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第九章【セントラル】
9-61 私も、一緒に
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…
……
…………
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――次の日の深夜。
セントラル王城の、女王専用の寝室。
今日も国民たちのために働き詰めた白姫は、寝室でベッドに横になっていた。
白姫「…」
しかし、彼女は眠ることが出来ない。出来るはずもない。
白姫「…」
このところ、ずっとそうだった。
白姫「…」
会いたいと思えども、彼は来ない。
白姫「…」
みんなが支えてくれていても、辛いものは辛かった。
白姫「ま…け……ん…し……」
一国の女王とあろう者が情けない。こんなことで世界を導くことなんてできるのか。寂しさと不安に、涙があふれる。どんなに強がっても、強くても、彼女は今、真に一人。
白姫「…」
いつものように、そんな想いでただ目を閉じる。明日も、明後日も、明々後日も、ずっとそうなのだろう。そうなんだと、思っていた。
白姫「……?」
だが、その時。
白姫「音…?」
彼女の寝室の窓に、カーテン越しで"こんこん"と音が聴こえた。
白姫「……誰!」
女王になってから、支持は受けても恨みがないわけじゃない。気が抜けない日はない。どんな状況だろうと。
白姫「…っ」
静かに立ち上がり、カーテンの傍に近づく。ここは3階である。誰かが訪ねてくるなど、有り得ないことだ。
白姫(魔法の長けた、暗殺者……)
可能性はゼロじゃない。
白姫はベッド下に隠してある小さい剣を手に取った。
白姫「……誰ですか。ここが、セントラル女王の寝室だと知っての狼藉ですか!」
声を荒げる。カーテン越しの薄暗い月明かり以外、辺りは暗闇。わずかばかり、恐怖で手が震えた。
白姫「もう1度言います。誰ですか!!」
だが、白姫は負けじと声を上げた。
次に相手がしゃべった声を聴くまで、いざという時は戦うことも問わなかったのに。
「……白姫」
その声に、白姫は、小剣を床に落とした。
白姫「ま……さ…か……」
魔剣士「そのままで聞いてくれ。このカーテンは開けないでほしい」
―――魔剣士だった。
白姫「魔剣士…、魔剣士なの…!魔剣士、魔剣士なんだよね!?」
急いでカーテンと窓を開けようと、手をかけた。しかし、白姫の手はカーテンに触れたところで"ガクッ!"と動かなくなった。
白姫「あ、あれ…!?ど、どうして!」
魔剣士「頼む。そのままで聞いてほしい」
白姫「魔剣士…!これは魔法…、ど、どうして!顔を見せてくれないの!?」
魔剣士「今日は、話をしに来たんだ」
白姫「お話し…?どんな?何の!」
魔剣士「―――別れの、挨拶だ」
白姫「えっ…?」
白姫の声が、細くなった。
魔剣士「俺は旅に出る。長い旅だ。この世界に俺の居場所は無い。だから……」
白姫「どうして!?」
魔剣士「ん…」
白姫「今まで会いに来てくれなかったのは仕方ないと思うけど…、久しぶりに会えたのに顔も見せてくれない!別れを言いに来ただけ!どうして…!」
魔剣士「……俺だって迷ったんだ。お前と会いたくないわけがないだろ…。だけど、俺は…」
白姫「魔剣士、私の気持ちなんて全然考えてない!」
魔剣士「!」
白姫「世界が全部、魔剣士の敵だったとしても、魔剣士がいない世界は嫌っ!!」
とんでもない我がままだ。世界を担う女王が、この有様。お転婆姫と呼ばれていた頃を思い出す。
魔剣士「我がまま言うなよ…。お前は、世界の明日を笑顔にするって言ったんだ。それは嘘だったのか?」
白姫「う、嘘じゃないよ…。嘘じゃない。だけど…!」
魔剣士「とにかく、俺は2日後にこの世界から消える。もしかしたら二度と会えないかもしれない」
白姫「ど、どこに…行くの……」
魔剣士「新世界だ」
白姫「どこ…なの?それって……」
魔剣士「ここじゃない別の世界。セージや錬金術師の力を借りて、戻れないかもしれない世界に飛び立つんだ」
白姫「……私がいる世界は、嫌…なの…?」
魔剣士「嫌なわけがない。お前がこの世界にいるっていうだけで、光のように思って……」
白姫「じゃあ行かないで!!」
魔剣士「!」
驚くほどに素直な叫びが、魔剣士の心を揺らす。
白姫「行かないで。行かないで!ダメ。私の傍にいて!!」
魔剣士「お、おい……」
白姫「嫌。嫌だよ。私は魔剣士がこの世界にいるからずっと頑張ってこれたのに、違う世界に行っちゃうなんて絶対に嫌っ!!」
これ以上ない白姫の言葉。ここまで圧倒されると思わず、魔剣士は顔を歪ませる。
魔剣士「俺だって嫌だ。だけど、俺とお前はずっと一緒には…いることは出来ないだろう……」
白姫「一緒にいようと思えばいれるから。私の部屋とか、隠れて一緒にいろんなお店に行くことも、魔剣士が望むことなら…わ、私……!」
魔剣士「世界の女王になるのに、俺みたいな小石に邪魔されてちゃダメだろうが……」
白姫「石なんかじゃない。私にとっては凄く、凄く大事な…何にも例えられない存在なの!」
魔剣士「……我がまま言わないでくれ。お前だって、本当は分かっているはずだろ。俺とお前がどんな存在なのかを」
白姫「分かんない!!」
魔剣士「分かれ…。分かってくれ!」
白姫「嫌だ!わかんないの!!!」
魔剣士「分かれって言ってるんだ!!俺はお前が好きだ。大好きだ!!だけど、一緒にはいられなくなっちまったんだよ!」
白姫「そんなの知らない!!!」
魔剣士「この分からず屋が…!ガキじゃねぇんだ!!俺だって一生懸命に考えて…考えて!」
白姫「分からず屋でも良い!!子供でも良い!!今は、私は…!!」
その言葉に、わずかに魔剣士の魔法が緩む。白姫の想いの強さは、緩んだ魔法くらいなら剥がすことくらい、容易だった。白姫はカーテンと窓を開き、ついに魔剣士と再び出会った。
白姫「私は…、魔剣士とずっと一緒に居たい。ずっと、ずーっと居たいの……!」
魔剣士「ば、馬鹿野郎……!窓を…!顔を見たら、俺は……」
月明かりの下で、二人は見つめ合った。
決心が揺らぐからと思っていたのに、白姫の想いは、自分が思った以上に強かった。
白姫「魔剣士…。お願い、どっかに行かないで。一緒にいて……」
魔剣士「……出来ない。俺はもう覚悟を決めたんだ」
白姫「だったら、魔剣士が行っちゃうんだったら、私も!」
魔剣士「―――…私も、何だ」
魔剣士が睨み付けた。白姫はビクリとする。
魔剣士「テメェ、それは言うんじゃねぇ。お前を想っていた人たちを全員裏切る言葉だ」
白姫「…っ」
魔剣士「俺のやったことを無駄にしたいのか。…興ざめだぜ。お前は、その程度の人間だったのか」
振り向き直し、脚に魔力を込める。このまま、一瞬で飛び去ってしまえば、あとは、会うことは無い。
魔剣士「じゃあな」
白姫「あっ…!」
魔剣士は飛ぶ。この場に居たら、きっと、ずっと一緒にいたくなってしまうから。
魔剣士「…っ」
これで終わりだ。終わりなんだと、そう思った。
―――しかし。
白姫「きゃあああっ!」
魔剣士「何っ…!」
白姫は、飛んだ魔剣士を追って窓から飛んだのだ。寸前で魔剣士の服を掠めた指先。白姫は3階から落下した。
魔剣士「な、何をしてんだお転婆姫がァッ!!」
慌てて風化し、彼女を抱きかかえる。
そして、1階に降り立った。
魔剣士(くっ……!)
"とくん…!"
魔剣士の腕の中で、彼女の温かさを直に…感じてしまった。
白姫「魔剣士……」
魔剣士「この馬鹿が!何で飛び降りた!俺がいなかったら……」
白姫「……従者だもん。守るのは当然でしょ!」
魔剣士「はい?」
白姫「私を守って。これからも、ずっと……」
魔剣士に抱きかかえらる中、彼の身体を両腕でしっかりと掴んだ白姫は離れようとしなかった。
魔剣士「…」
……思い出す。
そういえば、あの時もこんな夜だった。
同じ場所で、白姫を同じような恰好で抱きかかえ、森へと逃げたんだと思い出す。
魔剣士「……白姫」
白姫「何…?」
魔剣士「なら、一晩付き合ってもらおうか」
白姫「えっ?」
魔剣士「懐かしいな。前もこうして、この道を……」
白姫「え…きゃっ!?」
魔剣士は脚に風を込めて、一気に走り出す。向かう先はもちろん、森の中だった。
そして、魔剣士は知っていた。
猛竜騎士「……最期の別れか。何も言わないさ」
白姫の悲鳴を聞きつけた猛竜騎士が、2階の部屋から、傍で話を聞いていたことを。
だから次に行った魔剣士のちょっとしたサービスは、何より嬉しかっただろう。
猛竜騎士「……んっ」
突然、猛竜騎士の寝室を一瞬、黄金の輝きが包み込んだ。何事かと目を眩ますが、次の瞬間、そこに立っていたのは。
ウィッチ「……猛竜騎士」
猛竜騎士「ウィ…、ウィッチ!?」
ウィッチが、傍に立っていた。
ウィッチ「魔剣士ったら、粋なことをして…。本当はこっちの世界に具現化されることが、キツイっていうのに」
彼女は幼少の姿ではなく、美貌を備えた姿でいた。勿論、姿形は触れることが出来ないのだが。
猛竜騎士「ほ、本物…なのか?生きて……いや、違う…。これは…魔法の魔力に近い感覚……」
ウィッチ「そうよ。私は陣のゲートを通して具現化できるようになったの。貴方と挨拶をするって決めてから、だいぶ時間は経っちゃったけどね」
猛竜騎士「そんな…お前は……」
ウィッチ「私は私じゃない。だけど、私。魔剣士と白姫がそうであるように、私も…こうして最後に話が出来ることは嬉しいと思うけど……」
猛竜騎士はよろめきながら、ベッドに腰を下ろす。
ウィッチ「あまり変なことをしないでよ。記憶は魔剣士と共通なんだから、すぐにバレちゃうんだから」
猛竜騎士「そ、そんなことするか!!」
ウィッチ「大人の付き合いは出来ないから。ま…、今の魔剣士は気にしないで会話とか色々してるけどね……」
お互いの心と考えが読み取れる一心同体の二人である。ウィッチは、今の魔剣士に何かを感じ取ったようだ。
猛竜騎士「……そうか。とりあえず、話を…しないか…?」
ウィッチ「あら、随分と受け入れるのが早いのね」
猛竜騎士「今更何が起きても驚かん…。これは…俺が……夢だ…。夢なら、お前と一晩中…話をしたい……」
ウィッチ「セージに怒られるわよ」
猛竜騎士「ど、どうしてセージが出る!」
ウィッチ「分かってるんでしょ。もう私は居ないの。偽者より、愛してくれる人を受け入れたほうが良いの。私もずっとその方が嬉しいから」
にこりと微笑んでみせた。
猛竜騎士「……いつまで、ここに居られるんだ」
ウィッチ「魔剣士が許すまで。私は魔剣士の中でしか生きられない。生きているというより、ただの意識なんだけど…」
猛竜騎士「意識か…。そうか……」
ウィッチ「2か月前、魔剣士は全身の力を使い果たし、私の意識も飛びかけた。それから少しずつ回復したけど、まさかこんな形で具現化するなんてね」
猛竜騎士「ふむ…。無理はしなくても……」
ウィッチ「ちょっと眠いけど、お話しくらいなら出来るわよ。隣に…座るわね」
光をまき散らし、彼女は隣に腰を下ろす。
実際に座っているわけではないが、ベッド近くに浮いて、そう見えているだけだ。
猛竜騎士「…そうか。お前と色々と…話をしたいんだ…。色々と…話をな…………」
ウィッチ「私もよ。夜は長いから……」
夜は、ゆっくりと。だが、確実に。止めることの出来ない、狂おしさを、感じながら。
…………
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―――次の日の深夜。
セントラル王城の、女王専用の寝室。
今日も国民たちのために働き詰めた白姫は、寝室でベッドに横になっていた。
白姫「…」
しかし、彼女は眠ることが出来ない。出来るはずもない。
白姫「…」
このところ、ずっとそうだった。
白姫「…」
会いたいと思えども、彼は来ない。
白姫「…」
みんなが支えてくれていても、辛いものは辛かった。
白姫「ま…け……ん…し……」
一国の女王とあろう者が情けない。こんなことで世界を導くことなんてできるのか。寂しさと不安に、涙があふれる。どんなに強がっても、強くても、彼女は今、真に一人。
白姫「…」
いつものように、そんな想いでただ目を閉じる。明日も、明後日も、明々後日も、ずっとそうなのだろう。そうなんだと、思っていた。
白姫「……?」
だが、その時。
白姫「音…?」
彼女の寝室の窓に、カーテン越しで"こんこん"と音が聴こえた。
白姫「……誰!」
女王になってから、支持は受けても恨みがないわけじゃない。気が抜けない日はない。どんな状況だろうと。
白姫「…っ」
静かに立ち上がり、カーテンの傍に近づく。ここは3階である。誰かが訪ねてくるなど、有り得ないことだ。
白姫(魔法の長けた、暗殺者……)
可能性はゼロじゃない。
白姫はベッド下に隠してある小さい剣を手に取った。
白姫「……誰ですか。ここが、セントラル女王の寝室だと知っての狼藉ですか!」
声を荒げる。カーテン越しの薄暗い月明かり以外、辺りは暗闇。わずかばかり、恐怖で手が震えた。
白姫「もう1度言います。誰ですか!!」
だが、白姫は負けじと声を上げた。
次に相手がしゃべった声を聴くまで、いざという時は戦うことも問わなかったのに。
「……白姫」
その声に、白姫は、小剣を床に落とした。
白姫「ま……さ…か……」
魔剣士「そのままで聞いてくれ。このカーテンは開けないでほしい」
―――魔剣士だった。
白姫「魔剣士…、魔剣士なの…!魔剣士、魔剣士なんだよね!?」
急いでカーテンと窓を開けようと、手をかけた。しかし、白姫の手はカーテンに触れたところで"ガクッ!"と動かなくなった。
白姫「あ、あれ…!?ど、どうして!」
魔剣士「頼む。そのままで聞いてほしい」
白姫「魔剣士…!これは魔法…、ど、どうして!顔を見せてくれないの!?」
魔剣士「今日は、話をしに来たんだ」
白姫「お話し…?どんな?何の!」
魔剣士「―――別れの、挨拶だ」
白姫「えっ…?」
白姫の声が、細くなった。
魔剣士「俺は旅に出る。長い旅だ。この世界に俺の居場所は無い。だから……」
白姫「どうして!?」
魔剣士「ん…」
白姫「今まで会いに来てくれなかったのは仕方ないと思うけど…、久しぶりに会えたのに顔も見せてくれない!別れを言いに来ただけ!どうして…!」
魔剣士「……俺だって迷ったんだ。お前と会いたくないわけがないだろ…。だけど、俺は…」
白姫「魔剣士、私の気持ちなんて全然考えてない!」
魔剣士「!」
白姫「世界が全部、魔剣士の敵だったとしても、魔剣士がいない世界は嫌っ!!」
とんでもない我がままだ。世界を担う女王が、この有様。お転婆姫と呼ばれていた頃を思い出す。
魔剣士「我がまま言うなよ…。お前は、世界の明日を笑顔にするって言ったんだ。それは嘘だったのか?」
白姫「う、嘘じゃないよ…。嘘じゃない。だけど…!」
魔剣士「とにかく、俺は2日後にこの世界から消える。もしかしたら二度と会えないかもしれない」
白姫「ど、どこに…行くの……」
魔剣士「新世界だ」
白姫「どこ…なの?それって……」
魔剣士「ここじゃない別の世界。セージや錬金術師の力を借りて、戻れないかもしれない世界に飛び立つんだ」
白姫「……私がいる世界は、嫌…なの…?」
魔剣士「嫌なわけがない。お前がこの世界にいるっていうだけで、光のように思って……」
白姫「じゃあ行かないで!!」
魔剣士「!」
驚くほどに素直な叫びが、魔剣士の心を揺らす。
白姫「行かないで。行かないで!ダメ。私の傍にいて!!」
魔剣士「お、おい……」
白姫「嫌。嫌だよ。私は魔剣士がこの世界にいるからずっと頑張ってこれたのに、違う世界に行っちゃうなんて絶対に嫌っ!!」
これ以上ない白姫の言葉。ここまで圧倒されると思わず、魔剣士は顔を歪ませる。
魔剣士「俺だって嫌だ。だけど、俺とお前はずっと一緒には…いることは出来ないだろう……」
白姫「一緒にいようと思えばいれるから。私の部屋とか、隠れて一緒にいろんなお店に行くことも、魔剣士が望むことなら…わ、私……!」
魔剣士「世界の女王になるのに、俺みたいな小石に邪魔されてちゃダメだろうが……」
白姫「石なんかじゃない。私にとっては凄く、凄く大事な…何にも例えられない存在なの!」
魔剣士「……我がまま言わないでくれ。お前だって、本当は分かっているはずだろ。俺とお前がどんな存在なのかを」
白姫「分かんない!!」
魔剣士「分かれ…。分かってくれ!」
白姫「嫌だ!わかんないの!!!」
魔剣士「分かれって言ってるんだ!!俺はお前が好きだ。大好きだ!!だけど、一緒にはいられなくなっちまったんだよ!」
白姫「そんなの知らない!!!」
魔剣士「この分からず屋が…!ガキじゃねぇんだ!!俺だって一生懸命に考えて…考えて!」
白姫「分からず屋でも良い!!子供でも良い!!今は、私は…!!」
その言葉に、わずかに魔剣士の魔法が緩む。白姫の想いの強さは、緩んだ魔法くらいなら剥がすことくらい、容易だった。白姫はカーテンと窓を開き、ついに魔剣士と再び出会った。
白姫「私は…、魔剣士とずっと一緒に居たい。ずっと、ずーっと居たいの……!」
魔剣士「ば、馬鹿野郎……!窓を…!顔を見たら、俺は……」
月明かりの下で、二人は見つめ合った。
決心が揺らぐからと思っていたのに、白姫の想いは、自分が思った以上に強かった。
白姫「魔剣士…。お願い、どっかに行かないで。一緒にいて……」
魔剣士「……出来ない。俺はもう覚悟を決めたんだ」
白姫「だったら、魔剣士が行っちゃうんだったら、私も!」
魔剣士「―――…私も、何だ」
魔剣士が睨み付けた。白姫はビクリとする。
魔剣士「テメェ、それは言うんじゃねぇ。お前を想っていた人たちを全員裏切る言葉だ」
白姫「…っ」
魔剣士「俺のやったことを無駄にしたいのか。…興ざめだぜ。お前は、その程度の人間だったのか」
振り向き直し、脚に魔力を込める。このまま、一瞬で飛び去ってしまえば、あとは、会うことは無い。
魔剣士「じゃあな」
白姫「あっ…!」
魔剣士は飛ぶ。この場に居たら、きっと、ずっと一緒にいたくなってしまうから。
魔剣士「…っ」
これで終わりだ。終わりなんだと、そう思った。
―――しかし。
白姫「きゃあああっ!」
魔剣士「何っ…!」
白姫は、飛んだ魔剣士を追って窓から飛んだのだ。寸前で魔剣士の服を掠めた指先。白姫は3階から落下した。
魔剣士「な、何をしてんだお転婆姫がァッ!!」
慌てて風化し、彼女を抱きかかえる。
そして、1階に降り立った。
魔剣士(くっ……!)
"とくん…!"
魔剣士の腕の中で、彼女の温かさを直に…感じてしまった。
白姫「魔剣士……」
魔剣士「この馬鹿が!何で飛び降りた!俺がいなかったら……」
白姫「……従者だもん。守るのは当然でしょ!」
魔剣士「はい?」
白姫「私を守って。これからも、ずっと……」
魔剣士に抱きかかえらる中、彼の身体を両腕でしっかりと掴んだ白姫は離れようとしなかった。
魔剣士「…」
……思い出す。
そういえば、あの時もこんな夜だった。
同じ場所で、白姫を同じような恰好で抱きかかえ、森へと逃げたんだと思い出す。
魔剣士「……白姫」
白姫「何…?」
魔剣士「なら、一晩付き合ってもらおうか」
白姫「えっ?」
魔剣士「懐かしいな。前もこうして、この道を……」
白姫「え…きゃっ!?」
魔剣士は脚に風を込めて、一気に走り出す。向かう先はもちろん、森の中だった。
そして、魔剣士は知っていた。
猛竜騎士「……最期の別れか。何も言わないさ」
白姫の悲鳴を聞きつけた猛竜騎士が、2階の部屋から、傍で話を聞いていたことを。
だから次に行った魔剣士のちょっとしたサービスは、何より嬉しかっただろう。
猛竜騎士「……んっ」
突然、猛竜騎士の寝室を一瞬、黄金の輝きが包み込んだ。何事かと目を眩ますが、次の瞬間、そこに立っていたのは。
ウィッチ「……猛竜騎士」
猛竜騎士「ウィ…、ウィッチ!?」
ウィッチが、傍に立っていた。
ウィッチ「魔剣士ったら、粋なことをして…。本当はこっちの世界に具現化されることが、キツイっていうのに」
彼女は幼少の姿ではなく、美貌を備えた姿でいた。勿論、姿形は触れることが出来ないのだが。
猛竜騎士「ほ、本物…なのか?生きて……いや、違う…。これは…魔法の魔力に近い感覚……」
ウィッチ「そうよ。私は陣のゲートを通して具現化できるようになったの。貴方と挨拶をするって決めてから、だいぶ時間は経っちゃったけどね」
猛竜騎士「そんな…お前は……」
ウィッチ「私は私じゃない。だけど、私。魔剣士と白姫がそうであるように、私も…こうして最後に話が出来ることは嬉しいと思うけど……」
猛竜騎士はよろめきながら、ベッドに腰を下ろす。
ウィッチ「あまり変なことをしないでよ。記憶は魔剣士と共通なんだから、すぐにバレちゃうんだから」
猛竜騎士「そ、そんなことするか!!」
ウィッチ「大人の付き合いは出来ないから。ま…、今の魔剣士は気にしないで会話とか色々してるけどね……」
お互いの心と考えが読み取れる一心同体の二人である。ウィッチは、今の魔剣士に何かを感じ取ったようだ。
猛竜騎士「……そうか。とりあえず、話を…しないか…?」
ウィッチ「あら、随分と受け入れるのが早いのね」
猛竜騎士「今更何が起きても驚かん…。これは…俺が……夢だ…。夢なら、お前と一晩中…話をしたい……」
ウィッチ「セージに怒られるわよ」
猛竜騎士「ど、どうしてセージが出る!」
ウィッチ「分かってるんでしょ。もう私は居ないの。偽者より、愛してくれる人を受け入れたほうが良いの。私もずっとその方が嬉しいから」
にこりと微笑んでみせた。
猛竜騎士「……いつまで、ここに居られるんだ」
ウィッチ「魔剣士が許すまで。私は魔剣士の中でしか生きられない。生きているというより、ただの意識なんだけど…」
猛竜騎士「意識か…。そうか……」
ウィッチ「2か月前、魔剣士は全身の力を使い果たし、私の意識も飛びかけた。それから少しずつ回復したけど、まさかこんな形で具現化するなんてね」
猛竜騎士「ふむ…。無理はしなくても……」
ウィッチ「ちょっと眠いけど、お話しくらいなら出来るわよ。隣に…座るわね」
光をまき散らし、彼女は隣に腰を下ろす。
実際に座っているわけではないが、ベッド近くに浮いて、そう見えているだけだ。
猛竜騎士「…そうか。お前と色々と…話をしたいんだ…。色々と…話をな…………」
ウィッチ「私もよ。夜は長いから……」
夜は、ゆっくりと。だが、確実に。止めることの出来ない、狂おしさを、感じながら。
…………
……
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