3 / 18
3.友人
しおりを挟む
「人間は簡単に逆らえない感情を持つものです。好きになってしまったのは、致し方のないことですよ」
「そうか……」
胸が――張り裂けそうだ。
マスクをしているから気付かれないだろうが、私は唇を噛み締めていた。彼が話している間に呼吸を整えなければ、声の震えが伝わってしまう。
「婚約破棄を言い渡す際は、なるべく傷付かないようにしたいと思うんだが……アイシャは多分、私に興味はないと踏んでいる」
「……ど、どうして、そう感じるのですか?」
「元々は政略的に決められた婚約だ。お互いの意思じゃない。学園でも接する機会が少なく、彼女の気持ちも読みづらかった。他に好きな男がいるのだろう」
「そんなことはなっ……!」
「ん?」
「いえ……何でもございません」
ダメだ。上手く平常心を取り繕うことが出来ない。
「アイシャ様に、直接お気持ちを尋ねられてはいかがでしょうか?」
「その必要はないだろう。相談したいと言っといてなんだが、もう俺の中であらかた答えは出ている」
私と別れて、オリヴィアと結ばれたいと――。
確かに相談とは、人に話す前にほとんどが自決してしまった状態である。
大体の人が自分が出した答えに対し、誰かに後押しして欲しくて相談という名目で話を持ちかける。実際、過去に色んな人の相談を受けてきたが、最終的には私の助言と反対方向へ進む人がそれなりにいた。
そこを意識するようになってから、私は相談相手の本心を読み取り、賛同することを心掛けてきた。そういった面が評価されてきたんだと自負している――。
では、今回のレイス様の件についてはどうだろうか。
無理……。
心の底から賛同したくない。
オリヴィアなんかに、レイス様を奪われたくない。
今、彼の目の前でマスクを外して正体をバラすわけにもいかない。偽りの姿で彼と過ごしてきた時間が長過ぎた。なんとか今は友人として彼を説得したい。
でも、人は本能で成り行きを決定するとテコでも動かないと私は知っている――それでも。
「言葉を交わさなければ、分からないこともあります。話していく中で、相手の本音が隠されているのに気付くのはよくあることです」
少しの間を置いたレイス様は、訝しんだ表情で口を開いた。
「……どうした? 今日は妙に突つくじゃないか」
「その……友人として意見させて頂いてるだけです」
「なるほど、そういうことか。つまり友人としての君の意見は、婚約破棄を反対しているのか?」
「いえ、反対ではなく……もう少し吟味してからでも遅くはないのかなと。感情が先行すると、周りが見えなくなったりしますから」
何マトモなこと言ってんのよ。どうして素直に『反対です』と言えないのよ私の馬鹿!
「そうだな……もう一度、頭を冷やしてよく考えておこう」
こうして、終始焦燥感に駆られた時間はあっという間に過ぎ、レイス様は小屋を後にした――。
「そうか……」
胸が――張り裂けそうだ。
マスクをしているから気付かれないだろうが、私は唇を噛み締めていた。彼が話している間に呼吸を整えなければ、声の震えが伝わってしまう。
「婚約破棄を言い渡す際は、なるべく傷付かないようにしたいと思うんだが……アイシャは多分、私に興味はないと踏んでいる」
「……ど、どうして、そう感じるのですか?」
「元々は政略的に決められた婚約だ。お互いの意思じゃない。学園でも接する機会が少なく、彼女の気持ちも読みづらかった。他に好きな男がいるのだろう」
「そんなことはなっ……!」
「ん?」
「いえ……何でもございません」
ダメだ。上手く平常心を取り繕うことが出来ない。
「アイシャ様に、直接お気持ちを尋ねられてはいかがでしょうか?」
「その必要はないだろう。相談したいと言っといてなんだが、もう俺の中であらかた答えは出ている」
私と別れて、オリヴィアと結ばれたいと――。
確かに相談とは、人に話す前にほとんどが自決してしまった状態である。
大体の人が自分が出した答えに対し、誰かに後押しして欲しくて相談という名目で話を持ちかける。実際、過去に色んな人の相談を受けてきたが、最終的には私の助言と反対方向へ進む人がそれなりにいた。
そこを意識するようになってから、私は相談相手の本心を読み取り、賛同することを心掛けてきた。そういった面が評価されてきたんだと自負している――。
では、今回のレイス様の件についてはどうだろうか。
無理……。
心の底から賛同したくない。
オリヴィアなんかに、レイス様を奪われたくない。
今、彼の目の前でマスクを外して正体をバラすわけにもいかない。偽りの姿で彼と過ごしてきた時間が長過ぎた。なんとか今は友人として彼を説得したい。
でも、人は本能で成り行きを決定するとテコでも動かないと私は知っている――それでも。
「言葉を交わさなければ、分からないこともあります。話していく中で、相手の本音が隠されているのに気付くのはよくあることです」
少しの間を置いたレイス様は、訝しんだ表情で口を開いた。
「……どうした? 今日は妙に突つくじゃないか」
「その……友人として意見させて頂いてるだけです」
「なるほど、そういうことか。つまり友人としての君の意見は、婚約破棄を反対しているのか?」
「いえ、反対ではなく……もう少し吟味してからでも遅くはないのかなと。感情が先行すると、周りが見えなくなったりしますから」
何マトモなこと言ってんのよ。どうして素直に『反対です』と言えないのよ私の馬鹿!
「そうだな……もう一度、頭を冷やしてよく考えておこう」
こうして、終始焦燥感に駆られた時間はあっという間に過ぎ、レイス様は小屋を後にした――。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」
この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。
けれど、今日も受け入れてもらえることはない。
私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。
本当なら私が幸せにしたかった。
けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。
既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。
アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。
その時のためにも、私と離縁する必要がある。
アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!
推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。
全4話+番外編が1話となっております。
※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
始まりはよくある婚約破棄のように
喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」
学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。
ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。
第一章「婚約者編」
第二章「お見合い編(過去)」
第三章「結婚編」
第四章「出産・育児編」
第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始
【完結】前世の記憶があっても役に立たないんですが!
kana
恋愛
前世を思い出したのは階段からの落下中。
絶体絶命のピンチも自力で乗り切ったアリシア。
ここはゲームの世界なのか、ただの転生なのかも分からない。
前世を思い出したことで変わったのは性格だけ。
チートともないけど前向きな性格で我が道を行くアリシア。
そんな時ヒロイン?登場でピンチに・・・
ユルい設定になっています。
作者の力不足はお許しください。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる