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第九章【セントラル】
9-62 そして、未来へ
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―――次の日の朝。
白姫は、窓から差す光で目が覚めた。
白姫「…!」
いつの間にか寝てしまっていたのだろうか。白姫は身体を起き上がらせた場所がベッドの上で、ここが自分の部屋であることを確認する。
白姫「夢……?」
ベッドに腰掛け、窓を見つめる。
白姫「ッ!」
ヒリっとした痛みを感じた。白姫は、昨晩の出来事が夢ではないのだと分かった。
白姫「ま、魔剣士……」
でも、夢であって欲しかったとも思う。
夢じゃなかったのなら、もう魔剣士は、違う世界に旅立つ決意をしたということ。戻れないかもしれない旅に出てしまったということだから。
白姫「…」
目を閉じながら、再びベッドへと横になる。両手を組んで、お腹に乗せて、えもいわれぬ時間を思い出す。
魔剣士の覚悟がどれほどにあったか、これからのこと、いつか必ずまた会う約束をした。
白姫「……っ」
だけど、辛かった。辛くないわけがなかった。
白姫は朝日さす光に包まれたベッドの上で一人、静かに泣いた。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――同時刻・セントラル郊外
猛竜騎士「……本当に白姫と挨拶をしなくていいんだな」
魔剣士「あぁ。俺と、オッサンと、白姫の旅はこれで終わりだ」
早朝、魔剣士は猛竜騎士を呼び出し、最後の別れを告げていた。
猛竜騎士「旅も終わりか。結局、南方大地に行くことは適わなかったが……」
魔剣士「そうなっちまったんだ。仕方ないさ」
猛竜騎士「……あぁ。ウィッチとの時間は楽しかった。礼を言う」
魔剣士「ウィッチはアンタによろしくって言って寝ちまってるよ。幼いフォルムは生意気でしょうがねー」
猛竜騎士「クククッ、そいつとの旅は大変だろうが頑張れよ」
魔剣士「もう慣れたよ。それに、俺は自由に旅をする。不死身の最強の剣士様が、新たな世界でも風を吹かしてやるんだぜ」
猛竜騎士「お前なら出来るよ。もう、一人前……」
ふと、言葉を止める。
猛竜騎士「一人前……、一人前か……」
魔剣士「ん?」
猛竜騎士「いや。お前はまだまだ、半人前だ」
魔剣士「おい」
猛竜騎士「そして、俺も半人前だ」
魔剣士「!」
猛竜騎士は掌を開いて、魔剣士に差し出す。
魔剣士「……おいおい」
猛竜騎士「何だ?」
魔剣士「アンタが半人前なら、俺は半人前にもなれねーんじゃねーのか」
猛竜騎士「フッ、そうかもな」
魔剣士「おい……」
猛竜騎士「冗談だ。ハハハッ!」
魔剣士「ったく、オッサンは……」
魔剣士もその手に応える。厚く握手を交わし、抱きしめ、肩を叩きあった。
猛竜騎士「……行って来い。この世界は、白姫と俺らに任せておけ」
魔剣士「アンタらがいれば心配してねーよ。もう、この世界じゃ俺のバーサーカーとしての役割は終わりだ」
叩きあった身体が、互いに震えたことを二人とも分かったが、どちらも言葉は無い。
猛竜騎士「…」
魔剣士「…」
そして、こう言った。
猛竜騎士「言って来い、自慢の息子」
魔剣士「行って来るぜ、自慢の親父」
"バンッ!"
互いに切磋するよう、最後まで強く叩き合ったのだった。
………
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――そして、約束の日。
魔剣士はアルクの店を訪れ、覚悟を決めたことを伝える。大き目のリュックに予備の剣や食糧などを詰め込み、既に魔剣士の準備は終えていた。
アルク「……自分を見つめなおしても、決意は変わらなかったか」
魔剣士「俺はこの世界に居場所が無い。みんな作ってくれようとはしたが、誰かに一生の迷惑をかけて生活するのはゴメンだ」
アルク「そうか。なら、俺も何も言うまい」
アルクは棚から小さいゼンマイを取り出し、魔剣士に渡した。
魔剣士「これは?」
アルク「無くすなよ。それは向こう側の世界の魔力で稼動していたゼンマイ軸だ。それに反応し、扉は開くだろう」
魔剣士「ほう、大事にするぜ」
それをリュックに仕舞う。
アルク「恐らくはそれで成功すると思う。それで、もし…成功して向こう側の世界に行けたら…だな……」
魔剣士「ん?」
アルク「あちら側の世界の中央大陸って場所に、中央商社っていう巨大な会社がある。そこの会長に、店長から言伝を預かってるって言って欲しいんだ」
魔剣士「会長に店長から?どういうことだよ」
アルクは参ったなという顔をしながら、話を続けた。
アルク「俺は元、あちら側の世界の錬金術師のマスタークラスだった。…だが、色々あって小さい店を開いた。その時に世話になったのが現会長で、俺の話なら聞いてくれるはずだ」
傍にあった小さい何に使うかも分からない錬金道具をクルクル手で回しながら言う。
アルク「まぁ伝えて欲しいのか簡単なことだ。お前がそれを知ってくれれば、いつか戻ってこれた時に教えてくれ」
魔剣士「ふむ、それで……何を聞けばいいんだ?」
アルク「店員の銃使いと、鉱夫。その二人は今、そちらの世界にいるのか、無事なのか。もし行方を知らないのなら、出来れば探して欲しいと伝えてくれ」
魔剣士「……それってアンタの話にあった」
アルク「あぁ…こちら側の世界で、二人の店員は見つからなかった。今は外に出ている女の店員は、かろうじて無事…まぁ俺の…うん。そいつは見つかったらよかったんだが……」
魔剣士「事情は分かった、伝えておくよ」
アルク「恩に着る」
回し遊んでいた道具を空中に投げると、パシッとキャッチし、アルクは立ち上がる。するとその時、お店の扉が"キィ"と開いた。
魔剣士「ん?」
アルク「ん…」
そこに立っていたのは、セージであった。
アルク「セージ…」
セージ「魔剣士が今日に旅立つって聞いてね。良かった、まだいたのね。あと、魔剣士にお願いがあって」
魔剣士「セージか。何だ、お前もあっちの世界に何かお願いがあるのか?」
セージ「違うわよ。ほら…隠れてないで出てきなさい」
魔剣士「ん?」
セージが手招きすると、まさか扉の向こう側に隠れていた"彼女"が顔を出した。
バンシィ「お、お兄ちゃん……」
魔剣士「……バンシィ!?」
現れたのは、予想外にも恥ずかしそうにしたバンシィだった。
魔剣士「ど、どうしてここにいるんだ!?」
セージ「貴方を探して、2ヶ月間ずーっと色々旅をしてたみたいよ」
魔剣士「嘘だろ!?」
セージ「何で知らないのよ」
魔剣士「いや、結局は仕事が忙しくてリヒトに話を聞けなかったし、一緒に仕事してるもんだとてっきり……」
セージ「違うわよ。どれだけ心配したか分かってるの?」
魔剣士「マ、マジかよ……」
魔剣士はバンシィの元に近づくと、「ごめんな」と彼女の頭をぽんぽんと優しくなでた。
バンシィ「お兄ちゃん、良かった…。無事だったんだね…。僕、凄く心配して……」
魔剣士「俺は死なないさ。それにしても、白姫の奴と猛竜騎士のオッサンも、何も言わないで…。いや、俺を心配させないためか……」
自分の手を顔にあてて、「お前にも迷惑もかけちまったな」とため息を吐いた。
バンシィ「ううん、いいの。それより、お兄ちゃん」
魔剣士「何だ?」
バンシィ「セージさんから話を聞いたの…。私も、いく……」
魔剣士「ん?」
バンシィ「これ……」
扉の脇においてあった巨大な荷物を指差す。どうやら、バンシィは"新世界の旅"のためにこれを準備したらしい。
魔剣士「ちょい待て。何言ってる?」
バンシィ「一緒にいく」
魔剣士「いやいやいや、危ないし。そもそも俺は一人で行くつもりだし」
バンシィ「ううん、大丈夫。セージさんが、私が氷魔法の体内生成を得意としてるおかげで、雪山も越えられるって」
魔剣士「そ、そうじゃなくてだな。お前、兄貴とか色々、この世界でもやれることが……」
バンシィは魔剣士に抱きつき、顔を隠しながら言った。
バンシィ「リヒトお兄ちゃんも優しいけど、私は魔剣士お兄ちゃんがいいの…。一緒に行くの……」
魔剣士「……いやいや。と、言われてもな。急すぎるし」
ちらっとセージたちの顔を見るが、ニヤニヤ笑い"連れて行けよ"といわんばかり。また、魔剣士は大きな大きなため息を吐いた。
魔剣士「……マジ?」
セージ「大マジよ。一人の旅…いえ、心の中にいるウィッチさんとの三人の旅も悪くないんじゃない?」
魔剣士「こっちには戻って来れないかもしれないんだぞ。ウィッチだって、そこをきちんと分かってだな……」
話の途中で、バンシィが魔剣士にもっと強く抱きついた。
バンシィ「僕は、お兄ちゃんがいない世界が嫌だ…!お兄ちゃんが消えたら、僕、死んじゃうから……」
彼女なら、これが冗談ではないと分かる。そう言われては、連れて行く他がないだろうに。
魔剣士「はぁ…。自分の身は、自分で守れよ……嘘だろ……」
バンシィ「う、うん…!」
許可を得たバンシィは、嬉しそうに荷物を纏め始める。
その間に、魔剣士はセージとアルクに礼を伝えた。
魔剣士「……じゃ、セージもアルクのオッサンもありがとな」
セージ「んっ!頑張ってらっしゃい」
アルク「あっちも面白い世界だぞ」
会話のさ中、バンシィが重い荷物をいくつか背負うのを見た魔剣士は「あーあー」と言いながら一番大きいリュックを代わりに持った。
アルク「……クク、魔剣士」
魔剣士「ん?」
アルク「あちらの世界は、"英雄"が統治する世界だ」
魔剣士「何?」
興味をそそられる言葉に、耳を傾ける。
アルク「かつてあった大陸戦争を収めた5人の英雄が統治する世界だ。…だが、それでも尽きない魔族との戦いは、未だに犠牲者を生んでいる。お前ならもしや、こちらの世界の"英雄剣士"としても、あちらの世界でも新たな"英雄剣士"になれるかもしれないな」
アルクは片方の眉毛をクイっとあげて、面白そうに言った。
魔剣士「英雄…剣士。英雄剣士か。はっはー、言い名前があったもんじゃねーか」
セージ「みんながその名を恐れても、知っている人たちは誰もが貴方をこの世界の英雄剣士と呼んでいるわよ」
魔剣士「フッ…。じゃ、ちょっくらあっちの世界の英雄にでもなってくるわ!」
セージ「えぇ、いってらっしゃい」
バンシィに「行くぞ!」と声をかけ、二人は新世界を目指し、歩き出した。
魔剣士の旅は、まだまだ終らない。
魔剣士「そんなくっつくなよ」
バンシィ「お兄ちゃんと一緒の旅なんて、嬉しすぎて死にそう……」
そして、彼の名前はきっといつか、この世界を救った"英雄剣士"として呼ばれる日が来ることだろう。
魔剣士「誰がお前との旅なんか予想したかよ……」
だから、魔剣士と共に過ごした日々を、決して忘れないで欲しい。
バンシィ「僕、現地妻です……」
願わくば、君が彼を"英雄"としてその名を伝えてくれることを。
魔剣士「やっぱお前との旅、嫌だわ」
バンシィ「えぇっ…ショックぅ……」
魔剣士「顔、ニヤけてんぞ馬鹿」
…………
……
…
魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」
大地編【 END 】
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―――次の日の朝。
白姫は、窓から差す光で目が覚めた。
白姫「…!」
いつの間にか寝てしまっていたのだろうか。白姫は身体を起き上がらせた場所がベッドの上で、ここが自分の部屋であることを確認する。
白姫「夢……?」
ベッドに腰掛け、窓を見つめる。
白姫「ッ!」
ヒリっとした痛みを感じた。白姫は、昨晩の出来事が夢ではないのだと分かった。
白姫「ま、魔剣士……」
でも、夢であって欲しかったとも思う。
夢じゃなかったのなら、もう魔剣士は、違う世界に旅立つ決意をしたということ。戻れないかもしれない旅に出てしまったということだから。
白姫「…」
目を閉じながら、再びベッドへと横になる。両手を組んで、お腹に乗せて、えもいわれぬ時間を思い出す。
魔剣士の覚悟がどれほどにあったか、これからのこと、いつか必ずまた会う約束をした。
白姫「……っ」
だけど、辛かった。辛くないわけがなかった。
白姫は朝日さす光に包まれたベッドの上で一人、静かに泣いた。
………
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―――同時刻・セントラル郊外
猛竜騎士「……本当に白姫と挨拶をしなくていいんだな」
魔剣士「あぁ。俺と、オッサンと、白姫の旅はこれで終わりだ」
早朝、魔剣士は猛竜騎士を呼び出し、最後の別れを告げていた。
猛竜騎士「旅も終わりか。結局、南方大地に行くことは適わなかったが……」
魔剣士「そうなっちまったんだ。仕方ないさ」
猛竜騎士「……あぁ。ウィッチとの時間は楽しかった。礼を言う」
魔剣士「ウィッチはアンタによろしくって言って寝ちまってるよ。幼いフォルムは生意気でしょうがねー」
猛竜騎士「クククッ、そいつとの旅は大変だろうが頑張れよ」
魔剣士「もう慣れたよ。それに、俺は自由に旅をする。不死身の最強の剣士様が、新たな世界でも風を吹かしてやるんだぜ」
猛竜騎士「お前なら出来るよ。もう、一人前……」
ふと、言葉を止める。
猛竜騎士「一人前……、一人前か……」
魔剣士「ん?」
猛竜騎士「いや。お前はまだまだ、半人前だ」
魔剣士「おい」
猛竜騎士「そして、俺も半人前だ」
魔剣士「!」
猛竜騎士は掌を開いて、魔剣士に差し出す。
魔剣士「……おいおい」
猛竜騎士「何だ?」
魔剣士「アンタが半人前なら、俺は半人前にもなれねーんじゃねーのか」
猛竜騎士「フッ、そうかもな」
魔剣士「おい……」
猛竜騎士「冗談だ。ハハハッ!」
魔剣士「ったく、オッサンは……」
魔剣士もその手に応える。厚く握手を交わし、抱きしめ、肩を叩きあった。
猛竜騎士「……行って来い。この世界は、白姫と俺らに任せておけ」
魔剣士「アンタらがいれば心配してねーよ。もう、この世界じゃ俺のバーサーカーとしての役割は終わりだ」
叩きあった身体が、互いに震えたことを二人とも分かったが、どちらも言葉は無い。
猛竜騎士「…」
魔剣士「…」
そして、こう言った。
猛竜騎士「言って来い、自慢の息子」
魔剣士「行って来るぜ、自慢の親父」
"バンッ!"
互いに切磋するよう、最後まで強く叩き合ったのだった。
………
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―――そして、約束の日。
魔剣士はアルクの店を訪れ、覚悟を決めたことを伝える。大き目のリュックに予備の剣や食糧などを詰め込み、既に魔剣士の準備は終えていた。
アルク「……自分を見つめなおしても、決意は変わらなかったか」
魔剣士「俺はこの世界に居場所が無い。みんな作ってくれようとはしたが、誰かに一生の迷惑をかけて生活するのはゴメンだ」
アルク「そうか。なら、俺も何も言うまい」
アルクは棚から小さいゼンマイを取り出し、魔剣士に渡した。
魔剣士「これは?」
アルク「無くすなよ。それは向こう側の世界の魔力で稼動していたゼンマイ軸だ。それに反応し、扉は開くだろう」
魔剣士「ほう、大事にするぜ」
それをリュックに仕舞う。
アルク「恐らくはそれで成功すると思う。それで、もし…成功して向こう側の世界に行けたら…だな……」
魔剣士「ん?」
アルク「あちら側の世界の中央大陸って場所に、中央商社っていう巨大な会社がある。そこの会長に、店長から言伝を預かってるって言って欲しいんだ」
魔剣士「会長に店長から?どういうことだよ」
アルクは参ったなという顔をしながら、話を続けた。
アルク「俺は元、あちら側の世界の錬金術師のマスタークラスだった。…だが、色々あって小さい店を開いた。その時に世話になったのが現会長で、俺の話なら聞いてくれるはずだ」
傍にあった小さい何に使うかも分からない錬金道具をクルクル手で回しながら言う。
アルク「まぁ伝えて欲しいのか簡単なことだ。お前がそれを知ってくれれば、いつか戻ってこれた時に教えてくれ」
魔剣士「ふむ、それで……何を聞けばいいんだ?」
アルク「店員の銃使いと、鉱夫。その二人は今、そちらの世界にいるのか、無事なのか。もし行方を知らないのなら、出来れば探して欲しいと伝えてくれ」
魔剣士「……それってアンタの話にあった」
アルク「あぁ…こちら側の世界で、二人の店員は見つからなかった。今は外に出ている女の店員は、かろうじて無事…まぁ俺の…うん。そいつは見つかったらよかったんだが……」
魔剣士「事情は分かった、伝えておくよ」
アルク「恩に着る」
回し遊んでいた道具を空中に投げると、パシッとキャッチし、アルクは立ち上がる。するとその時、お店の扉が"キィ"と開いた。
魔剣士「ん?」
アルク「ん…」
そこに立っていたのは、セージであった。
アルク「セージ…」
セージ「魔剣士が今日に旅立つって聞いてね。良かった、まだいたのね。あと、魔剣士にお願いがあって」
魔剣士「セージか。何だ、お前もあっちの世界に何かお願いがあるのか?」
セージ「違うわよ。ほら…隠れてないで出てきなさい」
魔剣士「ん?」
セージが手招きすると、まさか扉の向こう側に隠れていた"彼女"が顔を出した。
バンシィ「お、お兄ちゃん……」
魔剣士「……バンシィ!?」
現れたのは、予想外にも恥ずかしそうにしたバンシィだった。
魔剣士「ど、どうしてここにいるんだ!?」
セージ「貴方を探して、2ヶ月間ずーっと色々旅をしてたみたいよ」
魔剣士「嘘だろ!?」
セージ「何で知らないのよ」
魔剣士「いや、結局は仕事が忙しくてリヒトに話を聞けなかったし、一緒に仕事してるもんだとてっきり……」
セージ「違うわよ。どれだけ心配したか分かってるの?」
魔剣士「マ、マジかよ……」
魔剣士はバンシィの元に近づくと、「ごめんな」と彼女の頭をぽんぽんと優しくなでた。
バンシィ「お兄ちゃん、良かった…。無事だったんだね…。僕、凄く心配して……」
魔剣士「俺は死なないさ。それにしても、白姫の奴と猛竜騎士のオッサンも、何も言わないで…。いや、俺を心配させないためか……」
自分の手を顔にあてて、「お前にも迷惑もかけちまったな」とため息を吐いた。
バンシィ「ううん、いいの。それより、お兄ちゃん」
魔剣士「何だ?」
バンシィ「セージさんから話を聞いたの…。私も、いく……」
魔剣士「ん?」
バンシィ「これ……」
扉の脇においてあった巨大な荷物を指差す。どうやら、バンシィは"新世界の旅"のためにこれを準備したらしい。
魔剣士「ちょい待て。何言ってる?」
バンシィ「一緒にいく」
魔剣士「いやいやいや、危ないし。そもそも俺は一人で行くつもりだし」
バンシィ「ううん、大丈夫。セージさんが、私が氷魔法の体内生成を得意としてるおかげで、雪山も越えられるって」
魔剣士「そ、そうじゃなくてだな。お前、兄貴とか色々、この世界でもやれることが……」
バンシィは魔剣士に抱きつき、顔を隠しながら言った。
バンシィ「リヒトお兄ちゃんも優しいけど、私は魔剣士お兄ちゃんがいいの…。一緒に行くの……」
魔剣士「……いやいや。と、言われてもな。急すぎるし」
ちらっとセージたちの顔を見るが、ニヤニヤ笑い"連れて行けよ"といわんばかり。また、魔剣士は大きな大きなため息を吐いた。
魔剣士「……マジ?」
セージ「大マジよ。一人の旅…いえ、心の中にいるウィッチさんとの三人の旅も悪くないんじゃない?」
魔剣士「こっちには戻って来れないかもしれないんだぞ。ウィッチだって、そこをきちんと分かってだな……」
話の途中で、バンシィが魔剣士にもっと強く抱きついた。
バンシィ「僕は、お兄ちゃんがいない世界が嫌だ…!お兄ちゃんが消えたら、僕、死んじゃうから……」
彼女なら、これが冗談ではないと分かる。そう言われては、連れて行く他がないだろうに。
魔剣士「はぁ…。自分の身は、自分で守れよ……嘘だろ……」
バンシィ「う、うん…!」
許可を得たバンシィは、嬉しそうに荷物を纏め始める。
その間に、魔剣士はセージとアルクに礼を伝えた。
魔剣士「……じゃ、セージもアルクのオッサンもありがとな」
セージ「んっ!頑張ってらっしゃい」
アルク「あっちも面白い世界だぞ」
会話のさ中、バンシィが重い荷物をいくつか背負うのを見た魔剣士は「あーあー」と言いながら一番大きいリュックを代わりに持った。
アルク「……クク、魔剣士」
魔剣士「ん?」
アルク「あちらの世界は、"英雄"が統治する世界だ」
魔剣士「何?」
興味をそそられる言葉に、耳を傾ける。
アルク「かつてあった大陸戦争を収めた5人の英雄が統治する世界だ。…だが、それでも尽きない魔族との戦いは、未だに犠牲者を生んでいる。お前ならもしや、こちらの世界の"英雄剣士"としても、あちらの世界でも新たな"英雄剣士"になれるかもしれないな」
アルクは片方の眉毛をクイっとあげて、面白そうに言った。
魔剣士「英雄…剣士。英雄剣士か。はっはー、言い名前があったもんじゃねーか」
セージ「みんながその名を恐れても、知っている人たちは誰もが貴方をこの世界の英雄剣士と呼んでいるわよ」
魔剣士「フッ…。じゃ、ちょっくらあっちの世界の英雄にでもなってくるわ!」
セージ「えぇ、いってらっしゃい」
バンシィに「行くぞ!」と声をかけ、二人は新世界を目指し、歩き出した。
魔剣士の旅は、まだまだ終らない。
魔剣士「そんなくっつくなよ」
バンシィ「お兄ちゃんと一緒の旅なんて、嬉しすぎて死にそう……」
そして、彼の名前はきっといつか、この世界を救った"英雄剣士"として呼ばれる日が来ることだろう。
魔剣士「誰がお前との旅なんか予想したかよ……」
だから、魔剣士と共に過ごした日々を、決して忘れないで欲しい。
バンシィ「僕、現地妻です……」
願わくば、君が彼を"英雄"としてその名を伝えてくれることを。
魔剣士「やっぱお前との旅、嫌だわ」
バンシィ「えぇっ…ショックぅ……」
魔剣士「顔、ニヤけてんぞ馬鹿」
…………
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魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」
大地編【 END 】
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