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17.忘れ物
しおりを挟む結局次の日以降も規律違反に関するお咎めが来ることはなく、どうやら王子は黙ってくれているらしい。
教室の自分の席で朝のホームルームが始まるまでぼーっとしていると、不意に教室内が騒がしくなる。
「レオン様だ!うわ~近くで見ると破壊力すご…」
「今日はエリスは一緒じゃないんだね」
「話しかけに行っちゃう?きゃーでも緊張しちゃう~」
容姿に自信のありそうな子たちがヒソヒソと、と言っても本人にも聞こえてるだろうトーンで話合っている。
そんな大注目の王子は、なぜか僕の方に歩いてきた。
「ルーズヴェルト、ちょっといいかい」
「…はい」
重々しい雰囲気でこちらに来る王子。
これは先日の無断外泊の件が実は審議にかけられていてその罰が決まったとかなのだろうか…
せめて公衆の面前ではなく、ひっそりとやってほしかった…
そんなことを思いながら失礼のないように立ち上がったのだが。
「次の授業で使う辞書を忘れてきてしまったので貸してほしくてね」
「…はい…?」
思いがけない言葉に、思考が止まる。
え、なんて言った?この人?
このなんでも完璧です、欠点なんてありませんみたいな人が忘れ物?そしてそれを僕に借りにきた?
「えっと…」
「君が持ってる辞書を貸してほしいんだよ。お願いできないか?」
聞き間違いかと言いよどんでいたらもう一度言われてしまった。
どうやら本気らしい。
僕がもたもたしている間に、いつの間にか近くに来ていたかわいい感じの子が王子に辞書を差し出していた。
「レオン様、こんな腐ったやつの物なんて借りずに、僕の辞書をぜひ使ってください」
王子は柔らかい笑みを崩さないまま、興味なさそうに差し出された辞書を一瞥する。
「うーん。俺がお願いしてるのはノエルなんだけどな。
それとも君は俺に自分のを使えと指図するのかい?」
「…っ、い、いえ…失礼いたしました…っ」
普段と同じ柔らかい笑顔のはずなのに、すごくドス黒いオーラを感じる…
というかなんで僕?その子にすっごい睨まれたんですけど。
これはとてもエリスに借りないんですか?なんて聞ける状況ではない。そもそもエリスと王子の親密度をあげたくないので僕もそれは望まないし。
「ノエル?」
「…!は、はい…どうぞ…」
「ん、ありがとう。また返しに来る」
そう言って僕の頭をサラッと撫でて、周りの悲鳴を気にする素振りもなく王子は去っていった。
(…もうそれ差し上げますから返しに来るなんてやめて…)
返しに来るときにも同じような状況を繰り返されたらたまったもんじゃない。
王子がいなくなって騒然とするクラス内で、僕は数人の貴族に取り囲まれていた。
「どんな汚い手を使ってレオン様に取り入ったのかしらないけど、あんまり調子乗んなよ」
「身分だけ良くてもお前じゃ釣り合ってないんだよ」
「……」
何も反応しない僕に飽きたのか、それとも単にホームルームが始まる時間が近いからか言いたいことを言ったら去っていく。
「お前はどこまで行ったって薄汚い奴だってことに変わりはないんだよ」
去り際に放たれた言葉が思いのほか突き刺さった。
そんなことくらい、言われなくたって分かってる。
でも……
噂が事実じゃないと分かってると言ってくれたことで自分でも気づかないうちに少し浮かれていたのかもしれない。
確かに、人を使って悪事を働いてるとか見返りに体を使ってるとかそういうのはないけど。
でも裏の任務として人に言えない仕事をしていたり、時には人を殺したり…
そんな自分の薄汚れた部分からは目を逸せないのだと突きつけられたような気がした。
「ノエル様、この件どうもおかしな点が多いように思いますね」
その夜、例の件に関して調査を進めている僕たちは思うように進まないことに頭を悩ませていた。
「うん、ここまで来ると自殺じゃないことは確かなんだけどね。その先を探れば探るほど不可解なことが多いな…」
「慎重に行かないとですね…」
「夜しか動けないのが歯痒いな
クロムは昼間も動いてくれていてありがとう」
「いえ、ノエル様が屋敷にいないので私も暇なんですよ」
「ふふ、頼りにしてるよ」
「ええ。ではまた2日後に。
おやすみなさいませ、ノエル様」
「おやすみ」
クロムは音もなく去っていき、僕も歩き出す。
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