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70ルイ対レオポルド②
しおりを挟むいつからレオポルドを慕うようになったのか。ルイは剣を向けながら、相手への拙い想いに浸っていた。
たぶん、初めからそうだったのだろう。婚礼の時から今に至るまで、ずっと彼のことで頭がいっぱいだったはずだ。自ら変わろうとする以前から、無意識のうちに彼の存在があった。
(ねぇ、どうしてそんなに頑張っているの?)
あの日の王妃の言葉が頭を駆け巡っていく。どうして、どうしてだって。そんな愚かな質問、考えたこともなかったけれども。
審判役の指示もなしに、ルイは屈強な相手に目掛けて歩んでいった。エスペランサではこれが常識、食うか食われるかの闘いに仲介など不要である。
「ちょ……っと」
「手加減無用!!さぁかかってきなさい!!」
ルイは握りしめる手腕に力を込めた。
「ぐっ……」
風を切るほどにルイの攻撃は速かった。重たい鎧を負けん気で我慢しながら、相手の鎧にむけて剣を振るう。レオポルドの動きをすかさず目で追って、ルイは渾身の一撃をぶつけてみる。
みしっと木と木の衝突で音が響いた。防具を貫くほどの力はないかもしれないが、当たればしっかり傷ができるほどだ。
「まだやれるでしょう!!」
本気を出したらこんなものじゃない。わかっている。レオポルドがまったく力を入れていないことぐらい。
土を踏みしめる脚は太く、剣をさばく腕には痛々しい切り傷が見える。レオポルドに刻み込まれた鍛錬の証には、さしもの兄王子たちも驚くに違いない。
わかってる。どれほどの時間を、ここまで注ぎ込んできたか。18歳で大会に出るまでの準備期間も、よく見聞きしていたから。
「手抜かりなしだな」
「はい!!もちろん」
私も、実はレオ様と闘ってみたかったんです。そりゃあ体格とか、力の差とか練習量とかで負けは確定でしょう。けれどやっぱり一度でいいから剣を交えてみたかった、大人になったあなたと。
レオポルドの目つきが変わるところが、防具越しからも見える。そうだ。そうやって慈悲ごと捨ててほしい。まるで大悪人を切り捨てるぐらいの勢いで、ここでも武勇を見せてほしい。
ルイは自分の無謀な試みで、なんとかレオポルドに一皮むけてほしいと願ってやまなかった。
頭上をかすめる剣をよけて、次の手に備えて反撃する。ルイの突き技にうまく相手も受け身をした。異国の剣技が交わり合って、どちらも攻めあぐねているといったところだろうか。二人とも互角の闘いを演じている。そのように周りには見えているだろうが、明らかにレオポルド側が一歩引けている。
「思いきって!!」
あなたの呆れるほど子どもっぽい夢と、憧れに惹かれて。ついついシオンの宮廷を走り続けてきたけれど、やっぱり二人でいる時ほど愛しいことはありません。
永遠に二人でいたい。だからこそ、マルクス殿下にも認めてもらいたいのです。私とレオ様の関係を、確固たるものにしたい。すごく我儘なことだけど、手を伸ばせば叶いそうだったから。ちょっとだけ背伸びしたいんです。
「戦えっ!!もっと!!」
「あぁ、もちろん」
同じ目線では語れないかもしれないけれど、あなたの見ている景色を少しでいいから味わいたくて。いつも考えていたんです。自分が自分らしくいられるように、レオ様と、意思も感情もひとつになれるように。楽しさも喜びも、怒りも悲しみも苦しさも痛みも、通じ合えたらいいのにって。
鉄の匂い。ふわりと漂うレオ様の匂いも、一気に吸い込んでやりたい。年上の品性とか振る舞いって、たぶん私は言い訳で使っていると思う。そうやって人との距離を保とうと必死だったんだ。
「あなたにっ!!すべて、託します」
「はぁ……はぁ、なに?」
「はぁ託すから。どうか勝って!!」
笑いが出るほど滑稽な、自己満足からくる告白だった。口にするのも恥ずかしい。しかし思い切って、ルイは刹那の間で叫んでいた。彼に気持ちを託すために、このような手段と言葉しか思いつかなかったのだ。
ルイは激しい息継ぎをしながら、レオポルドの剣と渡り合っている。それも自身をかなぐり捨て、恐怖心を誤魔化しているおかげだった。
「あ……」
だが、ついに両者の差があらわれた。
言葉を捧げて、ふとルイは気が抜けた。足がもつれてしまい、逃げるべき剣技の射程に入ってしまっていた。ぐっと歯を食いしばったところでもう遅かった。痛みも音もなく、視界だけ白くかすんでいく。レオポルドの雄姿、愛しい顔立ちがその輪郭を歪ませていった。
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