10 / 36
10.剣術大会
しおりを挟む僕が知る限りの最初のイベントがやってきた。
この学園では1年に1回、剣術大会というものがある。
学年は関係ないが、体重によって軽量級、中量級、重量級の3つに分けられる。
使う剣は本物だが、参加者は試合中は特殊なシールドが張られるため、剣が刺さっても実際に怪我をすることはない。
そして各階級の優勝者には、学園側が可能な限りでその者の望みを叶えるという報酬付きだ。
ゲームでは、エリスが軽量級で優勝して、その褒美に王子とのデートを申し込む。
そこで2人は距離を詰め、ノエルを排除するための断罪に向けての本格的な準備が始まる…。
エリスが剣術が強いというのは意外であるが、それもあってコーネル侯爵はぜひにでも引き取りたいということになったのだ。
エリスはもともとコーネル侯爵の妾の子である。
孤児院に捨てられたが、その美貌と剣の才能でみるみる頭角を現し、コーネル家の失脚してしまった跡取りの代わりにと改めてコーネル侯爵の養子になったのだ。
ゲームでは才能ゆえにあまり鍛錬している様子はなかったが、あくまでここは現実であり実際のところはわからない。
良い子ぶる発言が苦手なのもあってやっぱり僕は好きになれないけど、僕にゲームでは描写されてなかった厳しい教育があったように、彼は彼なりにいろいろと大変だったのかもしれないな。
だがそれとこれとは別だ。
断罪から一歩でも遠ざかりたい僕は少しでも望みをかけてエリスの相手が勝ってくれないかと願ってしまう。
ちなみに僕が本気で参加したら優勝できる可能性は高いが、不正をしたと疑われて断罪理由の1つにされるのが目に見えている。
キーンッガッガッ
現在そのエリスは決勝の試合の真っ只中だ。
僕は会場袖の目立たないところで、試合の行方を見守っていた。
白熱した試合で、観客も盛り上がっているのが伝わってくる。
(お願い…エリスが勝ちませんように…)
負けを祈るなんて不謹慎とは思いつつ、両手を組み合わせて胸のところに押し当て、ぎゅっと目を瞑る。
ガキーーンッ
一際大きな音が鳴って、気づいたときには弾き飛ばされた剣がこちらに飛んで来ていた。
反応が遅れており、なにしろ生身である。絶望的な状況に運が悪ければ死ぬかも…と思った瞬間。
キーンッ
「あ…」
飛んで来た剣を無駄なく剣で弾き返したのは、いつのまにか隣にいたレオン王子だ。
「…大丈夫か?」
「はい…ありがとうございます」
祈るのに必死だったなんて恥ずかしくて、思わず顔を伏せる。
まもなく会場では歓声が湧き上がった。
どうやら剣を弾き飛ばしたのが決定打となり、エリスが勝利したのだ。
ある程度わかっていたこととは言え、絶望感が押し寄せてきて顔を取り繕えない。
そんな僕を王子は静かに見下ろしている。
「そんなにブライアンに勝ってほしかったのか?そういえばさっきも必死に祈っていたように見えたが」
「いえ。…エリス、すごい戦いでしたね」
王子はそれには答えず、悩むような素振りを見せた後に口を開いた。
「…あの相手もおまえが褒美を与えている駒なのか?」
「褒美…?いえ、そのようなことは…」
試合会場の真ん中で喜ぶエリスと悔しがるブライアンをなんとなしに眺める。
「……ほんとにそういう風に思い通りに事が進めば楽なんでしょうね…」
思わず漏れた声に気が緩んでいることを自覚してハッとなる。
つぶやくような小さな声だったが王子に聞こえてしまっただろうか。
気を引き締め、王子に向き直る。
「レオン殿下、先程は危険なところをありがとうございました。
殿下の剣に損傷はございませんか?」
レオン王子は自分が参加したら圧勝してしまってつまらない、という理由でこの大会は傍観者を決め込んでいたはずだ。
それでも王族はこうした特別な日に帯剣することを許されていた。
そんな彼の剣が万が一にも刃こぼれ等を起こしてしまっていたら…と今更ながら怖くなる。
「大丈夫だ。
例え刃こぼれがあったとしても、これは民を守るための剣だから。気にすることはない」
そういって鞘に剣を納める姿は凛々しく、思わず見惚れそうになる。
そして例え僕のためではないという意味で言ったのだとしても、僕のことを守るべき国民の1人と言ってくれたのが存外にうれしくて。
いつもよりも自然に笑みがこぼれた。
「ありがとうございます」
改めてお礼を言い、頭を下げた後僕はこの場を後にした。
結局、エリスはやっぱり褒美として1日デートを希望した。
ただ、予想と違ったのは王子側が、危険を回避するため護衛付きの王宮案内と2人きりのティータイム(こちらも護衛付き)ならという条件を出したことだ。
(ゲームでは親密度が高ければ確かお忍びで城下町に行き仲を深めていたはず…)
普段一緒にいることが多そうなのに親密度はそれほどなのだろうか。
不思議に思いつつも、2人の仲の進展に時間がかかっていることは僕にとって好都合だ。
今までの自分の行いは全くの無駄ではないのだと少しでも希望を持つことができた。
1,379
あなたにおすすめの小説
悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る
竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。
子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。
ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。
神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。
公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。
それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。
だが、王子は知らない。
アレンにも王位継承権があることを。
従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!?
*誤字報告ありがとうございます!
*カエサル=プレート 修正しました。
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
耳が聞こえない公爵令息と子爵令息の幸せな結婚
竜鳴躍
BL
マナ=クレイソンは公爵家の末っ子だが、耳が聞こえない。幼い頃、自分に文字を教え、絵の道を開いてくれた、母の友達の子爵令息のことを、ずっと大好きだ。
だが、自分は母親が乱暴されたときに出来た子どもで……。
耳が聞こえない、体も弱い。
そんな僕。
爵位が低いから、結婚を断れないだけなの?
結婚式を前に、マナは疑心暗鬼になっていた。
彼はやっぱり気づかない!
水場奨
BL
さんざんな1日を終え目を覚ますと、そこは漫画に似た世界だった。
え?もしかして俺、敵側の端役として早々に死ぬやつじゃね?
死亡フラグを回避して普通に暮らしたい主人公が気づかないうちに主人公パートを歩み始めて、周りをかき回しながら生き抜きます。
【完結】囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。
竜鳴躍
BL
サンベリルは、オレンジ色のふわふわした髪に菫色の瞳が可愛らしいバスティン王国の双子の王子の弟。
溺愛する父王と理知的で美しい母(男)の間に生まれた。兄のプリンシパルが強く逞しいのに比べ、サンベリルは母以上に小柄な上に童顔で、いつまでも年齢より下の扱いを受けるのが不満だった。
みんなに溺愛される王子は、周辺諸国から妃にと望まれるが、遠くから王子を狙っていた背むしの男にある日攫われてしまい――――。
囚われた先で出会った騎士を介抱して、ともに脱出するサンベリル。
サンベリルは優しい家族の下に帰れるのか。
真実に愛する人と結ばれることが出来るのか。
☆ちょっと短くなりそうだったので短編に変更しました。→長編に再修正
⭐残酷表現あります。
冷徹茨の騎士団長は心に乙女を飼っているが僕たちだけの秘密である
竜鳴躍
BL
第二王子のジニアル=カイン=グレイシャスと騎士団長のフォート=ソルジャーは同級生の23歳だ。
みんなが狙ってる金髪碧眼で笑顔がさわやかなスラリとした好青年の第二王子は、幼い頃から女の子に狙われすぎて辟易している。のらりくらりと縁談を躱し、同い年ながら類まれなる剣才で父を継いで騎士団長を拝命した公爵家で幼馴染のフォート=ソルジャーには、劣等感を感じていた。完ぺき超人。僕はあんな風にはなれない…。
しかし、クールで茨と歌われる銀髪にアイスブルーの瞳の麗人の素顔を、ある日知ってしまうことになるのだった。
「私が……可愛いものを好きなのは…おかしいですか…?」
かわいい!かわいい!かわいい!!!
【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。
竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。
自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。
番外編はおまけです。
特に番外編2はある意味蛇足です。
【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる
ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。
・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。
・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。
・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる