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後日談 黛家の妊婦さん1
(131)同期会で
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七海が会社の同期会に出席します。
オチ・ヤマ無し。ただおしゃべりしているだけの小話です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
同じ年に入社した七海の同期で、現在本社に配属されているのは彼女を含め六人。入社当時は配属が違う事もあり個々の付き合いはあったものの、同期全員の交流となると割と薄かった。が、一年ほど前から営業課の小池が音頭を取って定期的に集まるようになったのだ。
七海の同期は性格も出身も様々だが、男女関係なく仲が良い。かと言って近くなり過ぎると言う事もない。偶に飲み会を楽しむものの男女間の恋愛トラブルも無く、仕事絡みの諍いも無い。他の世代からは、尖った人材のいない『谷間世代』とか『ゆとり世代』などと言われよく揶揄われているが、七海にとっては居心地の良い場所となりつつある。
「江島!今週か来週、時間ある?」
小池が領収書を担当者に渡した後、七海の席にやって来てこう尋ねた。
「ええと、同期会?」
「うん。あ、勿論ソフトドリンク充実してるトコ探しとく」
既に七海が妊娠している事は伝わっているようだ。細かい気配りが営業らしい、と七海は感心した。七海もちょうど産休前に皆と話をしたいと考えていた所なので、黛が夜勤の日に合わせて参加する事にした。
「今更だけど―――」
ビールジョッキを手にした小池の音頭に合わせ、七海以外の皆がグラスを合わせる合図で言った。
「「「「結婚おめでとう!」」」」
乾杯の合図かと思いきや、突然の『おめでとう』に七海の口は「乾杯」の『か』の字で固まってしまった。
「そしてご懐妊おめでとう!」
小池の明け透けな台詞に、つい先ほどまで笑顔だった美代子と樹里、二人の女性陣が一転して白けた視線を放った。
「小池~声が大きい」
「周りに聞こえるでしょ~」
「えー!何で?おめでたい事だから別にいいじゃん。お前達だって大きい声で『結婚おめでとう』って言ったじゃない」
膨れる小池を、残念そうに美代子が見る。
「それはいいのよ、でもいくら『おめでたい』と言ったって赤ちゃんの事まで居酒屋で大声出さなくても良いでしょ?」
「そーそー、ホラ!七海が吃驚して固まっているじゃない」
「あ、うん……」
美代子と樹里に水を向けられたので、夢から醒めたような気持ちで七海は瞬きを繰り返した。確かに小池の掛け声は恥ずかしいが……固まっていたのは、最初の祝福に驚いたからだ。
そう、七海はやっと気付いたのだ。今回の同期会は結婚後初めて参加するものだったのだと。結婚前後はプライベートが色々と忙しくその後は社全体が忙しい時期で、それが少し落ち着いたと思ったら妊娠が発覚して―――と、これまで同期会に参加する機会をずっと逸していたのだった。
小池は言い辛そうにしている七海を見ると、頭を掻いた。
「あー、スマン」
「えっと、気持ちは嬉しいよ?ちょっと恥ずかしかったけど……」
改めて思い出すと、確かに恥ずかしい。何となく周囲から視線を感じて七海は頬を染めた。
するとその様子を黙って見守っていた残りの男性陣、木本と河和田が口を開いた。
「小池……!」
「アレ」
小池はハッとして椅子に置いてある紙袋から包装された箱を取り出した。
「江島、とにかく色々とおめでとう!これ、俺達からお祝い」
「え」
バッと目の前に差し出されたその箱を、七海は少したじろぎつつ受け取った。
「あ、ありがとう……」
両手で受け取ってから、顔を上げる。すると皆、ニコニコとこちらに注目していた。
「開けて良い?」
「うん」
「どーぞ、どーぞ」
百貨店の包装を破いてしまわないよう慎重に開くと、現れたのはカタログギフトだった。送られたカタログから好きな物を選んでハガキを送ると、その商品が届くと言うアレだ。
「体験……ギフト?」
「そう、モノじゃなくて体験を選べるの」
美代子が身を乗り出してカタログの目次を示した。
「赤ちゃんと一緒にヨガ体験をするとか、赤ちゃんと両親で都内はとバスツアー。あとは……これもいいよね、疲れたお母さんの丸ごとエステ体験」
「うわぁ、こんなのあるんだ」
「面白いでしょ。これなら他の人の贈り物と被る事もないかなって。被っても困らないし」
「ありがとう……嬉しい」
思わずジンとしてしまう。まさかこんな風にお祝いを貰えると思っていなかったので、七海は驚きと喜びがないまぜになったような感覚で、胸が一杯になってしまった。
「俺はオリジナル今治タオル押しだったんだけど」
木本がそう言ってスマホでサイトを開く。カラフルな大きなバスタオルの上にコロンと赤ん坊が収まっている。その様子はまるで一幅の絵画の一部みたいだ。
「可愛い!」
「これも良かったよね」
「私は美味しい物ギフトと迷ったんだよね、七海って意外と食いしん坊だから」
美代子がそう言うと、隣に並んで座っている樹里と河和田が同意を示して頷いた。
「確かにそうね」
「江島は飲み気より食い気だよな」
否定できない指摘に、思わずエヘラと笑って誤魔化すしかない。しかしとにかく皆の心づくしは嬉しかった。
お祝いの品さえ渡してしまえば、と後はいつも通りの飲み会になる。社内の出来事や世間話から趣味の話……などなど取り留めのない話をして盛り上がった。だいたい小池と美代子が口火を切り、樹里や木本が合の手を入れ、河和田がボソリとツッコミを入れる。七海も偶に口を開くがどちらかと言うと聞き役になる事が多い。社内の噂話に話題が移って暫く経った頃、小池の矛先が再び七海へと向いた。
「そう言えば、江島のあの……綺麗なお姑さん、どうしてる?」
小池は年上美女に弱いらしく、以前会社のロビーで七海を待っていた玲子を見て真っ赤になっていた。翌日も根ほり葉ほり彼女について尋ねるくらい気にしていたのだ。
「えっと、今はアメリカに住んでるよ」
「え!海外にいるのか?もしかして旦那さんの仕事の関係?」
「ううん、本人のお仕事で。お義父さんは私達と同居してるよ」
すると樹里が諭すように小池の肩を叩いた。
「小池、あの美しい女性は実は……有名なジャズピアニストなのよ」
「ええ!」
「そうなの?!」
「マジか」
「へー」
勿体ぶった口調の樹里に対して、小池は目を見開いて驚き、美代子、木本も驚きの声を上げた。いつも動じない河和田も感心したように七海を見た。七海からは特に触れた事は無いが、以前同じように待合わせしていた時に社長や秘書の高畑さん達、ジャズ好きの面々に見つかってしまった事がある。樹里はその噂を聞き付けたのだろうか。
「同じ秘書課の高畑さんが言ってたの、ロビーで見つけた時は二度見したって言ってた」
「へー……そういや一般人離れした雰囲気あったもんな」
「うん、あったあった」
木本と美代子が同意すると、小池が驚いた顔のまま七海を振り向いた。
「江島……スゴイとこに嫁に行ったんだな。おまけにダンナは医者じゃなかったっけ?」
「あ、うん。まだ研修医だけど」
旦那だけじゃなく、義父も医者、しかもこちらはかなり有名な整形外科医なのだが……あまり話題の中心になる事に慣れていない七海は曖昧に頷いた。
「こんな身近にそんな有名人がいるとはねー」
と美代子が感慨深げに言いつつ、思い出したように指摘した。
「有名人と言えば……河和田の親戚にもオリンピック選手いたよね?」
「え!」
「本当?」
すると河和田は表情を変えずに返答した。
「ああ……従兄。スノボでソチに行ったよ。でも入賞できなかったからニュースに全然でなかったけど」
「でもすげー」
「そうか?有名って言ったら木本の妹の方が有名だろ」
河和田が木本に話題を振った。
「え?木本の妹さん?」
「なんかテレビで踊ってた」
すると苦笑しながら、木本が説明した。
「あー……最近、ね。『みかんぐみ』っていうアイドルユニットのオーディションに受かって、ボチボチテレビに出るようになったかな」
「それ知ってる!えー……でも中学生とかだったような」
「十二歳、離れてるんだ」
「わーじゃあ、可愛くてしょうがないよね。写真ないの?」
木本がスマホの写真を見せると皆、覗き込んで口々に「可愛い!」「これが木本の妹……信じられん」などと勝手な意見を述べる。妹を褒められて照れながらも、居心地が悪くなったように木本が話題を他へと振った。
「や、でも有名って程じゃないよ。有名と言えば、やっぱ手塚のにーちゃんだよな」
「美代子の?お兄ちゃん?」
話を振られた美代子は何だか苦い顔をしている。
「ダークホースと名高い手塚騎手!」
「え!手塚騎手って、あの……?」
「へー」
ざわめく男性陣に対して、七海と樹里は顔を見合わせた。
「きしゅ?」
諦めたように溜息を吐いた美代子が説明してくれた。
「競馬の『騎手』よ」
「えー!競馬……!」
「全然知らなかった」
「恥ずかしいモン」
美代子は口を尖らせた。美代子の兄は勝つときは大きいが二重丸の付いた確実と言われた馬で大コケする事もある……『ダークホース』『穴馬』とスポーツ新聞では評される一部マニアが支持する人気騎手なのだ。
こうして身内暴露が続き、樹里の祖父が有名な書道家で日本酒のラベルや大河ドラマのタイトルを書いている……などと言う事実も発覚した。
一通り話が盛り上がった後、ずっと冷静な態度を貫いていた河和田がボソリと呟いた。
「まあ、有名人が身内にいるったって……当人はいたって普通の、新米会社員だって事実は変わらないがな」
するとシン……と、一瞬沈黙が走って皆目を見交わした。
「確かに」
「そうだよな」
「うん、私達が『ゆとり』だの『谷間』だの言われているのは変わらないよね」
自嘲気味に頷く周囲を見渡し、一人首をかしげる小池が呆けた表情で尋ねた。
「えー?ナニ『谷間』って」
「小池君……知らないの?」
「何が?」
七海が聞き返すと、更に首をひねる。すると美代子がズバリと彼の疑問に答えた。
「営業なんて耳が早そうなトコにいるのに知らないんだ?私達、尖った人材のいない『ゆとり世代』とか『谷間世代』って言われているんだよ。……つまりこの年の人材は『不作』って意味なの」
小池が目をカッと見開き、驚いた表情を見せた。
「ええ!」
「小池が筆頭株だよな」
木本が嗤って、河和田が無言で頷いた。
「な、何で?!」
軽く放った冗談に激しく動揺する小池に、思わず皆ドッと笑い出す。
こうして尽きない下らない話で終始笑って、のほほんとした同期会は幕を閉じたのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
七海の同期(の身内)の紹介に終始した小話でした。
ちなみに彼女は会社では旧姓を使用しています。
お読みいただき、誠にありがとうございました。
オチ・ヤマ無し。ただおしゃべりしているだけの小話です。
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同じ年に入社した七海の同期で、現在本社に配属されているのは彼女を含め六人。入社当時は配属が違う事もあり個々の付き合いはあったものの、同期全員の交流となると割と薄かった。が、一年ほど前から営業課の小池が音頭を取って定期的に集まるようになったのだ。
七海の同期は性格も出身も様々だが、男女関係なく仲が良い。かと言って近くなり過ぎると言う事もない。偶に飲み会を楽しむものの男女間の恋愛トラブルも無く、仕事絡みの諍いも無い。他の世代からは、尖った人材のいない『谷間世代』とか『ゆとり世代』などと言われよく揶揄われているが、七海にとっては居心地の良い場所となりつつある。
「江島!今週か来週、時間ある?」
小池が領収書を担当者に渡した後、七海の席にやって来てこう尋ねた。
「ええと、同期会?」
「うん。あ、勿論ソフトドリンク充実してるトコ探しとく」
既に七海が妊娠している事は伝わっているようだ。細かい気配りが営業らしい、と七海は感心した。七海もちょうど産休前に皆と話をしたいと考えていた所なので、黛が夜勤の日に合わせて参加する事にした。
「今更だけど―――」
ビールジョッキを手にした小池の音頭に合わせ、七海以外の皆がグラスを合わせる合図で言った。
「「「「結婚おめでとう!」」」」
乾杯の合図かと思いきや、突然の『おめでとう』に七海の口は「乾杯」の『か』の字で固まってしまった。
「そしてご懐妊おめでとう!」
小池の明け透けな台詞に、つい先ほどまで笑顔だった美代子と樹里、二人の女性陣が一転して白けた視線を放った。
「小池~声が大きい」
「周りに聞こえるでしょ~」
「えー!何で?おめでたい事だから別にいいじゃん。お前達だって大きい声で『結婚おめでとう』って言ったじゃない」
膨れる小池を、残念そうに美代子が見る。
「それはいいのよ、でもいくら『おめでたい』と言ったって赤ちゃんの事まで居酒屋で大声出さなくても良いでしょ?」
「そーそー、ホラ!七海が吃驚して固まっているじゃない」
「あ、うん……」
美代子と樹里に水を向けられたので、夢から醒めたような気持ちで七海は瞬きを繰り返した。確かに小池の掛け声は恥ずかしいが……固まっていたのは、最初の祝福に驚いたからだ。
そう、七海はやっと気付いたのだ。今回の同期会は結婚後初めて参加するものだったのだと。結婚前後はプライベートが色々と忙しくその後は社全体が忙しい時期で、それが少し落ち着いたと思ったら妊娠が発覚して―――と、これまで同期会に参加する機会をずっと逸していたのだった。
小池は言い辛そうにしている七海を見ると、頭を掻いた。
「あー、スマン」
「えっと、気持ちは嬉しいよ?ちょっと恥ずかしかったけど……」
改めて思い出すと、確かに恥ずかしい。何となく周囲から視線を感じて七海は頬を染めた。
するとその様子を黙って見守っていた残りの男性陣、木本と河和田が口を開いた。
「小池……!」
「アレ」
小池はハッとして椅子に置いてある紙袋から包装された箱を取り出した。
「江島、とにかく色々とおめでとう!これ、俺達からお祝い」
「え」
バッと目の前に差し出されたその箱を、七海は少したじろぎつつ受け取った。
「あ、ありがとう……」
両手で受け取ってから、顔を上げる。すると皆、ニコニコとこちらに注目していた。
「開けて良い?」
「うん」
「どーぞ、どーぞ」
百貨店の包装を破いてしまわないよう慎重に開くと、現れたのはカタログギフトだった。送られたカタログから好きな物を選んでハガキを送ると、その商品が届くと言うアレだ。
「体験……ギフト?」
「そう、モノじゃなくて体験を選べるの」
美代子が身を乗り出してカタログの目次を示した。
「赤ちゃんと一緒にヨガ体験をするとか、赤ちゃんと両親で都内はとバスツアー。あとは……これもいいよね、疲れたお母さんの丸ごとエステ体験」
「うわぁ、こんなのあるんだ」
「面白いでしょ。これなら他の人の贈り物と被る事もないかなって。被っても困らないし」
「ありがとう……嬉しい」
思わずジンとしてしまう。まさかこんな風にお祝いを貰えると思っていなかったので、七海は驚きと喜びがないまぜになったような感覚で、胸が一杯になってしまった。
「俺はオリジナル今治タオル押しだったんだけど」
木本がそう言ってスマホでサイトを開く。カラフルな大きなバスタオルの上にコロンと赤ん坊が収まっている。その様子はまるで一幅の絵画の一部みたいだ。
「可愛い!」
「これも良かったよね」
「私は美味しい物ギフトと迷ったんだよね、七海って意外と食いしん坊だから」
美代子がそう言うと、隣に並んで座っている樹里と河和田が同意を示して頷いた。
「確かにそうね」
「江島は飲み気より食い気だよな」
否定できない指摘に、思わずエヘラと笑って誤魔化すしかない。しかしとにかく皆の心づくしは嬉しかった。
お祝いの品さえ渡してしまえば、と後はいつも通りの飲み会になる。社内の出来事や世間話から趣味の話……などなど取り留めのない話をして盛り上がった。だいたい小池と美代子が口火を切り、樹里や木本が合の手を入れ、河和田がボソリとツッコミを入れる。七海も偶に口を開くがどちらかと言うと聞き役になる事が多い。社内の噂話に話題が移って暫く経った頃、小池の矛先が再び七海へと向いた。
「そう言えば、江島のあの……綺麗なお姑さん、どうしてる?」
小池は年上美女に弱いらしく、以前会社のロビーで七海を待っていた玲子を見て真っ赤になっていた。翌日も根ほり葉ほり彼女について尋ねるくらい気にしていたのだ。
「えっと、今はアメリカに住んでるよ」
「え!海外にいるのか?もしかして旦那さんの仕事の関係?」
「ううん、本人のお仕事で。お義父さんは私達と同居してるよ」
すると樹里が諭すように小池の肩を叩いた。
「小池、あの美しい女性は実は……有名なジャズピアニストなのよ」
「ええ!」
「そうなの?!」
「マジか」
「へー」
勿体ぶった口調の樹里に対して、小池は目を見開いて驚き、美代子、木本も驚きの声を上げた。いつも動じない河和田も感心したように七海を見た。七海からは特に触れた事は無いが、以前同じように待合わせしていた時に社長や秘書の高畑さん達、ジャズ好きの面々に見つかってしまった事がある。樹里はその噂を聞き付けたのだろうか。
「同じ秘書課の高畑さんが言ってたの、ロビーで見つけた時は二度見したって言ってた」
「へー……そういや一般人離れした雰囲気あったもんな」
「うん、あったあった」
木本と美代子が同意すると、小池が驚いた顔のまま七海を振り向いた。
「江島……スゴイとこに嫁に行ったんだな。おまけにダンナは医者じゃなかったっけ?」
「あ、うん。まだ研修医だけど」
旦那だけじゃなく、義父も医者、しかもこちらはかなり有名な整形外科医なのだが……あまり話題の中心になる事に慣れていない七海は曖昧に頷いた。
「こんな身近にそんな有名人がいるとはねー」
と美代子が感慨深げに言いつつ、思い出したように指摘した。
「有名人と言えば……河和田の親戚にもオリンピック選手いたよね?」
「え!」
「本当?」
すると河和田は表情を変えずに返答した。
「ああ……従兄。スノボでソチに行ったよ。でも入賞できなかったからニュースに全然でなかったけど」
「でもすげー」
「そうか?有名って言ったら木本の妹の方が有名だろ」
河和田が木本に話題を振った。
「え?木本の妹さん?」
「なんかテレビで踊ってた」
すると苦笑しながら、木本が説明した。
「あー……最近、ね。『みかんぐみ』っていうアイドルユニットのオーディションに受かって、ボチボチテレビに出るようになったかな」
「それ知ってる!えー……でも中学生とかだったような」
「十二歳、離れてるんだ」
「わーじゃあ、可愛くてしょうがないよね。写真ないの?」
木本がスマホの写真を見せると皆、覗き込んで口々に「可愛い!」「これが木本の妹……信じられん」などと勝手な意見を述べる。妹を褒められて照れながらも、居心地が悪くなったように木本が話題を他へと振った。
「や、でも有名って程じゃないよ。有名と言えば、やっぱ手塚のにーちゃんだよな」
「美代子の?お兄ちゃん?」
話を振られた美代子は何だか苦い顔をしている。
「ダークホースと名高い手塚騎手!」
「え!手塚騎手って、あの……?」
「へー」
ざわめく男性陣に対して、七海と樹里は顔を見合わせた。
「きしゅ?」
諦めたように溜息を吐いた美代子が説明してくれた。
「競馬の『騎手』よ」
「えー!競馬……!」
「全然知らなかった」
「恥ずかしいモン」
美代子は口を尖らせた。美代子の兄は勝つときは大きいが二重丸の付いた確実と言われた馬で大コケする事もある……『ダークホース』『穴馬』とスポーツ新聞では評される一部マニアが支持する人気騎手なのだ。
こうして身内暴露が続き、樹里の祖父が有名な書道家で日本酒のラベルや大河ドラマのタイトルを書いている……などと言う事実も発覚した。
一通り話が盛り上がった後、ずっと冷静な態度を貫いていた河和田がボソリと呟いた。
「まあ、有名人が身内にいるったって……当人はいたって普通の、新米会社員だって事実は変わらないがな」
するとシン……と、一瞬沈黙が走って皆目を見交わした。
「確かに」
「そうだよな」
「うん、私達が『ゆとり』だの『谷間』だの言われているのは変わらないよね」
自嘲気味に頷く周囲を見渡し、一人首をかしげる小池が呆けた表情で尋ねた。
「えー?ナニ『谷間』って」
「小池君……知らないの?」
「何が?」
七海が聞き返すと、更に首をひねる。すると美代子がズバリと彼の疑問に答えた。
「営業なんて耳が早そうなトコにいるのに知らないんだ?私達、尖った人材のいない『ゆとり世代』とか『谷間世代』って言われているんだよ。……つまりこの年の人材は『不作』って意味なの」
小池が目をカッと見開き、驚いた表情を見せた。
「ええ!」
「小池が筆頭株だよな」
木本が嗤って、河和田が無言で頷いた。
「な、何で?!」
軽く放った冗談に激しく動揺する小池に、思わず皆ドッと笑い出す。
こうして尽きない下らない話で終始笑って、のほほんとした同期会は幕を閉じたのであった。
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七海の同期(の身内)の紹介に終始した小話でした。
ちなみに彼女は会社では旧姓を使用しています。
お読みいただき、誠にありがとうございました。
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