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第11話 ①
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お店がお休みの日、街で買い物を済ませた帰り道で、馬車に乗っていたジルさんに声を掛けられた。
いつもと違う立派な馬車にはジルさんの友人のヘルムフリートさんも乗っていて、私の店に向かう途中だという。
てっきり花束の注文なのかと思っていたら、別件で用事があるらしいので、詳しいお話を聞いてみることにする。
「あの、用事とは一体何でしょうか? 花束ではないんですよね?」
「すまない。ヘルムフリートが君にお礼を言いたいらしくてな」
「そうなんだ。いつも綺麗な花束を有り難う。フロレンティーナもアンさんにお礼を言いたがっていたよ」
「……え? フロレンティーナ……?」
ヘルムフリートさんが言う「フロレンティーナ」という名前に、最近どこかで聞いた事があるな……と考えた私はまさか、と思う。
「あ、あの、その方はもしかして……人違いじゃなければ……」
「うん。王女殿下だね」
「……っ?!」
私は衝撃の事実に絶句する。
花束を受け取る相手はジルさんの恋人だと思っていたけれど、それが王女殿下なのだとしたら……。
「ジルさんは王女殿下と恋仲……?!」
「それは無い」
凄いことを知ってしまったと思ったのに、ジルさんが間髪入れずに否定する。
「え、でも毎週のように花束を贈ってたんじゃ……?」
「む。それは……」
ジルさんが少し困ったような表情をしている。どう説明しようか考えているようだ。
でも実際、ジルさんは毎週花束を買いに来てくれていたし、毎回とても愛おしそうに花束を抱えて帰っていた。
だから私はジルさんが恋人の喜ぶ姿を見たくて、わざわざ慣れない花屋で花束を用意しているのだと思っていたのに。
「ああ、それはね、僕がジギスヴァルトにお願いしていたんだよ」
「……と言いますと?」
「僕はフロレンティーナの病気を治す薬の開発に専念していてね。なかなか時間が取れなかったから、フロレンティーナとも親しいジギスヴァルトにお願いして僕の代わりにお見舞いの贈り物を用意して貰っていたんだ。……まさかその贈り物が花束だと知った時は驚いたけれど」
ヘルムフリートさんはそう説明してくれた後「ジギスヴァルトにしては気が利いているよね」と言って笑った。
「……む。それは贈り物には花束が良いと団員達が噂していたのを小耳に挟んでだな……」
ジルさんはヘルムフリートさんに笑われたことにムッとしている。
私は初めてジルさんのそんな表情を見ることが出来て嬉しく思う。
「あれ? もしかしてその団員さんって……」
「……ああ、ヴェルナー、だな」
ジルさんは騎士団の食堂で、ヴェルナーさんが女性への贈り物には花がいいと自慢気に言っていたのを聞いたのだそうだ。
その時お店のことは言っていなかったらしいので、ジルさんが私のお店に来たのは本当に偶然だったようだけれど。
「アンさんの花束をフロレンティーナがすごく気に入ってね。贈り物はアンさんの花束が良いって言うから、ずっとジギスヴァルトにお願いしていたんだよ」
ジルさんはヘルムフリートさんの代わりに毎週花を買いに来ていたのだそうだ。
「ああ、彼女は俺にも礼を伝えるように言っていた。いつもアンの花束に励まされていると」
「そんな……! こ、光栄です! 王女殿下に気に入っていただけるなんて……! 本当に嬉しいです!」
自分が作った花束が誰かの励みになるなんて、こんなに嬉しいことはない。私は嬉しさで思わず涙腺が緩みそうになってしまう。
(あれ? そう言えば花束の注文主がヘルムフリートさんということは……)
「……あの、じゃあヘルムフリートさんは王女殿下と、その……」
「うん。僕とフロレンティーナは将来を誓い合っているんだ。だけど婚約発表をしようとした矢先に彼女が発症してしまってね。何とか治療薬を完成させたいんだけど、なかなか難しくてさ」
ヘルムフリートさんは笑みを浮かべてそう言うけれど、私は彼のその表情の中に焦燥感や不安が見え隠れしていることに気付く。
(本当はヘルムフリートさんが自分で王女殿下に花束を贈りたいんだろうな……。なのに、それを我慢して薬の研究を……)
きっと寝る間も惜しんで頑張っているんだろうな、と想像していると、ヘルムフリートさんがチラッとジルさんを見てから、私に向かって言った。
「……だから今日は息抜きも兼ねてアンさんに会ってお礼が言いたかったんだ。花束が熟練の技だったから、てっきり年配の職人だと思っていたのに、実際会ってみるとこんなに若くて可愛い人で驚いたよ」
「はっ?! か、可愛……っ!?」
突然褒められた私はめちゃくちゃ動揺してしまう。更に顔が真っ赤になっているのが自分でもわかってしまってすごく恥ずかしい。
いつもと違う立派な馬車にはジルさんの友人のヘルムフリートさんも乗っていて、私の店に向かう途中だという。
てっきり花束の注文なのかと思っていたら、別件で用事があるらしいので、詳しいお話を聞いてみることにする。
「あの、用事とは一体何でしょうか? 花束ではないんですよね?」
「すまない。ヘルムフリートが君にお礼を言いたいらしくてな」
「そうなんだ。いつも綺麗な花束を有り難う。フロレンティーナもアンさんにお礼を言いたがっていたよ」
「……え? フロレンティーナ……?」
ヘルムフリートさんが言う「フロレンティーナ」という名前に、最近どこかで聞いた事があるな……と考えた私はまさか、と思う。
「あ、あの、その方はもしかして……人違いじゃなければ……」
「うん。王女殿下だね」
「……っ?!」
私は衝撃の事実に絶句する。
花束を受け取る相手はジルさんの恋人だと思っていたけれど、それが王女殿下なのだとしたら……。
「ジルさんは王女殿下と恋仲……?!」
「それは無い」
凄いことを知ってしまったと思ったのに、ジルさんが間髪入れずに否定する。
「え、でも毎週のように花束を贈ってたんじゃ……?」
「む。それは……」
ジルさんが少し困ったような表情をしている。どう説明しようか考えているようだ。
でも実際、ジルさんは毎週花束を買いに来てくれていたし、毎回とても愛おしそうに花束を抱えて帰っていた。
だから私はジルさんが恋人の喜ぶ姿を見たくて、わざわざ慣れない花屋で花束を用意しているのだと思っていたのに。
「ああ、それはね、僕がジギスヴァルトにお願いしていたんだよ」
「……と言いますと?」
「僕はフロレンティーナの病気を治す薬の開発に専念していてね。なかなか時間が取れなかったから、フロレンティーナとも親しいジギスヴァルトにお願いして僕の代わりにお見舞いの贈り物を用意して貰っていたんだ。……まさかその贈り物が花束だと知った時は驚いたけれど」
ヘルムフリートさんはそう説明してくれた後「ジギスヴァルトにしては気が利いているよね」と言って笑った。
「……む。それは贈り物には花束が良いと団員達が噂していたのを小耳に挟んでだな……」
ジルさんはヘルムフリートさんに笑われたことにムッとしている。
私は初めてジルさんのそんな表情を見ることが出来て嬉しく思う。
「あれ? もしかしてその団員さんって……」
「……ああ、ヴェルナー、だな」
ジルさんは騎士団の食堂で、ヴェルナーさんが女性への贈り物には花がいいと自慢気に言っていたのを聞いたのだそうだ。
その時お店のことは言っていなかったらしいので、ジルさんが私のお店に来たのは本当に偶然だったようだけれど。
「アンさんの花束をフロレンティーナがすごく気に入ってね。贈り物はアンさんの花束が良いって言うから、ずっとジギスヴァルトにお願いしていたんだよ」
ジルさんはヘルムフリートさんの代わりに毎週花を買いに来ていたのだそうだ。
「ああ、彼女は俺にも礼を伝えるように言っていた。いつもアンの花束に励まされていると」
「そんな……! こ、光栄です! 王女殿下に気に入っていただけるなんて……! 本当に嬉しいです!」
自分が作った花束が誰かの励みになるなんて、こんなに嬉しいことはない。私は嬉しさで思わず涙腺が緩みそうになってしまう。
(あれ? そう言えば花束の注文主がヘルムフリートさんということは……)
「……あの、じゃあヘルムフリートさんは王女殿下と、その……」
「うん。僕とフロレンティーナは将来を誓い合っているんだ。だけど婚約発表をしようとした矢先に彼女が発症してしまってね。何とか治療薬を完成させたいんだけど、なかなか難しくてさ」
ヘルムフリートさんは笑みを浮かべてそう言うけれど、私は彼のその表情の中に焦燥感や不安が見え隠れしていることに気付く。
(本当はヘルムフリートさんが自分で王女殿下に花束を贈りたいんだろうな……。なのに、それを我慢して薬の研究を……)
きっと寝る間も惜しんで頑張っているんだろうな、と想像していると、ヘルムフリートさんがチラッとジルさんを見てから、私に向かって言った。
「……だから今日は息抜きも兼ねてアンさんに会ってお礼が言いたかったんだ。花束が熟練の技だったから、てっきり年配の職人だと思っていたのに、実際会ってみるとこんなに若くて可愛い人で驚いたよ」
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