25年目の真実

yuzu

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真実

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 車が遠ざかっていく音が消え、置いて行かれた美奈子さんは俯いたまま身じろぎもせず、まるで時が止まってしまったかのように呆然と立ち尽くしていた。

「……大丈夫かしら……彼女」
「母さん、ただの痴話喧嘩だよ。関わらない方がいいって」

 禅が助手席から顔を出して言った。

「ほっとけって」
「でも……」

 見ず知らずの人間が余計なお節介だと思われるかもしれない。
 けれど、あの悲しそうな彼女をどうしても1人にできなかった。

 肩を落とし、何か重いものを一人で抱え込んでいるような、その姿が。

「やっぱり……声をかけましょう。」
「……母さん。」
 
 禅の声が背中に届いたけれど、もう足は動き出していた。
 アスファルトを踏む自分の足音が、やけに大きく聞こえる。
 ベンチに近づくと、美奈子さんはようやく顔を上げた。
 涙の跡が頬に筋を作り、目は赤く腫れていた。

「あの……大丈夫ですか?」

 私はハンドバッグの中を探り、ハンカチを取り出した。千紘が母の日にくれたものだ。

「よかったら……これ使って。」

 そっと差し出した。
 美奈子さんは、しばらくハンカチを見つめていた。
 そして――

「ありがとうございます……」

 振り返ると、膳が心配そうな表情で車から降りてくるところだった。

『もう嫌……本当にもう嫌っ……!』

 彼女の泣き声には、魂が引き裂かれるような苦痛が滲んでいた。

『どうしてこんな事になるの?何もかもうまくいかない!』
  
彼女の背中を擦り、なだめようとした。けれど、彼女は……

『ほっといてよ!!』

 ハンカチが宙を舞い、風に煽られて地面に落ちる。白い布地が砂埃と枯葉の上で無惨に横たわった。

『ちょっと、お姉さん。』

禅の表情に怒りの色が滲む。

『違うのよ膳。彼女、わざとじゃないの。ね?そうよね?』

彼女に詰め寄る膳を止める間もなく、膳は彼女の肩を強く押した

よろけた彼女の手がガードレールを咄嗟に掴む。錆びた金属が、彼女の白い手のひらに赤茶色の痕をつけた。

 崖下には、深い森林が広がっていた。

木々の梢が風に揺れ、ざわざわと不吉な音を立てている。高さは優に200メートルはありそうだった。落ちれば、助かるはずがない。

『危ない!』

私は美奈子さんの腕を掴んだ。

 華奢で、綺麗な腕だった。

『離して……!』美奈子さんが身をよじる。

『だめです! 危ないから!ね?!』『離してってば!』

 膳も反対側から美奈子さんを押さえた。
三人の影が、傾いた日差しの中で複雑に絡み合う。

『もう、何なのよ!離して! 離して離して離して!』
美奈子さんが激しく抵抗する。

 そして―― 美奈子さんの目が、ふと私の手元で止まった。

 私が握っていたスマートフォン。 

 景色を撮影している途中だったから、画面はまだカメラアプリが起動したままになっていた。

 美奈子さんは目を見開いた。

『……まさか』

彼女は一瞬にして怒りに満ちた声色に変わった。

『写真……撮ったの?』
『え?』
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