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日常編 公爵家相談役としての俺の仕事
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しおりを挟む大層な役職を三つも兼務しているとおちおち冒険者だけもやっていられない。
今日はブラックミルズ公爵家の当主となったメラニアから、相談役の俺に困りごとが持ち込まれていたのだ。
「グレイズ様、養父が代官を務める領地からあがる租税の一部を衣装料としてわたくしが受け取るようにとの知らせが参りまして……どうすればよろしいでしょうか?」
王国の中でも一躍大貴族になったブラックミルズ公爵家の当主が住むのは我が家の一室だった。
大邸宅を構え、使用人にかしずかれて、きらびやかな服を着て、贅沢三昧で過ごせるだけの財貨を得られる立場であるにも関わらずにだ。
そんなメラニアから持ち込まれたのは、金の話であった。
「もらっておけばいいじゃないか。元々、メラニアに与えられた領地だし、代官を務めている親父さんも質素すぎる生活をしている君を心配してるんだろうさ」
「はぁ、わたくしも少額であればもらおうとは思ったのですが、養父が用立てたお金が二〇〇〇万ウェルとなると、おいそれとは受け取れませんので、グレイズ様にご相談をした次第」
「二〇〇〇万ウェル……。それが一部なのか?」
「ええ、総額は三億ウェルほどあったそうですが、養父一族も質素な人たちなので、租税の減免を行って一億ウェル程度にまで減らした上で、残りの一部を受け取って欲しいとわたくしに」
メラニアの養父殿一族は没落した貧乏貴族ヴィーハイブ家だったので、多少なりとも私腹を肥やすかと思ったが、案外と清廉な人物が多い一族のようである。
もしくは、代官として無茶な取り立てをすれば、自分たちの首が吊るされると肌で感じていたのかもしれない。
クレストン家の取り立ては厳しめであったため、ヴィーハイブ家の代官たちが実行した租税の減免は領民たちからは喝采を持って迎えられたであろう。
人は自分の懐から他人に取り上げられることを嫌うが、逆に返してもらえば喜んでくれる。
そして、返ってきたお金は元から失っていた金であるため、一部の金でみんな余分な物を買ってくれるようになるだろう。
そう言った意味で言えば、ヴィーハイブ家の代官たちのとった行動はとても領民に対し優しいものである。
しかし、それをやっても二〇〇〇万ウェルほどの余剰金がでたので、当主であるメラニアにどうにかして欲しいと泣きついたということらしい。
「それで、二〇〇〇万ウェルか……。そろそろ、屋敷とか構えて人を雇った方がいいんじゃないか? ジェネシスみたいに」
「そうなると、わたくしが通わねばならなくなりますし。いっそ、グレイズ様たちが引っ越してくれるなら、ダンジョンに近い場所に新たなお屋敷を構えてもいいのですが……。ブラックミルズからの租税でもかなりお金が余ってしまっていますし、屋敷を建てて領民の皆さんにお仕事を作って賃金として還元した方がよいかとも思えますし」
メラニアの提案は魅力的な案件でもあった。
俺の持ち家は街からもダンジョンからも離れた郊外にあり、最近は移動時間が馬鹿にならないと感じていたからだ。
それに周囲の村から移民が増えつつあるブラックミルズには、仕事も作らねばならなくなってきている。
領主の屋敷の建設という名目で賃金を払えば、街もさらに活気を帯びてくるはずであったからだ。
「ふむ、魅力的な提案ではあるが、みんながなんと言うか……」
俺は即断を避けていた。
一応、同居人たちの全員賛成を以って、メラニアの申し出を受ける方がいいと思ったからだ。
「さんせー、さんせー。ファーマはメラニアさんのお家に住むー!! ハクちゃんのお部屋もある?」
隠れてコッソリと話を聞いていたファーマたちが飛び出してきていた。
「わふっ、わふぅ! (芝生、芝生の大きなお庭が欲しいですっ!! あたしが走り回っても大丈夫なところが欲しい)」
「妾はメラニアと一緒の部屋でいいのじゃ。隣で寝ておれば、メラニアを悪者から守れるしのぅ。じゃが、どうしても妾の部屋を作るなら、お菓子がいっぱい詰まった部屋がいいのじゃ」
「そうですね。どうせなら、ハクさんもクィーンちゃんもお部屋も作りましょうか」
飛び出してきたファーマたちに驚くこともなく、メラニアは至って冷静に答えを返していた。
「メラニア、私、大きな書庫が欲しい。集めた資料がもうそろそろ部屋から溢れる」
「まぁ、それは大変ですね。大きな書庫もお作りした方が良さそうです」
カーラは趣味で収集している様々な本の置き場が無くなりつつあるといい、書庫を欲していた。
確かにあっという間にカーラへ与えた部屋は本に支配されていた気がしている。
「私は屋敷の隅に小さな一室を与えて頂ければ……」
「お部屋は平等にいたします。わたくしたちは仲間ですもの。アウリースさんも一緒にパーティーを組む仲間。遠慮は無用です。それにお屋敷はグレイズ様の家みたいなものですしね」
万事控えめなアウリースに対しても、メラニアは遠慮しないようにすむ配慮を欠かさなかった。
「なら、屋敷は私の店の跡地辺りに立ててもらえると嬉しいわね。あと、大き目の倉庫も一緒に。そろそろ商店街の倉庫も手狭になってきてるし。ここはバーンと豪勢な城を建ててもいいと思うわ」
「立地はメリー様の申された場所がよろしいでしょうね。ですが、城は頑張りすぎです。倉庫の件は了承いたします」
メリーもメラニアの建てる新たな屋敷に色々と注文を出して、なるべく豪勢なものにしようとしていた。
「ああ、あと離れでもいいんで、うちの従業員の寮も作ってもらえるとありがたい。セーラやアルマも来るだろうし」
「承知しております。セーラ様、アルマ様の部屋はきちんと確保しておきますわ。あと、倉庫に併設でメリーさんのお店で働く方の寮も整備いたしましょう。そっちの方面で豪勢ならわたくしも惜しみなくお金を投じられます」
なんだか知らぬ間に話がデカくなっている気がするのは、気のせいだろうか。
メラニアが住むため、領主の屋敷としての格式は必要だが、どう聞いていても俺の個人的な屋敷に思えてならない。
「あ、あの。これはメラニアの屋敷だよな?」
「ええ、わたくしの屋敷です。きちんとグレイズ様からも皆様からも賃料は頂きますので、ご安心を。月1ウェルという格安ですが。グレイズ様の要望はありますか?」
「ん? 俺は別にないぞ。寝るためのベッドがあればいい。にしても月の賃料が1ウェルとは……。それじゃあ、商売にならんだろう」
「商売をする気はありませんもの。でも、賃料を払わなければグレイズ様は屋敷に来られませんでしょ? だから、頂くだけです」
メラニアは俺の気性を見抜いているようで、タダと言うと来ないのを見越して賃料を設定したらしい。
商売人にとってタダは怖いが、1ウェルでも支払えば、安心できるといのは職業病の一種かもしいれない。
「実に魅力的な提案である。相談役としては是非とも早く設計士呼んで、予算の枠組みを決めた方がいいと助言いたします。そして、商店街連合会会長としては建材のご用命は是非ブラックミルズ商店街にてと。そして、冒険者ギルドマスターとしては領主の館の落成を心待ちにしておりますと伝えたい」
「色々とお役目を賜るとグレイズ様も大変ですね。お屋敷の件は早急に話しを進めたいので、商店街、冒険者ギルドともにお力をお貸し頂けるとありがたいです」
メラニアが俺に対して深々と頭を下げていた。
こうして、ブラックミルズには新たな領主の屋敷が建てられることとなり、建築ラッシュに拍車がかかることになっていた。
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