59 / 70
第29話 ①
しおりを挟む
「ならば、俺の屋敷の温室を使えば良い。アンの温室のような術式はないが、ヘルムフリートに頼めば大丈夫だろう」
王女様の婚儀の花が足りなくて困っていた私に、ジルさんが救いの手を差し伸べてくれた。
「ほ、本当ですか……? 本当に温室を使わせて貰えるんですか……?」
「うむ。どの花を植えれば良いのか指示してくれれば、屋敷の庭師たちが花の面倒を見てくれるだろう。ただ、アンにも時々来て貰う必要があるが」
「もちろんです! あ、植えるところは自分でやりますから、時々様子を見ていただけたら助かります!」
花の面倒まで見て貰えると言う、とても有難い申し出に、ジルさんはもしかして神の御使いなんじゃないかと真剣に思う。
「……ああ、その場合、花に与える水はアンの魔法で作るのが良いと思う。大量に必要だと思うが、魔力は大丈夫だろうか」
「そうですね……この温室の10倍程の敷地に与えるぐらいなら大丈夫だと思いますけど……足りませんか?」
「……む。それは凄いな。いや、そこまで広くないから十分だろう」
そうして、私は近日中にジルさんのお屋敷にお邪魔することになった。
婚儀までまだ半年以上あるけれど、環境が変わるのでここの温室のように花が育つかわからない。だから早めに検証する必要があるのだ。
(ジルさんのお屋敷……。伯爵様のお屋敷で免疫が付いただろうし、きっと無様な姿は見せない、はず……!)
平民の私がお貴族様のお屋敷を尋ねることになるなんて……。半年前の自分だったら思いもしなかっただろう。
「では、次の水の日はどうだろうか? もし良ければ食事も一緒にできたら嬉しいのだが」
「えっ?! しょ、食事ですかっ?! いや、お世話になるのは私の方なのに、そんな…………っ! あ、はい! 是非!」
ジルさんの申し出に、流石に申し訳なくて断ろうとした私がくるっと手のひらを返したのは、またジルさんがしょんぼりしそうだったからだ。
「あ、でもすみません。次の水の日はすでに約束があって……。その次の水の日でも良いですか?」
次の水の日はヴェルナーさんのお姉様方に、プレッツヒェンを作って持っていく約束をしているのだ。
「うむ、構わない。ではその日を楽しみにしている」
ジルさんがにっこりと微笑んだ。その笑顔を更に引き立てるようなキラキラのオプション付きだ。背景の花畑との相乗効果が凄まじい。
「……っ、はい! こちらこそ有難うございます! 私も楽しみにしています!」
クロイターティを飲み終えたジルさんは、今から騎士団の詰め所に戻るのだという。何やら騎士団を動員して解決しなければならない事案があるようだ。
そんなに忙しいジルさんが、わざわざ私に会いに来てくれたことが申し訳ないと思いつつ、嬉しいと思っているのもまた事実で。
(私もジルさんに何かプレゼントを贈りたいな……)
温室を使わせて貰うお礼に、手作りプレッツヒェンは流石に無理があるので、食べ物じゃない何かを贈りたい。
ジルさんと次の約束をした私は、その日までに何を贈るか決めようと思いながら、ジルさんが住んでいるのはどんなお屋敷だろう、と暢気に考えていた。
* * * * * *
婚約式の準備で忙しくしている内に、あっという間に水の日になった。
今日はディーステル伯爵家にお邪魔して、お姉様方とお茶をするのだ。
私は朝から頑張って、約束していた大量のプレッツヒェンを用意した。
プレーンのものからクラテールが入ったものを数種類焼いたので、飽きないとは思うけれど、やりすぎ感が半端ない。
(まあ、足りないよりは良いよね! 余ったら使用人さんたちにお裾分け出来るし!)
私は自分にそう言い聞かせ、嫌がらせかと思われそうな量のプレッツヒェンを持って、ディーステル伯爵家へ向かう。
ちなみにお姉様方が馬車を手配してくれたのか、私が外に出たら御者さんが待っていてくれたので、ご厚意に甘えさせて貰っている。
「アンさん! お待ちしておりましたわ!」
ディーステル伯爵家に到着すると、フィーネちゃんが玄関前で出迎えてくれた。
「もしかして、ずっと待ってくれていたの?」
「えっ?! そ、そんなことありませんわ! 今来たばかりですわ!」
フィーネちゃんの視線があちこちを彷徨っている。大人びていても、こういうところがとても可愛らしいと思う。
「外はまだまだ寒いし、風邪を引いちゃうから中で待っていて欲しいな。フィーネちゃんにはいつも元気でいて貰わないと。フィーネちゃんの笑顔にお客さんも癒やされているんだから」
「っ?! そ、そうですわ! 風邪を引いたらお手伝いできませんわ! わたくし気を付けますわ!」
素直で可愛いフィーネちゃんは、お店のマスコット的存在だ。年配のお客さんからは当然のように可愛がられている。もちろん、ロルフさんもその一人だ。
王女様の婚儀の花が足りなくて困っていた私に、ジルさんが救いの手を差し伸べてくれた。
「ほ、本当ですか……? 本当に温室を使わせて貰えるんですか……?」
「うむ。どの花を植えれば良いのか指示してくれれば、屋敷の庭師たちが花の面倒を見てくれるだろう。ただ、アンにも時々来て貰う必要があるが」
「もちろんです! あ、植えるところは自分でやりますから、時々様子を見ていただけたら助かります!」
花の面倒まで見て貰えると言う、とても有難い申し出に、ジルさんはもしかして神の御使いなんじゃないかと真剣に思う。
「……ああ、その場合、花に与える水はアンの魔法で作るのが良いと思う。大量に必要だと思うが、魔力は大丈夫だろうか」
「そうですね……この温室の10倍程の敷地に与えるぐらいなら大丈夫だと思いますけど……足りませんか?」
「……む。それは凄いな。いや、そこまで広くないから十分だろう」
そうして、私は近日中にジルさんのお屋敷にお邪魔することになった。
婚儀までまだ半年以上あるけれど、環境が変わるのでここの温室のように花が育つかわからない。だから早めに検証する必要があるのだ。
(ジルさんのお屋敷……。伯爵様のお屋敷で免疫が付いただろうし、きっと無様な姿は見せない、はず……!)
平民の私がお貴族様のお屋敷を尋ねることになるなんて……。半年前の自分だったら思いもしなかっただろう。
「では、次の水の日はどうだろうか? もし良ければ食事も一緒にできたら嬉しいのだが」
「えっ?! しょ、食事ですかっ?! いや、お世話になるのは私の方なのに、そんな…………っ! あ、はい! 是非!」
ジルさんの申し出に、流石に申し訳なくて断ろうとした私がくるっと手のひらを返したのは、またジルさんがしょんぼりしそうだったからだ。
「あ、でもすみません。次の水の日はすでに約束があって……。その次の水の日でも良いですか?」
次の水の日はヴェルナーさんのお姉様方に、プレッツヒェンを作って持っていく約束をしているのだ。
「うむ、構わない。ではその日を楽しみにしている」
ジルさんがにっこりと微笑んだ。その笑顔を更に引き立てるようなキラキラのオプション付きだ。背景の花畑との相乗効果が凄まじい。
「……っ、はい! こちらこそ有難うございます! 私も楽しみにしています!」
クロイターティを飲み終えたジルさんは、今から騎士団の詰め所に戻るのだという。何やら騎士団を動員して解決しなければならない事案があるようだ。
そんなに忙しいジルさんが、わざわざ私に会いに来てくれたことが申し訳ないと思いつつ、嬉しいと思っているのもまた事実で。
(私もジルさんに何かプレゼントを贈りたいな……)
温室を使わせて貰うお礼に、手作りプレッツヒェンは流石に無理があるので、食べ物じゃない何かを贈りたい。
ジルさんと次の約束をした私は、その日までに何を贈るか決めようと思いながら、ジルさんが住んでいるのはどんなお屋敷だろう、と暢気に考えていた。
* * * * * *
婚約式の準備で忙しくしている内に、あっという間に水の日になった。
今日はディーステル伯爵家にお邪魔して、お姉様方とお茶をするのだ。
私は朝から頑張って、約束していた大量のプレッツヒェンを用意した。
プレーンのものからクラテールが入ったものを数種類焼いたので、飽きないとは思うけれど、やりすぎ感が半端ない。
(まあ、足りないよりは良いよね! 余ったら使用人さんたちにお裾分け出来るし!)
私は自分にそう言い聞かせ、嫌がらせかと思われそうな量のプレッツヒェンを持って、ディーステル伯爵家へ向かう。
ちなみにお姉様方が馬車を手配してくれたのか、私が外に出たら御者さんが待っていてくれたので、ご厚意に甘えさせて貰っている。
「アンさん! お待ちしておりましたわ!」
ディーステル伯爵家に到着すると、フィーネちゃんが玄関前で出迎えてくれた。
「もしかして、ずっと待ってくれていたの?」
「えっ?! そ、そんなことありませんわ! 今来たばかりですわ!」
フィーネちゃんの視線があちこちを彷徨っている。大人びていても、こういうところがとても可愛らしいと思う。
「外はまだまだ寒いし、風邪を引いちゃうから中で待っていて欲しいな。フィーネちゃんにはいつも元気でいて貰わないと。フィーネちゃんの笑顔にお客さんも癒やされているんだから」
「っ?! そ、そうですわ! 風邪を引いたらお手伝いできませんわ! わたくし気を付けますわ!」
素直で可愛いフィーネちゃんは、お店のマスコット的存在だ。年配のお客さんからは当然のように可愛がられている。もちろん、ロルフさんもその一人だ。
30
あなたにおすすめの小説
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!
向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?
向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。
というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。
私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。
だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。
戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる