離したくない、離して欲しくない

mahiro

文字の大きさ
1 / 25

その1

しおりを挟む
朝起きて、会社に行って、日付を跨いでから家に帰ってきて、帰ってからも仕事して、いつも1、2時間眠れれば良い方で、休みなんてない。
もう会社に住み込んだ方が良いのではと何度思ったことか。


「ねみぃ……」


今日も家に着いたのは夜中の1時で、まだこれから今日の午前中に使う資料の見直しと午後の打ち合わせに使う資料のまとめをやらなくてはいけない。
気合い入れてやらないと睡眠時間が削られるだけだ、頑張るんだ俺。
バシッと思いっきり両頬を叩いた時、久しぶりに高校の頃の友人から部活の先輩たちとの飲み会の誘いのメールが届いた。
行きたい気持ちは山々だが、行けそうにないので断りのメッセージを送った。
さ、さっさとやって寝るぞ!と意気込み、目の前のパソコンに集中した。
それからその作業が終わったのは3時間後で、本日の睡眠時間も2時間だった。
それからシャワーを浴びて、歯を磨いてヨレヨレのスーツを着て会社に行った。
ついてすぐにパソコンを立ち上げ、夜中に作った資料の打ち出しと、午後の資料を準備しておかないととひとりバタバタと動いていると、出社してきた女の子たちが、朝からテンション高くオフィスに入ってきた。


「聞いた?今日芸能人の『逞生たける』がここに来るんだって」


「嘘っ!上手くすると会えるかな?」


「生で会ってみたい!」


最近、いやこの会社に就職してからというもの、テレビや雑誌などを観ていないから今の流行りや有名人など全く知らないので名前を聞いたところで分かるはずもない。
こんな所で手を止めてちゃ、他の人がコピー機使い始めるから早くやらないと。
今日もそんなこんなで、帰れたのは日付を跨いだ1時半だった。
今日もまた家に帰って仕事して、数時間だけ寝て、シャワー浴びて会社に行って、今日は朝から夜まで社外で勤務して、戻ってきたらその報告書書いて、社内に残しておいた仕事して帰る。
そう思っていた。
会社に戻ってくるまでは。
外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように中は真っ暗で、誰も残っていない。
俺の机の部分だけ電気をつけて、中へ入っていけば俺の机の上には見知らぬ資料ばかりが山のように乗せられていた。


「はぁ………」


思わず溜め息がつきたくなるのは仕方ないことだと思う。
途中で購入したコーヒーを一口飲み、席に座りいくつかの書類を横にどかし報告書を机の上に置いた。
さて、書くかとペンを握った瞬間、誰もいないはずの会議室のドアがゆっくりと開いた。


「すみません」


次に透き通った声が耳に届き、届くはずがないのに爽やかな香りがしたような気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白花の檻(はっかのおり)

AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。 その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。 この出会いは祝福か、或いは呪いか。 受け――リュシアン。 祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。 柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。 攻め――アーヴィス。 リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。 黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。 王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

ポメった幼馴染をモフる話

鑽孔さんこう
BL
ポメガバースBLです! 大学生の幼馴染2人は恋人同士で同じ家に住んでいる。ある金曜日の夜、バイト帰りで疲れ切ったまま寒空の下家路につき、愛しの我が家へ着いた頃には体は冷え切っていた。家の中では恋人の居川仁が帰りを待ってくれているはずだが、家の外から人の気配は感じられない。聞きそびれていた用事でもあったか、と思考を巡らせながら家の扉を開けるとそこには…!※12時投稿。2025.3.11完結しました。追加で投稿中。

その日君は笑った

mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。 それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。 最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。 拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。 今後ともよろしくお願い致します。

お可愛らしいことで

野犬 猫兄
BL
漆黒の男が青年騎士を意地悪く可愛がっている話。

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

処理中です...