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16.心配
しおりを挟む父上からの任務遂行命令によって僕は今日も夜間外出中だ。
今回は王都で起きている、なぞの自殺についての調査が任務となっている。
貴族のトップや長男が立て続けに不可解な死に方をしているのだ。
他殺とも言い難いため自殺ということになっているが、家族の話を聞いても皆自殺をするような性格でもなければ思い悩んでいた要素もない。
これ以上の死人がでないよう食い止める必要があるが、貴族の問題とあってはあまり表沙汰にはできない。
そういうことで王家勅命の任務が僕のところに来たのだ。
まずはいろいろと調査が必要そうであるが、今日はここまでにしようとクロムと解散し、学園に入る。
寮の入り口まできて、そこに人が立っていることに気づいた。
夜でも目立ってしまう僕のプラチナゴールドの髪とは違い、そのダークシルバーの髪を夜の闇に溶かしたその人物は入り口の柱に寄りかかり、静かに佇んでいた。
いろんな教育を受けた僕でも以前声をかけられるまで全く気配を感じなかった。
剣術大会のときには勢いよく飛んでくる剣を無駄のない動きでなぎ払い、乗馬ではいくら走っても疲れた様子がなかった。
そんな全く敵う気のしない王子が今寮の入り口で何をしているのだろう。
今さら隠れることはできない。
立派な校則違反を起こしており、これはもう罰を覚悟しておくしかないな。
無言で横を通り過ぎるのも失礼だろうし、かといってなんと声をかけるのが正解なのだろう…
内心困り果てながらも近づいていくと、やがて王子の目が僕をとらえた。
「ずいぶん遅い時間に用事があるんだね」
「……はい」
「何をしていたのだ」
「…それは、いくら殿下であってもお答えすることはできません。
規則を破った罰は謹んでお受けします」
ルーズヴェスト家の裏の顔を知っているのは代々、王の座を引き継ぐ者のみ。
つまり陛下と皇位継承権第1位の者のみなのだ。
知られてはいけない。
だけどこの王子相手に下手な嘘をついてもすぐにそれが事実ではないと調べ上げられてしまうだろう。
少しでも早くこの場を離れたいが、王子はゆっくりとこちらに近づいてくる。
「お前のことをもっと教えてくれ。知りたいんだ。」
(なんで…?知ってどうするの…?)
この前の乗馬の授業の時もそうだが、王子の行動が不思議すぎる。
その整いすぎた美貌が真剣な表情で迫ってくる。
9頭身だ…モデルみたいだな、と現実逃避してる僕をよそに、彼の長い指が僕の頬に添えられる。
「俺はもう噂が真実でないことを知っている」
「…!」
「以前の愚かな行為を悔やんでいる。
本当に、すまなかった」
綺麗な顔に皺を寄せ、苦しそうな表情をする王子に唖然とする僕。
(そんな、噂なんて国民の常識かと思うくらい広まってるというのに…)
彼の誠実な一面に触れ、その表情と言葉にいつもの作った顔ができなくなってしまう。
王子はそっと頬に触れたまま、ゆっくりと僕と目を合わせる。
この状況をどうにかしないとと思考を巡らせていたが、彼のあまりにも慈愛に満ちた目を見た瞬間、なぜだか泣きそうになった。
普段は何事にも興味ない、って顔をしているくせにこんな、包み込んでくれるようなそれでいて少しすがるような、そんな顔をするのはずるい。
こちらの気持ちに甘えが出てしまいそうだ。
だが僕はルーズヴェルト家と王家との固いつながりを背負っている。
ここで彼の望むままに答えるわけにはいかない。
でも。
(王子が…本当のことを知ってくれている…)
噂のおかげで静かに過ごせていると思ってはいても、やっぱりどこかでこのまま罪を被せられて断罪されてしまうのではないかとずっと不安だった。
先の見えない不安に、いっそ全部投げ出して逃げ出してしまおうかと思ったこともある。
まあルーズヴェルト家の秘密を知ってしまっている時点で、そんなことをすれば国を挙げての討伐対象となってしまうだろうが。
今まで気を張っていたのが溶かされるような感覚で、体から力が抜けそうになるのをなんとか耐える。
顎を掴まれたままで、王子は僕の頬を親指でスリスリしてる。
僕は何も答えられないまま、視線をうつむかせた。
瞳が揺れてしまっていたのを王子に気づかれてしまっただろうか。
「ノエル……」
「………」
「…無理強いするつもりはない。
俺はおまえが心配なんだ」
「…っ」
心配……
クロム以外で、僕自身のことを心配してくれる人がいるとは。
それもこの国の王子が。
恐る恐る顔を上げて王子の顔を見ると、想像以上に真剣な顔でこちらを射抜くように見つめていた。
整った美貌の中にある意志の強そうな切長な目。
男の自分でも惚れ惚れするような鍛えられた体。
全てが完璧なこの王子は、自分とは住む世界が違うのだ。
影の中に生きる自分が頼っていい相手ではない…
泣きそうになるのをぐっと耐え、王子の体をそっと押し返す。
「ありがとうございます…
殿下のような素敵な方が国の中枢にいれば、この国は安泰ですね」
なるべく感情が出ないよう、口調にも注意する。
いつもの作り笑顔を王子に向けると、納得しない顔でため息をついて王子も僕の顎から手を離した。
「言っとくが俺は諦めないからな」
手が離れたことで油断した僕の不意をついて、王子が唇にキスをしてきた。
後頭部に回された手で上を向かせられつつ、少し屈んだ王子に建物の壁に追い込まれるような形で唇と唇を合わせられる。
「なっ!?」
体はすぐに離されたが、先日に引き続き僕の頭の中はすぐには整理がつかない。
思わず口を手で覆って、王子を見上げる。
「キスしたくなるような顔してるお前が悪い」
!?!?!?
こちらも大概テンパってるが、当の王子も照れたように横を向いてなぜかこちらのせいにしてくる。
そんな普段絶対に見れないような王子の姿に、これ以上一緒にいたらダメな気がする、とよくわからない危機を察した僕は勢いよく頭を下げた。
「お、おやすみなさいませ、殿下!」
そうして足早にその場を後にした。
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