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番外編 シンデレラの忘れ物
失恋の翌朝
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本編『平凡地味子ですが「魔性の女」と呼ばれています。』64話で七海に失恋した信のその後です。
※事後の描写がありますので、苦手な方は閲覧に注意願います。
※番外編ですので、こちらを読まなくても続きを読むのにそれほど支障はありませんが、読んだ方がより楽しめると思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
目を覚ました時、信は自分が家とは違うベッドで寝ているのに気が付いた。
体を起こそうとして―――締め付けられるような頭痛に呻く。
「っつう……!」
思わず頭を抱えてし呻いてしまう。
明らかに飲み過ぎによる脱水症状だった。彼は水を求めてベットから這い出ようとして―――気が付いた。
真っ裸だった。
そして見覚えの無いホテルの部屋。
いや、日の光で見慣れないように見えるだけで―――うっすらと記憶には残っている。
(そうだ。俺は、昨日飲み過ぎて―――このホテルに泊まったんだ。)
昨晩の記憶の断片が信の脳裏をかすめる。
その記憶の生々しさに、彼の顔から血の気が引いた。
(まさか。そんな)
俺は恐る恐るベット脇のゴミ箱を覗いた。
そこには、予想した通りと言うか、夢であって欲しいと言うか―――記憶を裏付ける遺留品がしっかりと残されていた。
痛む頭を押さえつつ、とりあえず水を飲む事にする。
それから殺人を今犯したばかりの加害者のように散らばった衣服をかき集めた信は、自分の身なりを整え、犯した犯行の形跡を丹念に辿るように部屋の隅から隅まで探索したが……被害者を語る証拠の品は全く残されてはいなかった―――いや、正確には一つだけ見つかった。
シーツとシーツの間に置き去られていた―――ガーターベルトで止めるタイプのストッキング。
昨日、信がその手で外したものに他ならなかった。
** ** **
これ以上探るものは無いと言う所まで隅々まで部屋の中を検めた後、信は諦めてチェックアウトのためフロントへ向かった。
もしやと思い昨日チェックインした時のサインを見せて貰ったが、見慣れた筆跡で自分の名前が書かれてあるだけだ。けれど―――既に宿泊費は精算された後だった。
華やかな香りとキリリとした涼しい目元が記憶に残っている。
相手の女性は―――その存在を裏付ける薄いストッキングだけを残して、空蝉のように消えてしまったのだった。
** ** **
振られたその日、五歳年下の彼女の前では余裕を崩さなかった信だが、行きつけのバーで煽る様に酒を飲み―――ドロドロに酔っぱらってしまった。
すると長い髪の女が近寄って来た。彼女は親しい知合いでも無いのに、信が行くところ行くところに現れる……所謂ストーカーだった。けれども常であれば彼女は一定の距離を保ってこちらの様子を窺っているだけだった。―――信が連れ歩いていた『五歳年下の彼女』に話し掛けて来た時を除いて。
跳ねのけようとするが、フラフラで上手く拒絶できない。
失恋の痛みで疲れた心が軋む。苛々しつつ抵抗していると、栗色の髪の女性が現れてスッとストーカーを引き寄せた。そして彼女が何事かを話し掛けると―――ビクリと肩を震わせ恐ろしい物を見るような目でストーカーは相手を凝視し固まった。
そして数秒後、長い髪の女は逃げるようにはそそくさと店の外へ飛び出して行ったのだった。
「大丈夫ですか……?」
優しく声を掛けられて、視界が歪む。
助かったと言う安堵の気持ちと、落ち着いた声音が胸にジックリと拡がって行く。
その女性は、キリリとした……ともすれば冷徹に見える目元を緩めて背中を擦ってくれる。どうやら自分が彼女に助けられた事は分かった。
その途端、張り詰めていた気持ちが緩むと同時に信の涙腺も決壊してしまったのだった。
** ** **
記憶を辿るうちに愕然とした。
つまり自分は酩酊してストーカーに絡まれている所を助けられ、泣き出した所を慰められ、失恋の愚痴をぶちまけ、その恩人をホテルに連れ込み致してしまった後、あまつさえホテル代を支払わせたのだ。
いくら失恋したその日だと言え―――まともな成人男性の所業では無い。
そして彼女は名前さえも名乗らず連絡先も渡さず、綺麗さっぱり消えてしまったのだ。
まるでシンデレラのガラスの靴みたいに、その足に纏わせていた『忘れ物』だけを残して。
※事後の描写がありますので、苦手な方は閲覧に注意願います。
※番外編ですので、こちらを読まなくても続きを読むのにそれほど支障はありませんが、読んだ方がより楽しめると思います。
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目を覚ました時、信は自分が家とは違うベッドで寝ているのに気が付いた。
体を起こそうとして―――締め付けられるような頭痛に呻く。
「っつう……!」
思わず頭を抱えてし呻いてしまう。
明らかに飲み過ぎによる脱水症状だった。彼は水を求めてベットから這い出ようとして―――気が付いた。
真っ裸だった。
そして見覚えの無いホテルの部屋。
いや、日の光で見慣れないように見えるだけで―――うっすらと記憶には残っている。
(そうだ。俺は、昨日飲み過ぎて―――このホテルに泊まったんだ。)
昨晩の記憶の断片が信の脳裏をかすめる。
その記憶の生々しさに、彼の顔から血の気が引いた。
(まさか。そんな)
俺は恐る恐るベット脇のゴミ箱を覗いた。
そこには、予想した通りと言うか、夢であって欲しいと言うか―――記憶を裏付ける遺留品がしっかりと残されていた。
痛む頭を押さえつつ、とりあえず水を飲む事にする。
それから殺人を今犯したばかりの加害者のように散らばった衣服をかき集めた信は、自分の身なりを整え、犯した犯行の形跡を丹念に辿るように部屋の隅から隅まで探索したが……被害者を語る証拠の品は全く残されてはいなかった―――いや、正確には一つだけ見つかった。
シーツとシーツの間に置き去られていた―――ガーターベルトで止めるタイプのストッキング。
昨日、信がその手で外したものに他ならなかった。
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これ以上探るものは無いと言う所まで隅々まで部屋の中を検めた後、信は諦めてチェックアウトのためフロントへ向かった。
もしやと思い昨日チェックインした時のサインを見せて貰ったが、見慣れた筆跡で自分の名前が書かれてあるだけだ。けれど―――既に宿泊費は精算された後だった。
華やかな香りとキリリとした涼しい目元が記憶に残っている。
相手の女性は―――その存在を裏付ける薄いストッキングだけを残して、空蝉のように消えてしまったのだった。
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振られたその日、五歳年下の彼女の前では余裕を崩さなかった信だが、行きつけのバーで煽る様に酒を飲み―――ドロドロに酔っぱらってしまった。
すると長い髪の女が近寄って来た。彼女は親しい知合いでも無いのに、信が行くところ行くところに現れる……所謂ストーカーだった。けれども常であれば彼女は一定の距離を保ってこちらの様子を窺っているだけだった。―――信が連れ歩いていた『五歳年下の彼女』に話し掛けて来た時を除いて。
跳ねのけようとするが、フラフラで上手く拒絶できない。
失恋の痛みで疲れた心が軋む。苛々しつつ抵抗していると、栗色の髪の女性が現れてスッとストーカーを引き寄せた。そして彼女が何事かを話し掛けると―――ビクリと肩を震わせ恐ろしい物を見るような目でストーカーは相手を凝視し固まった。
そして数秒後、長い髪の女は逃げるようにはそそくさと店の外へ飛び出して行ったのだった。
「大丈夫ですか……?」
優しく声を掛けられて、視界が歪む。
助かったと言う安堵の気持ちと、落ち着いた声音が胸にジックリと拡がって行く。
その女性は、キリリとした……ともすれば冷徹に見える目元を緩めて背中を擦ってくれる。どうやら自分が彼女に助けられた事は分かった。
その途端、張り詰めていた気持ちが緩むと同時に信の涙腺も決壊してしまったのだった。
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記憶を辿るうちに愕然とした。
つまり自分は酩酊してストーカーに絡まれている所を助けられ、泣き出した所を慰められ、失恋の愚痴をぶちまけ、その恩人をホテルに連れ込み致してしまった後、あまつさえホテル代を支払わせたのだ。
いくら失恋したその日だと言え―――まともな成人男性の所業では無い。
そして彼女は名前さえも名乗らず連絡先も渡さず、綺麗さっぱり消えてしまったのだ。
まるでシンデレラのガラスの靴みたいに、その足に纏わせていた『忘れ物』だけを残して。
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