魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第九章【セントラル】

9-48 遺言

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魔剣士を睨み、暴言に近い言葉をぶつけるシャル。更に二人は一歩ずつ寄り、今にも戦いが起きそうな雰囲気になる。白姫は止めようとしたが、シャルは構わず続けた。いや、続けねばならない理由があった。

魔剣士「あ?」
シャル「最悪です、本当に……」
魔剣士「ンだテメェ、喧嘩うってんのか」
シャル「別に喧嘩をうってるわけではありません。王家に仕えた者として、ありのままに感想を申した迄です」
魔剣士「…は?」
シャル「姫様に仕えていた身として、突然現れた貴方に王家の血を紡ぐ者を奪われた時に気持ちが分かりますか?家族を奪われたことと一緒なのだと、理解をしていますか?」
白姫「…っ!」
シャル「姫様の判断以前に、貴方が現れなければそうはならかったと…お判りでしょうか」

睨み付ける目は鋭く、しかし魔剣士は強気で反応する。

魔剣士「へっ、そういうことかよ。ま、確かにその立場の話ならそうかもしれねぇが、生憎テメーみてぇな女にいちいち謝るようなことは……」
シャル「謝れとは言っていません。そもそも白姫様を奪い、このような事態になってしまったことが自分のせいであると責任は感じていますか?」
魔剣士「……お前に言われることじゃねえ。いっぱしの王家のメイドなのかもしれねえが、お前に質問されることじゃねぇ」
シャル「ははぁ、つまり責任自体は感じていると」
魔剣士「言いたくないね」
シャル「子供ですか」
魔剣士「ンだと、コラ」

益々険悪になる二人。白姫の言葉は届かず彼女はおろおろとするばかりであった。

シャル「……ま、責任を感じているのなら良いのです。誰も魔剣士さんのせいだけであるとは言っていませんから」
魔剣士「あァ?」
シャル「こうなってしまった以上、責任問答をしても仕方ない話ですからね」
魔剣士「お前が始めたんだろうが!」
シャル「……気になったから聞いたまでです。白姫様が笑顔でいらっしゃるということは、私も信用に値する人物だとは思いましたが、実際にしゃべってみないと分かりませんでしたから」
魔剣士「は、はぁ?」

彼女は顔色一つ変えず、淡々と続ける。
―――違う。
淡々と続けねば、その話はまた"涙"を流してしまうから。

シャル「魔剣士さん、お話しがあります」
魔剣士「さっきから無駄な話ばっかしてんだろうが」
シャル「そうではなく、ゆ…、遺言とでも言いましょうか」
魔剣士「誰のだよ」
シャル「そ、それは……」

"すぅ…"大きく息を吸ってから、気合を込めて言った。
シャル「―――兵士長様のです」

魔剣士「!?」
白姫「兵士長の!?」

二人は顔色を変える。

シャル「いつかもし、白姫様が笑顔で戻ってこれたのなら。魔剣士という男が白姫を幸せにできていたのなら…こう言ってほしいと仰ってました」
魔剣士「な、何だ……!アイツが何て言ったんだ!」

彼女に詰め寄る魔剣士。少なからず、いや…魔剣士の心には彼を殺してしまったという念は大きいものであった。

シャル「単純に一言。こう、仰られてました……」

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―――数か月前、地下牢にて。

兵士長「いつも…すまない。だが、俺はもうすぐ殺されるだろうな……」
シャル「そ、そんなことを仰らないでください!」
兵士長「ハハ…。しかし、大の男が女性に身体を拭いてもらうなどと情けない限りだ」
シャル「そんなことはございません。私は、私が出来る限りのことを……」

シャルは、必死で手錠で繋がれた兵士長の汚れた身体を拭く。こんな暗く狭い場所で、彼が少しでも生きる意志になればよいと思った。

兵士長「……良いんだ。お前には感謝する」
シャル「兵士長様…。別に貴方が悪いことをしたわけでもないのに、どうして……」
兵士長「王に逆らったんだ。王が腐っていることは前々から承知していたというのに、どうにも出来なかったのは俺の責任だ」
シャル「そうではなく、魔剣士という男さえ現れなければ!」

白姫を奪うことをなければ、こんな事態にはならなかったはずだったのに。

兵士長「……それも俺の責任だ」
シャル「ど、どうしてですか!?」
兵士長「白姫様が望む幸せは、この城の中で悠々と暮らすことではない。外の世界を見ることにある」
シャル「だとしても、魔剣士が現れて白姫様を誘拐したことは……!確かに白姫様が望んだことなのかもしれませんが!」
兵士長「白姫様が望んで出て行かれたのは、俺たちが彼女を幸せに出来なかったことにあるのではないか?」
シャル「それは!」
兵士長「それは、なんだ……?」
シャル「…っ」

言い返す言葉がない。魔剣士が悪いことがあっても、彼女自身が望んで出て行かれたのは事実なのだ。

兵士長「白姫様とて、人を見る目があるのは確かだ。姫様が魔剣士という男に着いていったのなら、それを信じる他はない」
シャル「ですが、既に賞金首となり、姫様に危険が及んでいるのは確かで!」
兵士長「そう、やすやすとくたばる男ではないだろう。それに、アイツは強い。ぬるま湯に浸かっていた俺たちだが、そう簡単に倒される兵士たちではないはずだ」
シャル「……随分と魔剣士という男を買っているのですね」
兵士長「俺たちが出来なかったことを、白姫様が望んだことを簡単にやってのけた男を褒めずに何とする。俺ももっと早くそうしてやるべきだった」
シャル「それで自分の身を滅ぼしていては……」
兵士長「今や俺の幸せは、白姫様の幸せだ。姫様が幸せであるのならば、俺はこの身を失っても構わない」

彼の言葉は重く、それが本意であると伺えた。シャルが何を言っても、きっと届くことはない。

シャル「そうですか…。それならば、私が申し上げることはありません……」

唯一、自分の気持ちを伝えようと、悲しみを込めて言った。届かないことを分かっていても。

兵士長「……シャル」
シャル「は、はい」
兵士長「一つ、頼まれてくれないか」
シャル「私に出来ることなら、何でも致します」
兵士長「有難う。では、もしもの話なのだが……」
シャル「はい」
兵士長「もし、もしも。俺が亡き後に、白姫様がいつかこの王城へと戻って来た時。魔剣士と共に笑顔で戻ってこれたのなら……」

一呼吸置いて、それを伝えた。

兵士長「魔剣士へ有難うと、頭を下げてくれないか」

魔剣士という男に、最大の感謝をしてほしいと言った。

シャル「……魔剣士に感謝をしろと?」
兵士長「君が彼を恨んでいることは重々承知している。だから、君の判断に任せる」
シャル「そこまで分かっているのなら、私が魔剣士に対して頭を下げるなどと…」
兵士長「予感なんだが、きっと白姫様は笑顔でいらっしゃると思う。俺が死に行く身として、ただの願望なのだが…そうあってほしいと願っているだけなのだが」
シャル「兵士長様、こればかりは…お約束は出来ません。ですが、望まれるというのなら、私はそれに従います」
兵士長「ありがとう。恩に着る」
シャル「いえ……」

兵士長はこの数日後、地下の奥深くで処刑されることになる。
だが、処刑人の話では最期まで彼は弱みを見せることなく、笑顔で逝ったということらしい。
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―――…そして。
時間は進み、シャルは今日という日に"魔剣士"に出会った。
兵士長の言っていた通り、白姫は魔剣士に笑顔で、彼といることが幸せであるのだと理解した。

シャル「ですから……」

兵士長の遺言のままに、シャルは深く頭を下げたのだった。

シャル「魔剣士"様"。白姫様を幸せにしていただき、本当に…ありがとうございます」

きっとそれは本意であるだろう。

白姫「…っ!」
魔剣士「本当かよ…、本当に兵士長がそんなことを……」
シャル「はい、決して嘘ではありません。ですから、不快な思いをさせると分かっていても、兵士長様に言われた通り"自分の判断の為に"生意気な口を利いてしまいました」

先ほどの罵倒の全ては、このためのものだった。シャルは彼との会話から、本当に白姫を大事にしてきたことや兵士長に対する責任を感じていることを察したのだ。

魔剣士「……そうだったんだな」
シャル「まさか、本当にこのようなかたちで会えるとは思ってもみませんでした」
魔剣士「あぁ…」
シャル「…」
魔剣士「…」
シャル「…」
魔剣士「……ん?」
シャル「え……?」

ふと、しばしの沈黙のあとに白姫に目を向けると。

白姫「えぐっ…、ひぐっ、兵士長ぉ……」

……白姫が嗚咽をしながら泣いていた。

魔剣士「し、白姫……」
シャル「白姫様!」
白姫「兵士長がぁ、私がぁ……、あうぅぅ…、うぅぅーっ……!」

シャルの話で、兵士長がどれほど自分を案じてくれていたか改めて理解し、同時に本当に亡くなってしまったのだと思うと我慢していた涙があふれ出た。シャルは慌ててハンカチを用意しようとしたが、魔剣士は白姫に腕を回して抱き寄せたのを見て、その手を引っ込める。

シャル(白姫様…、本当に魔剣士様を信頼されているのですね……)

兵士長の願いが届いてくれていたことに、シャルも嬉しくなる。そして、白姫が泣き止むと魔剣士は手を離した。

魔剣士「大丈夫か」
白姫「う、うん…。ありがとう、魔剣士」
魔剣士「おう。そんじゃ、そろそろセージの所にいってくるぜ」
白姫「……気を付けてね!絶対に帰ってきてね!」
魔剣士「感知能力を習得出来てたのは幸いだったし、問題はねーさ。そんじゃ、行ってくるぜ!」

魔剣士は扉へと向かい、白姫が手を振ったのを確認すると外に出て行った。

………


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――王城、廊下。
再び陣の世界に潜り、セージの元へと向かおうとした魔剣士だったが、そこでリッターと出会う。

リッター「んお、魔剣士か?」
魔剣士「お、リッター…こんなとこで何してんだ?」
リッター「それは俺の台詞なんだがな。氷山帝国と砂国へ向かったんじゃなかったのか?」
魔剣士「ちょっと時間が出来たから、氷山のほうから一旦戻って来ただけだ。すぐに戻るぜ」
リッター「……あれからわずかな時間しか経っていないというのに、氷山帝国との往復をしたというのか」
魔剣士「さっき説明しただろ。俺は陣の世界で……」
リッター「それは分かっているのだが、どうにも不思議な話だと思ってな……」
魔剣士「まぁな……」

リッターは不思議そうに、だが面白そうに言う。

リッター「これからすぐに戻るとなると、砂国へはこの後に行くのか?」
魔剣士「そーいうことだ。氷山帝国を経由していくんだが」
リッター「明日までには戻れるんだな」
魔剣士「努力はする。時間がないのも分かってるしな」
リッター「分かった。それまでブリレイたちも戻らんだろうし、それ以外でも俺がサポートしよう。メイドも一人つけているし、問題ないだろう」
魔剣士「あの女、アンタがつけたのか」
リッター「ん、もう会ったのか」
魔剣士「あー…まぁ……」

生意気だが、王城や白姫に対する愛情を強く感じることが出来た。たまたまだろうが、シャルをメイドとして一緒にいれば白姫も精神的に和らぐだろう。

魔剣士「ま、良いヤツだったよ。晩飯とかもあのメイドが?」
リッター「そうするつもりだ。簡易にはなるが、今は我慢してもらおう」
魔剣士「……いいんじゃねーの。白姫が王城でまた夜を明かせるなんて思ってもみなかっただろうし」
リッター「我が家といえども、不憫なものだな」
魔剣士「きっと安心して過ごせるようになるのはすぐそこまで来てるだろうし、不安視はしてねーよ。んじゃ、俺は行くからな」
リッター「うむ、頑張ってくると良い。どこから行くんだ?」
魔剣士「陣を隠してるのは別の場所だったんだが、今は地下室のほうに置いてある。王城に顔出したのはそれも理由だったんだが」
リッター「なるほどな。気を付けて行って来いよ」
魔剣士「あぁ、分かってるって。何でみんなしてそんな心配するかねえ」

心配されるほどのことではないのだが、そこまで不安になっていられると嫌でも不安になるから止めてほしく思う。だが、とにかく魔剣士はリッターと挨拶を交わすと、砂国へ行くため地下室へと向かい、その後、陣の中へと飛び込んだのだった。

…………
……

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