聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

文字の大きさ
69 / 126
聖女暗殺事件

第55話 リーナの諦観 1

しおりを挟む
「――動くな」

 私は給仕服を着たその女の首筋に、クナイをあてがい警告を発する。

 それと同時に――
 その女の首筋に、少しだけクナイを食い込ませる。

 女の傷口から血が一滴、溢れて流れる。


 給仕服を身に着けているが、こんな奴はこの城のメイドに居なかった。

 女は警告を無視して、隠し持ったナイフで私を攻撃しようとする。
 ――やはり素直には、降伏しないか。


 仕方ない。
 行動不能にして、捕らえることにする。

 その女が私を攻撃しようと、僅かに動いた時にはすでに、私のクナイは女の肩口に深く刺さっている。

 後はロープで女の口を塞いで、捕獲完了だ。


 クナイには痺れ薬が塗ってある。

 首筋の傷と、肩口から薬は全身に回るだろう。
 



 本当はもう、この時点で始末してしまいたいが――

 ここは外国だ。
 万が一にも、手違いがあると困る。





 ピレンゾルとの外交交渉を行うための、全権大使となったアレス王子に随伴し、私は警護任務にあたっている。

 外交交渉は、『ローゼリアなどという聖女のことなど知らない』と、白を切るピレンゾルの言い分を前提として進めている。

 アレス王子は話を早くまとめて、捕虜をさっさと返還したい。

 相手の言い分を、そのまま飲むのはムカつくが――
 捕虜返還を優先させた。


 ――この国の第一王子とローゼリアは婚約していたはずだが、そのことを外国には周知していなかった。

 聖女を確保したことを、外国に知られるのはマズい。
 リーズラグドから『聖女を返せ』と言われることを防ぐためだろう。


 そのため、『ローゼリアなど知らない』と言い逃れる余地があった。

 そこで言い争っていては時間がかかるので、こちらが折れた格好だ。





 しかし、ピレンゾル兵による侵略行為は、きっちり認めさせた。

 ローゼリアの件でアレス様が折れたので、略奪案件も白を切れると思ったのか、最初はゴネていたが、アレス様が本気で『ならば、戦場で相まみえましょう』と言って脅してから、急に下手に出て、自分たちの非を認めた。

 アレス様はやると言ったら、本気でやる御人だ。

 ピレンゾル側の交渉担当も、それを感じ取ったのだろう。


 めちゃくちゃビビってた。
 私でも、臨戦態勢に入ったアレス様は怖い。
 
 会議室にいたピレンゾル側の国王や外務大臣も、真っ青になっていた。

 

 後で私が『最初からそれをやっていれば、ローゼリアのことも言い逃れ出来なかったのに……』、と不満を口にするとアレス様は――

「国を代表して交渉に来たのに、いきなり脅したら駄目だろう」
 
 といって、私に呆れていた。


 ……言われてみれば、そうかもしれない。
 アレス様は無茶苦茶な人だが、ちゃんと物を考えている人でもある。

 私も暗殺者をすぐに殺すのではなく、捕まえて引き渡すようになった。

 





 捕獲した給仕服の暗殺者を、ピレンゾル側に引き渡し――

 私の仕事は、一段落した。

 この一か月で、五人の暗殺者と戦った。


 いずれも暗殺を未然に防ぎ、実行犯を確保もしくは殺害している。

 だが、依頼主は確定していない。
 捕獲した暗殺者も、口を割らないだろう。
 
 だから、確証はない。
 だが、推測は出来る。

 暗殺者を仕向けてきているのは、恐らく――
 西の大国チャルズコート、大神殿お抱えの暗殺組織だろう。




「――チャルズコートか、……この国の暗殺組織ではないのか?」

「可能性は否定できない。けれど、数が多すぎる。――この国の暗殺組織は、小さいし疲弊している。周辺の小国には独立した組織は無い」


「多数の暗殺者を派遣できる組織となると、候補は限られるか……。この国は、隣国との紛争があったり、前王妃の息のかかった青年将校による軍事クーデターがあったりで、立て続けに荒事が続いたからな――暗殺者も引っ張りだこだったろう。疲弊した組織では、これだけの攻撃は出来ないか……」


 私の説明でも、アレス様はしっかりと意図を把握してくれる。

 ――説明が楽でいい。


「それに、外交交渉中に俺を殺せば、戦争になりかねない。この国にそんな余裕はないか――なんか、疫病も流行ってたしな」

「……私に政治的なことは、判らない。けど、言われてみればそうかも」

 そういう推測の仕方もあるのか、勉強になる。



「……それで、捕まえた奴らは――何か喋ったか?」

「犯人はピレンゾルに引き渡してる。尋問できないし、しても多分喋らない……目的は不明――」


「ああ、それもそうか。だがまあ、俺を殺して政治的な混乱を引き起こしたいとか、そんな所だろう。リーズラグドの力を削ぎたい……か――」

 アレス様はそう言って、しばらく考え込む。

「チャルズコートは東の平原の周辺国のどこかに攻め込むつもりかな? リーズラグドが力を落としていれば大規模な援軍は来ない。もしくは、このピレンゾルを攻めて、完全な属国にしたいのか……?」

 ピレンゾルは中規模の国で、大国のチャルズコートからは子分扱いされている。

「しかし、確かなことは分からないな。まあ、俺が死ななければ敵も目的を達成できないわけだし、死ななければいいだけか――」

 私が護衛している。
 絶対に守る。

 それに――
 アレス様なら襲われても、暗殺者などどうとでも出来るだろう。


「――そうだな。じゃあこの機会に、敵の戦力を減らしておくか。隙を作って敵の攻撃を誘うぞ」


 また、無茶なことを言い出す。
 ――だが、それでこそアレス様だ。


 アレス様は昔から、危険な魔物退治や戦争に率先して参加している。
 『死にたがり』と言われる所以だ。

 危険と分かっていても、先頭を駆ける。
 


 しかし、怖くは無いのだろうか?
 ――未然に防いだとはいえ、今も暗殺者に命を狙われているのに?


 いや、愚問だな。

 この方は元々――
 
 私はアレス様と出会ったばかりのことを思い出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...