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第二部 第二章 おっさんずパーティー
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「セーラという女性が、あんたのところの店で買い物してないか? 歳は二〇代の肩まである茶色いストレートヘアのオレと同じドワーフの女性だ。右眼の下に泣き黒子がある子なんだが。同世代の奴らとパーティーを組んだ女戦士なんだ」
グレイが言ってる女性には、あまり見覚えがなかった。
これでも丁稚奉公から始め、商人として二〇年以上は働いていたので、人の顔を覚えることは得意な方だが、グレイの言う特徴を持つドワーフ女性には会ったことはなかった。
「ちょっと、覚えがないな。その子がどうしたんだ?」
俺がグレイに問い返すと、ちょっとだけ顔を曇らせて俯いてしまう。しばらく、無言だったが、やがて意を決したように顔を上げたグレイであった。
「助けてもらった上で恥を更に晒すようだが、実はそのセーラってのは、オレの娘でな。オレに隠れて冒険者になってやがって、三年目で中堅であるDランクに昇格してやがったんだ。たまに帰りが遅い日もあったが、酒場の給仕の仕事をしてるとばかり思ってたんで、まさかダンジョンに潜ってたとは思いもしなかったんだ」
「娘が黙って冒険者にか。それは、心配だろう。それにしても、なんでまた娘は危険な冒険者になんか……」
俺の問いかけが、更にグレイの表情を曇らせていく。
「実はな。オレが冒険者稼業でこさえた借金のせいだ。そのせいで、嫁は早死にしてモローの嫁に娘を預けて潜り続けたが、それでも娘には人並みの生活を送らせてやれないでいる」
グレイほどの実力を持ちながらも、冒険者として喰えないはずが無いと思ったが、彼らは回復魔法アレルギーだったことを思い出していた。
回復魔法アレルギーは魔素による回復効果に強い拒絶反応を示し意識が消失する奇病で、怪我、病気等は回復ポーションしか手段がなくなるのだ。
そのため、傷や病気などを回復するために、その都度ポーションが必要となるため、ポーション代がパーティーの資金繰りを圧迫しているようだ。
「そうか、ポーション代の負担がデカいんだな。それで、娘は酒場の給仕ではなく、父親と同じ冒険者を選んだと?」
「ああ、そうみたいだ。冒険者をしているのを知った時に娘を問い詰めたが、『おとうさんがお金を使うから、お母さんを助けられなかった』って一言を言われて何も言えなくなっちまってなぁ。幸い、娘にはまだアレルギー反応が出てないが、遺伝性の回復魔法アレルギーがいつ発症するか分からねぇと思うと、娘にはまっとうな職業に就いて欲しいんだわ」
回復魔法アレルギーは遺伝すると言われており、研究も進められているが、発症のメカニズムまでは、まだ解明されておらず、突如として発症すると言われていた。
グレイはその発症を心配して、娘を冒険者稼業から引退させたいと思っているらしい。
「それで、娘を探して、この階層に来てたのか?」
「ああ、冒険者ギルドで確認したら、娘の所属するパーティーは、しばらくこの階層で魚人狩りを行っているらしくてな。まずは一番多く魚人がいる、この集落にきてみたが……。あいつら、倒した冒険者の装備を身に着けて、溺れた冒険者のまねをして、こちらをおびき寄せやがった」
グレイが足元に転がっていたドロップ品化を待つ、魚人の死体を蹴飛ばしていた。
娘を探して気がはやったせいで、魚人の罠に気付けなかったのが、よほど悔しかったらしい。
「そうか……。今日はうちもこの地底湖エリアで探索するしから見かけたら、声を掛けて親父さんが探していたことを伝えるよ。それに店を開いている時に見かけたら、それとなく病気のことを伝えておく」
「すまねぇな。恩に着る。オレら貧乏パーティーには返せる物は何もねえが……」
「いいってことさ。娘を大事に思うのは父親の役割だろうしな。それに今日は冒険者として、いい勉強をさせてもらった。だが、しかし冒険者稼業でこさえた借金はどうする? このまま続けても膨らみ続けるだけだと思うが」
グレイの娘が冒険者になった根本的な理由は、親父であるグレイ自身が冒険者稼業で作った借金に起因しているため、そこを解決せねば、娘は冒険者廃業を納得しないであろうと思われた。
「分かっちゃいるんだがな。オレらは冒険者一筋で生活してきて、学も手に職もねぇしな。これしか、金を稼ぐ方法を知らんのだ……。別に稼げる仕事があるならまだしも……」
グレイたちは長く冒険者稼業を続けたことで、堅気の仕事をするためのスキルを全く持ち合わせておらぬようで、冒険者以外の仕事は全くできないと漏らしていた。
だが、続ければ赤字が増して、そのうちどうにもならなくなる日を迎えなければならないのは明白だ。
グレイたちの苦境を聞かされて、少しばかり考え込んでいると、俺の服の袖を引っ張る者がいた。
振り返ると、袖を引っ張ったのは、モローの治療を終えたメリーであった。
そして、耳を貸せと言わんばかりのジェスチャーをしている。
『ねぇ。グレイズさん。この『おっさんず』の人たちって、冒険者としてはかなりの実力を持っているわよね?』
『ああ、中層階を回復役なしでうろつける人たちだからな。実力はかなりの物だと思うぞ。グレイもデイビスも魚人を瞬殺だったからな。回復魔法アレルギーさえなければ、回復役をパーティーに迎え、Sランクパーティーになってたかもしれん』
『そうよね。だったら、うちの販売員として雇わない? 彼らほどの実力なら、万が一、お店に強盗に入られても撃退できそうだし、低層階の行き来なんて朝めし前でしょ。それだけの実力あるなら、私たちが荷運びして、彼らに店の切り盛りをお願いするってこともできかと思うの』
『だがな。グレイは冒険者一筋だぞ。冒険者として培った知識を使っての店頭販売くらいはできても、金勘定ができるとは思えないぞ』
『だからこそ、娘さんも含めてスカウトするのよ。酒場で給仕をしてたなら、ある程度は客あしらいもできるだろうし、お金の勘定は、私が教え込めば万事解決よ。それに、グレイさんたちも、深く潜らずに低層階への行き来であれば、ポーション使用頻度も低くなるだろうし、日当も一人一五〇〇〇ウェルで月の半分は開く予定だから、月で二二万五〇〇〇ウェルの報酬ね。中堅どころでも納得できる稼ぎになると思うけど』
メリーはグレイとその仲間+娘のセーラを雇って、俺たちの代わりに店番をしてもらいたいと思っているようだ。
販売は最低でも半日以上の時間を取られている以上、専用の店番がいてくれた方が効率的であることは理解していたが、目の前の『おっさんず』を販売員にスカウトしようとは思ってもみなかった。
『彼らは借金で苦しんでるぞ? それでも、店を任せられるのか?』
俺が唯一の懸念を感じている事項をメリーに伝えた。
すると、メリーはニコリと笑って耳打ちを返してくる。
『借金を真面目に返そうとする人は、返せるアテがある限り、無茶はしない人よ。借金していて悪さする人は返せるアテを失った人か、元から返す気がない人ね。彼らは返そうと必死になってるのだから、借金は私が連帯保証人になってもいいわ。私もまだ膨大な借金がグレイズさんに残っていて信用度は無いかもしれないけどね』
『あれはメリーの商才に投資したってことで、話は付いているだろうが。借金じゃないと言ったはずだ』
『だったら、『ブラックミルズ商店街連合会代表』として、『おっさんず』及び、娘セーラの販売員スカウトを共同経営者のグレイズさんに提案させてもらうわ』
商売が絡むとメリーの脳味噌はフル回転状態のようで、ここが経営者だったメリーと、雇われ商人だった俺との違いなのかと感じている。
『ああ、もう分かった。彼らにスカウトの打診だけはしてみよう。相手も事情があるしな。どうなるか分からんが言うだけは言ってみる。それにしても、言い出したら聞かないのは親父さんそっくりになってきたな』
メリーの猛プッシュに押し切られる形であったが、よくよく考えれば、彼らも年齢的には冒険者としてはすでに佳境に入り始めており、廃業後の仕事をって考えれば、今回のうちからの申し出はわりと美味しい話であるかもしれない。
メリーの提案に乗ることにした俺は、『おっさんず』のリーダーであるグレイに先程の話をすることにした。
グレイが言ってる女性には、あまり見覚えがなかった。
これでも丁稚奉公から始め、商人として二〇年以上は働いていたので、人の顔を覚えることは得意な方だが、グレイの言う特徴を持つドワーフ女性には会ったことはなかった。
「ちょっと、覚えがないな。その子がどうしたんだ?」
俺がグレイに問い返すと、ちょっとだけ顔を曇らせて俯いてしまう。しばらく、無言だったが、やがて意を決したように顔を上げたグレイであった。
「助けてもらった上で恥を更に晒すようだが、実はそのセーラってのは、オレの娘でな。オレに隠れて冒険者になってやがって、三年目で中堅であるDランクに昇格してやがったんだ。たまに帰りが遅い日もあったが、酒場の給仕の仕事をしてるとばかり思ってたんで、まさかダンジョンに潜ってたとは思いもしなかったんだ」
「娘が黙って冒険者にか。それは、心配だろう。それにしても、なんでまた娘は危険な冒険者になんか……」
俺の問いかけが、更にグレイの表情を曇らせていく。
「実はな。オレが冒険者稼業でこさえた借金のせいだ。そのせいで、嫁は早死にしてモローの嫁に娘を預けて潜り続けたが、それでも娘には人並みの生活を送らせてやれないでいる」
グレイほどの実力を持ちながらも、冒険者として喰えないはずが無いと思ったが、彼らは回復魔法アレルギーだったことを思い出していた。
回復魔法アレルギーは魔素による回復効果に強い拒絶反応を示し意識が消失する奇病で、怪我、病気等は回復ポーションしか手段がなくなるのだ。
そのため、傷や病気などを回復するために、その都度ポーションが必要となるため、ポーション代がパーティーの資金繰りを圧迫しているようだ。
「そうか、ポーション代の負担がデカいんだな。それで、娘は酒場の給仕ではなく、父親と同じ冒険者を選んだと?」
「ああ、そうみたいだ。冒険者をしているのを知った時に娘を問い詰めたが、『おとうさんがお金を使うから、お母さんを助けられなかった』って一言を言われて何も言えなくなっちまってなぁ。幸い、娘にはまだアレルギー反応が出てないが、遺伝性の回復魔法アレルギーがいつ発症するか分からねぇと思うと、娘にはまっとうな職業に就いて欲しいんだわ」
回復魔法アレルギーは遺伝すると言われており、研究も進められているが、発症のメカニズムまでは、まだ解明されておらず、突如として発症すると言われていた。
グレイはその発症を心配して、娘を冒険者稼業から引退させたいと思っているらしい。
「それで、娘を探して、この階層に来てたのか?」
「ああ、冒険者ギルドで確認したら、娘の所属するパーティーは、しばらくこの階層で魚人狩りを行っているらしくてな。まずは一番多く魚人がいる、この集落にきてみたが……。あいつら、倒した冒険者の装備を身に着けて、溺れた冒険者のまねをして、こちらをおびき寄せやがった」
グレイが足元に転がっていたドロップ品化を待つ、魚人の死体を蹴飛ばしていた。
娘を探して気がはやったせいで、魚人の罠に気付けなかったのが、よほど悔しかったらしい。
「そうか……。今日はうちもこの地底湖エリアで探索するしから見かけたら、声を掛けて親父さんが探していたことを伝えるよ。それに店を開いている時に見かけたら、それとなく病気のことを伝えておく」
「すまねぇな。恩に着る。オレら貧乏パーティーには返せる物は何もねえが……」
「いいってことさ。娘を大事に思うのは父親の役割だろうしな。それに今日は冒険者として、いい勉強をさせてもらった。だが、しかし冒険者稼業でこさえた借金はどうする? このまま続けても膨らみ続けるだけだと思うが」
グレイの娘が冒険者になった根本的な理由は、親父であるグレイ自身が冒険者稼業で作った借金に起因しているため、そこを解決せねば、娘は冒険者廃業を納得しないであろうと思われた。
「分かっちゃいるんだがな。オレらは冒険者一筋で生活してきて、学も手に職もねぇしな。これしか、金を稼ぐ方法を知らんのだ……。別に稼げる仕事があるならまだしも……」
グレイたちは長く冒険者稼業を続けたことで、堅気の仕事をするためのスキルを全く持ち合わせておらぬようで、冒険者以外の仕事は全くできないと漏らしていた。
だが、続ければ赤字が増して、そのうちどうにもならなくなる日を迎えなければならないのは明白だ。
グレイたちの苦境を聞かされて、少しばかり考え込んでいると、俺の服の袖を引っ張る者がいた。
振り返ると、袖を引っ張ったのは、モローの治療を終えたメリーであった。
そして、耳を貸せと言わんばかりのジェスチャーをしている。
『ねぇ。グレイズさん。この『おっさんず』の人たちって、冒険者としてはかなりの実力を持っているわよね?』
『ああ、中層階を回復役なしでうろつける人たちだからな。実力はかなりの物だと思うぞ。グレイもデイビスも魚人を瞬殺だったからな。回復魔法アレルギーさえなければ、回復役をパーティーに迎え、Sランクパーティーになってたかもしれん』
『そうよね。だったら、うちの販売員として雇わない? 彼らほどの実力なら、万が一、お店に強盗に入られても撃退できそうだし、低層階の行き来なんて朝めし前でしょ。それだけの実力あるなら、私たちが荷運びして、彼らに店の切り盛りをお願いするってこともできかと思うの』
『だがな。グレイは冒険者一筋だぞ。冒険者として培った知識を使っての店頭販売くらいはできても、金勘定ができるとは思えないぞ』
『だからこそ、娘さんも含めてスカウトするのよ。酒場で給仕をしてたなら、ある程度は客あしらいもできるだろうし、お金の勘定は、私が教え込めば万事解決よ。それに、グレイさんたちも、深く潜らずに低層階への行き来であれば、ポーション使用頻度も低くなるだろうし、日当も一人一五〇〇〇ウェルで月の半分は開く予定だから、月で二二万五〇〇〇ウェルの報酬ね。中堅どころでも納得できる稼ぎになると思うけど』
メリーはグレイとその仲間+娘のセーラを雇って、俺たちの代わりに店番をしてもらいたいと思っているようだ。
販売は最低でも半日以上の時間を取られている以上、専用の店番がいてくれた方が効率的であることは理解していたが、目の前の『おっさんず』を販売員にスカウトしようとは思ってもみなかった。
『彼らは借金で苦しんでるぞ? それでも、店を任せられるのか?』
俺が唯一の懸念を感じている事項をメリーに伝えた。
すると、メリーはニコリと笑って耳打ちを返してくる。
『借金を真面目に返そうとする人は、返せるアテがある限り、無茶はしない人よ。借金していて悪さする人は返せるアテを失った人か、元から返す気がない人ね。彼らは返そうと必死になってるのだから、借金は私が連帯保証人になってもいいわ。私もまだ膨大な借金がグレイズさんに残っていて信用度は無いかもしれないけどね』
『あれはメリーの商才に投資したってことで、話は付いているだろうが。借金じゃないと言ったはずだ』
『だったら、『ブラックミルズ商店街連合会代表』として、『おっさんず』及び、娘セーラの販売員スカウトを共同経営者のグレイズさんに提案させてもらうわ』
商売が絡むとメリーの脳味噌はフル回転状態のようで、ここが経営者だったメリーと、雇われ商人だった俺との違いなのかと感じている。
『ああ、もう分かった。彼らにスカウトの打診だけはしてみよう。相手も事情があるしな。どうなるか分からんが言うだけは言ってみる。それにしても、言い出したら聞かないのは親父さんそっくりになってきたな』
メリーの猛プッシュに押し切られる形であったが、よくよく考えれば、彼らも年齢的には冒険者としてはすでに佳境に入り始めており、廃業後の仕事をって考えれば、今回のうちからの申し出はわりと美味しい話であるかもしれない。
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