離したくない、離して欲しくない

mahiro

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その17

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「どうせ売れてる俺と噂になれば名前が売れるとかじゃねぇの?」


知らねぇけど、と肩肘をつけて答える先輩に望月先輩の表情は呆れていた。


「自分で売れてるとか言うなよ」


「だって事実だし」


俺を挟んでのやり取りが高校でのやり取りにそっくりで思わず笑いそうになれば、望月先輩の隣に座っているふなっちと目が合った。


「そうだ、ふなっち、この間の飲み会折角誘ってくれたのに悪かったな」


「ううん、大丈夫だよ。でも、みんな笠原君に会いたいって言ってたよ。今度は笠原君の都合が合うときに集まろうね」


「そう、だな」


都合が合うとき、か。
俺の都合が合うときって何時だろう。
今日みたいに仕事を早く切り上げたときか?
休日出勤したときに予定より早く終わったときとか?
上げれば出てくるけど、現実的に難しかったりするんだよな。


「僕は急な呼び出しでも来れるから少しでもタイミングありそうなときに連絡欲しいな」


「ふなっち…」


何て良い奴なんだと感動した所で、何故か俺とふなっちの間に割り込むように望月先輩の顔が俺の目の前に現れた。
怒っているような、呆れているような表情で俺を見る望月先輩は俺の後ろを指差した。


「その面倒くさい奴どうにかしろ」


「へ?」


言われて顔を後ろに向ければ不貞腐れた表情を浮かべる先輩がいた。
この短時間に何があったんだ。
さっきまで普通に望月先輩と話していたじゃないか。


「どうしたんすか、先輩」


「何でもない」


「いや、何でもないって感じじゃないっすよ」


どうしたいきなり。
二人で家で過ごしていたときも高校生活を共に送っていたときもこんな風に不貞腐れたことなかったのに。
何が起きたのかと思って先輩の顔を見ていたら、呆れ果てたように望月先輩が言った。


「どうせ、こいつのことだから可愛がっていた後輩が自分との再会のときよりも俺たちとの再会した方が楽しそうで悔しいとかそんなもんだろ。あと、この飲み会を企画したのも店を予約したのも俺なのに俺よりこいつらの方にしっぽ振りやがってってとこか?」


「そんなわけないだろ?」


食い気味に否定するあたり、認めているようにしか聞こえない。
いつものポーカーフェイスも高校の頃のメンバーには通用しないようだ。


「あるね。店入ってきたときから段々テンション下げやがって」


「下がってませーん」


「あぁ、そうですか」


望月先輩にお前はこれ食えと、目の前の皿の上に枝豆の山を乗せられた。
それに手を伸ばしながら、望月先輩と先輩が言い合ってる姿を見て思う。
高校の頃の先輩は皆で集まってワイワイするよりも1人でいる方が楽なタイプで、飲み会とか嫌いそうなタイプに思えた。
そこは今も変わっていないと思うのだけど、それなのにわざわざ嫌いであろう飲み会を企画して集まった理由は何なのだろう。
久しぶり皆と会いたかったから?
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