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真実
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しおりを挟む「真実を聞きたいなら教えてやる。」
禅の声が、静まり返った店内に低く響いた。
蒼介は息を呑み、禅を見つめた。壁に背を預け、表情に影を落としている。
「あの日の事は、新聞に書いてあった通りだ。」
禅がゆっくりと口を開く。
「姉さんは、急いでた」
その言葉が空気を震わせた。
千紘の肩が、びくりと跳ねる。蒼介は彼女の方を見たが、千紘は顔を伏せたまま、小さく身を縮めていた。
まるで、これから語られる言葉の重さに耐えきれないとでも言うように。
「俺に忘れ物を届ける途中だったんだよな姉さん。」
禅の声は淡々としていた。
蒼介の喉が、乾いた音を立てた。
禅は天井を仰ぎ、目を閉じた。まるで、記憶の映像を脳裏に映し出しているかのように。
時計の秒針だけが、規則正しく時を刻んでいる。
その音が、やけに大きく聞こえた。
「……急に雨が降ってきた。それも、前が見えない程のね。」
禅の声が、わずかに掠れた。
「激しくて……視界が悪くなった。少し前も見えないくらいだった。」
蒼介は息を呑んだ。胸の奥で、何かが冷たく凍りついていく。
「慎重に運転するべきだったんだ」
禅の拳が、壁の上でゆっくりと握られた。
「でも、姉さんは焦ってた。……母さんが心配だからってね。」
静寂が落ちた。
重く、押しつぶされそうなほどの沈黙。
「土砂降りの雨が視界を遮り、ワイパーの動きを1番早くしても、見えづらかったんだ。目を凝らしながら運転していると、突如女の人が見えた。美奈子さんだ。」
蒼介の全身が、一瞬で硬直した。
心臓が、胸の奥で激しく跳ね上がる。耳の奥で血液が流れる音が聞こえた。
「視界に捉えたときにはもう、遅かった」
千紘が、小さく嗚咽を漏らした。
両手で顔を覆い、肩を震わせている。
「姉さんは……ハンドルを切った」
禅の声が、さらに掠れた。
「女の人を避けようとして。必死にね……」
蒼介の頭の中で、あの日の光景が鮮明に浮かび上がった。豪雨、暗い山道。
「そのまま姉さんは法面に激突した」
禅の言葉が、蒼介の心臓を貫いた。
「トラックは横転。」
千紘の嗚咽が、さらに大きくなった。
「その先は、報道された通り。運転手が死亡。美奈子さんは意識不明。」
禅が目を伏せる。
「投げ出されたんだ。衝撃で……シートベルトが外れて」
蒼介の喉が、乾ききっていた。
唾を飲み込もうとしても、何も出てこない。
「トラックを見た。運転席は……大破してた」
蒼介の目の前が、白く霞んだ。
「姉さんは死んだ」
その一言が、店内の空気を凍らせた。
「すぐに分かった。運転席が潰れてて、姉さんは動かなかった」
蒼介は拳を握りしめた。
「俺はショックでパニックになった。救急車を呼んだのは、通行人。」
禅が顔を上げた。
その目は、蒼介を真っ直ぐに見つめていた。
「遠くから、救急車のサイレンが聞こえた。」
千紘が顔を上げた。
涙で濡れた顔で、禅を見つめている。その目には、深い悲しみと――どこか諦めたような色が浮かんでいた。
「だよな……姉さん」
禅が千紘に視線を向けた。
「あんたの……前方不注意が招いた事故だ。そうだろ」
千紘は、何も言わなかった。
ただ、小さく――本当に小さく、頷いた。
その仕草が、蒼介の胸を締めつけた。
「……ごめんなさい」
千紘の声が、か細く震えた。
「蒼介さん……本当に、ごめんなさい」
涙が、頬を伝って落ちていく。
「私が……死ねば良かったのに。」
気持ち悪い程の違和感。蒼介はそれが何かわからないまま、話を飲み込もうとしていた。
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