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その18
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結局何故先輩が今日このメンバーを集めたのかは分からないまま楽しい時間は過ぎ、お開きになる予定なのだが。
「こいつ爆睡してんじゃねぇか」
望月先輩が先輩の背中を大きく揺らしたり叩いたりしても反応がなく、椅子を後ろに引いたりしてもその姿勢からずり落ちそうになるだけだ。
これは爆睡してるな、と思ってその様子を望月先輩の横で見ていたら、ふなっちが電話から戻ってきた。
「すみません、兄から連絡でした」
「藤さんか、何だった?」
「今から帰るって連絡でした」
「ふなっち、お兄さんと住んでるんだっけ?」
「そうだよ。望月先輩は彼女さん大丈夫ですか?」
「あぁ……」
ボリボリと頭を掻きながら悩む望月先輩の表情はあまり良いとは言えない。
二人の帰りを待ってる人たちがいるのだし、早めに帰した方が良いよな。
先輩はタクシーにぶちこんで一緒に帰るしかないか。
「二人とも先輩のことは俺に任せて帰って大丈夫っす!今日はありがとうございました!また時間作って会いましょう」
ふなっちは俺と先輩を交互に見てから、眉を寄せた。
それを横目で見た望月先輩がふなっちの方を叩き、ニカッと白い歯を見せて笑った。
「頼もしいな、笠原!そんじゃ、俺たちは帰るぜ。またな」
「はい、また!」
「またね、笠原君」
「おう、またな、ふなっち!」
ふなっちは俺と望月先輩とのやり取りに沿うように挨拶をして帰って行ったが、店を出るまで俺と先輩のことを心配してくれているようだった。
本当に良い奴だよな。
今度飲むことがあれば奢ってやろう。
「ほら、先輩帰りますよ」
先輩の背中を叩きながら、空いている方の手でタクシーに電話をかけた。
今から15分後に到着するようなので店の中で待たせて貰いながら先輩が起きるのを待っていたのだが、全く起きる気配がない。
ちゃんと店から出れるのかも怪しいところだな、と思いながら待つこと15分。
予定通りタクシーが到着し、お店の人にも手伝って貰いながらタクシーに乗り込ませ、その後に俺も乗り込んだ。
家の住所を伝えた所で、タクシーは動きだし、窓に寄り掛からせていた先輩の身体が、ゆっくりと俺の肩に寄り掛かってきた。
猫の毛のように柔らかい髪が頬に触れてくすぐったく感じて身を捩れば、さらに肩に重さがかかってきた。
重いなと思って先輩の方へ視線を向ければ、顔を下に向けているから表情は分からないが、小さい声で何か言っているのが聞こえた。
何だろうと思ってそちらに耳を傾けると、消えそうな声が聞こえてきた。
「飯は食えよ」
「ちゃんと寝ろよ」
「部屋は片付けろよ」
「洗濯物を溜めるなよ」
「ゴミはしっかり捨てろよ」
「身体壊すなよ」
「集まりには一回でも良いから顔出せよ」
この人は寝ながら何を言っているんだと思ってしまった。
まるで寮で生活を共にしていたときの望月先輩のように。
あ、もしかして。
「……俺が家にいない間、そんな風に思いながら帰りを待ってたんですか?」
「こいつ爆睡してんじゃねぇか」
望月先輩が先輩の背中を大きく揺らしたり叩いたりしても反応がなく、椅子を後ろに引いたりしてもその姿勢からずり落ちそうになるだけだ。
これは爆睡してるな、と思ってその様子を望月先輩の横で見ていたら、ふなっちが電話から戻ってきた。
「すみません、兄から連絡でした」
「藤さんか、何だった?」
「今から帰るって連絡でした」
「ふなっち、お兄さんと住んでるんだっけ?」
「そうだよ。望月先輩は彼女さん大丈夫ですか?」
「あぁ……」
ボリボリと頭を掻きながら悩む望月先輩の表情はあまり良いとは言えない。
二人の帰りを待ってる人たちがいるのだし、早めに帰した方が良いよな。
先輩はタクシーにぶちこんで一緒に帰るしかないか。
「二人とも先輩のことは俺に任せて帰って大丈夫っす!今日はありがとうございました!また時間作って会いましょう」
ふなっちは俺と先輩を交互に見てから、眉を寄せた。
それを横目で見た望月先輩がふなっちの方を叩き、ニカッと白い歯を見せて笑った。
「頼もしいな、笠原!そんじゃ、俺たちは帰るぜ。またな」
「はい、また!」
「またね、笠原君」
「おう、またな、ふなっち!」
ふなっちは俺と望月先輩とのやり取りに沿うように挨拶をして帰って行ったが、店を出るまで俺と先輩のことを心配してくれているようだった。
本当に良い奴だよな。
今度飲むことがあれば奢ってやろう。
「ほら、先輩帰りますよ」
先輩の背中を叩きながら、空いている方の手でタクシーに電話をかけた。
今から15分後に到着するようなので店の中で待たせて貰いながら先輩が起きるのを待っていたのだが、全く起きる気配がない。
ちゃんと店から出れるのかも怪しいところだな、と思いながら待つこと15分。
予定通りタクシーが到着し、お店の人にも手伝って貰いながらタクシーに乗り込ませ、その後に俺も乗り込んだ。
家の住所を伝えた所で、タクシーは動きだし、窓に寄り掛からせていた先輩の身体が、ゆっくりと俺の肩に寄り掛かってきた。
猫の毛のように柔らかい髪が頬に触れてくすぐったく感じて身を捩れば、さらに肩に重さがかかってきた。
重いなと思って先輩の方へ視線を向ければ、顔を下に向けているから表情は分からないが、小さい声で何か言っているのが聞こえた。
何だろうと思ってそちらに耳を傾けると、消えそうな声が聞こえてきた。
「飯は食えよ」
「ちゃんと寝ろよ」
「部屋は片付けろよ」
「洗濯物を溜めるなよ」
「ゴミはしっかり捨てろよ」
「身体壊すなよ」
「集まりには一回でも良いから顔出せよ」
この人は寝ながら何を言っているんだと思ってしまった。
まるで寮で生活を共にしていたときの望月先輩のように。
あ、もしかして。
「……俺が家にいない間、そんな風に思いながら帰りを待ってたんですか?」
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