雨音。―私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました―

入海月子

文字の大きさ
4 / 8

本気、なの?

しおりを挟む
「悪い。言い方を間違えた。瑞希、結婚してくれ」
「え?」

 ショックによる幻聴かと思った。
 私はゆっくり目を瞬く。
 それでも、その言葉は撤回されず、私たちはしばし見つめあった。息がかかりそうな距離で。

「返事は?」

 催促されて、硬直が解けた。
 それでも、頭が状況の変化についていけない。
 どん底に落とされてからの突拍子もない言葉に戸惑うばかりだ。

「け、結婚?」
「あぁ、ここにお前の名前を書けば完成する」

 伶は持ってきたポリ袋から紙を取り出した。
 それは婚姻届だった。
 『夫』の欄には伶の名前があり、『妻』の欄は空白だ。証人欄には私たちの親の名前があった。

「本気、なの?」

 まじまじとそれを見つめて、つぶやく。
 驚きすぎて、かすれ声しか出ない。
 伶が結婚すると聞いて落ち込んでいたのに、プロポーズされているのは私で、混乱する。

「冗談でこんなことするかよ。俺はもう姉弟は嫌なんだ」
「……嫌われてると思ってた」
「逆だ。お前が好きすぎてまともに見られなかった。押し倒しそうになるのをどれだけ我慢したことか……。そうしている間に、お前は家を出てしまって、俺を避けるし」
「先に避けはじめたのは伶のほうじゃない!」
「あれは……お前がかわいすぎるから、悪い……」 

 赤くなって、伶が目を逸らした。伶が赤面するところなんて見たことがない。
 それに――。

(好きって言った!? かわいすぎる?)

 信じられない思いで、伶を凝視する。
 耳のふちまで赤くなっている彼は、本当に伶なのか、疑わしかった。
 私の視線に耐えられなくなったのか、伶は手で目を覆った。
 その手を外して、彼の目を覗き込む。

「どうしていきなり結婚なの?」
「こうでもしないと、お前は姉の枠から出てこないだろ? ようやく就職して、自分で責任を取れるようになった。だからだ」

 伶はふてくされたように言う。
 そういえば、気持ちを隠そうと、ことあるごとに姉を強調していたかもしれない。
 伶がまたまっすぐに目を合わせてきた。

「瑞希、好きだ。結婚してくれ」

 直球の言葉。誤解しようのない台詞。
 それが胸にすとんと落ちてくる。
 その真剣な瞳に促されて、私は口を開いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

契約が終わったら静かにお引き取りくださいと言ったのはあなたなのに執着しないでください

紬あおい
恋愛
「あなたとは二年間の契約婚です。満了の際は静かにお引き取りください。」 そう言ったのはあなたです。 お言葉通り、今日私はここを出て行きます。 なのに、どうして離してくれないのですか!?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...