捨てられ令嬢は屋台を使って町おこしをする。

しずもり

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イケアの街と面倒事

機嫌の良い男と本題 side ロイド

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いつもよりもリップサービスが多い友人に、戸惑っていた彼女は一通り料理のレシピと販売方法の話をした後、クリス殿と一緒に部屋に戻って行った。


「随分と機嫌が良かったな、ラルフ。そんなに彼女が気に入ったのかい?」


社交クラブで知り合い、同じ学園を卒業した後輩でもあったラルフレッドは、その見目の良さから学園でも女子生徒に人気があり、会う度に違う女性を連れているような奴だった。

しかし、不思議とそれ以上の噂話などは入ってこず、所謂、女性関係の醜聞といったものとも無縁な男だった。

婚約者も作らず、実は男色家なのでは?といった噂も出たりしていたが、真相は分からず終いだった。


「そりゃあ、あんなに美味しい料理を食べさせて貰ったんだからね。機嫌も良くなるよね。」


質問とは微妙に違う答えが返ってくる。相変わらずこの男も本音がどこにあるのか分からない。


「じゃ。申請は通った、と理解していいのかい?」


彼女から預かった書類に目を通しながら、まだ芋けんぴを食べているラルフに向かって言った。

相当気に入っているみたいだな、芋けんぴソレ

無心に食べていたサミュエルを思い出す。


「そうだね。書類も見たところ問題が無い。

というか、親切丁寧に細かく書いてあるよね。衛生面や保管方法、それに注意点などこんなに丁寧で分かりやすいレシピの書類は初めてだよ。
作り方を図解で説明している書類もあるよ。」


とうとう鼻歌まで出てきて本当に上機嫌だな、ラルフは。

しかし、書類に関しては同意見だ。レシピを購入した者に分かるようにだけではなく、料理を食べる人の事を考えてのアドバイスまで記入されているのには驚いた。
何より図解、絵図付きの料理レシピなど今まで見た事も無い。


「これだけ細かく書類に落とし込んでいるなら、調理過程を確認するのも省いても良いくらいだけどね。

一応、ギルドで他の者にも確認させて、実食した方が不正を疑われないから良いだろうな。

こっちはいつでも良いから、彼女の都合の良い日にギルドに来るように言っておいて下さい。早い方が良いんでしょう?」


「あぁ、早くこれらの料理が話題になって欲しいからな。」


「このフライドポテトだけでも十分話題になるだろうけど、シチューとグラタンの方も彼女の言う通り、幾つかの店に売り込んだ方が良いだろうね。

ところで、料理はどれも素晴らしかったけれど、本題は別なんでしょう、先輩?」


見ていた書類をまとめて手元に置くと、ラルフは興味津々とばかりに目を輝かせて、私の方に視線を戻した。

「あぁ。実は王都からの帰り道、ピレネー家の馬車が襲われた。
前日に知らせが来て、私たちは乗って居なかったが馬車に魔香が使われていたよ。」

「は、魔香、ですか?・・・よく無事でしたね。」


いつも笑顔を絶やさないラルフも、流石に驚いて真顔になったので、一連の出来事を掻い摘んで話した。


「成る程、あの執事見習い君が通りで随分と僕を睨んでいた訳だ。
それで彼女にレシピの登録を急がせて、何をする気なんです?」

ラルフが少し眉間に皺を寄せて聞いてくる。


「我がは中々に単純思考の持ち主だからね。

この街で彼女の料理レシピが話題になり、ピレネー家に身を寄せている、と知ったらと思うだろう?」


「彼女を囮にする気ですか?しかし、料理や屋台が話題になっても、彼女本人の事やピレネー家ここに居るなんて、早々に話題にはならないでしょう?」


「いや、兄上は我が家に頻繁にに来るからね。今回は馬車襲撃の件でしているみたいだが、もうそろそろ来る頃だと思うよ。」


「そこでする気ですか?」


ラルフの眉間の皺が更に深くなった。本当に珍しいな。こんなに感情を表に出すなんて。


「彼女には危害が及ばない様にするつもりだよ。

翌日に申請する予定の料理の試食をして貰って、その日はで飲み明かして1泊してもらおうかと思っているだけだよ。書類を前にしてね。」


「その夜にが起きる予定、という事ですか?
そこまで単純ですか、コーギー男爵は。

それに彼は料理レシピの価値が分かる男ですか?」

ラルフは『そう上手くいくのか?』というような疑いの目を俺に向けてくる。


「彼女の料理を食べた後に、にも目の前に料理レシピの書類があれば、間違いなくだろうね。」


そう、ルードは人の話を簡単に鵜呑みにする限りなく単純な男だった。だからこそ楽な方へ、悪い方へと簡単に流されていってしまったのだ。


「でも翌日に無くなった書類をイケアの商業ギルド僕のところに持って来ると思います?

他の街だったとしても、作る人を確保したりするのに日数をかけていたら、彼女が書類を再度作って申請する事だって考えられるでしょう?」


「コーギー男爵には商業ギルドにがあるんだよ。

それこそ今の君の様に、ギルド長権限で申請を通せてしまうような、君が常々、不満を漏らしていたとね。」

ルードを裏で操っているカントの商業ギルド長チャーリー・コリーの顔を思い出して言った。


「は?まさか、どうしてコーギー男爵とチャーリーが?」


思ってもみない名前が私の口から上がって、驚くラルフを見て苦笑してしまった。

カントの商業ギルド長チャーリーは、各商業ギルド長たちの間でもよく話題に上る人物であるらしい。

カントの隣の支部となるイケアの商業ギルドでは、色々と被害を被る事が多いらしく、ラルフが愚痴を溢す時に出る名前の常連だった。


「裏カジノ繋がりらしいよ。

まぁ、チャーリーにとっては金蔓でただの駒扱いだろうけどな。

しかしルードはそうとは思っていないだろう。レシピ登録の為に必ずチャーリーを頼るよ。」


「確かに。チャーリーあの男なら自分の権限だけで登録許可をすると思います。

先に登録しさえすれば、後から何を言っても取り合わないでしょう。

『登録者が偶然同じ料理を考えついただけ』という事で、自分にはなんの咎もなく、更に裏でレシピの横流しし放題に出来る、というメリットしかない。」


ラルフの不愉快そうな顔に、今までどれだけの被害が有ったのかが伺い知れる。


「私としては、ルードに書類を盗ませカントの商業ギルドに持ち込ませて、窃盗の罪で男爵の地位を奪い、私の殺害未遂の証拠を得られずとも、疑いを表面化させイケアから遠ざけられれば良い、と思っている。」


そう、ピレネー家とルードを唆していた者から、遠ざけられればそれでいい。

男爵の地位を奪ってしまえば、金の無い人間に寄ってくる者は居ない。

それにルードさえ遠ざけてしまえば、裏で操っていたチャーリーたちがピレネー家を奪う手段もなくなる筈だ。

奴らはルードにイケアを奪わせ、裏でずっと美味しい汁を吸うか、若しくはルードから言葉巧みにイケア領を奪おうとしていただろうから。


「あぁ。コーギー男爵の後ろで、チャーリー若しくはコリー伯爵家が糸を引いているけれど、男爵さえ排除すれば問題は無くなるって事ですか?」


さすが切れ者のイケアの商業ギルド長は察しがいい。



チャーリーたち向こうもルードが居なければ、こちらに絡みようが無いだろう?

それに上手くいけばさせられる。

そうすれば商業ギルド組合としても安心するんじゃないのかい?」


俺はラルフに協力させるべく、彼の興味を引くだろう言葉を吐く。


「それはそうですが、でもどうやって?

盗んだ書類とは知らなかった、と言われれば深くは追求出来ないのでは?」



彼女ティアナ嬢次第だが、囮にする料理レシピの書類に細工をするつもりだ。盗んだ書類だけでは、それが素晴らしい料理かなんて流石に判断出来ない。

だからルードには書類と一緒に料理を持ち帰らせるんだ。

試食が出来ればチャーリーもレシピをすぐに登録するか、どこかに売り飛ばすだろう?

しかしそのレシピでは料理が完成出来なかった、としたら承認した者の責任になる。

上手くいけば、捕まったコーギー男爵と共謀していた、と暴く事も出来るかも知れない。」



囮はティアナ嬢彼女ではなく、料理レシピの方だったら、きっとクリス殿も彼女を利用するのを許容してくれるだろう。


「確かにチャーリーをギルド長の座から引きずり下ろせるのは願ってもない事ですね。

しかし僕に何をしろと言うのですか?

態々ここまで話しておいて、この書類の申請許可と屋台の出店許可だけ、という事はないですよね?」



「君にはカントの商業ギルドまでに行ってもらいたいんだ。

ピレネー家私の家で晩餐に招待されたが、出来たばかりの商会が作りだした料理が素晴らしかった。直ぐにレシピの登録申請を勧めてギルド長権限で承認した。』とね。

ティアナ嬢彼女の事は匂わす程度で大丈夫だろう。

ルードが持ち込んだ時に、君の話と結びつけが出来るように誘導して欲しいんだ。」


イケアで彼女が登録する料理は直ぐに話題になるだろう。

しかしカントまで、しかもチャーリーの耳に入るにはそれなりに時間がかかる筈だ。

彼は料理レシピの横流しなどをやっているが、あくまでカントの商業ギルドに登録申請された物のみ、と聞いている。

自分で有望な料理人などを見つけてくる、と言うような情報収集はしていないだろう。


だからいきなりルードがレシピを試食付きで持ち込んでも、直ぐにレシピ登録に動くとは限らない。

その間にもまた妻子が危ない目に遭う事の無い様に、レシピの方に気を逸らしたいという思惑もある、というのが私の本音でもあった。



「・・・そうですね。前評判的な話を聞いていれば、コーギー男爵が持ち込んだレシピの登録にすぐに反応するでしょう。

書類審査までとは言わずに、私がギルド長権限で承認した、と聞けば、同じ事をする可能性は大きい。

それで問題があった時には、私に責任転嫁出来る、と言う判断もするでしょうからね、は。」


心得た、とばかりにラルフが目を細めて意味ありげに微笑んだ。



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