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本当の事
しおりを挟む「帰ってくるの、待ってたよ。」
その声は、夜気の冷たさとは対照的に、暖かく蒼介を迎えた。
「……美咲、ただいま。」
美咲は、少しだけ目を細めて笑った。
「も~、顔疲れすぎ。温泉入ってあったまりなよ。それでちょっと飲みながら話さない?」
その笑顔に、かつての美奈子の面影が一瞬重なって見えた。
美咲が朗らかな良い子に育った。それだけで満足するべきなのかもしれない。だけど俺は_ _。
作り笑いでその場を誤魔化し、旅館の戸を開けると、暖房の熱がふわりと冷えた体を温めた。
「武尊くんはどうした?」
なんとか声を絞り出すと、美咲は苦笑して肩をすくめた。
「酔い潰れて寝てるよ。ううん、……寝てるフリかも。」
閉じた襖からわざとらしい寝息が聞こえ、美咲は目配せして目元を綻ばせた。
美咲が湯呑を茶櫃から取り出しながら、ぽつりと続ける。
「彼、優しい人だから。気を遣ってくれたんだと思う。」
急須からからお茶を注ぎ、湯気の立つ湯呑を差し出す。
蒼介は黙ってそれを受け取り、
両手で包んだそれに視線を落とした。
湯気の向こうで、美咲の表情が曖昧に揺れているように見えた。
柱時計の秒針の音が、やけに大きく聞こえる。
――今度こそ、真実を美咲に言わなければ。
美奈子のことを。千紘のことを。
だが、唇を開こうとしたその瞬間、美咲が先に口を開いた。
「お母さんと、話してきた。」
その一言に、蒼介の心臓が跳ねた。
「……え?」
美咲は俯いたまま、ゆっくりとた口調で話し始めた。
「お母さん、帰らないって。」
その一言は、蒼介の心を砕くには十分だった。
「風呂、行ってくる」そう小さな声で溢して立ち上がると、美咲が何か返事をする前に襖を開けて部屋を出た。
握りしめたタオルを顔に押し付け、息を殺しながら涙を流した。
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