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第七章【氷山帝国】
7-18 眉唾な感情
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………………………………………………
―――そして10分後。
実験場にあった魔法縄を利用し、マスター以下、そこにいた警備隊も全員を縛り上げ、床へとひれ伏せさせたのだった。
魔剣士「これで全員か」
セージ「ご苦労様」
魔剣士「……しかし、これからどうすんだ。連合長と副長は縛り上げてもどうにもならんだろ?」
セージ「そうなのよねぇ……」
無様な姿で此方を睨むマスターたちを見てセージはため息を漏らす。
セージ「何が解決するわけじゃないし、かといって放置も出来ないし……」
魔剣士「お前も立派な犯罪者で追われる立場だもんな…ククク」
セージ「それは別に良いけどね」
魔剣士「あらっ」
セージ「こんな国、追われる立場のほうがまだマシだわ」
魔剣士「……ハハハ、そうか」
セージ「本当にどうしようかしら……」
悩むセージに、猛竜騎士が声をかける。
猛竜騎士「追われる立場だと言うのなら、俺らと旅でもするか?」
セージ「え?」
魔剣士「げっ!?」
白姫「あ、いいと思います!」
猛竜騎士「セージ、お前の全てが分かった以上、勝手だがここまでしておいたら立派な仲間だと思いたい」
猛竜騎士「お前が望むのなら、俺らの旅に加わっても良いんじゃないか。犯罪集団ではあるがな……」
セージ「私が冒険者に…。猛竜騎士と…一緒に……?」
一瞬、目をときめかせたセージだったが…答えはすぐに出た。
セージ「ごめんなさい、ノー…ね」
猛竜騎士「そうか……」
白姫「えぇ、ダメですか……?」
魔剣士「いらねぇよ!」
セージ「…」
セージ「んふふ…実はね。ちょーっとだけやりたいことがあったから」
猛竜騎士「やりたいこと?」
セージ「この国を変えるってこと。トップの二人がいなくなれば、私に主導権も出るんじゃない?」
猛竜騎士「……消すつもりか?」
セージ「地下室は広いのよ。自給自足が出来るエリアがあるから、そこでしばらく生活してもらうわ」
猛竜騎士「しかし、他のジェム・ランカーもいるのだろう?」
セージ「全員の解放をする。警備隊、ランクを撤廃して…全員がこの制度を崩せるように発起する」
猛竜騎士「どうやってだ?」
セージ「ココに警備隊長がいるでしょ。嘘をついて、撤廃しちゃったーとか言ってもらえばそれで終わり!」
猛竜騎士「事はそんな単純ではないだろう…」
セージ「……ううん、きっとうまくいく」
猛竜騎士「研究者なのに、運に任せるのか?」
セージ「私は運とか、奇跡とか、眉唾モノを信じるのよ。何度か言ったはずだけどね?」
猛竜騎士「ハハ…!確かにな……!」
笑いあい二人だったが、後ろで縛られていた警備隊長がふと口を開いた。
警備隊長「……女、セージだったか」
セージ「あら、なぁに?」
警備隊長「お前は…この国を変えたいと言ったな。どういう意味だ」
セージ「悲しみが生まれぬように、そうしたい。この国の制度すべてを壊してね」
警備隊長「……それは」
マスター「ば、馬鹿者がぁぁぁっ!!」
セージ「うん?」
マスター「この制度はセントラル王が考案せし、今日の発展まで続きし素晴らしき制度!」
セージ「だから?」
マスター「これを崩せば、我が国の成長は止まる!そんなことを許せるわけないだろうがァ!!」
セージ「……まぁね」
マスター「分かっているならば!」
セージ「確かに…この制度があったから私はこの立場までこれた。研究者になれたわ」
マスター「だったら……!」
セージ「だから何だっていうの?」
マスター「何だと!?」
セージ「だからね…この制度があったから。この制度のせいで私は研究者になってしまったのよ!そうならざるを得なかった!」
セージ「人権を失ったお父さんとお母さんが…治療も受けれずに病で亡くなって……」
セージ「私はこんなこと望んでいなかった!」
セージ「義父さんは凄く優しいけど、本音で言えば、本当に言えば私は……ずっと…家族で笑いあいたかった……!」
警備隊長(…!)
白姫「…っ」
魔剣士「…」
猛竜騎士「…」
セージ「この気持ちは分からないでしょうね。私はたまたま義父さんが凄く頭が良くて、私も研究者になれた!」
セージ「だけど殆どの子どもはそんなことはない!身売りをするしか生きていけない!死ぬしか道がない!」
セージ「甘い汁ばかり吸ってる貴方たちには…こんな気持ち……!」
マスター「く、ククク…!たかが家族くらい!自分が美味い立場になれれば!」
セージ「その考えが間違っていると言っているのよ!」
マスター「他人なぞ知るか!誰もがみな、自分が一番可愛いに決まってる!」
セージ「そんなこと――…!」
白姫「…」
白姫「……ッ!」
白姫「あ、あるわけないッ!!」
魔剣士「!?」
猛竜騎士「…白姫?」
警備隊長(白姫…様……?)
マスターの言葉に反応をしたのは、誰もが予想をしなかった彼女…白姫だった。
白姫「そんなことない!自分が可愛いだけなんてない!セージさんは私たちを思って自分を犠牲にして助けてくれた……!」
マスター「く、クク…。セントラルの反逆者の言葉なぞ……」
白姫「私だって、自分より魔剣士…猛竜騎士さん!セントラルのみんなが笑顔でいてくれたほうが嬉しいんだから!」
マスター「何も知らぬ故の言葉だ!この世は暗闇ばかり…結局最後は自分が大事なんだぁ!!」
白姫「ち、違う!」
マスター「違うものか!」
白姫「今、私が犠牲になって魔剣士の時間が戻るっていうのなら…どんな地獄だって受け入れられる……!」
白姫「セントラルの皆が幸せになるのなら、私はどんな事だってする!!」
マスター「…ッ!」
警備隊長(し、白姫様の…本音のお言葉か……)
魔剣士(白姫がここまで強気に……)
猛竜騎士(そうか、今日まで…出来事の全てがお前をよっぽど強くしていたんだな)
セージ(白姫ちゃんがこんなに強く……)
白姫「ひぐっ……!」
彼女は強く意志を訴え、感極まり嗚咽と涙を流した。
魔剣士「白姫……」
白姫「魔剣士ぃ……」
魔剣士は手を伸ばし、白姫を優しく抱きしめた。全員が白姫の叫びに打たれていたのだが、ただマスターとサーマスはそれに対しても冷たい目を向けていた。そして、彼は再び罵倒を放とうとしたのだが、その時。
マスター「……フン。自分がみな大事。何を言おうと」
警備隊長「もうお黙り下さい」
"ドスッ!"
警備隊長もまた実力の高い持ち主。縛られていた魔縄を既に解き、武器を手にしてそれを降り下ろしたのだ。すぐに魔剣士らは武器を構え直したのだが、その警備隊長の矛先は……。
マスター「ぬ、ぬぉっ!?」
何と、マスターの目の前に剣を突き刺したのだった。
猛竜騎士「何…?」
魔剣士「ど、どういうことだ?」
マスター「何をする警備隊長!!」
警備隊長「もう終わりにしましょう。この信念の持ち主たちに、貴方の言葉は何にもならない」
マスター「何ィィ!」
警備隊長「それどころか、彼女らの言葉にはこの国にない本当の意味での幸せを感じたんです」
マスター「う、裏切る気か!?」
警備隊長「元々私たち、セントラル兵士は誰かの為に一番としていた。国の為に、命を懸けてね」
マスター「何が言いたい…!」
警備隊長「セントラル付近では、国の為に尽くせば"旨み"ともいうべき立場を利用した女、金、何でも手に入りました」
警備隊長「恥ずかしながら私や部下もその括りでしょう」
警備隊長「しかし、白姫様やセージ様の言葉を聞いて思い出した。私たちは、幸せの為に戦っていたんです」
マスター「な、何……!」
白姫「警備隊長さん……!」
セージ(まさか、敵が動いた…!?)
この時、白姫は若干15歳。絶対指導者たる王の血を引く者として、冒険での成長を経て"君臨者"としての覚醒が始まっていたのかもしれない。
警備隊長「金と女に溺れ、大事なことを見失っていた。彼女を見てそれを思い出したんです」
マスター「今さら、その罪が変わるわけではないのだぞ!」
警備隊長「……ッ!」
マスター「この国の為に何人を殺した?何人を見捨てた?その罪を償えると……!」
白姫「償える。人は変われる。それを振り返って、明日に繋げばいいの…!」
白姫「昨日よりも明日。明日よりも明後日。きっと犠牲になった皆も、その人が明日の笑顔を作っていると知っていたら、赦してくれるはずだから!」
マスター「生きている者の勝手な解釈だ!」
警備隊長「勝手な解釈だろうと、私は彼女に賛同した。思い出させてくれた。それで今は充分だ!」
マスター「ぐっ……!ぐぅぅぅっ……!!」
―――ここに。
氷山帝国を長く苦しめていた、"絶対制度"が崩れた。これは同時にセントラルにおける重要な同盟が解約されたものであり、この改革によってセントラルの運命は大きく変わっていく。
また、この日は"革命の日"として長らく歴史に刻まれていくことなるのだが、それはまたこの物語の行く先、セージが"奇跡の記録"として残す歴史書を参考にしてほしい。
セージ「あの…警備隊長?」
警備隊長「…セージ様」
セージ「貴方は、私の考えに賛同してくれたってことで良いのかしら…?」
警備隊長「はい…。私や、部下の全員とは言いませんが…ここにいる者たちのほとんどが一緒の気持ちでしょう」
"警備隊「はいっ…!」"
どんなハキハキした口調でも、縛られたまま床に伏せている以上威厳も何もないのだが…とりあえずは仲間になったということだろう。セージも、白姫が彼らの目を見て「もう迷いのない目です」と伝えていたのは安心材料として受け取っていた。
警備隊長「この者たちや、私たち…ジェムランカーたちを連れて地下にて生活を行います。これ以上、セージ様の行く末に迷惑はかけられません」
セージ「あ~……そのことなんだけど」
警備隊長「如何なさいましたか?」
セージ「出来れば、警備隊長たちは新しい政治の指揮を執ることにあたって、手伝ってほしいかなって」
警備隊長「私たちが…表の世界に?」
セージ「ランクの解放宣言をするのは簡単。だけど、貴方たちが仲間になってくれるのなら問題も簡単に解決できるから……」
セージ「不本意だけど、小さい争いや武力行使は絶対に必要になる。そんな時に、貴方たちが味方なら安心できる」
警備隊長「お、お望みならば。しかし、先ほどまで敵だった私たちを信用をして頂ける等……」
セージ「それが…明日から君たちにとっての笑顔の元なんでしょう?」
警備隊長「あ……」
セージ「その表情で真剣なことは分かるわ。お日様のもとで一緒に本当の笑顔を取り戻せるよう頑張りましょう♪」
警備隊長「有難う…ございますっ……!!」
セージ「お礼は彼女に。白姫ちゃんがあなたを引き戻してくれたのよ」
警備隊長「白姫様……!」
姿勢正しく白姫へ振り向くと、深く一礼をした。
警備隊長「この度の件について、白姫様のお言葉…何より深く突き刺さりました」
白姫「も、もうそんな畏まらなくても!」
警備隊長「誰よりも貴方は民のことを考え、追われる立場となっていたのに…貴方は成長していた……」
白姫「ううん、こんな立場になったから見えない物が見えてきて。今は楽しいから……」
警備隊長「きっと、これからも困難が待ち受けるでしょう。ですが、この国は白姫様と共にあります!いつでも拠り所として下さい!」
白姫「えぇっ!?」
魔剣士「ハッハッハ、良かったじゃねぇか」
白姫「え、えぇぇ!そんなつもりじゃ~!」
魔剣士「お前の言葉で、セントラルの兵士がお前に従ったんだよ。この警備隊たちも立派な部下みてぇなもんだろ!」
白姫「うぅ~……」
猛竜騎士「……セージ、おめでとう。君が望んだ国造りがこれから始まるんだ」
セージ「うん、有難う…。貴方たちと出会えて本当に良かった」
猛竜騎士「犠牲はあったが……」
セージ「フフッ、私がそんな落ち込むタマじゃないわよ!制研究員は最期に笑ってた。あの子もずっと私の部下なんだから!」
猛竜騎士「んっ…そうか!」
セージ「これからやることは沢山あるけどね~。セントラルには今まで通り、技術や提供を続ける"振り"をしながら色々工夫しないと…」
猛竜騎士「成功を願っているよ」
セージ「……猛竜騎士」
猛竜騎士「ん?」
セージ「やっぱり、私はアナタに興味を持って良かった」
猛竜騎士「んーむ…今回のことは魔剣士のおかげに近いのだが」
セージ「貴方がいなかったら今日のことは成しえなかったのよ」
猛竜騎士「そ、そうか……?」
セージ「今はずっと…ずーっと深く興味を持ってる…眉唾な感情だけどね!」
猛竜騎士「どういう意味だ…?」
セージ「秘密!これは特級区の機密事項よ!」
猛竜騎士「おい、早速国を裏切るような言葉を発してるぞ!?」
セージ「ふふっ…!私にとっての特級区の機密事項なの……」
猛竜騎士「むむっ…!?」
笑うセージ、悩む猛竜騎士。彼女の気持ちは彼女しか知らず、疎い彼には分かることはない……。
…………………
…………
……
…
………………………………………………
―――それから。
警備隊長らと一部警備員たちはジェムランカーらを地下室へ幽閉し、警備隊長をサブマスターに迎えてセージが全面の指揮を執っていくこととなった。課題は山積みだが、この国や民たちは"本当の幸せ"を知って行くことになるに違いない。
また、1日をエンペラー・ホテルで過ごした魔剣士たち。
それはつまり、別れの時―――…。
………………………………………………
―――そして10分後。
実験場にあった魔法縄を利用し、マスター以下、そこにいた警備隊も全員を縛り上げ、床へとひれ伏せさせたのだった。
魔剣士「これで全員か」
セージ「ご苦労様」
魔剣士「……しかし、これからどうすんだ。連合長と副長は縛り上げてもどうにもならんだろ?」
セージ「そうなのよねぇ……」
無様な姿で此方を睨むマスターたちを見てセージはため息を漏らす。
セージ「何が解決するわけじゃないし、かといって放置も出来ないし……」
魔剣士「お前も立派な犯罪者で追われる立場だもんな…ククク」
セージ「それは別に良いけどね」
魔剣士「あらっ」
セージ「こんな国、追われる立場のほうがまだマシだわ」
魔剣士「……ハハハ、そうか」
セージ「本当にどうしようかしら……」
悩むセージに、猛竜騎士が声をかける。
猛竜騎士「追われる立場だと言うのなら、俺らと旅でもするか?」
セージ「え?」
魔剣士「げっ!?」
白姫「あ、いいと思います!」
猛竜騎士「セージ、お前の全てが分かった以上、勝手だがここまでしておいたら立派な仲間だと思いたい」
猛竜騎士「お前が望むのなら、俺らの旅に加わっても良いんじゃないか。犯罪集団ではあるがな……」
セージ「私が冒険者に…。猛竜騎士と…一緒に……?」
一瞬、目をときめかせたセージだったが…答えはすぐに出た。
セージ「ごめんなさい、ノー…ね」
猛竜騎士「そうか……」
白姫「えぇ、ダメですか……?」
魔剣士「いらねぇよ!」
セージ「…」
セージ「んふふ…実はね。ちょーっとだけやりたいことがあったから」
猛竜騎士「やりたいこと?」
セージ「この国を変えるってこと。トップの二人がいなくなれば、私に主導権も出るんじゃない?」
猛竜騎士「……消すつもりか?」
セージ「地下室は広いのよ。自給自足が出来るエリアがあるから、そこでしばらく生活してもらうわ」
猛竜騎士「しかし、他のジェム・ランカーもいるのだろう?」
セージ「全員の解放をする。警備隊、ランクを撤廃して…全員がこの制度を崩せるように発起する」
猛竜騎士「どうやってだ?」
セージ「ココに警備隊長がいるでしょ。嘘をついて、撤廃しちゃったーとか言ってもらえばそれで終わり!」
猛竜騎士「事はそんな単純ではないだろう…」
セージ「……ううん、きっとうまくいく」
猛竜騎士「研究者なのに、運に任せるのか?」
セージ「私は運とか、奇跡とか、眉唾モノを信じるのよ。何度か言ったはずだけどね?」
猛竜騎士「ハハ…!確かにな……!」
笑いあい二人だったが、後ろで縛られていた警備隊長がふと口を開いた。
警備隊長「……女、セージだったか」
セージ「あら、なぁに?」
警備隊長「お前は…この国を変えたいと言ったな。どういう意味だ」
セージ「悲しみが生まれぬように、そうしたい。この国の制度すべてを壊してね」
警備隊長「……それは」
マスター「ば、馬鹿者がぁぁぁっ!!」
セージ「うん?」
マスター「この制度はセントラル王が考案せし、今日の発展まで続きし素晴らしき制度!」
セージ「だから?」
マスター「これを崩せば、我が国の成長は止まる!そんなことを許せるわけないだろうがァ!!」
セージ「……まぁね」
マスター「分かっているならば!」
セージ「確かに…この制度があったから私はこの立場までこれた。研究者になれたわ」
マスター「だったら……!」
セージ「だから何だっていうの?」
マスター「何だと!?」
セージ「だからね…この制度があったから。この制度のせいで私は研究者になってしまったのよ!そうならざるを得なかった!」
セージ「人権を失ったお父さんとお母さんが…治療も受けれずに病で亡くなって……」
セージ「私はこんなこと望んでいなかった!」
セージ「義父さんは凄く優しいけど、本音で言えば、本当に言えば私は……ずっと…家族で笑いあいたかった……!」
警備隊長(…!)
白姫「…っ」
魔剣士「…」
猛竜騎士「…」
セージ「この気持ちは分からないでしょうね。私はたまたま義父さんが凄く頭が良くて、私も研究者になれた!」
セージ「だけど殆どの子どもはそんなことはない!身売りをするしか生きていけない!死ぬしか道がない!」
セージ「甘い汁ばかり吸ってる貴方たちには…こんな気持ち……!」
マスター「く、ククク…!たかが家族くらい!自分が美味い立場になれれば!」
セージ「その考えが間違っていると言っているのよ!」
マスター「他人なぞ知るか!誰もがみな、自分が一番可愛いに決まってる!」
セージ「そんなこと――…!」
白姫「…」
白姫「……ッ!」
白姫「あ、あるわけないッ!!」
魔剣士「!?」
猛竜騎士「…白姫?」
警備隊長(白姫…様……?)
マスターの言葉に反応をしたのは、誰もが予想をしなかった彼女…白姫だった。
白姫「そんなことない!自分が可愛いだけなんてない!セージさんは私たちを思って自分を犠牲にして助けてくれた……!」
マスター「く、クク…。セントラルの反逆者の言葉なぞ……」
白姫「私だって、自分より魔剣士…猛竜騎士さん!セントラルのみんなが笑顔でいてくれたほうが嬉しいんだから!」
マスター「何も知らぬ故の言葉だ!この世は暗闇ばかり…結局最後は自分が大事なんだぁ!!」
白姫「ち、違う!」
マスター「違うものか!」
白姫「今、私が犠牲になって魔剣士の時間が戻るっていうのなら…どんな地獄だって受け入れられる……!」
白姫「セントラルの皆が幸せになるのなら、私はどんな事だってする!!」
マスター「…ッ!」
警備隊長(し、白姫様の…本音のお言葉か……)
魔剣士(白姫がここまで強気に……)
猛竜騎士(そうか、今日まで…出来事の全てがお前をよっぽど強くしていたんだな)
セージ(白姫ちゃんがこんなに強く……)
白姫「ひぐっ……!」
彼女は強く意志を訴え、感極まり嗚咽と涙を流した。
魔剣士「白姫……」
白姫「魔剣士ぃ……」
魔剣士は手を伸ばし、白姫を優しく抱きしめた。全員が白姫の叫びに打たれていたのだが、ただマスターとサーマスはそれに対しても冷たい目を向けていた。そして、彼は再び罵倒を放とうとしたのだが、その時。
マスター「……フン。自分がみな大事。何を言おうと」
警備隊長「もうお黙り下さい」
"ドスッ!"
警備隊長もまた実力の高い持ち主。縛られていた魔縄を既に解き、武器を手にしてそれを降り下ろしたのだ。すぐに魔剣士らは武器を構え直したのだが、その警備隊長の矛先は……。
マスター「ぬ、ぬぉっ!?」
何と、マスターの目の前に剣を突き刺したのだった。
猛竜騎士「何…?」
魔剣士「ど、どういうことだ?」
マスター「何をする警備隊長!!」
警備隊長「もう終わりにしましょう。この信念の持ち主たちに、貴方の言葉は何にもならない」
マスター「何ィィ!」
警備隊長「それどころか、彼女らの言葉にはこの国にない本当の意味での幸せを感じたんです」
マスター「う、裏切る気か!?」
警備隊長「元々私たち、セントラル兵士は誰かの為に一番としていた。国の為に、命を懸けてね」
マスター「何が言いたい…!」
警備隊長「セントラル付近では、国の為に尽くせば"旨み"ともいうべき立場を利用した女、金、何でも手に入りました」
警備隊長「恥ずかしながら私や部下もその括りでしょう」
警備隊長「しかし、白姫様やセージ様の言葉を聞いて思い出した。私たちは、幸せの為に戦っていたんです」
マスター「な、何……!」
白姫「警備隊長さん……!」
セージ(まさか、敵が動いた…!?)
この時、白姫は若干15歳。絶対指導者たる王の血を引く者として、冒険での成長を経て"君臨者"としての覚醒が始まっていたのかもしれない。
警備隊長「金と女に溺れ、大事なことを見失っていた。彼女を見てそれを思い出したんです」
マスター「今さら、その罪が変わるわけではないのだぞ!」
警備隊長「……ッ!」
マスター「この国の為に何人を殺した?何人を見捨てた?その罪を償えると……!」
白姫「償える。人は変われる。それを振り返って、明日に繋げばいいの…!」
白姫「昨日よりも明日。明日よりも明後日。きっと犠牲になった皆も、その人が明日の笑顔を作っていると知っていたら、赦してくれるはずだから!」
マスター「生きている者の勝手な解釈だ!」
警備隊長「勝手な解釈だろうと、私は彼女に賛同した。思い出させてくれた。それで今は充分だ!」
マスター「ぐっ……!ぐぅぅぅっ……!!」
―――ここに。
氷山帝国を長く苦しめていた、"絶対制度"が崩れた。これは同時にセントラルにおける重要な同盟が解約されたものであり、この改革によってセントラルの運命は大きく変わっていく。
また、この日は"革命の日"として長らく歴史に刻まれていくことなるのだが、それはまたこの物語の行く先、セージが"奇跡の記録"として残す歴史書を参考にしてほしい。
セージ「あの…警備隊長?」
警備隊長「…セージ様」
セージ「貴方は、私の考えに賛同してくれたってことで良いのかしら…?」
警備隊長「はい…。私や、部下の全員とは言いませんが…ここにいる者たちのほとんどが一緒の気持ちでしょう」
"警備隊「はいっ…!」"
どんなハキハキした口調でも、縛られたまま床に伏せている以上威厳も何もないのだが…とりあえずは仲間になったということだろう。セージも、白姫が彼らの目を見て「もう迷いのない目です」と伝えていたのは安心材料として受け取っていた。
警備隊長「この者たちや、私たち…ジェムランカーたちを連れて地下にて生活を行います。これ以上、セージ様の行く末に迷惑はかけられません」
セージ「あ~……そのことなんだけど」
警備隊長「如何なさいましたか?」
セージ「出来れば、警備隊長たちは新しい政治の指揮を執ることにあたって、手伝ってほしいかなって」
警備隊長「私たちが…表の世界に?」
セージ「ランクの解放宣言をするのは簡単。だけど、貴方たちが仲間になってくれるのなら問題も簡単に解決できるから……」
セージ「不本意だけど、小さい争いや武力行使は絶対に必要になる。そんな時に、貴方たちが味方なら安心できる」
警備隊長「お、お望みならば。しかし、先ほどまで敵だった私たちを信用をして頂ける等……」
セージ「それが…明日から君たちにとっての笑顔の元なんでしょう?」
警備隊長「あ……」
セージ「その表情で真剣なことは分かるわ。お日様のもとで一緒に本当の笑顔を取り戻せるよう頑張りましょう♪」
警備隊長「有難う…ございますっ……!!」
セージ「お礼は彼女に。白姫ちゃんがあなたを引き戻してくれたのよ」
警備隊長「白姫様……!」
姿勢正しく白姫へ振り向くと、深く一礼をした。
警備隊長「この度の件について、白姫様のお言葉…何より深く突き刺さりました」
白姫「も、もうそんな畏まらなくても!」
警備隊長「誰よりも貴方は民のことを考え、追われる立場となっていたのに…貴方は成長していた……」
白姫「ううん、こんな立場になったから見えない物が見えてきて。今は楽しいから……」
警備隊長「きっと、これからも困難が待ち受けるでしょう。ですが、この国は白姫様と共にあります!いつでも拠り所として下さい!」
白姫「えぇっ!?」
魔剣士「ハッハッハ、良かったじゃねぇか」
白姫「え、えぇぇ!そんなつもりじゃ~!」
魔剣士「お前の言葉で、セントラルの兵士がお前に従ったんだよ。この警備隊たちも立派な部下みてぇなもんだろ!」
白姫「うぅ~……」
猛竜騎士「……セージ、おめでとう。君が望んだ国造りがこれから始まるんだ」
セージ「うん、有難う…。貴方たちと出会えて本当に良かった」
猛竜騎士「犠牲はあったが……」
セージ「フフッ、私がそんな落ち込むタマじゃないわよ!制研究員は最期に笑ってた。あの子もずっと私の部下なんだから!」
猛竜騎士「んっ…そうか!」
セージ「これからやることは沢山あるけどね~。セントラルには今まで通り、技術や提供を続ける"振り"をしながら色々工夫しないと…」
猛竜騎士「成功を願っているよ」
セージ「……猛竜騎士」
猛竜騎士「ん?」
セージ「やっぱり、私はアナタに興味を持って良かった」
猛竜騎士「んーむ…今回のことは魔剣士のおかげに近いのだが」
セージ「貴方がいなかったら今日のことは成しえなかったのよ」
猛竜騎士「そ、そうか……?」
セージ「今はずっと…ずーっと深く興味を持ってる…眉唾な感情だけどね!」
猛竜騎士「どういう意味だ…?」
セージ「秘密!これは特級区の機密事項よ!」
猛竜騎士「おい、早速国を裏切るような言葉を発してるぞ!?」
セージ「ふふっ…!私にとっての特級区の機密事項なの……」
猛竜騎士「むむっ…!?」
笑うセージ、悩む猛竜騎士。彼女の気持ちは彼女しか知らず、疎い彼には分かることはない……。
…………………
…………
……
…
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―――それから。
警備隊長らと一部警備員たちはジェムランカーらを地下室へ幽閉し、警備隊長をサブマスターに迎えてセージが全面の指揮を執っていくこととなった。課題は山積みだが、この国や民たちは"本当の幸せ"を知って行くことになるに違いない。
また、1日をエンペラー・ホテルで過ごした魔剣士たち。
それはつまり、別れの時―――…。
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【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
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