【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

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第29話 ②

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「いらっしゃい、アンちゃん!」

「楽しみに待っていたのよ!」

「ささ、早く中に入りなさいな。馬車の中は寒かったでしょう?」

 フィーネちゃんと話していると、お姉様方までわざわざお迎えに来てくれた。

「いえ、とても快適でしたよ。馬車まで用意していただき有難うございます!」

「お店からここまで歩かせられないからね~」

「今日は荷物があったので本当に助かりました。あ、これ約束していたプレッツヒェンです。お口に合えば良いのですが」

「まあ! これが噂のプレッツヒェンね! こんなにたくさん焼いてきてくれたの?!」

「嬉しい! お茶と一緒にいただきましょう!」

「良い香りね~! 早く食べたいわ~~!」

 わいわいと賑やかにお喋りしながら、お姉様方とテラスへ移動する。
 テラスにはすでにお茶会の用意がされていて、お菓子や軽食が並べられていた。

 席についたタイミングで使用人さんが私の前に、紅茶が入ったカップを置いてくれる。絶妙なタイミングはもはや職人技だと思う。

 そんな職人的な使用人さんが淹れてくれたお茶はとても香りが良くて、高級な茶葉だということが一口飲んだけですぐにわかった。

(うわぁ……! 美味しい……!)

 私が紅茶の美味しさに感動していると、使用人さんが自作のプレッツヒェンを綺麗にお皿に盛り付けて持ってきてくれた。
 素人が作ったプレッツヒェンと一緒に並べられた高級なお茶が、あまりにも釣り合わなさすぎて勿体なく思ってしまう。

「これですわ! わたくし、このプレッツヒェンが食べたかったのですわ!」

「あら、美味しそう! これはクラテールが入っているのかしら?」

「あ、はい! クラテールをいれたものを何種類か作ってみました」

「アンさんのプレッツヒェンは美味しいだけじゃありませんのよ! 食べたら元気になれますのよ!」

 フィーネちゃんは私のプレッツヒェンをかなりお気に召してくれているようだ。こんなに喜んで貰えるなら、朝早く起きて作った甲斐があるというものだ。

「これはテューミアーンが入っているんだけど、フィーネちゃんは初めてじゃないかな?」

「まあ! テューミアーンタイム入りですの?! これは絶対いただきますわ! 他には何が入っているんですの?」

「後は……ディールディルマヨーラムマジョラムフェンケルフェンネルかな。ローゼマリンもあるよ。」

 定番のプレーンの他に、今回は少しスパイシーなプレッツヒェンを作ってみた。きっと花束みたいにお姉様方の味の好みもバラバラだろうと考えたのだ。

「まあ! 甘さ控えめで香ばしいわね! すごくお茶に合うわ!」

「あらあら、これはフェンケルが入っているのかしら? エスニックな香りね! 美味しいじゃない!」

「この存在を隠していたヴェルナーの罪は重いわね」

「美味しい~~! 独り占めしたくなる気持ちはわかるけどね~~!」

「アンさん! テューミアーン入りもすごく美味しいですわ! テューミアーンのスッキリとした風味がたまりませんわ!」

 お姉様方にもプレッツヒェンは好評でとても嬉しい。
 でも流石にこればっかりも飽きるだろうから、違うお菓子にも挑戦してみたいけれど。

「……ねぇ、アンさん。聞きたいことがあるんだけど」

「はい? 何でしょう?」

「その髪留め、とても可愛いわね。どこのお店の商品かしら?」

「そうそう、わたしもずっと気になってたのよ」

「綺麗な髪留めね。珍しい意匠だけれど、何の花かしら?」

「あ、これはマイグレックヒェンっていう花です。白い蕾のような花が鈴なりに咲いてとても可愛いんですよ。この髪留めはいただきものなので、お店はわからないんです……すみません」

「まあ。初めて聞く花ね。何か意味があるのかしら?」

「花言葉はわからないけど、髪留めの贈り物は確か、<魔除け>とか<貴女を守りたい>って意味じゃなかったかしら?」

「あらあらまあまあ! アンちゃんってば、そんな良い人がいたの?」

「だって可愛いもの。恋人がいない方がおかしいわよ」

「……プレッツヒェンを独り占めした罰ね~。アイツも可哀想に……」

 お姉様方が何か勘違いしているようなので、私は慌てて訂正させてもらう。

「あ! いえ、これはお守りだと言っていました! 危害を加えようとする人から守ってくれるそうなので、魔除けの方の意味だと思います!」

 意匠がマイグレックヒェンなのも、王女様やヘルムフリートさん関係だろうし……。
 きっとジルさんにとってそんなに深い意味は無いと思う。
 


* * * * * *


❀名前解説❀
テューミアーン→タイム
マヨーラム→マジョラム
ディール→ディル
フェンケル→フェンネル
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