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第八章【東方大地】
8-6 砂国「1」
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二人とも知ってると思うけど、私の国は戦いに生きる国だった。
東方大地という場所に生まれた以上、己の身を守るために立ち上がった人々で作られた国。
それが「砂国」。
戦闘民族、戦闘国家、武力国家なんて呼ばれてるけど、
国民同士は仲が良かったし、あくまでも自分たちを襲ってくる"敵"に対して行動を起こしてただけ。
国王…つまり私のお父様は代々続く英雄一族って呼ばれてて、その昔から、アサシン盗賊団はもちろんのこと、多くの敵から自らの腕を振るっていかなる時も戦場で戦ってきた。
魔剣士「ツエー親父だったんだな」
白姫「す、凄いお父さんだったんだね……」
フッフーン、当たり前でしょ!
だからこそ、"兄さん"は凄く悩むことになっちゃったんだけど……。
魔剣士「兄貴がいたのか」
白姫「お兄様が悩んだって…どうして?」
うん。実は、兄さんは昔から身体が弱かったのよ。
喧嘩も私のほうが強かったのに、いつも魔剣士みたく生意気言うところもあってムカつくこともあって……!
魔剣士「さりげなく俺を入れんな」
白姫「あはは…」
そんな兄さんと、あの日もそんな会話をしたのを覚えてる。
うん。"戴冠式"の少し前、あの日……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――2年前。砂国・王城にて。
テイル「プリンツ兄さん、凄く嬉しそうじゃない」
クローツ「ハッハッハ、そう見えるか!」
王城の一角でテイルと親しげに話す男がいた。
彼こそ、テイルと同じく銀に輝く髪の毛が印象的な、砂国の王「キング」の息子である"クローツ王子"である。その顔立ちは美的であり、テイルと並ぶと兄妹してより美しさがより際立った。
テイル「でも、兄さん浮かれすぎて気持ち悪い」
言葉遣いはとても悪かったのだが。
クローツ「おま…。というか、人の名をプリンツいうな。俺の名はクローツだ」
テイル「プリプリってお尻みたいな名前、貴方にぴったりでしょ」
クローツ「お前な…。妹なんだからもっと第一王子たる俺に敬意を払う姿勢を……」
テイル「関係ないわよ。それに兄さんは体力的にも私より弱いじゃない」
クローツ「身体が弱いのは生まれつきだ!」
テイル「あっそ」
クローツ「うるさい奴だ…。身体が弱いからこそ、俺は勉学に励み、軍師となり父上に次ぐ立派な王となってみせると言ってるだろう!」
テイル「あっそ」
クローツ「お、お前は本当に……」
国王「キング」よりクローン・プリンツ(王子の意)で名を授けられたクローツ。
戦いの国に生まれたクローツだったが、不幸なことに彼は生まれながらにして虚弱体質で、その後、王と妃の間に授かった女の子テイルのほうが体力的に恵まれていたくらいである。
クローツ(思えば、最低な人生だった)
本来、喜ぶべき王族の家系。しかし、自我が芽生え始めた頃、クローツは自身の運命を呪った。
英雄一族、戦いの象徴たる王を継ぐことが出来ない可能性が出てきたことや、そもそも家系に生まれたこと。
また、彼は実践を通してテイルにすら剣術、体術、全てにおいて敵わなかったこと。
長時間の運動に耐えきれなかった身体は、本当に呪いと言っても過言ではなかったかもしれない。
クローツ(……だけど)
だが、彼は。自ら率先して戦い、国民に愛される父親の姿を見て、次第に「国」の存在に惹かれていった。
クローツ(だから……)
だから、ハンデを背負いつつも努力を惜しむことはなかった。
身体が弱いのなら、それはそれで戦い様がある。
クローツ(身体のハンデなんか関係ない。俺は、俺がやれることで国を率いる男になる!)
幸い、国には歴代の王や兵士たちによる歴戦の資料が多く残されていた。
日夜それを勉学として取り入れることで、クローツは「軍師」としての知恵、知力を蓄えていった。
その努力は凄まじいもので、当初「血は廃れた」と呼ぶ周囲の声に血を吐くほどストレスを感じながらも教養をし続け、当初こそ嘆いていた王キングも「ハンデをものともしない我が息子に、祝福を与えたい」とするようになっていた。
クローツ(本当死ぬような勉学を行い、やがて…時が流れた)
―――そして。
彼が18歳を迎える二日後となった今日。国の掟として、18歳になった王子は「王」を継ぐ立場となり、クローツとテイルはそれについての会話を繰り広げてたというわけだ。
テイル「兄さんが戴冠式か~……」
クローツ「ククク、今日の元老院の会議で決議されるが、何年も続いた伝統だからな。俺が王となって国民を率いるさ」
テイル「でも、兄さんが王になったら前線に赴いてアサシン盗賊団とかと国を守るために戦うんだよ?」
クローツ「何の問題もない」
テイル「……私としては、兄さんが戦いの途中で発作を起こして倒れないか心配なんだけど」
クローツ「…ご、ごほんっ!確かに俺は長時間の戦いが出来ないけどな、だからこそ頭で勝負をするんだよ」
テイル「兄さんなんかに出来るのー?」
クローツ「お前はどこまで人を馬鹿にすればいいのか」
テイル「あーあ、私が変わってあげてもいいんだけどな?」
クローツ「ハッハッハッ、確かにお前なら確かに民を武力で率いることも出来るかもしれないな」
テイル「"出来るかもしれない"じゃなくて!私ならできるわよ!」
クローツ「武力の国で、女が国民を率いるなんて聞いたこともない。お前は女としての幸せを歩めばいいんだよ」
クローツは、そっとテイルの頭に手を乗せて優しく微笑んだ。
テイル「変態!」
クローツ「おい」
テイル「……うそっ」
テイルはクスっと笑いながら、クローツをエヘヘと見つめた。
クローツ「やれやれ、姫君にも困ったものだ」
テイル「兄さん、頑張って私たちを率いてね!」
クローツ「当たり前だ。誰にものを言っている?」
テイル「へへっ♪」
確かに喧嘩も多かったが、この兄妹は仲が良かった。テイルは兄が近く控える戴冠式を心底祝っていたし、クローツもは国民のために、大事な妹のためにも、絶対に国を守るという決心を固めていた。
―――…しかし。
この国に襲い掛かる脅威は、すぐそばまで近づいていた。
…………
……
…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――同時刻、元老院。
「元老院」とは王城内に存在する、政治の助言機関である。その歴史は長く、王国の繁栄の裏には常に存在していた。
国における全ての事柄は「元老院」により決議されることから、二日後に迫った戴冠式についての協議もまさに今、とり行われている最中だった。
また、その構成員たちは国において重役とされる各機関のトップらである。
トレジャリ(財務長)「……して、明後日の戴冠式についてだが」
ディフェン(防衛長)「ついに来ましたか」
ジャッジ(裁判長)「次の王の戴冠式の決議ですか」
キング(王)「……どうぞ、息子のためによろしくお願い申し上げます」
元老院といえども、国の掟に従うことには相違ない。約30年ぶりの戴冠式の決議といえども、歴代通り現王の息子である「クローツ」という流れで決定するはず。
現王キングも特に問題視する様子はなく、
「我が子の努力を知っていた元老院たちのメンバーも、きっと息子を次の王と選ぶだろう」
そう考えていた。
……砂国の運命を狂わすことになる、彼の言葉がなければ。
ビショップ(最高位僧侶)「…ちょっと待ってください」
それに異議を申し立てたのは、僧侶の最高位を持つ男"ビショップ"だった。
戦うことは、即ち「死」と隣り合わせということもあり、死者を弔うことは何よりも大事としていた砂国にとって、最高位僧侶の発言は誰よりも力があった。
キング「……ビショップ殿?」
ビショップ「議題として1つ、持ち合わせているものがありまして」
キング「何でしょうか?」
ビショップ「いえ、実はですね。我が家系の現在における問題を御存じでしょうか」
キング「……それは知っておりますが」
今のビショップにおける家系の問題。
それは「継ぐ者」の問題だった。
ジャッジ「ビショップ殿も引退を間近というのに…子には恵まれなかった件についてですね」
ビショップ「お恥ずかしながら」
ビショップの当代は子に恵まれず、弟子を取ろうとしても優秀な人材が見つからないために、焦っているというは聞いていた。
キング「して、その議題と息子の戴冠式に何の関係が?」
ビショップ「恐縮なお言葉となりますが」
キング「構いません」
ビショップ「有難うございます。実は…優秀たる知識を持つクローツ王子を"我が跡継ぎ"にしていただけないかと存じまして」
彼の一言に、"ざわり"と周りが声を上げた。
キング「……何と言いましたか?」
ビショップ「歴代の王子は、強き者がなるべき。そういう国の掟がありますよね?」
キング「そうですな」
ビショップ「それでは、クローツ王子は不向きではないかというお話です」
キング「……どういうことでしょうか」
王子を小馬鹿にしたような態度に、キングの眼つきが変わる。
ビショップ「落ち着いて最後まで聞いていただきたい。よろしいですか?」
キング「聞きは致します…が」
ビショップ「有難うございます。では、最初から……」
ビショップ「クローツ王子は、生まれながらにして運動による発作を起こす持病がある。つまり戦いには不向きでしょう?」
ビショップ「ですから、王には相応しくないのではと…そう申しております」
キング「我が息子を愚弄する気ですか」
ビショップ「そうは言っておりません。ただ、国の掟に逆らうことになるのではと思いまして」
キング「国の掟…」
ビショップ「歴代の元老院および王の血筋は"武力で強くある者"で、前線で戦うことにあります。彼に剣を振う事は出来ますか?」
キング「……でき…ません…」
ビショップ「ですから、そちらの提案をさせていただいたわけです」
確かに、国の掟としては強くある者として存在する。
だが、矛盾する掟としてもう1つ、存在していることがあった。
キング「…しかし、お待ちくださいビショップ殿」
ビショップ「何でしょう」
キング「国の掟を持ち出すのなら、王の血筋を持って認められる存在となる者。王の息子が十八を迎えた時に戴冠すべきとも掟の一つでしょう」
ビショップ「……なるほど」
キング「どちらを優先すべきと考えた時、血筋を持つ我が子を王とするのが掟に従う第一の候補となるでしょう」
元来、法律や決まりとは矛盾が存在することは珍しくない。その際、決定力を持つのはより矛盾が少なく、人が納得する選択を選ぶことにある。
この場合、国民から愛される「キング」の血を持ちながら、勉学を励んでいることを認められた「クローツ」を王子とすることに矛盾は少ないわけだ。
ビショップ「――しかし、ですね」
この矛盾が存在してしまったこと自体、ビショップに有意だった。
ビショップ「クローツ様を王にすることは、どのみち国の掟に逆らう――…そういうことになりますね?」
キング「そ、そこまで言うほど息子を王にしたくないということか……!」
ビショップ「いや何、国の掟を破ることは歴史上なかったこと。これは新しい試みということにもなります」
キング「だからどうした……!」
ビショップ「これは"掟を破る"ための決議ということになりますね」
キング「…ですから、何を言いたいのかッ!」
ビショップ「私の提案も掟を破るということでは同意。違いますか?」
キング「……一理はありますが」
ビショップ「なら、私の提案も通るはずです。いや、むしろ。新しい試みというのなら別の代用案も用意致しました」
キング「どういうことですか……」
ビショップ「掟を破ることは、新しい試み。ならいっそのこと、姫様を女王として率いる者に用いてはいかがですかな……?」
キング「テイルを!?」
ビショップ「バカなことと思うかもしれませんが、利にはかなっている筈です」
掟として力を見た時、クローツを王子として迎える決定力は強い。
だが、掟を破るという話では「王子を迎える」ことも「迎えないこと」も同じとなるということだ。
ビショップ「実力を見れば、戦いに向いた姫様を王女とするほうが民衆も納得するのでは?」
キング「し、しかし……!」
ビショップ「女性を前線に立たせることは、民の女たちにとって希望となりませんか?」
キング「そうかもしれませんが…しかしですね……」
ビショップ「それに、彼女は国のためになる存在です。そう、彼女は……」
テイルは、普段こそ乱暴であったが王室における最低限のマナーや女性としての戦いの実力は高いものを備えていた。率いる者として充分に、女王の立場としても通用するのは間違いなかった。
ビショップ「新しい試み。民はそれを必ずや受け入れるでしょう。新時代の幕開けとして唱えることは、より確固たる国になっていくはずです」
キング「…テイルが新時代を支えると?」
ビショップ「女は立ち上がり、新時代を迎える決断をした元老院たちの評価も上がる。国は生き物ですから、新しい試みはいい刺激になる」
キング「な、ならば戦いの実力が足りないクローツを迎えることも一つの新時代となるのではないですか!」
ビショップ「刺激が足りな過ぎます。今の民は…国は…それを当然と信じている」
キング「…だが、それではクローツの努力を無駄にします!」
ビショップ「無駄にしないと考えています」
キング「僧侶の跡取りにしては、王を目指したクローツを裏切る行為と一緒です!」
ビショップ「最高位僧侶兼、軍師としてはどうですか?」
キング「ぬっ…!」
ビショップの言葉は、何もかもうわ手であった。
元老院の同席したメンバーたちも、この二人のやり取りには入ることが出来なかった。
ビショップ「彼は軍師として、王となるつもりだった。最高位僧侶を継ぎ、軍師としても立ち回ればその勉学してきた知識も無駄にはならない」
キング「確かに、その通りではありますが……」
ビショップ「国を新しい時代へ。戦姫、軍神が生まれたこの国の未来は世界を担う存在となるやもしれません」
キング「世界を担う…存在……」
ビショップ「セントラルという国のように、東方大地のハンデを跳ねのけ、今こそこの大地に幸福を。彼らならできます」
キング「……そうでしょうか」
ビショップ「それに、姫様が18になるまで約5、6年を待ちますが、それまでキング様も戦い続けられるのですよ?」
キング「!」
王を引退することは、すなわち元老院の一人となって在籍するために生きねばならないということで、今まで戦い続けてきた彼にとって、前線から離れることはある意味"死"を宣告されることと一緒だった。
また、元老院のメンバーとなることは誰かが「美味い汁」を吸えなくなることで、ビショップの口から出る言葉は全て、直接的にも間接的にも全員の気持ちを揺さぶるには余りにも簡単すぎた。
ビショップ「以上、私の提案は終わります。お時間を頂戴致しましたことを深く御礼申し上げます」
深く頭を下げながら、ビショップは「フフフ」と笑みを浮かべながら着席した。
従来、提案が出た場合はそれに対しメンバーたちが議論を繰り広げるのだが、今日の提案に対しては誰一人、彼が「以上です」と言ったあとに発言する者はいなかった。
…………
……
…
二人とも知ってると思うけど、私の国は戦いに生きる国だった。
東方大地という場所に生まれた以上、己の身を守るために立ち上がった人々で作られた国。
それが「砂国」。
戦闘民族、戦闘国家、武力国家なんて呼ばれてるけど、
国民同士は仲が良かったし、あくまでも自分たちを襲ってくる"敵"に対して行動を起こしてただけ。
国王…つまり私のお父様は代々続く英雄一族って呼ばれてて、その昔から、アサシン盗賊団はもちろんのこと、多くの敵から自らの腕を振るっていかなる時も戦場で戦ってきた。
魔剣士「ツエー親父だったんだな」
白姫「す、凄いお父さんだったんだね……」
フッフーン、当たり前でしょ!
だからこそ、"兄さん"は凄く悩むことになっちゃったんだけど……。
魔剣士「兄貴がいたのか」
白姫「お兄様が悩んだって…どうして?」
うん。実は、兄さんは昔から身体が弱かったのよ。
喧嘩も私のほうが強かったのに、いつも魔剣士みたく生意気言うところもあってムカつくこともあって……!
魔剣士「さりげなく俺を入れんな」
白姫「あはは…」
そんな兄さんと、あの日もそんな会話をしたのを覚えてる。
うん。"戴冠式"の少し前、あの日……。
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―――2年前。砂国・王城にて。
テイル「プリンツ兄さん、凄く嬉しそうじゃない」
クローツ「ハッハッハ、そう見えるか!」
王城の一角でテイルと親しげに話す男がいた。
彼こそ、テイルと同じく銀に輝く髪の毛が印象的な、砂国の王「キング」の息子である"クローツ王子"である。その顔立ちは美的であり、テイルと並ぶと兄妹してより美しさがより際立った。
テイル「でも、兄さん浮かれすぎて気持ち悪い」
言葉遣いはとても悪かったのだが。
クローツ「おま…。というか、人の名をプリンツいうな。俺の名はクローツだ」
テイル「プリプリってお尻みたいな名前、貴方にぴったりでしょ」
クローツ「お前な…。妹なんだからもっと第一王子たる俺に敬意を払う姿勢を……」
テイル「関係ないわよ。それに兄さんは体力的にも私より弱いじゃない」
クローツ「身体が弱いのは生まれつきだ!」
テイル「あっそ」
クローツ「うるさい奴だ…。身体が弱いからこそ、俺は勉学に励み、軍師となり父上に次ぐ立派な王となってみせると言ってるだろう!」
テイル「あっそ」
クローツ「お、お前は本当に……」
国王「キング」よりクローン・プリンツ(王子の意)で名を授けられたクローツ。
戦いの国に生まれたクローツだったが、不幸なことに彼は生まれながらにして虚弱体質で、その後、王と妃の間に授かった女の子テイルのほうが体力的に恵まれていたくらいである。
クローツ(思えば、最低な人生だった)
本来、喜ぶべき王族の家系。しかし、自我が芽生え始めた頃、クローツは自身の運命を呪った。
英雄一族、戦いの象徴たる王を継ぐことが出来ない可能性が出てきたことや、そもそも家系に生まれたこと。
また、彼は実践を通してテイルにすら剣術、体術、全てにおいて敵わなかったこと。
長時間の運動に耐えきれなかった身体は、本当に呪いと言っても過言ではなかったかもしれない。
クローツ(……だけど)
だが、彼は。自ら率先して戦い、国民に愛される父親の姿を見て、次第に「国」の存在に惹かれていった。
クローツ(だから……)
だから、ハンデを背負いつつも努力を惜しむことはなかった。
身体が弱いのなら、それはそれで戦い様がある。
クローツ(身体のハンデなんか関係ない。俺は、俺がやれることで国を率いる男になる!)
幸い、国には歴代の王や兵士たちによる歴戦の資料が多く残されていた。
日夜それを勉学として取り入れることで、クローツは「軍師」としての知恵、知力を蓄えていった。
その努力は凄まじいもので、当初「血は廃れた」と呼ぶ周囲の声に血を吐くほどストレスを感じながらも教養をし続け、当初こそ嘆いていた王キングも「ハンデをものともしない我が息子に、祝福を与えたい」とするようになっていた。
クローツ(本当死ぬような勉学を行い、やがて…時が流れた)
―――そして。
彼が18歳を迎える二日後となった今日。国の掟として、18歳になった王子は「王」を継ぐ立場となり、クローツとテイルはそれについての会話を繰り広げてたというわけだ。
テイル「兄さんが戴冠式か~……」
クローツ「ククク、今日の元老院の会議で決議されるが、何年も続いた伝統だからな。俺が王となって国民を率いるさ」
テイル「でも、兄さんが王になったら前線に赴いてアサシン盗賊団とかと国を守るために戦うんだよ?」
クローツ「何の問題もない」
テイル「……私としては、兄さんが戦いの途中で発作を起こして倒れないか心配なんだけど」
クローツ「…ご、ごほんっ!確かに俺は長時間の戦いが出来ないけどな、だからこそ頭で勝負をするんだよ」
テイル「兄さんなんかに出来るのー?」
クローツ「お前はどこまで人を馬鹿にすればいいのか」
テイル「あーあ、私が変わってあげてもいいんだけどな?」
クローツ「ハッハッハッ、確かにお前なら確かに民を武力で率いることも出来るかもしれないな」
テイル「"出来るかもしれない"じゃなくて!私ならできるわよ!」
クローツ「武力の国で、女が国民を率いるなんて聞いたこともない。お前は女としての幸せを歩めばいいんだよ」
クローツは、そっとテイルの頭に手を乗せて優しく微笑んだ。
テイル「変態!」
クローツ「おい」
テイル「……うそっ」
テイルはクスっと笑いながら、クローツをエヘヘと見つめた。
クローツ「やれやれ、姫君にも困ったものだ」
テイル「兄さん、頑張って私たちを率いてね!」
クローツ「当たり前だ。誰にものを言っている?」
テイル「へへっ♪」
確かに喧嘩も多かったが、この兄妹は仲が良かった。テイルは兄が近く控える戴冠式を心底祝っていたし、クローツもは国民のために、大事な妹のためにも、絶対に国を守るという決心を固めていた。
―――…しかし。
この国に襲い掛かる脅威は、すぐそばまで近づいていた。
…………
……
…
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―――同時刻、元老院。
「元老院」とは王城内に存在する、政治の助言機関である。その歴史は長く、王国の繁栄の裏には常に存在していた。
国における全ての事柄は「元老院」により決議されることから、二日後に迫った戴冠式についての協議もまさに今、とり行われている最中だった。
また、その構成員たちは国において重役とされる各機関のトップらである。
トレジャリ(財務長)「……して、明後日の戴冠式についてだが」
ディフェン(防衛長)「ついに来ましたか」
ジャッジ(裁判長)「次の王の戴冠式の決議ですか」
キング(王)「……どうぞ、息子のためによろしくお願い申し上げます」
元老院といえども、国の掟に従うことには相違ない。約30年ぶりの戴冠式の決議といえども、歴代通り現王の息子である「クローツ」という流れで決定するはず。
現王キングも特に問題視する様子はなく、
「我が子の努力を知っていた元老院たちのメンバーも、きっと息子を次の王と選ぶだろう」
そう考えていた。
……砂国の運命を狂わすことになる、彼の言葉がなければ。
ビショップ(最高位僧侶)「…ちょっと待ってください」
それに異議を申し立てたのは、僧侶の最高位を持つ男"ビショップ"だった。
戦うことは、即ち「死」と隣り合わせということもあり、死者を弔うことは何よりも大事としていた砂国にとって、最高位僧侶の発言は誰よりも力があった。
キング「……ビショップ殿?」
ビショップ「議題として1つ、持ち合わせているものがありまして」
キング「何でしょうか?」
ビショップ「いえ、実はですね。我が家系の現在における問題を御存じでしょうか」
キング「……それは知っておりますが」
今のビショップにおける家系の問題。
それは「継ぐ者」の問題だった。
ジャッジ「ビショップ殿も引退を間近というのに…子には恵まれなかった件についてですね」
ビショップ「お恥ずかしながら」
ビショップの当代は子に恵まれず、弟子を取ろうとしても優秀な人材が見つからないために、焦っているというは聞いていた。
キング「して、その議題と息子の戴冠式に何の関係が?」
ビショップ「恐縮なお言葉となりますが」
キング「構いません」
ビショップ「有難うございます。実は…優秀たる知識を持つクローツ王子を"我が跡継ぎ"にしていただけないかと存じまして」
彼の一言に、"ざわり"と周りが声を上げた。
キング「……何と言いましたか?」
ビショップ「歴代の王子は、強き者がなるべき。そういう国の掟がありますよね?」
キング「そうですな」
ビショップ「それでは、クローツ王子は不向きではないかというお話です」
キング「……どういうことでしょうか」
王子を小馬鹿にしたような態度に、キングの眼つきが変わる。
ビショップ「落ち着いて最後まで聞いていただきたい。よろしいですか?」
キング「聞きは致します…が」
ビショップ「有難うございます。では、最初から……」
ビショップ「クローツ王子は、生まれながらにして運動による発作を起こす持病がある。つまり戦いには不向きでしょう?」
ビショップ「ですから、王には相応しくないのではと…そう申しております」
キング「我が息子を愚弄する気ですか」
ビショップ「そうは言っておりません。ただ、国の掟に逆らうことになるのではと思いまして」
キング「国の掟…」
ビショップ「歴代の元老院および王の血筋は"武力で強くある者"で、前線で戦うことにあります。彼に剣を振う事は出来ますか?」
キング「……でき…ません…」
ビショップ「ですから、そちらの提案をさせていただいたわけです」
確かに、国の掟としては強くある者として存在する。
だが、矛盾する掟としてもう1つ、存在していることがあった。
キング「…しかし、お待ちくださいビショップ殿」
ビショップ「何でしょう」
キング「国の掟を持ち出すのなら、王の血筋を持って認められる存在となる者。王の息子が十八を迎えた時に戴冠すべきとも掟の一つでしょう」
ビショップ「……なるほど」
キング「どちらを優先すべきと考えた時、血筋を持つ我が子を王とするのが掟に従う第一の候補となるでしょう」
元来、法律や決まりとは矛盾が存在することは珍しくない。その際、決定力を持つのはより矛盾が少なく、人が納得する選択を選ぶことにある。
この場合、国民から愛される「キング」の血を持ちながら、勉学を励んでいることを認められた「クローツ」を王子とすることに矛盾は少ないわけだ。
ビショップ「――しかし、ですね」
この矛盾が存在してしまったこと自体、ビショップに有意だった。
ビショップ「クローツ様を王にすることは、どのみち国の掟に逆らう――…そういうことになりますね?」
キング「そ、そこまで言うほど息子を王にしたくないということか……!」
ビショップ「いや何、国の掟を破ることは歴史上なかったこと。これは新しい試みということにもなります」
キング「だからどうした……!」
ビショップ「これは"掟を破る"ための決議ということになりますね」
キング「…ですから、何を言いたいのかッ!」
ビショップ「私の提案も掟を破るということでは同意。違いますか?」
キング「……一理はありますが」
ビショップ「なら、私の提案も通るはずです。いや、むしろ。新しい試みというのなら別の代用案も用意致しました」
キング「どういうことですか……」
ビショップ「掟を破ることは、新しい試み。ならいっそのこと、姫様を女王として率いる者に用いてはいかがですかな……?」
キング「テイルを!?」
ビショップ「バカなことと思うかもしれませんが、利にはかなっている筈です」
掟として力を見た時、クローツを王子として迎える決定力は強い。
だが、掟を破るという話では「王子を迎える」ことも「迎えないこと」も同じとなるということだ。
ビショップ「実力を見れば、戦いに向いた姫様を王女とするほうが民衆も納得するのでは?」
キング「し、しかし……!」
ビショップ「女性を前線に立たせることは、民の女たちにとって希望となりませんか?」
キング「そうかもしれませんが…しかしですね……」
ビショップ「それに、彼女は国のためになる存在です。そう、彼女は……」
テイルは、普段こそ乱暴であったが王室における最低限のマナーや女性としての戦いの実力は高いものを備えていた。率いる者として充分に、女王の立場としても通用するのは間違いなかった。
ビショップ「新しい試み。民はそれを必ずや受け入れるでしょう。新時代の幕開けとして唱えることは、より確固たる国になっていくはずです」
キング「…テイルが新時代を支えると?」
ビショップ「女は立ち上がり、新時代を迎える決断をした元老院たちの評価も上がる。国は生き物ですから、新しい試みはいい刺激になる」
キング「な、ならば戦いの実力が足りないクローツを迎えることも一つの新時代となるのではないですか!」
ビショップ「刺激が足りな過ぎます。今の民は…国は…それを当然と信じている」
キング「…だが、それではクローツの努力を無駄にします!」
ビショップ「無駄にしないと考えています」
キング「僧侶の跡取りにしては、王を目指したクローツを裏切る行為と一緒です!」
ビショップ「最高位僧侶兼、軍師としてはどうですか?」
キング「ぬっ…!」
ビショップの言葉は、何もかもうわ手であった。
元老院の同席したメンバーたちも、この二人のやり取りには入ることが出来なかった。
ビショップ「彼は軍師として、王となるつもりだった。最高位僧侶を継ぎ、軍師としても立ち回ればその勉学してきた知識も無駄にはならない」
キング「確かに、その通りではありますが……」
ビショップ「国を新しい時代へ。戦姫、軍神が生まれたこの国の未来は世界を担う存在となるやもしれません」
キング「世界を担う…存在……」
ビショップ「セントラルという国のように、東方大地のハンデを跳ねのけ、今こそこの大地に幸福を。彼らならできます」
キング「……そうでしょうか」
ビショップ「それに、姫様が18になるまで約5、6年を待ちますが、それまでキング様も戦い続けられるのですよ?」
キング「!」
王を引退することは、すなわち元老院の一人となって在籍するために生きねばならないということで、今まで戦い続けてきた彼にとって、前線から離れることはある意味"死"を宣告されることと一緒だった。
また、元老院のメンバーとなることは誰かが「美味い汁」を吸えなくなることで、ビショップの口から出る言葉は全て、直接的にも間接的にも全員の気持ちを揺さぶるには余りにも簡単すぎた。
ビショップ「以上、私の提案は終わります。お時間を頂戴致しましたことを深く御礼申し上げます」
深く頭を下げながら、ビショップは「フフフ」と笑みを浮かべながら着席した。
従来、提案が出た場合はそれに対しメンバーたちが議論を繰り広げるのだが、今日の提案に対しては誰一人、彼が「以上です」と言ったあとに発言する者はいなかった。
…………
……
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※※※
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