治癒魔法で恋人の傷を治したら、「化け物」と呼ばれ故郷から追放されてしまいました

山科ひさき

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五話

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「と、いうわけだ。早くこの町から出て行け。化け物を少しの間でもこの町に置いていくわけにはいかん。お前には一刻の猶予も与えられない」

 そう言われてもあまりのことでうまく状況が飲み込めず、しばらく呆然として固まっていた。だが、その様子を見て業を煮やしたのか、「早く出て行け!」という怒鳴り声がかけられた。それと同時に、小石が私の少し前に飛んできてコロコロと転がった。

──石を、投げられたんだ。

 これまで大変なことはあってもそれなりに平和に生きてきた私は、人に直接的な悪意を向けられるということに全く慣れておらず、ショックを受けた。
 だがそのショックで固まっている間もなく、またその投石をきっかけに次々と別のところから石が飛んできて、私は何も持たない薄着の状態で、追われるようにその場を後にした。すぐに逃げたもののすべての石を避けられたわけでもなく、直撃した数カ所の部分はひどく痛んだ。おそらくアザになっているか、血が出ているだろう。

 きっと、この傷は治せるのかもしれない。私が手に入れた謎の力で。だけど、この町にはもう二度と戻ってこれないだろう。
 寒さに耐えながら町の外まで歩き、そこで私は途方に暮れた。
 一体、これからどうすればいい?

 隣の町までは、馬で半日ほどかかる。私の足で……しかもこの気温、この服装でたどり着くことは不可能だろう。
 どこに向かえばいいのか。何も思いつかなくてもその場に留まっているわけには行かずあてもなく歩いていると、ハドリーの顔が脳裏に浮かんだ。彼は一体どうしているだろう。

 私が糾弾され石を投げられたあの場に、彼はいなかった。だけど彼の仲間の姿は後ろの方に見えた気がしたし、彼だけが私の境遇を知らないなどということは不自然だ。おそらく、私が町から追い出されることをわかっていて容認したんだろう。ハドリーも。
 どういう気持ちだったのかはわからない。だけど彼の傷を治した直後には私を気持ち悪がるような言動はなかったのだし、周りの人々の恐怖や怒りの勢いに逆らえなかったとか、そんなところではないだろうか。彼に怖がられたり気持ち悪がられたりしたと思うと耐えられそうになかったので、実際のところはわからないけれど、そう信じたかった。

 そんなことをぼんやり考えながら、いつしか私の足は昔一度訪れた、星が綺麗に見える丘に向かっていた。
 誕生日だった彼が、「お祝いに自分の願いを聞いてほしい」と言って私を頷かせ、連れて行ってくれた美しい場所。あの時はまだ恋人という関係ではなかったけれど、確かに想いあっているのを感じていた。そしてあの場所で彼からの告白を受けた私は、彼と付き合うと決意したのだ。

 生き延びてたどり着くわずかな可能性に賭けて、隣町に向かって歩くという選択肢もあったかもしれない。けれど、そのような希望はとても持てなかった。というより、ハドリーがいない場所で一人生きていく未来は、私にとって希望ではありえなかった。
 そんな未来よりも、最後の時を彼との幸せな思い出のある場所で過ごすことの方が、私にとっては望ましかった。
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