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※サイアス視点
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※サイアス視点
「サイアス宰相閣下、クレストン家の家臣たちがアルガドの私生児を担ぎあげて、領内で兵を募っております。いかがいたしましょうか?」
ようやくの思いで帰り着いた王都の執務室には、配下の者たちが詰めかけており、傀儡王であったはずのジェネシスが下した大貴族クレストン家の解体の余波を受け、政情不安が広がっていた。
私が何十年もかけて築き上げた王国の土台をあのアホ王がいともたやすく崩し去り、戦乱をこの地に呼び込む決定を下していたのだ。
まったくもって腹立たしい。
しかも、あのアホ王には、街一つを軽く消し去れるバケモノの守護者が隣に立つことになった。
あのバケモノ守護者が私の帰り際に平原に向かって無造作に放った魔術を思い出すと、今でも震えが止まらないでいる。
文献に見かけるダンジョン主と同じような力を持った、あの男の力がこの王国に新たな戦乱の火種をまき散らさないか不安でしょうがない。
だが、排除しようとすれば首を獲られるのは私の方であった。
少しでも変な動きをすれば、毒婦マリアンや暗殺者集団モーラッド一族が王に告げ口をして、あの男をけしかけてくるはずである。
そうなれば、いかに強力な軍隊も高い城壁を持っていても、安心して眠れる日がなくなる。
そんなことになるくらいなら、アホ王とあの男には関わり合いを持たず、言われた通り私の名で宿敵クレストン家の解体を進めていく方がのちに家を継ぐ者のためになるはずであった。
「内部から切り崩せ。二~三の中規模クラスの領主に懐柔の餌を与え、こちらに情報を流させろ。流したら、それを材料に裏切りを強要しろ。どうせ、最後は一緒に首を並べるが、順番が後になるか先になるかの違いだがな」
「ははっ! 承知いたしました。該当の領主を探し、密偵と使者を送ります」
報告に来ていた家臣と入れ替わるように毒婦マリアンが私の執務室に入ってきていた。
「旦那様、ジェネシス陛下のためにクレストン家の血筋の者は残らず根絶やしにしてくださいね。もし、一人でも生き残らせたら、王への反逆とみなしますよ」
王の仲人で私の正室になったマリアンが嫌味たらしい目でこちらを見ている。
クレストン家に家を潰された商家の令嬢であったため、クレストン家嫡男アルガドを傀儡化する駒として使い、王女暗殺を主導させたが、最後の最後で詰め怠り、グレイズに尻尾を掴まれて寝返った女だ。
そして今は王の眼として、私が色々と画策しないかを生活を共にして事細かに調べている。
「来客中も食事中も執務中もそしてベッドでもお前の顔を見て生活していると思うと、精神を病みそうだ。その美しい顔の下にある醜さを知っていれば欲情も起きぬ」
「私の方こそ、旦那様のような皺枯れジジイと生活を共にせねばならない不幸を得て、自殺したいくらいですわ」
「お前のように図太い女がそんなしおらしいことをするものか」
「まぁ、する気はありませんけども。こんな無駄話するくらいなら、宰相閣下の名のもとにクレストン家の軍閥を解体するお仕事に邁進された方が身の安全を図れますよ。ああぁ、そういえばモーラッド一族の長が今朝方、私からお伝えせよと文を寄越しましたので、代弁をさせてもらいます。『サイアス宰相閣下の暗殺依頼はかなりの厚さになっている』とのことです。精々、身辺には気を付けてくださいね」
「私が狙われれば、お前も一緒に殺されるのだぞ」
「私はただの買われた女ですので、暗殺者に助命を乞うて、市井に身を隠すという手も取れますから」
毒婦マリアンは女の武器を最大限に使い、暗殺者の手を逃れる気でいたようだ。
実際のところ、この女ならやりかねないと思う。
陛下より相互監視の刑を受けている身ではあるが、私が死ねば権力的に無害なマリアンはほぼ自由に近くなる。
それはそれで何か納得がいかないので、精々暗殺で消されないように護衛の強化を図るしかない。
「クッ、おい。護衛の強化をしろ。屋敷と執務室には誰も入れるな」
私は部屋に残っていた家臣に護衛の強化の指示を出すと、顎を扉に向けて突き出し、追い払うようなしぐさをした。
「モーラッド一族の方は入れて差し上げないと、陛下への手紙の筆が滑って『サイアス、叛乱準備』となりかねませんので、護衛強化もよろしいですがお気をつけください」
「クッ! 図に乗りおって」
「あら、私の手紙が一日でも途絶えれば、陛下はモーラッド一族を差し向けますわよ」
背筋にタラリと冷や汗が流れる。
感情に任せて彼女を殺せば、次の日には私が冷たい死体となってベッドに転がっているのである。
「お前に言わらずとも、わ、分かっておるわ」
自分が私の命を握っているとでも言いたげに妖しい笑みを浮かべるマリアンの顔を見て、体中の血液が沸騰するのが感じられた。
だが、冷静さを保たねばこの首は明日にでも切り離されてしまう。
私は憎たらしいマリアンの顔から眼を逸らすと、溜まっていた政務を黙々と片付けることにした。
「ああ、そうでした。昨日、陛下から早馬が参りまして、これをサイアス宰相閣下にと」
執務を始めた私の前に来たマリオンが、一枚の書類を差し出してきた。
その書類には『炎帝の剣お買い上げ伝票』とグレイズの女が経営する店の名が記載されている。
そして、金額の方に目を向けていくと……三五〇万ウェルと書かれていた。
「なんだこれは? 私はグレイズの女の店からこのような物をもらういわれはないぞ」
「下のサインと但し書きを確認してもらえれば、ご納得いただけるかと思いますが」
マリアンに言われる通り、伝票の下にあるサインと但し書きに目を走らせる。
瞬間、抑えていた血液が再び沸騰し、体中を駆け巡っていた。
「なんだこれはっ!! なにゆえ、私が陛下の買った剣の代金を支払わねばならぬのだっ!!」
サインは陛下のものであり、但し書きには『なお、この剣の代金は王国宰相のサイアスの個人資産より支払われることとする』と書かれていたのだ。
「旦那様は財産をすべて国庫に没収されたいのですか? そちらがよろしければ、陛下にはそうお伝えしますが?」
マリアンは妖しい笑いを張り付けたまま、私が支払いを拒否するのかどうか聞いて来ていた。
ここで拒否すれば、明日にでも私の資産が凍結される手はずになっているのだろう。
そうなれば、身を守る護衛も、クレストン家解体もできずに無様に死体を野に晒す羽目になる。
それに残している家族のためにも資産の凍結だけは何としても避けねばならなかった。
「くぅぅううう!!! そのようなこと申しておらぬだろうがっ! 快く陛下のために支払らわさせてもらうつもりだっ!! くぅぅうう!」
「それは良い判断をされました。さぁ、お仕事を進めてくださって構いませんよ。サイアス宰相閣下の名でクレストン家の残党狩りもどんどんと進めてくださいませ」
マリアンに言われるまでもなく、長年の仇敵であったクレストン家の残党は徹底的にやらせてもらう。
クレストン家解体をやりきった後、三年の修行期間を終えた陛下が、私をどうするかを考えたら恐怖しか感じない。
そのため、今は一心不乱に陛下の治世を安定させることで、彼の怒りを解くのが一番の目標となっていた。
「サイアス宰相閣下、クレストン家の家臣たちがアルガドの私生児を担ぎあげて、領内で兵を募っております。いかがいたしましょうか?」
ようやくの思いで帰り着いた王都の執務室には、配下の者たちが詰めかけており、傀儡王であったはずのジェネシスが下した大貴族クレストン家の解体の余波を受け、政情不安が広がっていた。
私が何十年もかけて築き上げた王国の土台をあのアホ王がいともたやすく崩し去り、戦乱をこの地に呼び込む決定を下していたのだ。
まったくもって腹立たしい。
しかも、あのアホ王には、街一つを軽く消し去れるバケモノの守護者が隣に立つことになった。
あのバケモノ守護者が私の帰り際に平原に向かって無造作に放った魔術を思い出すと、今でも震えが止まらないでいる。
文献に見かけるダンジョン主と同じような力を持った、あの男の力がこの王国に新たな戦乱の火種をまき散らさないか不安でしょうがない。
だが、排除しようとすれば首を獲られるのは私の方であった。
少しでも変な動きをすれば、毒婦マリアンや暗殺者集団モーラッド一族が王に告げ口をして、あの男をけしかけてくるはずである。
そうなれば、いかに強力な軍隊も高い城壁を持っていても、安心して眠れる日がなくなる。
そんなことになるくらいなら、アホ王とあの男には関わり合いを持たず、言われた通り私の名で宿敵クレストン家の解体を進めていく方がのちに家を継ぐ者のためになるはずであった。
「内部から切り崩せ。二~三の中規模クラスの領主に懐柔の餌を与え、こちらに情報を流させろ。流したら、それを材料に裏切りを強要しろ。どうせ、最後は一緒に首を並べるが、順番が後になるか先になるかの違いだがな」
「ははっ! 承知いたしました。該当の領主を探し、密偵と使者を送ります」
報告に来ていた家臣と入れ替わるように毒婦マリアンが私の執務室に入ってきていた。
「旦那様、ジェネシス陛下のためにクレストン家の血筋の者は残らず根絶やしにしてくださいね。もし、一人でも生き残らせたら、王への反逆とみなしますよ」
王の仲人で私の正室になったマリアンが嫌味たらしい目でこちらを見ている。
クレストン家に家を潰された商家の令嬢であったため、クレストン家嫡男アルガドを傀儡化する駒として使い、王女暗殺を主導させたが、最後の最後で詰め怠り、グレイズに尻尾を掴まれて寝返った女だ。
そして今は王の眼として、私が色々と画策しないかを生活を共にして事細かに調べている。
「来客中も食事中も執務中もそしてベッドでもお前の顔を見て生活していると思うと、精神を病みそうだ。その美しい顔の下にある醜さを知っていれば欲情も起きぬ」
「私の方こそ、旦那様のような皺枯れジジイと生活を共にせねばならない不幸を得て、自殺したいくらいですわ」
「お前のように図太い女がそんなしおらしいことをするものか」
「まぁ、する気はありませんけども。こんな無駄話するくらいなら、宰相閣下の名のもとにクレストン家の軍閥を解体するお仕事に邁進された方が身の安全を図れますよ。ああぁ、そういえばモーラッド一族の長が今朝方、私からお伝えせよと文を寄越しましたので、代弁をさせてもらいます。『サイアス宰相閣下の暗殺依頼はかなりの厚さになっている』とのことです。精々、身辺には気を付けてくださいね」
「私が狙われれば、お前も一緒に殺されるのだぞ」
「私はただの買われた女ですので、暗殺者に助命を乞うて、市井に身を隠すという手も取れますから」
毒婦マリアンは女の武器を最大限に使い、暗殺者の手を逃れる気でいたようだ。
実際のところ、この女ならやりかねないと思う。
陛下より相互監視の刑を受けている身ではあるが、私が死ねば権力的に無害なマリアンはほぼ自由に近くなる。
それはそれで何か納得がいかないので、精々暗殺で消されないように護衛の強化を図るしかない。
「クッ、おい。護衛の強化をしろ。屋敷と執務室には誰も入れるな」
私は部屋に残っていた家臣に護衛の強化の指示を出すと、顎を扉に向けて突き出し、追い払うようなしぐさをした。
「モーラッド一族の方は入れて差し上げないと、陛下への手紙の筆が滑って『サイアス、叛乱準備』となりかねませんので、護衛強化もよろしいですがお気をつけください」
「クッ! 図に乗りおって」
「あら、私の手紙が一日でも途絶えれば、陛下はモーラッド一族を差し向けますわよ」
背筋にタラリと冷や汗が流れる。
感情に任せて彼女を殺せば、次の日には私が冷たい死体となってベッドに転がっているのである。
「お前に言わらずとも、わ、分かっておるわ」
自分が私の命を握っているとでも言いたげに妖しい笑みを浮かべるマリアンの顔を見て、体中の血液が沸騰するのが感じられた。
だが、冷静さを保たねばこの首は明日にでも切り離されてしまう。
私は憎たらしいマリアンの顔から眼を逸らすと、溜まっていた政務を黙々と片付けることにした。
「ああ、そうでした。昨日、陛下から早馬が参りまして、これをサイアス宰相閣下にと」
執務を始めた私の前に来たマリオンが、一枚の書類を差し出してきた。
その書類には『炎帝の剣お買い上げ伝票』とグレイズの女が経営する店の名が記載されている。
そして、金額の方に目を向けていくと……三五〇万ウェルと書かれていた。
「なんだこれは? 私はグレイズの女の店からこのような物をもらういわれはないぞ」
「下のサインと但し書きを確認してもらえれば、ご納得いただけるかと思いますが」
マリアンに言われる通り、伝票の下にあるサインと但し書きに目を走らせる。
瞬間、抑えていた血液が再び沸騰し、体中を駆け巡っていた。
「なんだこれはっ!! なにゆえ、私が陛下の買った剣の代金を支払わねばならぬのだっ!!」
サインは陛下のものであり、但し書きには『なお、この剣の代金は王国宰相のサイアスの個人資産より支払われることとする』と書かれていたのだ。
「旦那様は財産をすべて国庫に没収されたいのですか? そちらがよろしければ、陛下にはそうお伝えしますが?」
マリアンは妖しい笑いを張り付けたまま、私が支払いを拒否するのかどうか聞いて来ていた。
ここで拒否すれば、明日にでも私の資産が凍結される手はずになっているのだろう。
そうなれば、身を守る護衛も、クレストン家解体もできずに無様に死体を野に晒す羽目になる。
それに残している家族のためにも資産の凍結だけは何としても避けねばならなかった。
「くぅぅううう!!! そのようなこと申しておらぬだろうがっ! 快く陛下のために支払らわさせてもらうつもりだっ!! くぅぅうう!」
「それは良い判断をされました。さぁ、お仕事を進めてくださって構いませんよ。サイアス宰相閣下の名でクレストン家の残党狩りもどんどんと進めてくださいませ」
マリアンに言われるまでもなく、長年の仇敵であったクレストン家の残党は徹底的にやらせてもらう。
クレストン家解体をやりきった後、三年の修行期間を終えた陛下が、私をどうするかを考えたら恐怖しか感じない。
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