元虐げられた公爵令嬢は好きに生きている。

しずもり

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レンとリアの旅 〜過去編〜

リア、怒る 3

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 アメリアは生まれながらにして、前世の記憶持ちの転生者だった。

 本人はなどという言葉も、という話が前世で流行っていた事など全く知らない。
知らないが、新しく生まれ変わったこの世界が、日本とも他の国とも違うことにも、成長するにつれ、自ずと気付かされたというべきか。

まあ、気付かない事の方がおかしいだろ、と思うぐらいには色々と違ったのも事実である。


この世界にを持って生まれたアメリアは、当然の如く、精神は前世の延長のようなもの、という風に捉えていた。そう思うのも仕方のない事である。

だって、いつものように眠り、いつものように目を覚まし、『おはようオギャー』と言ったつもりが、アメリア誕生の瞬間だった。・・・みたいな?

自覚なしに前世で天寿を全うし、自覚なしに新たな生を頂いたようなもの。

そこからいきなり年齢通りに過ごせと言われても、それは無理というものだ。

更に言えば、今世でのアメリアを取り巻く環境が、いや、立場というべきか。アメリアが年相応に過ごすには、少々過酷なものであった。


 公爵家当主である父には、政略結婚である母と婚姻する前から相思相愛の恋人がいた。婚姻後には愛人となった元恋人には、父との間にアメリアとそう変わらない歳の子どもがおり、母亡き後は、後妻としてキャロラインと義妹のソフィアが公爵家にやってきた。


それからのアメリアは、使用人以下の暮らしとキャロライン義母ソフィア義妹に虐げられきたのである。

 これが年相応の精神だったら、一年もしないうちに心が潰されていたかもしれない。若しくは自分の生まれも何も理解出来ていないまま、自分自身も身寄りのない子ども、とでも思い込んでいたかもしれない。


 幸いに、というべきかは微妙なところだが、義母と義妹はアメリアを虐げてはいても命を脅かすような真似はしなかった。二人が小心者だったのか。それともそこまでは憎んではいなかったのかは不明だが、暴言は吐いても、命の危険を感じるまでの暴力を振るうような事はなかった。

 食事だって二人は使用人と同じものを食べさせている、と思うだけで満足していたようだ。勝手にアメリアの分の食事を減らし、横取りしていたのは他の使用人たちである。

それだって使用人たちも流石に餓死させるほど奪うような事はしていなかった。一応、アメリアは公爵令嬢だったので、死なれたら不味い、というような認識はあったようだ。

 まあ、そういう環境ではあったので、アメリアは強くならざるを得なかった。元よりアメリア自身も今更、年相応に乳幼児からやり直す、なんていうのは無理があった。だって心はいい歳をしたお婆ちゃんだと思っていたのだから。


けれど、改めてアメリアとして生きてきた人生を振り返ってみれば、幾つもの疑問が浮かんできた。

いい歳をした大の大人。もっと言えば、アメリアの振る舞いはお婆ちゃんのだったのか、と。

勿論、老人の動きだとか、言動が、とかの話ではない。

 前世のことは、色々と覚えている。覚えてはいるのだが、思い出というよりは記録に近い。実は夫の顔も子どもたちも、その孫たちの顔を覚えているのに名前は覚えていない。自分の名前も、だ。

そんな風だったから、前世は前世。今世は今世と、心の中では割り切っていたし、前世過去を懐かしんだり寂しく思うようなこともなかった。

 そうして今世を強く逞しく生きてきた。そのつもりだったし、それは事実だと思っている。そうでなければ、今もあの公爵家で使用人のような暮らしを受け入れて過ごしていたかもしれない。

年相応の子どものままではいられない状況が、アメリアを実年齢以上の精神を持っていると錯覚してしまったのだろうか?

いや、でもに居た時は、振り返ってみても自分は子どもっぽくはなかったような気がする。義妹だけではなく、義母でさえ自分よりも年下のような感覚であしらっていたように思う。


しかし、公爵家を飛び出してからのアメリアの行動を振り返ってみれば、なんとなく、本当になんとなくだが、大人の振る舞いそれとは思えないこともしていたような?


「ああ、。確かに私、まだ十八にもなっていない子どもだったわ」

アメリアの口からぽろりと出た言葉は、すっと心に沁み込んだ。十六歳なんて、到底大人とは呼べない子どもではないか。

前世のアメリアが十六の時はどんなだった?

 その頃の感情は思い出せないが、あれこれ煩い親に反発してただとか、大人の言葉を素直に聞けないこともあった。大人の方が間違っていたこともあったし、自分が間違っていて謝ったことも、謝れなかったこともある。

ではさっきのアメリアの行動はどうだったか?

・・・子どもだ。

ダンジョンが閉鎖している事実を知ってカッとなり、相手レンの言葉に一切聞く耳を持たずに部屋に籠るとか・・・子どもっぽいにも程がある。

せめてレンの言い分を聞くべきだった。聞いてから判断して、文句なり謝罪を求めるなりすれば良かったのだ。


よしっ。レンの話を聞きに行こう!

思い立ったが吉日だ、とアメリアはレンの部屋に行くことにした。そうして部屋を出ようと扉に手をかけると、ごろり。

どうやらアメリアの部屋の扉に寄りかかるようにしてレンが座りこんでいたらしい。突然、扉が開くとは思っていなかったらしいレンが、ごろんと部屋の中へと転がりこんできたのだ。

「・・・レン、何やってるの?」

 まるでダルマが転がるように、部屋の中へと背中から転がりこんできたレンと目が合ったアメリアは、レンの大きく見開いた目と転がる姿が可笑しくて噴き出しそうになる。
笑いを堪える為にポーカーフェイスを装ってレンに話しかければ、アメリアがまだ怒っていると勘違いしたレンは転がっていた体勢から慌てて起き上がった。

「リ、リア!これは、その、リアを監視しようとしてたわけじゃなくて。いや、だから、俺が知らない間に宿屋を飛び出したらって、心配で」

あたふたと早口で言っているレンを見ながら、アメリアはこの旅の道中を思い出していた。最終目的地のないこの旅は、アメリア次第で決まると言っても過言ではない。

 公爵家を飛び出して、取り敢えずは色々な場所に行ってみたいと思っていたアメリアに、レンがおまけのようについてきたとアメリアは思っている。けれどレンがいることで助かっている部分が多いこともアメリアは理解していた。

 だってアメリアは、箱入り娘というには全くもって扱いが違ってはいたけれど、殆ど公爵家から出たことがなかった。本を読んだり公爵家に出入りしている人に聞いた話もあるけれど、実際に屋敷を飛び出してみたら、アメリアが知らなかったことだらけだった。

冒険者になって、ほんの少し人と関わるようになって、アメリアの世界は広がっていったけれど、それもレンがいたからこそだ。

 この世界での旅は前世の世界で旅行するのとはわけが違う。必ず馬車があるわけじゃない。宿屋があるとは限らない。そんな世界での旅では野宿も当たり前で、魔物が出るのが当たり前で、寝ずの番を交代でするのも当たり前だ。

だけどレンはアメリアに寝ずの番をやらせようとはしない。対等であることを何度も主張したアメリアに折れた形で交代するようになったが、それも空が白み始めた頃にアメリアと交代する程度だ。

 レンはアメリアに対して過保護だ。アメリアはそう思っている。けれどアメリアはその過保護を嫌いじゃないな、と近頃はそう思うようになっていた。偶に頭ごなしに駄目だと言われることもあるけれど、それも理由があってのことだ。アメリアのことを本気で心配してくれているからだ。

そんなレンがアメリアを騙すようなことをするだろうか?しかも意味のない嘘を吐いてまで。


「レン。事情を説明して」


ダンジョンが立ち入り禁止になったのをうっかり忘れていただけ。


落ち着いて話を聞いてみると、たったそれだけのこと。

『なぁんだ、そっか。話を聞かないで怒ってごめんなさい。』

アメリアにそんな風に言われてしまえば、レンだって『いや、俺が悪かった』などと落ち着いて答える余裕も出てくるというものだ。

 だが、しかしレンはまだ気付いていなかった。この後、『年相応だから』という謎のフレーズを大義名分として、今まで以上にアメリアが突拍子もない行動に出ることに。そして今まで以上に自分が振り回されることになろうとは、知る由もないレンだった。


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