133 / 232
第二部 第十六章 ブラックミルズ流悪だくみ
3
しおりを挟む「準備はいいか? ちょっと激しく動くから息は止めておいた方がいいぞ」
「はい、わたくしのことは気にせずに、グレイズ様のタイミングで動いて貰えれば結構です」
「分かった。ヨシュア、お前たちも手伝いを頼む。まずは俺たちが生還してきていると知っているマリアンの身柄を押えるぞ。共闘の約束はしたが、あっちの自由にやらせるとは言ってないからな」
「承知。マリアンと繋がりのあるメイドたちにもご同行願いましょう。あれから見張ってましたが、マリアンは帳簿を手に入れていないため、まだ宰相サイドと連絡はとってないようです」
「それはよかった。宰相に知られると色々と厄介だからな。よし、行くとするか」
幽鬼の外套を纏ったメラニアを両手で抱えると、ヨシュアたちとともに目の前にあるアルガドの屋敷に気配を消して侵入していった。
マリアンの部屋はすでにヨシュアたちによって把握されていた。
アルガドの住む屋敷の中でも二番目に大きな部屋を与えられており、二階の角に部屋がある。
その部屋に音もなく侵入をすると、眠っていたマリアンをメラニアが揺すって起こしていた。
「う、う~ん。誰? 私を起こすのは…………!? ひぃい――んぐっ」
口の端から血に偽装した絵の具を付けたメラニアを見たマリアンが驚きのあまりに声を出そうとしていたので、とっさに口を塞ぐ。
『マリアン、共闘すると言ったが、状況か変化した。悪いがお前にはここで退場してもらうぞ』
俺は手で口を塞いだマリアンの耳元で声を潜めて喋る。
『アルマを死んだことにしてくれた件は感謝しとくが、メラニアの婚約破棄の件、許すわけにはいかないからな』
メラニアの件を持ち出すとマリアンが身を固くしていた。
身に覚えがあり過ぎるのだろう。
何か抗弁をしたそうにしているが、ここで声を出させるわけにはいかないので、当身を喰らわせて気を失わせる。
「グレイズ様、マリアン様に手荒なことは……」
「大丈夫だ。気を失わせただけで、怪我はさせていない。それにしても、このマリアンはメラニアをいたぶったやつなのに心配をするのか?」
「理由があってのことでしょうし……」
メラニアは俺以上のお人よしな女性であった。自分を苦しめた相手すら心配できる彼女は本当にいい女だと思える子であった。
「メラニアはいい子だな。だけど、怒るときは怒らないとダメだぞ。俺に対しても仲間に対しても我慢しちゃいかんからな。言いたいことを言い合えるってのが『本当の仲間』だしな」
「グレイズ様に怒るなんて……。でも、言いたいことは我慢しないようにします。だから、今言いたいことを言わせてもらいますね。グレイズ様、わたくしのために怒ってくれてありがとうございます」
メラニアがぺこりと俺に対して頭を下げた。
「ああ、メラニアはもっとワガママを言っていいと思うぞ」
俺は小柄なメラニアの頭をポンポンと撫でると、気を失ったマリアンをヨシュアに引き渡した。
「マリアンを神殿に送り込んでおいてくれ。俺とメラニアはアルガドに挨拶してから帰る」
「承知しました。部下と合流して撤退します」
すでに屋敷内に侵入したヨシュアの手下によって、マリアンと繋がりのあるメイドたちも捕縛されて連れ出されているはずだ。
ヨシュアを別れると、屋敷の一番大きな部屋で寝ているアルガドのもとにそっと忍び込んでいく。
潜入する前からアウリースによってかけられていた魔法の光によって、俺たちの姿はゴーストそのものに見える格好になっている。
そして、アルガドの耳元で恨み言を囁いていった。
『お前のせいで……。お前のせいで……。仲間も、メラニアも……全部、失った。俺の命までも……。お前のせいで……』
『わたくしをはめて、貶めて、命までも……』
耳元でささやき始めると同時にアルガドが眠りから覚醒する様子を見せていた。
「……んんっ、誰だ。わたしの耳元で囁くのは……うるさいぞ……」
『おまえのせいだ……。アルガド・クレストン。お前のせいで俺は……』
目覚めさせるように耳元で囁く声を大きくしていった。
「ん、んん…………!?」
半分寝ぼけていたアルガドが目を開けたので、死人のメイクを施した俺とメラニアが顔を近づけた。
やがて、目の焦点があったアルガドの顔色が真っ青に変化していた。
「ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!! おま、おま、お前ら死んでるはずだろ」
豚の泣き声に似た悲鳴を上げたアルガドがベッドから転げ落ちていた。
「お前のせいで死んだ。お前のせいだ。仲間を失ったのも、自分の命をうしなったのも……返せ、俺の命」
「わたくしをはめて、貶めて、命を失わせたのは貴方……。返して……返して……」
俺たちはゴーストらしく抑揚を抑えて、同じフレーズを繰り返し、後ろめたい気持ちがあるアルガドを怯えさせていく。
案の定、アルガドは俺たち二人の姿を見て、腰を抜かしたようでズリズリと壁際に向けて這いずっていた。
「違うっ! 違うんだ! お前ら、わたしを祟るのは筋違いだぞ! わたしは別にお前らを殺したわけじゃないんだ。お前らを殺したのはノーライフキングだろ! ふひぃいいいいい!!」
俺たちの姿が余りにもゴーストらしかったらしく、アルガドは鼻水と涙を流しながら怯えていいわけを口にしている。
その姿を見て、もっと脅す必要があると思った俺はポケットから出した小石で部屋を薄暗く照らしていたランプを割っていった。
「ひぃいいいいいいいいいいいいいっ! 違うんだ! わたしではない! わたしではないんだっ!」
ランプが弾け飛んだことで、アルガドの股の間から水分が漏れ出していた。
どうやら恐怖のあまりに失禁をしてしまったらしい。
「お前だ。お前が俺たちを殺した。この恨み、必ず晴らす。すでにお前の大事な者の魂はすでに頂いた。これから、夜は眠れると思うな。アルガド・クレストン」
「わたくしも恨みます。わたくしの命を返して……お願い、返して……」
壁際に追い詰められたアルガドに向けて顔を近づけていく。
「ひぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!! くるなぁ! くるなぁああああああああ!!!」
這いずって逃げようとしたアルガドであったが、恐怖によって脳が思考停止に陥ったようで、カクンと頭が垂れると気絶して床に倒れ込んでいった。
「ちょっとやりすぎましたかしら……」
気絶したアルガドを見て、メラニアが心配そうな顔をしていた。
人間は恐怖を感じすぎると、脳がそれ以上の情報処理を停止させ、意識を落とすため簡単には死にはしない。
「大丈夫。これくらいじゃ、死ぬことはないさ。さて、衛兵も来ているみたいだし、あとはこれを置いて立ち去るとしよう」
俺は背負ってきた豚の頭をアルガドのベッドに乗せ、その額に短剣を突き立てると、メラニアを再び抱えて窓から屋敷を後にしていった。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。