魔剣士「お姫様の家出に付き合うことになった」【現在完結】

Naminagare-波流-

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第八章【東方大地】

8-17 Assassin

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―――数時間後。
アサシンによって連れ去られた白姫は、衣服を剥され、王室で両手を鎖に繋がれた状態で目を覚ました。
また、隣にいたテイルも同じような状態で、王室の玉座には"クローツ"ではなく、"アサシン"が腰を降ろしてこちらを見つめていた。

アサシン「……目が覚めたか、覇王の姫に砂の姫」

どうやらテイルもほぼ同じタイミングで目を覚ましたようだ。

テイル「う……」
白姫「ここ…は……」

しばらく寝起きのように呆けていたが、ぼやけていた視界がひらけていくとともに、二人はようやく自分の立場を理解する。

白姫「あ……」
テイル「アサ…シン……!!」
アサシン「おはよう」
テイル「……アサシン…!アサシンッ…!!」

仇を前に、ジャリジャリと重い鎖を鳴らし、殺す勢いで迫ろうとするテイル。だが、その魔の鎖は解けることはなく、彼女自身の肉体を痛めつけるばかりだった。
また、彼女たちは念のためにその衣服の全てをはぎ取られており――…。

アサシン「一応、下手な抵抗は出来ないように裸にさせてもらったが、別にどうこうはしていない。安心をしてくれると良い」
白姫「あ…ぅ……」
テイル「こ、このくらい……!」

気にしない様子でアサシンを睨むテイル、自由の利かない両腕を動かして恥ずかしそうにする白姫。
それを足を組み、玉座から見下ろすアサシンは、二人に構わず語りかける。

アサシン「……さて、話をしよう」
テイル「何よ……!」
アサシン「お前の目的はこの国を取り戻すことだな。更に言えば、俺の命を奪うことも願っている」
テイル「……当たりまえでしょう!お父様の仇、晴らさないわけない!!」
アサシン「やれやれ、キングを殺したのはお前の兄であるクローツであると知っている筈だろう」
テイル「違う!アンタたちがいなかったら、この国はこんなことにならなかった!!」
アサシン「その運命にしたのは兄であり、この国民自身だ。もちろん、お前の父親であるキングも同じ罪だろう」
テイル「違う…!違う!アサシン、お前がいなかったらこんな事にはならなかった!」
アサシン「今はもう、"そうなっている"のだと理解しろ」

鋭い目つきで、呟くように放った台詞。強気だったテイルが、現実を突きつけられ、彼の態度に思わず怯む。

アサシン「この国を取り戻し、何をする?滅ぼされた国に、何も望めるものはない」
テイル「……国は生き物よ。少しの怪我をしたくらいで、私が治してあげれば良い!」
アサシン「もう死んでいる者に、それは意味をなさない」
テイル「死んでなんかいない!」
アサシン「死んでいる。その全ては、俺が潰した」
テイル「生きてるって言ってるでしょ!!」
アサシン「生きようとしていた分子、反乱の全ては俺が潰した。この国の中枢の街だけじゃない。離れの村まで、全ての場所の支配は取った」
テイル「……それでも、まだ終わってなんかいない!」
アサシン「終わっている。それが分からないか?」
テイル「終わってなんか…いない…!終わらない、終わらせないッ!!」

大声で叫ぶテイル。
対するアサシンは静寂を貫いていたが、崩れない姿勢に何かを思ったのか、玉座から立ち上がりテイルのもとへ近づいた。

テイル「く、来るなっ!」
アサシン「強気な女だ。まだ十五歳程度でこれほどの気力を持つのは、さすがキングの娘といったところか」
テイル「お、お前の口から父上の名を何度も聞きたくはない!」
アサシン「……その強き欲は嫌いではない。お前は俺の部下よりも"人間らしい"ようだ」
テイル「な、何?」
アサシン「別に子どもに興味があるわけじゃない。しかし、俺にとっては好転せし機会ということだ」
テイル「何を言って……」

アサシンは手を伸ばし、彼女の素肌、下腹部へと触れる。ぞわりとした感覚が襲い、思わず「嫌ぁっ!?」と声を上げた。

白姫「テイルさんっ!?あ、アサシン…や、止めてっ!!」

彼女の悲鳴に、白姫はそれを止めようとするが、アサシンは「お前には関係のないことだ」と睨み付ける。

アサシン「……砂の姫。お前にとって良い話をしてやろう」
テイル「何よ…!それよりも私に触るな……!その手で、私に触るなぁっ!!」
アサシン「話を聞け」
テイル「聞くことなんか、お前の話なんかっ!!」
アサシン「国を返してやろうと言っても……か?」
テイル「……えっ!?」

思いがけない言葉。思考が止まる。

アサシン「それが望みなんだろう?」
テイル「そ、そう…だけど……」

何をしたいのか、何を言いたいのか。
しかし、次の彼から出たセリフは形容しがたいものだった。

アサシン「国は返そう。そして、お前には俺の子を産んで貰う」
テイル「……はい?」
アサシン「何度も言うが、この国は死んでいる。俺の理想には程遠い、何もない腐った楽園だ」
テイル「な、何を…言いたいの……?」
アサシン「この国の指導者としてはまだ、お前は幼すぎる。死んだ国を蘇らせるのには、お前は力不足だというのだ」
テイル「そ、そうだとしても…、私の赤ちゃんに何の関係があるのよ!」
アサシン「人は単純だ。お前が国へ戻った暁には歓喜に沸いた国民は、子を宿したと知れば更にお前に熱中する。その時、英雄の血を紡ぐ者として馬鹿な国民たちは一斉にお前に従うだろう」
テイル「……それは私が戻れば出来る話よ!私がアンタの子どもとは関係が…!」
アサシン「だから、人は単純だと言っただろう?」

顔を近づけ、その瞳で彼女と眼をしっかりと合わせる。

アサシン「お前が役者となって国民を率いるが、俺がお前を支配すれば、それは俺が国を手に入れたと同じ。つまり、お前を俺のモノにするのが一番早いということだ」
テイル「なっ……!」
アサシン「お前は、仇である俺の子を宿したとしても、国を捨てて自ら命を絶てるか?」
テイル「そ、それは……!」
アサシン「捨てられるわけがない。そう…思ったな?」
テイル「うっ……!」
アサシン「そう思った瞬間、お前は終わったんだ。もうお前は、俺の物になったということだ」
テイル「そ、そん……なこと……!」
アサシン「俺に従え。国を幸せにするというのなら、その他はない」

真っ直ぐ、眼はそらさず、お互いの息遣いが聞こえるくらいの距離で、アサシンが触れ続ける掌で、彼女と体温を共有する。
低い声は彼女の脳内を揺らし、さながら"催眠術"のように、その意識を堕としていく。

アサシン「俺はお前を買っているんだ。その歳で、これほど強い欲を持つ人間に興味が尽きない」
テイル「…ッ!」
アサシン「お前は立派な女王となれるだろう。俺もこの国の復興のために、力を貸す。アサシン盗賊団の力があれば、この国の未来は……」

"「明るくなる」"
―――わけが、ない!

アサシン「……何?」
テイル「……し、白姫…ちゃん…?」
白姫「そんなわけないっ!!」

堕ちていくテイルの混沌とした意識を戻したのは、白姫の声だった。

白姫「テイルさん、ダメだよ!!しっかりして!!」
テイル「あ…」
白姫「アサシンの手を借りなくても、テイルさんなら立派に国を生き返らせることはで出来る…!絶対に出来るから!!」
テイル「白姫…ちゃん……」
白姫「だからしっかりと気を持って!敵だよ、アサシンは敵なんでしょ!!」
テイル「そ、そう…よね……!そうよね…!」

白姫の力強い言葉にテイルは堕ちることなく、アサシンは「ほう」と面白そうに白姫を見つめた。

アサシン「……覇王の姫が、面白いことを言う」
白姫「…!」

今度は白姫のもとへと寄るアサシン。黒衣装に不気味な雰囲気は、魔剣士の放つ光と真逆そのものに思える。

アサシン「お前に今は手を出す気はない。あの闇の使い手の欲を気に入ったまでだ」
白姫「魔剣士のこと……!」
アサシン「そう、魔剣士というのか。あの男の欲の強さ、必ず王城に訪れるだろう」
白姫「魔剣士をどうするつもりですか……」
アサシン「今は考えていない。あの締結状とやらの話も、覇王の姫たるお前がいる以上、信じるに値する」
白姫「…」
アサシン「…」
白姫「…」
アサシン「……強い眼をする」

白姫は眼を逸らすことなく、彼の"本心"を知ろうと眼を見つめ続けた。
…………だが。

アサシン「……何を聞きたいというのだ。瞳だけで俺を知ろうとしても無駄なことだ」
白姫「!」

白姫が彼の瞳を見て、彼の心を知ろうとした時。
彼もまた、白姫の心を読んでいた。
王たる血を紡ぐ存在というのなら、アサシンもまた"闇の王"として君臨する一人であったのだから。

アサシン「その眼、幾重にも積まれ紡がれた王族の血脈所以、相手の心を知ることが出来るのだろう」
白姫「…」
アサシン「最初こそ単なる"勘"に近いものだっただろうが、お前の今の瞳はそれ以上だ。強い魔力を感じる」
白姫「……え?」
アサシン「人の上に立てる者は、知らずにその能力が携わっている。俺が見た所、お前は既に覚醒しつつあると言ってもいい」
白姫「…」
アサシン「まるで心眼、真眼。面白い存在だ」

白姫の眼を見て、白姫の"覚醒"しつつある王の血の片鱗を見抜いたアサシンだったが、彼は何故か玉座へと戻り、こう言い放った。

アサシン「その眼に従ってやろう。お前の聞きたいことはなんだ」
白姫「えっ…!」
テイル「えっ!?」

思えば、それも白姫の王の血による効果だったのかもしれない。
アサシンの気まぐれによるものだったと言えばそれまでだが、白姫の態度、瞳からその行動をとったのは、紛れもない事実だった。

アサシン「成るほど、さすがは覇王の姫だ。面白いと感じたことに、興味は尽きない」
白姫「……話をしてくれるんですか?」
アサシン「三度目までだ。何を聞きたいのかだけ、言え」
白姫「……そ、それなら…!貴方の目的を聞きたい…です…」
アサシン「ふむ、詳しく言え」
白姫「砂国を滅ぼしたのは自分なのに、どうしてまた国を復興させようとするのかってことです…!」
アサシン「…」
白姫「それに、魔剣士や猛竜騎士さん、私をあの場で殺していれば締結状の話はなくなって、貴方の望む"戦乱の世"になってたのに……」
アサシン「…」
白姫「今の行動はまるで読めないから、それが…聞きたい……」

アサシンの真の目的が何なのかが分からずにいたことは、不安の種にしかならない。
砂国との戦いで手に入れた国を姫に返還し、それを生き返らせることに何の意味があるのか。
戦乱を望むはずの彼が、自分たちを生かす理由。
何もかも、彼の考えを読む事が出来なかった――……。

アサシン「それは読むことは出来るはずがないだろう。俺は、俺に従い動いているのだからな」
白姫「自分に、従って……?」
アサシン「そもそも、今の体制は俺に共感した人間が集まり出来たものであって、俺の望みではない」
白姫「…どういうことですか?」

アサシン「何か勘違いをしているようだが、俺は俺に従順なまでだ。決して狙って罪と呼ばれることを繰り返しているわけじゃない」
アサシン「女を犯したければそうして、国を滅ぼしたくなればそれをする。盗賊団という大層たる名で呼ばれているが、たまたま周りに集まった人間を使っているに過ぎない」

物は言い様だ。欲に素直な人間とは、自我が伴わないに過ぎない。…つまりは。

白姫「……流されるままの人ってことですか?」
アサシン「考え方によってはそうだな」

自分が好まない人を殺すことも、生かすことも、砂国を滅ぼしたことも、今までの罪も、何もかも、自分を抑えないだけのこと。

テイル「……ふ、ふっざけるなぁぁっ!!」
白姫「テイルさん!?」
アサシン「お前とは話をしていないのだが」
テイル「私の国を滅ぼしたことは、そんな…そんなただの流れでやったことなのか!!それで父上も、全て…失って……!」
アサシン「国を殺したのは兄だと何度説明した?」
テイル「結局は、お前の考えがあって団員を動かしたんだろうが!!」
アサシン「……確かにな。そう言われればそうか」
テイル「何が"そうか"だッ!!そんな浅はかな考えで、私たちの国は、私は……!」

アサシンの単純な考えに、涙を浮かべるテイル。怒りの余り、食いしばった歯がビキリと音を立てる。

アサシン「……ならば聞くが、お前は自分に素直じゃないのか?」
テイル「何だとっ!」
アサシン「今この場で捕まったのは別として、自分に素直じゃないのかと聞いている」
テイル「私は、自分の為だけに動くことなんか!」
アサシン「しているな。"浅はか"な考えと行動で、国を取り戻そうと動いたのは自分に素直ではないのか?」
テイル「…ッ!」

アサシン「お前のことも嫌いではないがな。そうやって行動を起こせる人間は一握りだ。欲に素直でなければ、人は人として死んでいるに等しい」
アサシン「つまりは、本来のあるべき"人"として生きているのは、一握りということだ」

テイル「そうやって御託ばかり……!」
アサシン「御託ではない。真実だ。人が生きることは欲が尽きぬことであり、実際に俺は国を手に入れた。……死んでいるがな」
テイル「たまたまだ…!そんなもの!」
アサシン「偶然であろうと真実。神がいるというのなら、俺はとっくに生きていないし、生を授かってはいない」
テイル「ぐっ……!」
アサシン「……まぁ話を戻すぞ。覇王の姫よ、お前の聞きたいことは俺の考えではないのだろう?」

テイルから目を逸らし、再び白姫を見つめる。

白姫「……貴方の本当の目的です」
アサシン「……嗚呼、そうだった」

頭を軽く掻き、思い出したと言う感じにしゃべり出す。

白姫「世が戦乱となれば、それは貴方たちが名を取り戻す良い機会になったはずです」
白姫「だけど、締結状を奪うわけでもなく、この行動は分からない…。だから、それについて知りたい……!」
白姫「…………教えてください」

―――彼の秘密。考え。

アサシン「……覇王の姫のツレだったあの槍使いは少し理解していたようだ」
白姫「どういう…ことですか……?」
アサシン「俺の今の目的は一つ。"セントラルを滅ぼすことにある"」
白姫「……!?」
テイル「なっ…!何て……?」

猛竜騎士の推測は間違っていなかった。

アサシン「俺は俺であるために、セントラルを滅ぼすことだ」
白姫「そ…れは……」
テイル「……まさか…!この国を手に入れたかった理由…って……」
白姫「セントラルを掌握するために……!」

セントラルを滅ぼすことこそ、アサシンの真の狙いだった。

アサシン「知っている事もあるだろうが、俺の自由を奪ったのは覇王の姫の祖父、グランという男……」
アサシン「セントラルを討伐してこそ、俺が俺であることを取り戻せる」

もう、数十年前になる話だ。
アサシン盗賊団が世界を恐怖に貶めていた時代、その当時珍しかった"魔法"を会得した部隊"十字軍"を結成したグランは、アサシン盗賊団へ断固たる姿勢で戦いを挑んだ。
その結果、アサシン盗賊団は大敗を喫し、アサシン盗賊団は東方の地へと追われることとなり、今日に至る……。

白姫「じゃあ、私のお爺さんの復讐って…こと……?」
アサシン「復讐ではない。盗賊団を滅ぼされたことは何も思ってないし、決して恨んだりもしていない」
テイル「……嘘!恨んで、復讐だって思わなかったらこんなことしないじゃない!」

アサシン「確かに心の一辺でそれがないとは言い切れないが、表だった言葉は先ほども言った通り、自由を奪われたあの時から俺の時間は止まったままということだ」
アサシン「心残りであるが故に、俺自身、その鎖から解き放たれたいという欲が現状を生み出している」

テイル「それを動かすためだけに、国一つを奪ったっていうの!?」
アサシン「俺は自分に従う行動をすると言ったはずだ」
テイル「……む、無茶苦茶よ…。そんな…ことって……!」

どんな言い方をしようが、アサシンの"復讐"のそれに違いはなかった。
しかし、白姫はとあることに気づく。

白姫「……ちょっと待って、待ってください」
アサシン「何だ」
白姫「私のお爺様が活躍したというのなら、それは数十年前に遡る…お話しですよね」
アサシン「そうだな」
白姫「なのに…貴方は……」

気づくには少し遅かったが、アサシンはまるで"青年"の姿であり、数十年前の戦いに臨んだというには余りにも……。

テイル「わ、若い……?」

どうしてここまで気が付かなかったのか。
猛竜騎士やテイルの話、過去を知っていながら、興奮しすぎたために気づくのが遅れていたのか。
アサシンと十字軍。その戦いからどれくらいの時が経っているのかは定かではないが、今のアサシンは確実に、その若さを保てるような人間ではないはずなのに。

白姫「……でも、アサシンは…アサシン…なんですよね…?」
テイル「一体…どうなって……」
アサシン「…」

彼に隠された秘密に近づくが、全てを知るには未だ、遠い。二人の姫は、その秘密に手を入れる……。

白姫「どうして、そんなに若いんですか……?」
アサシン「そう言ってもらえて嬉しくない人間はいないだろうが、生憎、俺にとってはそこまで喜ぶことじゃない」
テイル「…話をはぐらかさないで!貴方、本当にアサシンなの!?」
アサシン「お前が良く知っているはずだが」
テイル「確かにそうだけど、言われてみたら確かにおかしい…!今のアサシンは…まさか偽者……」
アサシン「…」
テイル「ほ、本当のことを教えて!国を取るとか、セントラルへの復讐とか、貴方は一体何を!」
アサシン「……ルヴァ!」

"パチン"と指を鳴らす。
すると、扉が開き側近ルヴァが現れた。

ルヴァ「はっ、アサシン様」
アサシン「地下牢へ押し込んでおけ。ただし、手は出すな」
ルヴァ「地下の警備体制には、一部問題が…。アサシン様のご命令でも、彼女たちの身は……」
アサシン「俺からの直々の命だと、しっかり伝えろ。お前の責任にする」
ルヴァ「……承知しました」

ルヴァは別室から鉄球を数個持ち出すと、叫ぶテイルと白姫の鎖と繋ぎ、鉄の首輪を嵌め、まるで暴力的な飼い主のように二人を引っ張った。

白姫「痛っ…!」
テイル「ふざけるなぁっ!こ、こんな……!」
ルヴァ「大人しくしろ。弄ばれないだけマシだと知れ!」
白姫(ま、魔剣士…!)
テイル「くっ…!離せぇぇっ!離せっ!!」
アサシン「…」

彼自身の話、偽者なのか、本物なのか。それに触れてから、どうにも不機嫌になったように思えた。
連れて行かれる二人、アサシンはその扉が閉じられるまで、無言のままだった。

…………
……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――砂国王城、地下牢。
石と泥に固められて作られた地下牢は、わずかばかりの炎が照らすばかりで湿気が尋常ではなく、蔓延するカビの臭いが鼻を突いた。
また、地下に作られているせいで地下水が押し上げられているのか、どこからか"ぴちょぴちょ"という水の音が一層の精神を蝕むような気がした。
地下牢の狭い部屋には、それを担当するに相応しい男たちが連れてこられた裸の二人を見て、薄ら笑いを浮かべていた。

ルヴァ「……ココだ。入れ!」

白姫とテイルは、ルヴァに地下牢の一番奥に押し込められる。
二人の蹴飛ばされた時の痛みの声が、地下へと響き渡った。

テイル「大丈夫、白姫ちゃん!」
白姫「だ、大丈夫……!」

二人は寄り添い、ルヴァを睨む。

ルヴァ「……良い眺めだな。二人の姫様よ」
テイル「くっ…!」
白姫「…っ!」

まるで辱め。必死に両手で隠すが、男に見下されている自分の姿は情けないままに、惨めであることに思わず下唇を噛み締める。

ルヴァ「余り暴れるなよ?」
テイル「……こ、この牢は…!」
ルヴァ「ん?」
テイル「…何でもない。それより、アンタ、私にこんなことして覚えておくことね!」
ルヴァ「はいはい。ハハハ、裸の王様ならぬ裸の姫様が粋がってもなぁ!」

"くくく"と笑いながら、ルヴァはどこかへと去って行った。
残された二人は壁際に寄り、外側から見えない暗がりへと腰を降ろす。

テイル「……白姫ちゃん」
白姫「テイルさん…」
テイル「ゴメンね…、こんな風に巻き込んだようになっちゃって」
白姫「…ううん、大丈夫だよ。テイルさんのせいじゃない」
テイル「こんな時まで、白姫ちゃんってば優しいんだから……」
白姫「優しいなんて、そんな…。それより、絶対にあきらめちゃダメだからね……」
テイル「……うん」
白姫「きっと、魔剣士がまた助けに来てくれるんだから!」
テイル「また魔剣士…?アサシンにボロボロにされちゃってたけど……」
白姫「次は勝つよ!絶対、助けに来てくれるから……!」
テイル「……だけどもし、見捨てられたら?」
白姫「えっ?」
テイル「分かってる。そんなこと言うもんじゃないって。だけど、そうなったら……」

冷たい牢の中で、テイルは弱気な考えばかりが浮かぶ。

テイル「確かに王室まで来てくれれば助けてくれるって言ったけど、そんな……」
白姫「……大丈夫だよ」

白姫はテイルの手を取り、強く握りしめた。

白姫「約束したもん。魔剣士は、絶対に来てくれるよ」
テイル「……白姫」
白姫「絶対に、大丈夫。すぐに来る。絶対に……」
テイル「……分かった、信じる」

…………
……


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――少しして、王室。

ルヴァ「……アサシン様、二人を地下牢へ閉じ込めておきました」
アサシン「ご苦労」
ルヴァ「しかし、よろしいのですか。あそこは湿気による魔カビで、2日も持ちません。砂の姫は知っていたようでしたが、口にはしませんでしたがね」
アサシン「覇王の姫もいる手前だろう。2日、充分な時間だ。あの闇の使い手は早くて明日の明朝には王城に辿り着くだろう」
ルヴァ「あの時のこと、本当に守るつもりですか?王城へ来たら、あの姫を返すような言い草でしたが」
アサシン「猶予をやると言っただけだ」
ルヴァ「まさかとは思いますが、あのセントラルの姫には充分な使い道がありますし、本当に来たところで殺した方が得策かと存じますが」
アサシン「なるほど、お前はそう思うか」
ルヴァ「え、えぇまぁ……」

誰が見ても、この約束を守る意味はないものだった。

アサシン「……俺は、面白い欲を持った人間には興味が尽きない」
ルヴァ「…はい?」
アサシン「闇魔法とは、強くある為に、何かを目的とする為の欲を持つ人間のみが習得できる。そんな人間に興味を持たない理由はない」
ルヴァ「……ち、ちょっと待ってください。あの男に興味があると?」
アサシン「ここまで知って、まだ聞くことがあるのか」
ルヴァ「い、いえっ!そうじゃないですけど、その…」
アサシン「…」
ルヴァ「闇魔法とはいえ、あの男に肩入れしすぎな気もするんですが……」
アサシン「…」
ルヴァ「なのに今回に限って、使えるセントラルの姫を奪うことが余裕だというのに、あんな男一人に……」
アサシン「……お前に、教えることはない」
ルヴァ「…は、はい」
アサシン「それより、クローツはどうした。先ほどまでいたはずだが、自ら命を断ったか?」

ふと、姿の見えないクローツを思い出す。

ルヴァ「……彼なら、昨日より自ら願って地下牢の奥で閉じこもってるようです。丁度、彼女たちの閉じ込めた隣でしたか…ね」
アサシン「あの牢で破滅を選んだか」
ルヴァ「放っておいてよろしいのですか?」
アサシン「自ら消えると願っている相手に、それを止める理由はない」
ルヴァ「ま、それもそうですか」
アサシン「……そうだ、もう一つ…全員へ伝えておいてほしいことがある」
ルヴァ「何ですか?」
アサシン「闇の使い手、槍使いが来た時は何もせずココへ通すように伝えておけ」
ルヴァ「……は、はぁ…」
アサシン「よろしく頼んだ」
ルヴァ「わ、わかりました……」

アサシンの魔剣士への興味は、本気のようだった。
そして、時間はわずかばかり進む。

…………
……


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断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

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