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真実
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「日下部さん」
ソノ子は湯呑みに落とした視線をまっすぐ蒼介に戻し、一拍置いて真剣な顔で蒼介を見つめた。
「あの日の事、私からもお話いたします。」
禅は遠くを見るような表情をして、諦めたように小さく溜息をついた。
◇◇◇
『あー……参ったな。さっきの所、曲がるの早過ぎた。』
ナビ音声の示す一本手前を曲がってしまい、街から外れて徐々に山道へ上がっていく。Uターンできる広さも無い道を進みながら申し訳なさそうにする禅に、こう言いました。
『いいじゃない。少しくらい寄り道してもバチは当たらないわ』
申し訳なさそうな表情だった膳の顔が緩んだ。
『母さんは呑気だなぁ。約束の時間に間に合わないって、友達には連絡しておいてよ。』
『ふふっ。大丈夫よ。早めに家を出たし。十分間に合うわ。』
『ならいいけど。』
膳はカーオーディオから流れる流行りの曲を鼻歌で曖昧に口づさみながら、車窓を流れる景色を眺めていた。
暫く進んだところで、携帯電話の着信音が鳴り響いた。
着信は千紘から。
『もしもし?』
『あ、母さん?財布を忘れてるって、さっき膳から連絡来たの。今追いかけてるって伝えてくれる?』
鞄を開けてみれば、確かに財布は入っていなかった。
『わるいわね千紘。待ってるわね。』
話を聞いていた膳はポケットパークに気付き、車のハンドルを切った。車を停車させると、写真と位置情報を千紘に送ってからシートベルトを外した。
『外の空気を吸ってきてもいいかしら。』
禅にそう言うと、返事も聞かずに車を降りた。
『車から離れるなよ。なんかあったら声かけて。』
座席を後ろに倒し、腕組みをして目を瞑る禅を一瞥し、大きく深呼吸した。
眼下に広がる景色は絶景で、視力の乏しい私でも思わず深呼吸をして感嘆のため息を溢した。それからスマホで写真を撮り始めた。
(曇りじゃ無い日に、今度は千紘も連れて3人で……)そんなことを考えていると、黒のミニバンが一台入ってきて停車した。
乗っていたのは若い男女だった。
口論しながら車を降りると、女性は乱暴に助手席側のドアを閉めた。
「……2人はすごい剣幕で口論を始めました。すぐ横に私が居ることなんて気にも留めてなかった。」
『別れるって言ったじゃない。』
車から降りてきた女性は、金切り声で怒鳴った。
『それに、既婚者だって事も聞いてない。』
男性は目を見開き、言い返した。
『聞かれなかったから。』
『酷い……どうして……』
『そもそも、言い寄ってきたのはそっちだろ。好きだとか、本命だとか言った覚えは一度も無い。』
『許せない……どうして。』
その女性……美奈子さんは涙を溢し、肩を揺らして泣き始めた。
『はぁ~~~あ。メンヘラかよ。』
『どういう意味?』
男性は、一拍おいて吐き捨てるようなため息をついた。
『セフレだけど。』
男性は運転席側のドアに手をかけ、美奈子さんが駆け寄るのも無視して車にエンジンをかけた。
『とにかく、なんて言われても終わりだから。』
そして……彼女を置き去りにしてポケットパークを出て行ってしまった。
当然……残された美奈子さんは、悲鳴をあげるように泣き出した。
ソノ子は湯呑みに落とした視線をまっすぐ蒼介に戻し、一拍置いて真剣な顔で蒼介を見つめた。
「あの日の事、私からもお話いたします。」
禅は遠くを見るような表情をして、諦めたように小さく溜息をついた。
◇◇◇
『あー……参ったな。さっきの所、曲がるの早過ぎた。』
ナビ音声の示す一本手前を曲がってしまい、街から外れて徐々に山道へ上がっていく。Uターンできる広さも無い道を進みながら申し訳なさそうにする禅に、こう言いました。
『いいじゃない。少しくらい寄り道してもバチは当たらないわ』
申し訳なさそうな表情だった膳の顔が緩んだ。
『母さんは呑気だなぁ。約束の時間に間に合わないって、友達には連絡しておいてよ。』
『ふふっ。大丈夫よ。早めに家を出たし。十分間に合うわ。』
『ならいいけど。』
膳はカーオーディオから流れる流行りの曲を鼻歌で曖昧に口づさみながら、車窓を流れる景色を眺めていた。
暫く進んだところで、携帯電話の着信音が鳴り響いた。
着信は千紘から。
『もしもし?』
『あ、母さん?財布を忘れてるって、さっき膳から連絡来たの。今追いかけてるって伝えてくれる?』
鞄を開けてみれば、確かに財布は入っていなかった。
『わるいわね千紘。待ってるわね。』
話を聞いていた膳はポケットパークに気付き、車のハンドルを切った。車を停車させると、写真と位置情報を千紘に送ってからシートベルトを外した。
『外の空気を吸ってきてもいいかしら。』
禅にそう言うと、返事も聞かずに車を降りた。
『車から離れるなよ。なんかあったら声かけて。』
座席を後ろに倒し、腕組みをして目を瞑る禅を一瞥し、大きく深呼吸した。
眼下に広がる景色は絶景で、視力の乏しい私でも思わず深呼吸をして感嘆のため息を溢した。それからスマホで写真を撮り始めた。
(曇りじゃ無い日に、今度は千紘も連れて3人で……)そんなことを考えていると、黒のミニバンが一台入ってきて停車した。
乗っていたのは若い男女だった。
口論しながら車を降りると、女性は乱暴に助手席側のドアを閉めた。
「……2人はすごい剣幕で口論を始めました。すぐ横に私が居ることなんて気にも留めてなかった。」
『別れるって言ったじゃない。』
車から降りてきた女性は、金切り声で怒鳴った。
『それに、既婚者だって事も聞いてない。』
男性は目を見開き、言い返した。
『聞かれなかったから。』
『酷い……どうして……』
『そもそも、言い寄ってきたのはそっちだろ。好きだとか、本命だとか言った覚えは一度も無い。』
『許せない……どうして。』
その女性……美奈子さんは涙を溢し、肩を揺らして泣き始めた。
『はぁ~~~あ。メンヘラかよ。』
『どういう意味?』
男性は、一拍おいて吐き捨てるようなため息をついた。
『セフレだけど。』
男性は運転席側のドアに手をかけ、美奈子さんが駆け寄るのも無視して車にエンジンをかけた。
『とにかく、なんて言われても終わりだから。』
そして……彼女を置き去りにしてポケットパークを出て行ってしまった。
当然……残された美奈子さんは、悲鳴をあげるように泣き出した。
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