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2.理由
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「一介の占い師である私には、荷が重過ぎる話です」
目を伏せてそう返したが、レイス様は静かに首を横に振った。
「そんなことは気にするな。友人のつもりで気兼ねなく話してくれればそれで良い」
「友人……ですか。しかし、ただ『婚約破棄したい』というだけでは何とも。もう少しお話しをお伺い出来れば」
「まぁそうだな。順を追って説明するよ」
レイス様には王立学園に通っていた頃から婚約を結んでいた相手がいる。
それが私だ。
無論それは政略的な婚約であり、互いに恋愛感情などなかった。そして私には女として、人として重大な欠陥がある。それは感情表現がうまく出来ない事――。
幼い頃はヤンチャだった私。もちろん親に甘えたい気持ちを持っていた。
しかし、公爵として多忙な父は私に構う時間などなく、近寄ろうものなら「邪魔だ」と邪険に振り払われた。
母や侍女達も忙しく、兄弟姉妹のいない私はいつも一人で大量に与えられた書物を読む日々を送っていた。
いつからだろうか――笑うことや泣くことを忘れてしまったのは。
しばらくして父が奮闘した甲斐もあり、私は王子の婚約者として嫁ぐことが決まった。正直、喜ぶ両親とは反対に私は何も感じなかった。
王立学園でも公爵の娘であり、王子の婚約者ということで取り巻きは少なくなかった。ただ、その連中と本心で話すことなど何もない。
レイス様との接触も少なく、無表情で感情を出さない私はいつしか学園内で“鉄の女“と陰で揶揄されるようになった。
何のために生まれてきたのだろう。
常にそんなことを考えていた。貴族の家に生まれる事は世間で恵まれた境遇と言われるが、はたして本当にそうなのだろうか――。
そんな私でも『面白い』と思えたのが読書をしていた中で見つけた『占い』だった。
星座、名前、生まれた日、手相、人相、タロット、水晶――そういった多くの要素から判定する占いは、未来に漠然とした不安を持つ人々に希望を与えられる。まるで魔法が使えるようになった感覚だ。
私は侍女長に「上手く誤魔化しといて欲しい」と無理を言って都の路地裏に変装して忍び込み、片隅にテーブルを広げて占いごっこのつもりで店を始めた。店といってもお金は貰わない。
半信半疑で来た相手に対しても真剣に対応した。その時に言われた『ありがとう』は、私にとって衝撃的だった。
嬉しかった。
心の声から出た言葉に聞こえたから。私はレイス様そっちのけで占いにのめり込んだ――。
ところが。
レイス様がお客様としてここに通うようになってから、私の中で彼に対する認識が変わっていくのを感じた。
時折りみせる屈託のない笑顔。
目尻を下げた時の優しい瞳。
私の胸から下腹へと響くような落ち着いた声。
どれも『アイシャ』として接していた時には見れなかったもの。
彼がいない日は“今日はこないのかな”と、心のどこかで待ち望んでいる自分がいる。
それが恋なんだと気付いたのはつい最近。
感情を押し殺した日々を送っていた私には、時間がかかり過ぎた。
そして、レイス様がここに何度も足を運んでいるにも関わらず、彼の口から『アイシャ』の名が全く出てないことを、気にするようになっていた――。
「――好きな人が出来た……ということですね」
「ああ……自分でも驚いている。こんなにも不埒な男だったのかと」
溜息混じりにそう溢したレイス様は、視線を斜め下に落とした。
レイス様曰く『他の女性を好きになってしまった状態で結婚など出来ない』とのこと。その女性が誰かまでは言わなかった。
彼が恋心を抱いたであろう人物には、心当たりがある。
同じ学園に通っていた侯爵令嬢のオリヴィアだ。可憐な容姿と持ち前の明るい性格で、学園内でも人気者。
彼女は誰がどう見てもレイス様に惚れ込んでおり、婚約者である私を敵対視していた。私を“鉄の女“と吹聴した張本人でもある。
レイス様に付き纏い、隙を見ては有る事無い事で私を卑下していたようだ。そして彼との会話量は、私なんかよりオリヴィアの方が圧倒的に上だったろう――。
目を伏せてそう返したが、レイス様は静かに首を横に振った。
「そんなことは気にするな。友人のつもりで気兼ねなく話してくれればそれで良い」
「友人……ですか。しかし、ただ『婚約破棄したい』というだけでは何とも。もう少しお話しをお伺い出来れば」
「まぁそうだな。順を追って説明するよ」
レイス様には王立学園に通っていた頃から婚約を結んでいた相手がいる。
それが私だ。
無論それは政略的な婚約であり、互いに恋愛感情などなかった。そして私には女として、人として重大な欠陥がある。それは感情表現がうまく出来ない事――。
幼い頃はヤンチャだった私。もちろん親に甘えたい気持ちを持っていた。
しかし、公爵として多忙な父は私に構う時間などなく、近寄ろうものなら「邪魔だ」と邪険に振り払われた。
母や侍女達も忙しく、兄弟姉妹のいない私はいつも一人で大量に与えられた書物を読む日々を送っていた。
いつからだろうか――笑うことや泣くことを忘れてしまったのは。
しばらくして父が奮闘した甲斐もあり、私は王子の婚約者として嫁ぐことが決まった。正直、喜ぶ両親とは反対に私は何も感じなかった。
王立学園でも公爵の娘であり、王子の婚約者ということで取り巻きは少なくなかった。ただ、その連中と本心で話すことなど何もない。
レイス様との接触も少なく、無表情で感情を出さない私はいつしか学園内で“鉄の女“と陰で揶揄されるようになった。
何のために生まれてきたのだろう。
常にそんなことを考えていた。貴族の家に生まれる事は世間で恵まれた境遇と言われるが、はたして本当にそうなのだろうか――。
そんな私でも『面白い』と思えたのが読書をしていた中で見つけた『占い』だった。
星座、名前、生まれた日、手相、人相、タロット、水晶――そういった多くの要素から判定する占いは、未来に漠然とした不安を持つ人々に希望を与えられる。まるで魔法が使えるようになった感覚だ。
私は侍女長に「上手く誤魔化しといて欲しい」と無理を言って都の路地裏に変装して忍び込み、片隅にテーブルを広げて占いごっこのつもりで店を始めた。店といってもお金は貰わない。
半信半疑で来た相手に対しても真剣に対応した。その時に言われた『ありがとう』は、私にとって衝撃的だった。
嬉しかった。
心の声から出た言葉に聞こえたから。私はレイス様そっちのけで占いにのめり込んだ――。
ところが。
レイス様がお客様としてここに通うようになってから、私の中で彼に対する認識が変わっていくのを感じた。
時折りみせる屈託のない笑顔。
目尻を下げた時の優しい瞳。
私の胸から下腹へと響くような落ち着いた声。
どれも『アイシャ』として接していた時には見れなかったもの。
彼がいない日は“今日はこないのかな”と、心のどこかで待ち望んでいる自分がいる。
それが恋なんだと気付いたのはつい最近。
感情を押し殺した日々を送っていた私には、時間がかかり過ぎた。
そして、レイス様がここに何度も足を運んでいるにも関わらず、彼の口から『アイシャ』の名が全く出てないことを、気にするようになっていた――。
「――好きな人が出来た……ということですね」
「ああ……自分でも驚いている。こんなにも不埒な男だったのかと」
溜息混じりにそう溢したレイス様は、視線を斜め下に落とした。
レイス様曰く『他の女性を好きになってしまった状態で結婚など出来ない』とのこと。その女性が誰かまでは言わなかった。
彼が恋心を抱いたであろう人物には、心当たりがある。
同じ学園に通っていた侯爵令嬢のオリヴィアだ。可憐な容姿と持ち前の明るい性格で、学園内でも人気者。
彼女は誰がどう見てもレイス様に惚れ込んでおり、婚約者である私を敵対視していた。私を“鉄の女“と吹聴した張本人でもある。
レイス様に付き纏い、隙を見ては有る事無い事で私を卑下していたようだ。そして彼との会話量は、私なんかよりオリヴィアの方が圧倒的に上だったろう――。
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