155 / 232
日常編 メラニアの召喚術
3
しおりを挟む隣の部屋から戻ってきたメラニアは、足首までの丈の長い赤と白の法衣を纏い、右手には綺麗な宝玉がいくつもはめられたブレスレットをはめられていた。
「あの、似合っていますでしょう?」
大貴族となってからも日常の衣服は華美な物を着ず、質素な服を着ているため、冒険者の装備を纏ったメラニアは駆け出しの召喚術士と言われれば、一〇人中の一〇人が冒険者だと思う格好をしている。
ただ、よく見れば挙措に貴族らしさが垣間見えるので、気が付く人は気が付くだろうが。
メラニアが養女として育てられたヴィーハイブ伯爵家は没落しかけていたため、生活は質素であったことも影響しているのだろうが、彼女はあまり派手な生活を好まない性質を見せている。
「ああ、似合っているぞ。どっからどう見ても駆け出し冒険者にしか見えないな」
「背中の文字がもっとよく見えた方がいいですかね? 見えます? グレイズ様?」
くるりと回って背中を見せたメラニアの法衣には例の文字がバッチリと見えている。
ちなみにメラニアの養父であったヘクトル・ヴィーハイブは王であるジェネシスにより、ブラックミルズ以外のブラックミルズ公爵家の領地の総代官に任じられており、領地からあがる資産の管理を任せることになっていた。
これは、公爵位の就任にあたって養家への恩返しがしたいとの願いをジェネシスが認めていたのだ。
養父母は最初、自分たちがメラニアとアルガドの婚約を蹴らなかったことを理由にブラックミルズ公爵家の総代官職を固辞していたが王であるジェネシスの命もあり就任を許諾していた。
メラニアが独立した爵位を得たことで、直系の後継者のいないヴィーハイブ家当主ヘクトルは親族から養子をもらい、ブラックミルズ公爵家の陪臣家となることも決定している。
意外と腐った貴族の多い中、メラニアの養父母はまともな部類の貴族であるようだ。
王国の一地方を丸ごと領有することになったブラックミルズ公爵家のため、税収は莫大なものになるだろうが、メラニア本人はあまり金に興味がないので、税収の大半は領地振興策に投じられると思われた。
あくまで俺への褒賞の代わりに爵位をもらったということなので、自分のために使う気はほとんどないと自分で言っている。
冒険者になるのも、大貴族として領民に食べさせてもらうのは心苦しいという理由を付け、自らの生活費を稼ぐ意味もあった。
そんなメラニアが俺の嫁を宣言するような文言を背中に背負って喜んでいるのを見ると、自分が普通の男だったらなぁと思ってしまう。
神様候補なんて異形の力がなくて普通の男なら、さすがの俺も二つ返事で結婚を快諾しているに違いないのだ。
恨めしきは神器の力。図らずもこの前のサイアスを送り出した時に放った火球が作った穴は、俺の力を住民たちへと知らしめる証拠となっているのだ。
「あ、あの。やはりご迷惑でしょうか?」
考え込んでいた俺を心配したメラニアが声を掛けてきていた。
「ち、違うぞ。別に迷惑とかじゃない」
「自分が普通の男じゃったらなぁとか、器の小さいことを考えておっただけじゃわい。図太いようで意外と小心者じゃからな、グレイズは」
おばばが俺の気持ちを先読みして答えていた。付き合いが長いので、俺の顔色を見ただけで何を考えていたのか察したのだろう。まったく油断も隙も無い。
「グレイズさん、普通の人よりカッコいいよー。ファーマはグレイズさん大好きー!」
「わたくしもそう思いますわ」
「わ、分かった。分かったから、慌てるな。ファーマもメラニアもまだ一〇代だからな。じっくりと見定めるのが良いものを手に入れる必勝法だぞ」
俺はこの頃、完全に外堀埋め尽くされ、内堀も徐々に埋められつつあるのを実感してきている。
数年を待たずして押し切られそうな気もしないでもないが、それはそれでなるようになった結果だと思うようにしておく。
だが、とりあえず今はみんなを冒険者として食っていけるレベルにまで引き上げるのが、パーティー内で俺に与えられた仕事だと思うことにした。
「おばばも、あんまり俺の正妻レースの賭博を派手にやるとギルドマスターの権限でしょっ引くかもしれんからな」
一応、俺の内堀を埋めようと積極的に動くおばばにも釘を刺しておくことにした。
「大丈夫じゃわい。わしは国王公認を得ておるからのぅ。ギルマス程度の権限で取り締まれると思わぬ方がよいぞ。辞めさせたかったら、いっそグレイズが王になるしかないのぅ」
おばばは大きく笑いながら、終始ニヤニヤとした顔で俺を見ていた。
チクショウめっ! ついに国家権力まで巻き込みやがった。
俺はおばばに勝ち目を見出せないと感じると、秘蔵の召喚術の本と装備に関する礼だけを述べ家から逃げ帰った。
そして、魔法書店で魔法書漁りをしていた三人も連れ、メラニアの召喚術を練習するためにダンジョンの第一階層に向かうことにしたのだ。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。