【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

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第29話 ①

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「ならば、俺の屋敷の温室を使えば良い。アンの温室のような術式はないが、ヘルムフリートに頼めば大丈夫だろう」

 王女様の婚儀の花が足りなくて困っていた私に、ジルさんが救いの手を差し伸べてくれた。

「ほ、本当ですか……? 本当に温室を使わせて貰えるんですか……?」

「うむ。どの花を植えれば良いのか指示してくれれば、屋敷の庭師たちが花の面倒を見てくれるだろう。ただ、アンにも時々来て貰う必要があるが」

「もちろんです! あ、植えるところは自分でやりますから、時々様子を見ていただけたら助かります!」

 花の面倒まで見て貰えると言う、とても有難い申し出に、ジルさんはもしかして神の御使いなんじゃないかと真剣に思う。

「……ああ、その場合、花に与える水はアンの魔法で作るのが良いと思う。大量に必要だと思うが、魔力は大丈夫だろうか」

「そうですね……この温室の10倍程の敷地に与えるぐらいなら大丈夫だと思いますけど……足りませんか?」

「……む。それは凄いな。いや、そこまで広くないから十分だろう」

 そうして、私は近日中にジルさんのお屋敷にお邪魔することになった。
 婚儀までまだ半年以上あるけれど、環境が変わるのでここの温室のように花が育つかわからない。だから早めに検証する必要があるのだ。

(ジルさんのお屋敷……。伯爵様のお屋敷で免疫が付いただろうし、きっと無様な姿は見せない、はず……!)

 平民の私がお貴族様のお屋敷を尋ねることになるなんて……。半年前の自分だったら思いもしなかっただろう。

「では、次の水の日はどうだろうか? もし良ければ食事も一緒にできたら嬉しいのだが」

「えっ?! しょ、食事ですかっ?! いや、お世話になるのは私の方なのに、そんな…………っ! あ、はい! 是非!」

 ジルさんの申し出に、流石に申し訳なくて断ろうとした私がくるっと手のひらを返したのは、またジルさんがしょんぼりしそうだったからだ。

「あ、でもすみません。次の水の日はすでに約束があって……。その次の水の日でも良いですか?」

 次の水の日はヴェルナーさんのお姉様方に、プレッツヒェンを作って持っていく約束をしているのだ。

「うむ、構わない。ではその日を楽しみにしている」

 ジルさんがにっこりと微笑んだ。その笑顔を更に引き立てるようなキラキラのオプション付きだ。背景の花畑との相乗効果が凄まじい。

「……っ、はい! こちらこそ有難うございます! 私も楽しみにしています!」

 クロイターティを飲み終えたジルさんは、今から騎士団の詰め所に戻るのだという。何やら騎士団を動員して解決しなければならない事案があるようだ。

 そんなに忙しいジルさんが、わざわざ私に会いに来てくれたことが申し訳ないと思いつつ、嬉しいと思っているのもまた事実で。

(私もジルさんに何かプレゼントを贈りたいな……)

 温室を使わせて貰うお礼に、手作りプレッツヒェンは流石に無理があるので、食べ物じゃない何かを贈りたい。

 ジルさんと次の約束をした私は、その日までに何を贈るか決めようと思いながら、ジルさんが住んでいるのはどんなお屋敷だろう、と暢気に考えていた。




 * * * * * *




 婚約式の準備で忙しくしている内に、あっという間に水の日になった。
 今日はディーステル伯爵家にお邪魔して、お姉様方とお茶をするのだ。

 私は朝から頑張って、約束していた大量のプレッツヒェンを用意した。
 プレーンのものからクラテールが入ったものを数種類焼いたので、飽きないとは思うけれど、やりすぎ感が半端ない。

(まあ、足りないよりは良いよね! 余ったら使用人さんたちにお裾分け出来るし!)

 私は自分にそう言い聞かせ、嫌がらせかと思われそうな量のプレッツヒェンを持って、ディーステル伯爵家へ向かう。
 ちなみにお姉様方が馬車を手配してくれたのか、私が外に出たら御者さんが待っていてくれたので、ご厚意に甘えさせて貰っている。

「アンさん! お待ちしておりましたわ!」

 ディーステル伯爵家に到着すると、フィーネちゃんが玄関前で出迎えてくれた。

「もしかして、ずっと待ってくれていたの?」

「えっ?! そ、そんなことありませんわ! 今来たばかりですわ!」

 フィーネちゃんの視線があちこちを彷徨っている。大人びていても、こういうところがとても可愛らしいと思う。

「外はまだまだ寒いし、風邪を引いちゃうから中で待っていて欲しいな。フィーネちゃんにはいつも元気でいて貰わないと。フィーネちゃんの笑顔にお客さんも癒やされているんだから」

「っ?! そ、そうですわ! 風邪を引いたらお手伝いできませんわ! わたくし気を付けますわ!」

 素直で可愛いフィーネちゃんは、お店のマスコット的存在だ。年配のお客さんからは当然のように可愛がられている。もちろん、ロルフさんもその一人だ。
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