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71愛の歌
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はじめに音がした。耳の奥でかすかに鳴っているそれは、ルイを懐かしい気分にさせてくれた。
(あの子がよく歌っていた)
レオポルドが昔から口ずさんでいた、あの歌がどこかから流れてくる。いつもどこにいても、二人でいる時は必ずといっていいほど耳にした。
ただぎゅっと握った手のひらに力を込めて、あの日の夕暮れに、もしくは大きな木の陰に、王宮の一室にそれを響かせた。二人して歌詞の意味はあまり探らないで、美しいとか切ないという感情を表に出すこともしなかった。実際のところ、少年の方は歌詞なんて大して考えていなかったのだろう。誰かに聞いてほしいとか、そういう気持ちも無かったのだろう。
ーわたしを離さないで 愛しい人よー
その一節をルイは大事に胸にしまっていた。
切ない歌なのにレオポルドは、元気よく詩を唱える。湖の水面を揺らし、庭の芝を踏みしめながら。
風情とかが目に浮かぶよりも先に、彼の嬉しそうな笑顔が見えてくるような。むしろ色濃い明るさを、ルイは覚えることだった。
「うん……うん」
こんなに情熱に満ちた内容を、手拍子にのせて歌っていたのかと今では驚く。けれども、その歌のリズムも、拍の調子も、彼の音程も愛している。
夢の中で何度も頷いた。幻の音に酔いしれていた。言葉の重み、手に取るようにわかる彼の心を感じられたから。いつだってさりげなく、気持ちを伝えてくれていたのかと胸が熱くなってしまう。
ー離さないで 愛しい人よー
わかっている。私も愛している、かつてのように。立場も論理もクソもない。ただそこにいるあなたを無性に愛したいと思っている。魂を共鳴させるように、あなたを求めて探して追いかけている。失われた半身みたいな格好でいる。
何も考えないで。置いていかないでほしい。忘れないでほしい。手を離さないでほしいと何度だって頼みたいのに。でもそれがあなたのためになるかと言えば、すごく難しいと思ってしまう。もどかしくて辛い。尻込みする自分が嫌いになってしまう。
「いかないで」
私も連れて行ってと、ルイが言葉を絞りかけた瞬間、いきなり世界が光に包まれていった。ふわりと体が浮いて、柔らかな褥に寝かされる感触がした。草の匂い、太陽から注がれる空気に満たされていった。それをめいいっぱい吸い込むと、どこかで、またレオポルドが元気に歌っているような予感さえする。
美しい旋律に誘われるように、目をぱちぱちと見開いていく。鮮やかに彩られた視界。赤や黄色に発光して、すこぶるまぶたが痛い。
「ルイ……?」
低くこもった声が落ち着く。すごく穏やかな夜のような心地よさに、不思議と胸が打たれる。
「レオ……様」
「あぁ……よかった、起きた。よかったぁ……」
大人になったレオポルドの横顔。左に見える彼の面立ちに、ルイは言葉にならないほど圧倒された。また新しい夢に舞い降りたかのような。大きな衝撃とともに、こらえ続けていたものが一気にあふれ出ていった。
太陽の西日の光がまぶしくて、ルイは目もとを手で隠そうとした。折り曲げた手指にぴとぴとと零れ落ちる涙を、ようやくここで認めることができた。
「ルイ、泣いているけど。どこか痛むか?」
「う……、ん……ちがう……」
頭には取れない棘が突き刺さるような違和感があった。後頭部のあたり。おそらく模擬戦で叩かれた箇所がそこであろう。だけど、我慢ができないほどの痛みではなかった。
ルイは、すぐそばにレオポルドが居ることを知って、途方もないほどの安心感に満たされていた。
「すごくホッとした。あなたがいてくれて」
「お……俺……?」
「うん」
涙の筋がつーっとルイの頬を伝った。すぐそこにいたんだ、一人じゃなかった。相手の存在に感謝するように、ルイは寝台の上で天を仰ぎ見ていた。
(あの子がよく歌っていた)
レオポルドが昔から口ずさんでいた、あの歌がどこかから流れてくる。いつもどこにいても、二人でいる時は必ずといっていいほど耳にした。
ただぎゅっと握った手のひらに力を込めて、あの日の夕暮れに、もしくは大きな木の陰に、王宮の一室にそれを響かせた。二人して歌詞の意味はあまり探らないで、美しいとか切ないという感情を表に出すこともしなかった。実際のところ、少年の方は歌詞なんて大して考えていなかったのだろう。誰かに聞いてほしいとか、そういう気持ちも無かったのだろう。
ーわたしを離さないで 愛しい人よー
その一節をルイは大事に胸にしまっていた。
切ない歌なのにレオポルドは、元気よく詩を唱える。湖の水面を揺らし、庭の芝を踏みしめながら。
風情とかが目に浮かぶよりも先に、彼の嬉しそうな笑顔が見えてくるような。むしろ色濃い明るさを、ルイは覚えることだった。
「うん……うん」
こんなに情熱に満ちた内容を、手拍子にのせて歌っていたのかと今では驚く。けれども、その歌のリズムも、拍の調子も、彼の音程も愛している。
夢の中で何度も頷いた。幻の音に酔いしれていた。言葉の重み、手に取るようにわかる彼の心を感じられたから。いつだってさりげなく、気持ちを伝えてくれていたのかと胸が熱くなってしまう。
ー離さないで 愛しい人よー
わかっている。私も愛している、かつてのように。立場も論理もクソもない。ただそこにいるあなたを無性に愛したいと思っている。魂を共鳴させるように、あなたを求めて探して追いかけている。失われた半身みたいな格好でいる。
何も考えないで。置いていかないでほしい。忘れないでほしい。手を離さないでほしいと何度だって頼みたいのに。でもそれがあなたのためになるかと言えば、すごく難しいと思ってしまう。もどかしくて辛い。尻込みする自分が嫌いになってしまう。
「いかないで」
私も連れて行ってと、ルイが言葉を絞りかけた瞬間、いきなり世界が光に包まれていった。ふわりと体が浮いて、柔らかな褥に寝かされる感触がした。草の匂い、太陽から注がれる空気に満たされていった。それをめいいっぱい吸い込むと、どこかで、またレオポルドが元気に歌っているような予感さえする。
美しい旋律に誘われるように、目をぱちぱちと見開いていく。鮮やかに彩られた視界。赤や黄色に発光して、すこぶるまぶたが痛い。
「ルイ……?」
低くこもった声が落ち着く。すごく穏やかな夜のような心地よさに、不思議と胸が打たれる。
「レオ……様」
「あぁ……よかった、起きた。よかったぁ……」
大人になったレオポルドの横顔。左に見える彼の面立ちに、ルイは言葉にならないほど圧倒された。また新しい夢に舞い降りたかのような。大きな衝撃とともに、こらえ続けていたものが一気にあふれ出ていった。
太陽の西日の光がまぶしくて、ルイは目もとを手で隠そうとした。折り曲げた手指にぴとぴとと零れ落ちる涙を、ようやくここで認めることができた。
「ルイ、泣いているけど。どこか痛むか?」
「う……、ん……ちがう……」
頭には取れない棘が突き刺さるような違和感があった。後頭部のあたり。おそらく模擬戦で叩かれた箇所がそこであろう。だけど、我慢ができないほどの痛みではなかった。
ルイは、すぐそばにレオポルドが居ることを知って、途方もないほどの安心感に満たされていた。
「すごくホッとした。あなたがいてくれて」
「お……俺……?」
「うん」
涙の筋がつーっとルイの頬を伝った。すぐそこにいたんだ、一人じゃなかった。相手の存在に感謝するように、ルイは寝台の上で天を仰ぎ見ていた。
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