8 / 11
聖女ラヴィーナ 2
しおりを挟む空が白み始める頃、ツィオーニでは祭祀『言祝ぎの儀』は静謐な空気を漂わせた中、厳かに始まろうとしていた。
祭壇には聖女たちが一年掛けて祈りを捧げ育てた言祝ぎ草の鉢が置かれている。
祭壇の対面には、一列目に王族が、二列目に主だった高位貴族の当主とその伴侶が、そして三列目には大臣たちが座っていた。
祭壇の左右の席には招待された隣国シーヴァとハヌマン帝国の王子たちとその側近及び外交官たちが、一様に難しい顔をして並び座っている。
ツィオーニ国の王太子とグラン公爵家の連盟で送られて来た『言祝ぎの儀』への招待状は、あまりに不躾なものだったからだ。
今日の言祝ぎの儀の招待状が送られて来たのはたった一週間前だ。ツィオーニ以外の六つの国全てに送られた招待状は、宛先も婚姻していない王子宛であり、それは婚約者の有無に係らず、だった。
それもラヴィーナが知る限りの、彼女好みの容姿の王子に限定されていた。
ラヴィーナの思惑が透けて見えるどころか、ハッキリと分かる招待状に、受け取った者たちの中にはその場で破り捨てた者もいたほどだ。
見せる価値なし、と王子の手元には届いていない招待状も数知れず。
そう、ラヴィーナは正に手当たり次第、思うままに招待した。相手の手元に、いつ届くのか?など気にせずに。
ツィオーニ国の言祝ぎの儀には、今まで他国の者が参列した例はない。
どこの国でも新年には言祝ぎの儀に似たような新年を祝う行事を行なっている。それは同じく祭祀であったり、式典であったり。
つまりはどこの国の王族でも新年は忙しく過ごしているのだ。
その上、言祝ぎの儀は新年明けて直ぐの祭祀だ。参列するには一番近い隣国シーヴァでも、ツィオーニを訪問するのに二日は掛かる。
『お互いに自国の行事を優先しましょう』というのが、暗黙のルールのようになっている事をラヴィーナは知らないし、知っていたとしてもやる事は変わらなかっただろう。
今回、シーヴァの王族、と言っても五男だが、辛うじて婚約者の居なかった第五王子や独身の側近たちが参列しているのは単なる外交上の義理でしかない。
ツィオーニから最も遠い筈のハヌマン帝国の第四皇子とその側近、外交官たちが何故参列出来ているのかといえば、偶然シーヴァを訪問していたからである。
シーヴァには、ツィオーニのグラン公爵家の息のかかった外交官が直接招待状を持って訪問していた。ラヴィーナ好みの顔でいえば、シーヴァの第五王子が一番のお気に入りだったからだ。
そこに偶然にもラヴィーナの二番目に気に入っていたハヌマン帝国の第四皇子が滞在していたのだ。誘わない手はない。
シーヴァを訪れた外交官はラヴィーナの又従兄弟であり、ラヴィーナの性格も男の好みもよく熟知していた。そしてこの機を逃したら、公爵家のコネで手に入れた自身の外交官の地位が危うくなるだろう事も。
だから外交官は非常識である事も重々承知しながら、拝みに拝み倒し、とっておきの外交カードをチラつかせ、彼らの言祝ぎの儀への参列を実現させた。
彼らからの責めるような視線を今も感じながら気付かぬフリをして、外交官の男もまた、言祝ぎの儀に参列していた。公爵家からの外務大臣就任への後押しがあることを、期待に胸を膨らませて。
思っていたよりも国外からの参列者は少なかったわ。でも選定の儀を行うのが遅かった所為よね。
儀式が始まる前に彼らと挨拶を交わしたラヴィーナは、それでもお気に入りの王子たちが来てくれた事に気を良くしていた。彼らのラヴィーナ見る瞳が冷めた色をしていた事に気付きもしないで。
第四、第五と、彼らの王族としての地位は母国ではそう高くはない。だがラヴィーナが婚約者となれば話は違ってくる。何しろツィオーニの王妃になることを望まれた程のラヴィーナが妻となるのだから、夫となる男の価値も高まる筈だ。
ラヴィーナはそう信じて疑いもしない。
現実のラヴィーナへの評価が、他国では悪評しかないことにラヴィーナは気付いていないからだ。
ラヴィーナの所為で、儀式の始まる時間よりも遅れて始まった言祝ぎの儀は、今までの儀式とは全く違うものとなっていた。
例年と同じなのは祭壇に用意された言祝ぎ草だけ。
それもラヴィーナにとっては、彼女を目立たせる小道具の一つでしかなかった。
本来、言祝ぎの聖女は白の衣裳を身に纏うが、祭壇の前に立ったラヴィーナの衣裳は赤色だった。それは言祝ぎの聖女の衣裳というよりは、夜会で着るドレスそのもの。当然のように、一目で高価な物と見てとれる宝飾品も身に付けている。
これには言祝ぎの儀に参列した事のある貴族や大臣たちも戸惑いを隠せない。王太子ヴァイスの両親、国王と王妃両陛下たちも表情に出さずとも、胸の内は怒りで一杯になっていた。
突然の王太子の暴走に思うところが無かった訳ではない。だが即に起きてしまった出来事を、既にミーシェを国外追放してしまった後ではどうしようもない。
グラン公爵家が狙って何かを企んでいる可能性もあるが、実際に仕出かしたのはヴァイスである。
故に王家は渋々だが、ラヴィーナの言祝ぎの聖女を受け入れる事にした。彼女が聖女であるということに、些か疑問に思うところもあるが、所詮は行事の一つだと割り切った。
例年通りに言祝ぎの儀を行い、ツィオーニまで態々足を運んでくれたシーヴァとハヌマン帝国の王子とその関係者たちを丁重にもてなしてお帰り頂こう。
国王はそう考えた。
思考がやや現実逃避気味であった事には気付かずに。現実逃避すら出来ない未来が待っているとは夢にも思わず、呑気にどうもてなすべきかと頭を悩ませていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読み下さりありがとうございます。
話が長くなってしまったので二話に分ける事にしました。
のに!
後半をウッカリ消去してましたぁ(泣)
もしかしたら最終話は今日中に投稿出来ないかも知れません。(間に合わなかったら済みません)
152
あなたにおすすめの小説
聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~
キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。
パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。
最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。
さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。
その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。
王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。
こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。
※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。
※カクヨムにも掲載中です。
才能が開花した瞬間、婚約を破棄されました。ついでに実家も追放されました。
キョウキョウ
恋愛
ヴァーレンティア子爵家の令嬢エリアナは、一般人の半分以下という致命的な魔力不足に悩んでいた。伯爵家の跡取りである婚約者ヴィクターからは日々厳しく責められ、自分の価値を見出せずにいた。
そんな彼女が、厳しい指導を乗り越えて伝説の「古代魔法」の習得に成功した。100年以上前から使い手が現れていない、全ての魔法の根源とされる究極の力。喜び勇んで婚約者に報告しようとしたその瞬間――
「君との婚約を破棄することが決まった」
皮肉にも、人生最高の瞬間が人生最悪の瞬間と重なってしまう。さらに実家からは除籍処分を言い渡され、身一つで屋敷から追い出される。すべてを失ったエリアナ。
だけど、彼女には頼れる師匠がいた。世界最高峰の魔法使いソリウスと共に旅立つことにしたエリアナは、古代魔法の力で次々と困難を解決し、やがて大きな名声を獲得していく。
一方、エリアナを捨てた元婚約者ヴィクターと実家は、不運が重なる厳しい現実に直面する。エリアナの大活躍を知った時には、すべてが手遅れだった。
真の実力と愛を手に入れたエリアナは、もう振り返る理由はない。
これは、自分の価値を理解してくれない者たちを結果的に見返し、厳しい時期に寄り添ってくれた人と幸せを掴む物語。
ラウリーは夢を見ない
ひづき
ファンタジー
公爵家に生まれたラウリーは失敗作だと両親に評価された。
ラウリーの婚約者は男爵家の跡取り息子で、不良物件を押し付けられたとご立腹。お前に使わせる金は一切ないと言う。
父である公爵は、ラウリーの婚約者の言い分を汲んで清貧を覚えさせるためにラウリーへの予算を半分に削れと言い出した。
「───お嬢様を餓死でもさせるおつもりですか?」
ないものを削れだなんて無理難題、大変ね。と、ラウリーは他人事である。
旅の道連れ、さようなら【短編】
キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。
いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
落ちこぼれ公爵令息の真実
三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。
設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。
投稿している他の作品との関連はありません。
カクヨムにも公開しています。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる