【 完 結 】言祝ぎの聖女

しずもり

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聖女ラヴィーナ 3

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 滞りなく、とは言い難いが、言祝ぎの儀はラヴィーナの独り舞台で進んでいく。

言祝ぎの儀を、自分をより価値のある女性へと高める為のものとしか認識していないラヴィーナは、当然のように言祝ぎの聖女のなど理解していない。


終盤に差し掛かり、ラヴィーナは言祝ぎの儀のに漸く取り掛かる事にしたらしい。

言祝ぎの聖女らしく?ポーズをとって、祈りを捧げる振りをする。堪え性の無いラヴィーナは三十秒さえ祈る振りが出来ない。

「はい、分かりました」

 祈った思ったら直ぐに立ち上がるラヴィーナに、流石に招待客も首を傾げたくなる。

 ツィオーニで行われる言祝ぎの儀の全容を知らずとも、神に祈りを捧げる神事だという事は知っている。知ってはいるが、『この女、祈った振りをしていないか?』と思わずにはいられないほどの動きだった。


言祝ぎの儀では、マハークベ神に祈りを捧げた聖女のみが神の声を聞くことが出来る。そうしてマハークベ神から賜った言祝ぎの言葉を聖女が代わりに伝える。
だからと呼ばれるのだ。

だが、神の声を聖女が本当に聞いたのか、など確認しようがない。言祝ぎの聖女に選ばれた者でも、神の声が聞こえるのは、言祝ぎの儀の一度のみ。

毎年、選定の儀で言祝ぎの聖女が選ばれるのは事実だが、聖女が言祝ぐ内容がマハークベ神様から賜った言葉だと、信じている者はどれほど居るのだろうか。


さぁ、そろそろがみんなに言祝ぎの言葉を聞かせましょう!


「新たな年に、女神にように美しく、聡明な言祝ぎの聖女に出迎えられた事を嬉しく思う。

今年は今までのどの年よりも実り豊かな佳き年になるだろう。

言祝ぎの聖女に祝福を!

この聖女を娶りし伴侶は、大陸一の幸せを手に入れる。

このようなお言葉をマハークベ神様から賜りました」


ラヴィーナは左右に座る王子たちに何度も熱い視線を向けながら、マハークベ神からの言葉だと自信に満ちた表情で言い切った。


ほぼラヴィーナに向けられたであろう言葉が、国へ向けた言祝ぎの言葉?


 王妃は目眩に襲われ、隣に並ぶ国王にもたれ掛かるようにフラリとよろける。シーヴァとハヌマン帝国の王子たちをもてなす事で頭が一杯だった国王は、なんとか王妃を支える事は出来た。
だが、王妃が目眩を起こした原因のラヴィーナの言葉を聞き逃していた為、何が起こったのかが分からない。

隣に並ぶヴァイスに問いかけるように顔を向ければ、今にも拍手しそうな勢いでキラキラした瞳でラヴィーナを見ている。


まさか、本当にこんなが、ツィオーニの言祝ぎの儀祭祀なのか!?


招待客であるシーヴァとハヌマン帝国の王子たちは驚いていたが、祭壇に置かれている言祝ぎ草の花が風も吹いていないのにユラユラと揺れ出した事に気が付いた。

その事にツィオーニ側の参列者も気付いたが、花が揺れ始めたのを見て安堵する者が多かった。
何故ならも毎年の事だったからだ。


言祝ぎの儀では、言祝ぎの聖女がマハークベ神様から賜った言祝ぎの言葉を伝えた後、毎年必ず、が起こるのだ。


 祭壇に置かれた聖女たちの言祝ぎ草だけが、ユラユラと揺れ出して、小さな旋風に拐われるように言祝ぎ草の花弁は一枚も残らずにクルクルと舞い上がっていく。それから雪のようにヒラヒラと落ちてきて跡形もなく消えるのだ。

そして祭壇の前に置かれた銀の杯には、今年聖女たちが育てる予定の言祝ぎ草の種子が入っているのだ。

何故、このような自然現象が起こるのかは分からない。けれど今までと同じ光景が起きたということは、言祝ぎの儀は問題なく終える事が出来たと言えるだろう。

 国王が花が揺れている光景に安堵していると、言祝ぎ草の花弁が旋風に乗ってクルクルと回りながら舞い上がっていった。
その光景に、今まで眉間に皺を寄せて儀式を見ていた招待客たちも感嘆の声を上げる。

 上へ上へと舞い上がる言祝ぎ草の花弁は、やがて雪のように参列者たちの下にも落ちて消える、筈だった。

しかし、上へと舞い上がった花弁は上がったまま、、、消失した。


 言祝ぎの儀について、何も知ろうとせず、自分の思う通りにやる事しか頭に無かったラヴィーナは、これが異常なことだと気付く事はない。ただラヴィーナ以外に意識が向いているのが気に入らない。

最後まで私を見ていなさい!

そう言おうと思った時。


さかずきをっ!銀の杯を確認するのだっ!」


ひどく焦ったような恐れを含んだその声は神官長の声だった。命令を受けた神官たちが次々に祭壇に置かれた銀の杯の前に走り寄る。

「あぁっ!」

「まさかっ」

銀の杯を手に取った神官が悲鳴を上げ、杯の中を覗いた神官が悲痛な声で叫ぶ。

「あ、有りませんっ。種子が、言祝ぎ草の種子が一粒も杯には入っておりません」


それからどうやって言祝ぎの儀を終了させたのか、国王も記憶があやふやだった。あの日の記憶を思い出したくない、と心が無意識に拒否をしているのかも知れない。
分かっている事は、

もうに選定の儀を行えないこと。

 大神殿の者たちが躍起になって言祝ぎ草の種子を探し回っているが、野原にも森にも当たり前のように自生している言祝ぎ草だが、種子を付けている言祝ぎ草を見た者はいない。

自生していた言祝ぎ草を引き抜いて、育ててみても言祝ぎ草は種子をつけることなくやがて枯れてしまう。
当たり前だが、自生していた言祝ぎ草は、聖女が祈らなくても白い花を咲かせる。

種子が手に入らぬまま、自生している言祝ぎ草を鉢に植え替えて聖女が育てたとして、果たして選定の儀まで蕾の状態を保てるのだろうか。

祈りを捧げた途端に花は咲いてくれるのだろうか。

咲かない筈の黄色の花を咲かせる聖女が出るだろうか。


考えても、話し合っても答えは出ない。

それでも大神殿の方はまだ良い。ミーシェを断罪した時のように、いざとなったらどうとでも誤魔化す事も出来る。バレなければ、だが。


国は言祝ぎの儀での出来事に緘口令を敷いた。だが人の口に戸は立てられない。

異常気象が起きる度、貴族の間で囁かれるのは、新年の言祝ぎの儀のこと。
そして王太子ヴァイスが言祝ぎの聖女から資格を奪って、婚約者であるグラン公爵令嬢にその座に就かせたこと。

その噂はやがて平民の間でも広がって、王家の威信は地に落ちた。

言祝ぎの儀の後、正気を取り戻したかに見えたヴァイスは、己の罪を自覚し気を失った。そしてそのまま今も目を覚さない。今は王宮で手厚い看護を受けてはいるが、それもいつまで王宮で過ごせるのかは分からない。


ことの発端、首謀者であるグラン公爵とラヴィーナは、最初は『私たちには関係ない』と知らぬ存ぜぬを貫いた。貫いたつもりだったが、隣国シーヴァで大々的に行われた違法薬物の取り締まりで、グラン公爵の名が挙がる。

逃れようも無い証拠を突き付けられ、国に爵位返還の上、シーヴァで裁判を受ける事となった。たぶん生きて祖国に戻る事は無いだろう。

 ラヴィーナは公爵の悪事に加担してはいなかったが、違法薬物の件で王太子ヴァイスに薬を盛った事が露見した。
偽聖女である事も、不当に言祝ぎの聖女の座を奪った事も暴露されてしまったが、それと次々と起こる天災と疫病がラヴィーナの所為だと証明するのは難しい。

どこまで罪に問えるかは難しいところだが、今は貴族牢に入って裁判を待つ身のラヴィーナは、ある日、原因不明の皮膚病を発症し、自慢だった顔を掻きむしりながら泣き叫ぶ日々だそうだ。


今年の洗礼式では、聖女は一人も発見されなかった。

ツィオーニが神に見放された国となったかどうかは、来年に行われるで判るのかも知れない。

行われれば、の話だが。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ここまでお読み下さりありがとうございます。


ミーシェの話で〆る前に、ツィオーニ側のエピローグのようになってしまいましたが、彼らの話はこれで終わりです。

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