは、実に8年ぶりのことだった。すごく重たい。それが身につけて初めての感想であった。
「ルイ様……ほんとに、無理だけはしないでくださいね」
「わかっているよララ。だけどもう時間が少ないんだ」
今日はレオポルドの稽古に誘われている。ルイは、もちろん実戦でなく助言をいくらか求められているだけだが、それで満足する時期はとうの昔に過ぎている。
決闘では、身内を倒さなければならない。実の兄を、友を、ばたばたとなぎ倒していく勇気がなければいけない。勝ち抜き戦には無慈悲さと冷酷さも、伴っていなければ。優勝なんて夢のまた夢のことだろう。
「私がレオ様に身をもって教える」
「でも、でも別にルイ様でなくとも。それこそ力量の差が」
「私も剣術の心得ぐらいある。ララも知っているでしょう」
「さすがに力の衰えとか、腕が鈍っているのはいただけません」
いいから付いてきて、とルイは侍女の止めには応じず、いつもの場所まで行った。甲冑姿の彼を見て、役人たちはよくわからない奇声を発している。
銀色の髪に、鎧の光沢がこれ以上ないほど調和している。良い意味で騎士らしくない彼の体躯には、鎧は着飾るための装いに見えた。
「お前……」
所定位置に着くと、レオポルドが絶句しながら立っていた。
「ルイも、鍛えるのか?体力づくりはいいことだもんな」
「いいえ。レオ様、私と模擬戦をしましょう」
「は?」
焦りながらレオポルドが聞き返してくる。当たり前の反応に、後ろの侍女は頭を抱えていた。これを仮にも王子妃が率先してやろうとしているのだから余計困惑が起こるのだった。
「怪我するぞ?」
「はい。あなたには、もっと力の出し方を磨いてほしいのです」
「うーん、いつもお前が差し向けてくれる挑戦者を相手にしているよ」
「じゃあ次は私が相手です」
今日も今日とて、多くの腕自慢が客として訪問している。庭の正面奥には、戦いに負けて伸び切った彼らの姿があった。大会前から打ち負かされるのは酷だろうが仕方ない。ルイの人脈をもってして集めた彼らから、レオポルドは膨大な実践経験を積み重ねている。
「これで十分だろう」
「いいえ。まだ身内を倒すだけの覚悟が足りていません」
実戦の剣と同じ大きさの木剣を持ち出して、ルイは相手の目の前に立った。
王太子の兄に立ち向かい、これでもかと痛めつけられたレオポルド。自ら剣を振るおうとしていたのも、ルイの立場や尊厳を守ろうとしていたからに過ぎなかった。
神聖な闘技の場でも、あの時のような殺気が出せるのかとルイはレオポルドをかなり疑っている。
「あなたはこれから実の兄を打ち倒すのですよ?」
「……」
「私ごときと刃を交えられなかったら、強さを語ることはできないでしょう」
全力で闘ってほしい。自分をこてんぱんに叩き潰すぐらいの意地を見せてくれたら、兄とも同じ立ちあいができるだろう。難しいことはない。必要なのは、すべてを投げ打つような覚悟だけだ。
「その兜と鎧は、鉄製だよな?」
「もちろんです」
レオポルドは確認をいれてから、手近の木刀を一本持った。手で触り、道具の具合を細かく確かめていく。危ないものは先に取り除こうと、彼はすでにルイの心配しか頭に無いようである。
ララが闘いの判定役、および審判として両者の間へと割り入った。彼女もまた、ルイに危険が及ぶようであったら飛びついて庇おうと腹を決めていた。
ルイは故郷で教わった型のとおり、剣をまっすぐ相手に差し向けた。
不安はない。迷いもない。王妃と話してから、毎日を冷静に見届けている。来たるべき日に備えてできることをやっているから、あとは……
「あなたが最初に倒すべき身内は、私です。レオポルド」
自分の命運を託すに値するかどうか、実践でそれを確かめる。ついでと言わんばかりにルイは、「かかってきなさい」とレオポルドに叫んだのち、手元に意識を込めていった。
「ルイ様……ほんとに、無理だけはしないでくださいね」
「わかっているよララ。だけどもう時間が少ないんだ」
今日はレオポルドの稽古に誘われている。ルイは、もちろん実戦でなく助言をいくらか求められているだけだが、それで満足する時期はとうの昔に過ぎている。
決闘では、身内を倒さなければならない。実の兄を、友を、ばたばたとなぎ倒していく勇気がなければいけない。勝ち抜き戦には無慈悲さと冷酷さも、伴っていなければ。優勝なんて夢のまた夢のことだろう。
「私がレオ様に身をもって教える」
「でも、でも別にルイ様でなくとも。それこそ力量の差が」
「私も剣術の心得ぐらいある。ララも知っているでしょう」
「さすがに力の衰えとか、腕が鈍っているのはいただけません」
いいから付いてきて、とルイは侍女の止めには応じず、いつもの場所まで行った。甲冑姿の彼を見て、役人たちはよくわからない奇声を発している。
銀色の髪に、鎧の光沢がこれ以上ないほど調和している。良い意味で騎士らしくない彼の体躯には、鎧は着飾るための装いに見えた。
「お前……」
所定位置に着くと、レオポルドが絶句しながら立っていた。
「ルイも、鍛えるのか?体力づくりはいいことだもんな」
「いいえ。レオ様、私と模擬戦をしましょう」
「は?」
焦りながらレオポルドが聞き返してくる。当たり前の反応に、後ろの侍女は頭を抱えていた。これを仮にも王子妃が率先してやろうとしているのだから余計困惑が起こるのだった。
「怪我するぞ?」
「はい。あなたには、もっと力の出し方を磨いてほしいのです」
「うーん、いつもお前が差し向けてくれる挑戦者を相手にしているよ」
「じゃあ次は私が相手です」
今日も今日とて、多くの腕自慢が客として訪問している。庭の正面奥には、戦いに負けて伸び切った彼らの姿があった。大会前から打ち負かされるのは酷だろうが仕方ない。ルイの人脈をもってして集めた彼らから、レオポルドは膨大な実践経験を積み重ねている。
「これで十分だろう」
「いいえ。まだ身内を倒すだけの覚悟が足りていません」
実戦の剣と同じ大きさの木剣を持ち出して、ルイは相手の目の前に立った。
王太子の兄に立ち向かい、これでもかと痛めつけられたレオポルド。自ら剣を振るおうとしていたのも、ルイの立場や尊厳を守ろうとしていたからに過ぎなかった。
神聖な闘技の場でも、あの時のような殺気が出せるのかとルイはレオポルドをかなり疑っている。
「あなたはこれから実の兄を打ち倒すのですよ?」
「……」
「私ごときと刃を交えられなかったら、強さを語ることはできないでしょう」
全力で闘ってほしい。自分をこてんぱんに叩き潰すぐらいの意地を見せてくれたら、兄とも同じ立ちあいができるだろう。難しいことはない。必要なのは、すべてを投げ打つような覚悟だけだ。
「その兜と鎧は、鉄製だよな?」
「もちろんです」
レオポルドは確認をいれてから、手近の木刀を一本持った。手で触り、道具の具合を細かく確かめていく。危ないものは先に取り除こうと、彼はすでにルイの心配しか頭に無いようである。
ララが闘いの判定役、および審判として両者の間へと割り入った。彼女もまた、ルイに危険が及ぶようであったら飛びついて庇おうと腹を決めていた。
ルイは故郷で教わった型のとおり、剣をまっすぐ相手に差し向けた。
不安はない。迷いもない。王妃と話してから、毎日を冷静に見届けている。来たるべき日に備えてできることをやっているから、あとは……
「あなたが最初に倒すべき身内は、私です。レオポルド」
自分の命運を託すに値するかどうか、実践でそれを確かめる。ついでと言わんばかりにルイは、「かかってきなさい」とレオポルドに叫んだのち、手元に意識を込めていった。
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