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真実
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しおりを挟むその時、階段の上から足音が聞こえた。
「もう、やめなさい。」
か細い声が、張り詰めた空気を裂いた。
三人が同時に振り向くと、階段の手すりに手をかけ、腰をさすりながらゆっくりと降りてくる『小料理屋はるの』の女将の姿があった。
「母さん……」
千紘が慌てて女将の前に立ち塞がる。
「階段を降りる時は声をかけてってあれ程……」
膳が慌てて駆け寄ろうとしたが、女将は手を上げて制した。
「大丈夫……杖があるから。」
女将は最後の段を降り、杖をついて店の中へ入ってきた。
その足取りは覚束なく、一歩ごとに息を整えている様子だった。
「母さん、無理しないで……」
膳が立ち上がり、母親の腕を支えた。
女将は膳の手に自分の手を重ね、優しく微笑んだ。
そして、蒼介の方へ体を向ける。
「日下部さん、でしたね」
その声は穏やかで、落ち着きすぎている気がした。
「はい」
蒼介は反射的に背筋を正した。
「遠いところを何度も来てくださって」
女将はゆっくりと椅子に腰を下ろし、大きく息をついた。
千紘がカウンターの向こうで湯を沸かす音が聞こえ始め、店内に重い沈黙が落ちた。
やがて、女将がゆっくりと口を開いた。
「私はこの店の女将で、ソノ子と申します。日下部さん。千紘が……この子が、長い間お世話になっていた事、感謝申し上げます。」
蒼介は声もなく頷き、静かにカウンターの椅子に腰掛けた。
禅の顔が強張る。
ソノ子は優しく千紘の手を握った。
「日下部さんが納得できないのは当然です。」
「母さん……」
膳の声が震えている。
「やめてくれ……」
ソノ子の声は静かだったが、そこには強い意志があった。
禅は唇を噛んで俯いた。
湯気が立ち上る湯呑みには、誰も手をつけようとはしなかった。
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