魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第八章【東方大地】

8-18 再臨

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―――数時間後。
白姫たちの身を心配した二人(特に血気盛んに魔剣士)は、魔馬の馬車を限界まで走らせ、砂国の都市部中心まで到着していた。
夜の道を脇目も見ずに駆け抜け、アサシンの予想通り"明朝"には王都前に辿り着き、数時間前に情報が共有されていた盗賊団たちは攻撃することなく舌打ちをしながらそれを見張っていた。
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魔剣士「なんだぁ…?」
猛竜騎士「てっきり攻撃を仕掛けてくると思ったが……」
魔剣士「殺気はびゅんびゅん飛んできてるが、攻撃する気配もなし……」
猛竜騎士「アサシンからの指示か何かの可能性が高いな」
猛竜騎士(……しかし、魔剣士め)

脅威に晒され続けて数日、魔剣士はいよいよ周りの殺気を感じても興奮することがなくなっていた。気負いすることもなく、今はただ目的に向かって歩むばかり。ここ数日で、戦いにおける精神面の成長は著しいものだった。

魔剣士「……しかし、砂国か」
猛竜騎士「テイルは取り戻そうとしたこの国、この都市部。立派なものだな」
魔剣士「本当なら、国民たちが歩いていたはずが、今はこの惨状…か」

あちこちに生々しい傷、おびただしい血の量。乾ききっていない臭いに、むせ返りそうになる。それらしい国民の姿は一切なく、魔剣士たちを見るのは黒き集団、アサシン盗賊団しかいない。時折聞こえてくる悲鳴は、何が起きているかを考えたくもない。

魔剣士「本当は、すげぇ良い街だったんだろうな……」

まだ夜明けは遠くにあるが、暗がりの中でも砂岩で作られた建物は高く立派なもので、中心部の噴水からは"オアシスの街"であることがよく分かる。
数週間前までは、笑顔の国民たちで溢れ、賑わい、テイルもその輪の中で兄の帰りを待っていたに違いない。

猛竜騎士「それが、こうなるんだ。セントラルとの戦いが始まれば、これは世界中に拡がる光景になる」
魔剣士「……避けられないのか」
猛竜騎士「避けたい。だが、時は既に……」
魔剣士「俺のせい…なのか。全部、俺の闇魔法の……」
猛竜騎士「そんなことを言えば、セージのせいでもあるし、旅に連れていった俺の責任もなると何度も言ったはずだ」
魔剣士「…」
猛竜騎士「セントラルの王が恐怖による世界掌握はどの道、起こったこと。氷山帝国の地下実験で行われていた闇魔法の研究によって、遅かれ早かれこうなっていた」
魔剣士「……そうだな」
猛竜騎士「むしろ、対抗策を練られていることだけマシだと考えるさ。考えたほうが良いとも言うべきだが」
魔剣士「……あぁ」

世界の行く末、目の前の現実。目の当てられない未来に、考えが鈍ってしまう。
そこからしばらく二人は無言のまま魔馬を走らせ、やがて、目の前に"巨大な城"が現れた頃、門の付近にいた"ルヴァ"が魔馬の歩みを制止させた。

ルヴァ「……止まってください」
猛竜騎士「む……」
魔剣士「……テメェは!」

あの時、アサシンの横でテイルをさらった盗賊団の一人、副長ルヴァ。見覚えのあった顔に、魔剣士は馬車を飛び下り、素早く剣を抜いて首へと突きつけた。

ルヴァ「おぉっと……」
魔剣士「よくものこのこと顔を出せたなこの野郎……!」
ルヴァ「……それはこちらの台詞ですよ」
魔剣士「んだと…!?」
ルヴァ「周りをよく、どうぞ」
魔剣士「ン…?」

周囲には、いつ集まったのか見える範囲や建物の陰、あらゆる場所に敵意を持った気配がチラチラと見え隠れしていた。

魔剣士「……テメェ、そんな程度で」
ルヴァ「どの道、二人は俺たちの手の中だ。そんなことをして、得はねェだろ…?」
魔剣士「ちっ…!胸糞わりぃ…!」

剣を仕舞い、唾を吐き捨てる。

ルヴァ「そう、それでいいんです。自分は案内役ですので、こちらへどうぞ」
魔剣士「……だとよ、オッサン」
猛竜騎士「今は従う他はない。罠だとしても、これしか道はないんだからな」
魔剣士「分かってるよ……」

…………
……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――数分後、王室。
二人はルヴァに案内され、"アサシン"と約束をしていた王室へと足を踏み入れた。
魔剣士たちは知らないだろうが、二人を待っていたアサシンは白姫たちの時と同様に、高き玉座に足を組んで座り、こちらを見下ろしていた。

ルヴァ「……では、ごゆっくりどうぞ」

ルヴァは深々と頭を下げると、静かに扉を閉じる。二対一でも余裕の態度は、アサシンと魔剣士たちの差が大きいものであると知っての余裕である。

魔剣士「……アサシン」
アサシン「思ったよりも早かったな」

いよいよ、二度目の激突。

魔剣士「白姫はどこだ…!約束通り、俺らはココへ来た!返してもらおうか!!」
アサシン「……返すと言う言葉は交わしていない。猶予として与えただけだ」
魔剣士「なんだと、コラ!!」
アサシン「血気盛んなのは良い事だが、少しは落ち着いたらどうだ?」
魔剣士「守る存在を奪われた相手に言われる台詞じゃねぇだろうが……!」

全身から黄金のオーラを放ち、威嚇を見せるが、動じることはない。

アサシン「闇の使い手、お前の実力では俺に敵わないと知っているはずだが」
魔剣士「……それでも倒すべき相手だろうが。お前を倒せば、全て上手くいく…!」
アサシン「砂の姫は国を取り戻し、締結状を結び、来たる世界戦争への邁進か」
魔剣士「あぁそうだよ…!」
アサシン「ところが、そうも上手くはいかないだろう」
魔剣士「上手くいかない根拠がどこにあるんだよ!」
アサシン「この集まった俺の配下、面々は俺で持っているようなものだ。俺がいなくなれば、どうなる?」
魔剣士「!」
アサシン「……さすがに気づくだろう」
魔剣士「か、関係ねぇ!そうなったら、立ち上がった国民がそれを阻止するだけだろうが!!」
アサシン「死んだ国は、荒れる。全ての国民が、国のために戦うと思うのか?」
魔剣士「あァ!?」
アサシン「少なからず、既に俺の配下に堕ちた人間はいる。それがどういうことか分かるか?」
魔剣士「…!」
アサシン「お前が俺を倒したとして、どうやって全国民を従い、配下たちの暴走を止めるのか教えてもらおう。その欲に納得できれば、俺も喜んで命を差し出すかもしれんぞ?」
魔剣士「そ、それは…!その、あの……!」

相変わらずの巧みな話術は、魔剣士の逃げ場を防いでいく。そこで、猛竜騎士がアサシンへと会話を投げた。

猛竜騎士「アサシン、お前の目的は何だ?」
アサシン「……今度は槍使いか」
猛竜騎士「少なくとも、今、俺はお前の考えを"セントラルの復讐のために"とそう読んでいる」
アサシン「…ほう」

猛竜騎士「……締結状があれば、世界戦争になった時にお前とて有利にセントラルとの戦いが出来るだろう」
猛竜騎士「それを聞いたお前は本来の目的だった"砂国"を奪い、セントラルへ戦いを挑むことと重なり、考える時間が欲しくなった」
猛竜騎士「だから、俺らと距離を置いて時間を取ったのではないかと…そう考えているが?」

アサシン「少なからず遠からず、だな」
猛竜騎士「やはりな。それに俺らがいない間、テイルにはその話を持ちかけて答えを探したんじゃないか……?」
アサシン「ふむ」
猛竜騎士「一人で国を率いることは難しい。国民を立ち上げて戦うには、テイルの手助けが必須だっただろう」
アサシン「……それはどこから読んだことだ?」

猛竜騎士「ここに来るまでの間、廊下に引きずったような跡があった。あれは鉄球…、この部屋で何かをしていた証拠だ」
猛竜騎士「今までの考えから、パズルのピースのように当て嵌めれば、お前のやったことはおのずと埋まって行く」

アサシン「……その鋭さ、推理力に度胸、それなりの経験をしているようだな」
猛竜騎士「お前に言われても嬉しくない誉め言葉だよ」
アサシン「素直に賞賛する」
猛竜騎士「……そいつはありがとうよ」
魔剣士(お、おぉ……!?)

魔剣士は、アサシンの行動、読みを当ていく猛竜騎士に驚きを隠せない。

猛竜騎士「それで、お前なりの結論は出たのか?」
アサシン「…俺の結論か」
猛竜騎士「締結状に従うのか、砂国を率いて戦うのか。そもそもあのテイルが、そう簡単にお前の為に国を立ち上げる努力をするとは思わないがな」
アサシン「……あと少しだったが、あの覇王の姫に邪魔をされたのでね」

魔剣士「覇王の姫……、白姫のことか…?」

アサシン「面白い姫だ。奴は覇王の娘だけあって、人の心を読む力に長けている」
魔剣士「……邪魔をしたからって、変なことをしてねぇだろうな!?」
アサシン「地下牢に閉じ込めているだけだ。ただまぁ、裸ではあるが」
魔剣士「て、てめっ…!」
アサシン「特に怪我もしていないハズだが、いかんせん地下牢という場所は厄介者の集まりに等しい……」
魔剣士「ち、地下牢はどこだ!!」
アサシン「ここから東側にある塔、階段を二度三度降りた場所の先だったか……」
魔剣士「何っ!?」

白姫の場所を聞き、即座に向かおうとする魔剣士。
だが、その足を扉の前で止めた。

魔剣士「そ、その説明は…俺が助けても文句はないってことか…?」
アサシン「どちらでも良い」
魔剣士「……罠とかじゃないだろうな」
アサシン「例えそうだったとして、行かない理由があるのか?」
魔剣士「……くそがっ!」

魔剣士は王室の扉を壊す勢いで開くと、言われた通り東側の塔へと向かって行った。
残された猛竜騎士は、アサシンに「何を考えている?」と問いをぶつける。

アサシン「この場であの闇の使い手がいると話の邪魔になりそうだったからな」
猛竜騎士「俺とタイマンの対決を望むのか?」
アサシン「まずは話をしたいと言ったはずだ。話を聞かない人間ばかりだな」
猛竜騎士「俺がお前と話すことがあるというのか……?」
アサシン「嫌でも興味はそそられるだろう。これを見ろ」

アサシンは片腕を前に突き出す。攻撃の構えかと猛竜騎士は緊張したが、次の瞬間、彼の掌から思いがけない、見覚えのある"ある魔法"が具現化した。
一瞬、何が起きたのかと頭が追い付かなかったが、間を置いて"あり得ない光景"をしっかと頭に受けとめる。

猛竜騎士「……待て、それはまさか…」
アサシン「あのガキが面白いと思った所以は、これにある」
猛竜騎士「そんなバカな…!し、しかしこの感覚は……!」
アサシン「面白いだろう…?」

…………
……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――その頃、魔剣士側。
アサシンの言った通り、東の塔の階段より降りた先は地下牢へと続いていた。
盗賊団の面々は多く見られたが、街中と同じく魔剣士の姿を見て手を出す者はいなかった。

魔剣士(…これだけの人数を指揮して、統率がとれてるってことだよな。いや、今はそれより)

とにかく、白姫とテイルの安否が先だ。
最初は嘘をつかれているとも思ったが、塔にあった階段や地下牢の話から推測するに、どうやら嘘ではなかったらしい。

魔剣士(つーか、地下に入ってから…暗いな……)

足元がおぼつかず、空気の悪い地下に、さっきからニタニタと気持ちの悪い盗賊団の面々が横切って行く。
心配は尽きず、その足も自然と早くなり、二人の捜索を進めて数分後には彼女たちが幽閉されている"一番奥"の牢屋へと辿り着いた。

魔剣士「……白姫、テイル!ここか!?」

声を上げ、牢の金属棒へと"ガシャン!"と近寄る魔剣士。すると……。

白姫「あっ……」
テイル「…うん?」

二人の姫は、何も身に着けない状態で互いに抱き合い、誰にも身体を触れられぬよう、見られぬよう、薄暗い奥の壁の近くで横になっていた。

白姫「……魔剣士?」
テイル「えっ…?」

二人は起き上がり、聞き覚えのある声に眼を向ける。

魔剣士「白姫、テイル!」
白姫「あ、魔剣士っ!?」
テイル「うそ、本当に来て…っていうか、どうやってここまで……!」

そこにいた魔剣士の姿を見て、白姫とテイルは駆け寄る。

魔剣士「良かった無事…じゃねぇじゃん!マジで裸かよ!?お、お前、何もされてないんだよな!?」
白姫「だ、大丈夫だよ!何もされてない!」
テイル「……し、失態…!忘れてたぁぁっ!」

テイルは再び奥の壁に張り付き、身体を隠す。どうやら、魔剣士に見られるのは苦手らしい。

魔剣士「……と、とにかくこれでも着れっ!」

自分の上着と所持していた服を渡して薄着一枚になり、彼女たちは何とか薄着で身体を隠した。

魔剣士「どうなってんだよ、大丈夫なのか…?」
白姫「うん、何もされてない…。アサシンは私たちと色々話をしたあと、急に地下牢に閉じ込めろって……」
魔剣士「それにしたって裸はねぇだろ……」
白姫「でも、もう大丈夫だよ!魔剣士が来てくれたから!」
魔剣士「……お早い到着で安心したかい、お姫様」
白姫「えへへ、よきにはからえっ!」
魔剣士「いつか言った台詞のまんまじゃねぇか。成長してねぇなぁ……」
白姫「こ、これでも成長したと思うんだけど……」

状況が状況だというのに、二人は笑い合う。それを見ていたテイルは、横から「そういうのはいいから!」と間に割って入った。

テイル「それより、今はどんな状況なの!?アサシンはどうなったの!?」
魔剣士「まだ生きてるし、オッサンと戦ってるか話をしてるか…」
テイル「そ、そう…。でもどうやってここに?」
魔剣士「俺らに手出しをしないように命令してたらしくてな、この場所を教えてくれたのもアサシンなんだよ」
テイル「はぁ!?」
魔剣士「とにかく、今は牢屋から出すぞ。ちょっと離れろ」
テイル「あ…う、うん……」
白姫「うん、分かった」

剣を構えるのを見て、二人は下がる。軽く魔力を込め、金属部分に打ち込むと、疲労のあった金属は簡単に弾けて人ひとりが通れる程のスペースを確保することが出来た。

魔剣士「ほら、出ろよ」

二人を誘導し、牢の外へと出す魔剣士。
怪我ないことを確認すると、いざ王室に急ごうとしたのだが、その時、その牢の隣から"うめき声"が聞こえた。

魔剣士「……ん?」
白姫「今、何か…聞こえたような……」
テイル「隣の牢屋…かな…?」

まさか、民の誰かが閉じ込められているのだろうか。
魔剣士は念のため隣の牢へと顔を出すと、そこには痩せ細った無精髭の酷い一人の男性が壁にもたれ掛り、生気のない目をして天井を仰いでいた。

魔剣士「……人!?」

盗賊団に捕まった一人だと思った魔剣士は、助け出そうとして剣を構え直す。
だが、その剣が降り下ろされる前にテイルは慌てて魔剣士の腕を掴み、それを止めた。

魔剣士「あん?何すんだよ!」
テイル「ちょっと待って、待って魔剣士!」
魔剣士「何だよ」
テイル「でも、もしかして……。違うかも…しれないけど……」
魔剣士「だから何だよ!」
テイル「に、兄さん…かもしれない……」
魔剣士「……へ?」

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