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第10話 ②
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「アンは買い物帰りか? 今からアンの店に向かおうとしていたのだが……」
「あ、はい。えっと、今日はお店がお休みなので、今のうちに必要なものを買っておこうと思いまして」
「む。今日は休業日だったのか」
「そうですけど、花束が必要でしたか? でしたらお得意さんですし、店に戻ったらお作りしますよ」
お店は閉まっているけど、花だったら花畑に沢山咲いているので問題ない。
「ただ下処理をしないといけないので、ちょっとお待たせしてしまいますけど」
「いや、今日は花束ではなくてだな……」
もしお急ぎだったら申し訳ないな、と思っていたけれど、今日は別件で来たらしい。
「……取り敢えず重いだろう? 店まで送らせてくれないか?」
ジルさんが自然な動作で私の荷物を持ち、手を差し出してくれる。正直重かったので有り難いけれど、立派な馬車に乗るのは気が引けてしまう。
「え……でも……」
こんな立派な馬車に私が乗って良いのかな、と逡巡していると、馬車の中からジルさんとは違う男の人の声がした。
「初めまして。僕はジギスヴァルトの友人のヘルムフリート・ローエンシュタインです。もし遠慮してるなら気にせず乗ってくれたら嬉しいんだけど」
ヘルムフリートと名乗るジルさんの友人は綺麗な顔をしていて、とても優しそうな人だった。
私がちらっとジルさんを見ると、ちょっと悲しそうな……垂れている耳の幻覚が見えたので、思わずジルさんの手を取ってしまう。
「あ! えっと、では遠慮なく! よろしくお願いします!」
私が馬車に乗ると、ジルさんは嬉しそうに微笑んでくれた。
そんな私達を見たヘルムフリートさんはとても楽しそうにしている。
「えっと、アンさん、でいいのかな?」
「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はアンネリーエと申します。周りの人達にはアンと呼ばれているので、よろしければそうお呼び下さい」
ヘルムフリートさんがこの馬車の持ち主だとすれば、ヘルムフリートさんは貴族……! と思った私は失礼のないように言葉を正す。
「ははは。嫌だなぁ。そんなに畏まらなくてもいいよ。普通にヘルムフリートって呼んでよ」
「いえ、そういう訳には……」
「こいつに気を使う必要はない。本人も言っているし呼び捨てで構わない」
「え? え? えっと、じゃあヘルムフリートさ……んで?」
流石に呼び捨ては出来ないので、せめてさん付けにさせて貰う。二人にはそれで納得いただこう。
何とか挨拶を済ませた私は、改めて見た馬車に戦慄した。
ベルベットの生地に金糸で刺繍が施された内装には本革がふんだんに使われている。そして椅子はふかふかで座り心地が良く、お尻が全く痛くない。更に革に刺繍を施した折りたたみ式階段が付いていて、馬車まるごと繊細な工芸品のようだった。
(お貴族様ってすごい! でも汚しちゃったらどうしよう!)
「あの、この素晴らしい馬車はヘルムフリートさ……んの馬車ですか?」
「いいや? ジギスヴァルトの家の馬車だよ」
「は?! え? ジルさんの……?」
てっきりこの馬車はヘルムフリートさんの持ち物だと思いこんでいた私はすごく驚いた。
「アン、この馬車が気に入ったのか? ならこの馬車をアンに贈ろう。……いや、中古は駄目だな。うむ。アンに似合う新しい馬車を作らせよう」
「はい? え、いや、冗談ですよね……?」
ジルさんも冗談を言うんだなー。っていうか冗談のスケールが違うなーと思っていた私に、ジルさんは真顔で否定した。
「冗談ではない。アンの好みを教えてくれれば、その通りに作らせよう」
「え」
相変わらず真顔で言い切るジルさんに、一体どうすれば……と思っていたら、ヘルムフリートさんが助け舟を出してくれた。
「ジギスヴァルト、アンさんが困ってるじゃないか。っていうか、普通は馬車を貰っても迷惑になると思うけど」
「……む。そうか……迷惑か……」
「あ! いえ、迷惑というか、便利だと思うんですけど、置き場所がありませんし、馬の世話とか出来ませんので……。でもお気持ちはすごく嬉しいです!」
ジルさんがすごく残念そうに呟くので思わず自分でもよくわからないフォローをしてしまう。
「俺はアンにお礼がしたいのだが……」
「もうお礼はいただきましたよ! テーゲベック美味しかったです!」
「あれじゃあまだ足りない」
「いやいやいや! もう十分ですから!」
「……ごめんね、アンさん。こいつ、思いついたらすぐ実行しようとするんだよ。ジギスヴァルトもアンさんを困らせたら駄目だってば」
「……む」
気心が知れているのだろう、二人のやり取りに思わず笑みが溢れてしまう。
私はいつも冷静沈着だと思っていたジルさんの意外な一面を知って、もっとジルさんのことを知りたいな、と思った。
* * * * * *
❀名前解説❀
テーゲベック→お茶菓子(みたいな?)
「あ、はい。えっと、今日はお店がお休みなので、今のうちに必要なものを買っておこうと思いまして」
「む。今日は休業日だったのか」
「そうですけど、花束が必要でしたか? でしたらお得意さんですし、店に戻ったらお作りしますよ」
お店は閉まっているけど、花だったら花畑に沢山咲いているので問題ない。
「ただ下処理をしないといけないので、ちょっとお待たせしてしまいますけど」
「いや、今日は花束ではなくてだな……」
もしお急ぎだったら申し訳ないな、と思っていたけれど、今日は別件で来たらしい。
「……取り敢えず重いだろう? 店まで送らせてくれないか?」
ジルさんが自然な動作で私の荷物を持ち、手を差し出してくれる。正直重かったので有り難いけれど、立派な馬車に乗るのは気が引けてしまう。
「え……でも……」
こんな立派な馬車に私が乗って良いのかな、と逡巡していると、馬車の中からジルさんとは違う男の人の声がした。
「初めまして。僕はジギスヴァルトの友人のヘルムフリート・ローエンシュタインです。もし遠慮してるなら気にせず乗ってくれたら嬉しいんだけど」
ヘルムフリートと名乗るジルさんの友人は綺麗な顔をしていて、とても優しそうな人だった。
私がちらっとジルさんを見ると、ちょっと悲しそうな……垂れている耳の幻覚が見えたので、思わずジルさんの手を取ってしまう。
「あ! えっと、では遠慮なく! よろしくお願いします!」
私が馬車に乗ると、ジルさんは嬉しそうに微笑んでくれた。
そんな私達を見たヘルムフリートさんはとても楽しそうにしている。
「えっと、アンさん、でいいのかな?」
「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はアンネリーエと申します。周りの人達にはアンと呼ばれているので、よろしければそうお呼び下さい」
ヘルムフリートさんがこの馬車の持ち主だとすれば、ヘルムフリートさんは貴族……! と思った私は失礼のないように言葉を正す。
「ははは。嫌だなぁ。そんなに畏まらなくてもいいよ。普通にヘルムフリートって呼んでよ」
「いえ、そういう訳には……」
「こいつに気を使う必要はない。本人も言っているし呼び捨てで構わない」
「え? え? えっと、じゃあヘルムフリートさ……んで?」
流石に呼び捨ては出来ないので、せめてさん付けにさせて貰う。二人にはそれで納得いただこう。
何とか挨拶を済ませた私は、改めて見た馬車に戦慄した。
ベルベットの生地に金糸で刺繍が施された内装には本革がふんだんに使われている。そして椅子はふかふかで座り心地が良く、お尻が全く痛くない。更に革に刺繍を施した折りたたみ式階段が付いていて、馬車まるごと繊細な工芸品のようだった。
(お貴族様ってすごい! でも汚しちゃったらどうしよう!)
「あの、この素晴らしい馬車はヘルムフリートさ……んの馬車ですか?」
「いいや? ジギスヴァルトの家の馬車だよ」
「は?! え? ジルさんの……?」
てっきりこの馬車はヘルムフリートさんの持ち物だと思いこんでいた私はすごく驚いた。
「アン、この馬車が気に入ったのか? ならこの馬車をアンに贈ろう。……いや、中古は駄目だな。うむ。アンに似合う新しい馬車を作らせよう」
「はい? え、いや、冗談ですよね……?」
ジルさんも冗談を言うんだなー。っていうか冗談のスケールが違うなーと思っていた私に、ジルさんは真顔で否定した。
「冗談ではない。アンの好みを教えてくれれば、その通りに作らせよう」
「え」
相変わらず真顔で言い切るジルさんに、一体どうすれば……と思っていたら、ヘルムフリートさんが助け舟を出してくれた。
「ジギスヴァルト、アンさんが困ってるじゃないか。っていうか、普通は馬車を貰っても迷惑になると思うけど」
「……む。そうか……迷惑か……」
「あ! いえ、迷惑というか、便利だと思うんですけど、置き場所がありませんし、馬の世話とか出来ませんので……。でもお気持ちはすごく嬉しいです!」
ジルさんがすごく残念そうに呟くので思わず自分でもよくわからないフォローをしてしまう。
「俺はアンにお礼がしたいのだが……」
「もうお礼はいただきましたよ! テーゲベック美味しかったです!」
「あれじゃあまだ足りない」
「いやいやいや! もう十分ですから!」
「……ごめんね、アンさん。こいつ、思いついたらすぐ実行しようとするんだよ。ジギスヴァルトもアンさんを困らせたら駄目だってば」
「……む」
気心が知れているのだろう、二人のやり取りに思わず笑みが溢れてしまう。
私はいつも冷静沈着だと思っていたジルさんの意外な一面を知って、もっとジルさんのことを知りたいな、と思った。
* * * * * *
❀名前解説❀
テーゲベック→お茶菓子(みたいな?)
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